井上芳雄、花總まりら出演。ミュージカル『ベートーヴェン』会見＆ゲネプロレポート！「二人の愛から感じていただけることがたくさんある」

2023.12.15

REPORT

2023年12月9日（土）、日生劇場にてミュージカル『ベートーヴェン』が開幕した。

本作は、“楽聖”とも称される孤高の音楽家・ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの謎に包まれた人物像と、その生涯に肉薄した物語。『エリザベート』をはじめ、日本ミュージカル界における人気作品を多数手掛けてきたミヒャエル・クンツェ（脚本／歌詞）とシルヴェスター・リーヴァイ（音楽／編曲）のゴールデンコンビが、構想10年以上の歳月を費やした野心作であることも話題を呼んだ。

ルートヴィヒを演じるのは井上芳雄。その想い人であるトニことアントニー・ブレンターノを演じるのは花總まり。ほか、ルートヴィヒの弟・カスパール・ヴァン・ベートーヴェンを海宝直人と小野田龍之介がWキャストで、トニの義理の妹・ベッティーナ・ブレンターノを木下晴香が演じる。

初日前会見には井上と花總、そして、ミヒャエル・クンツェ、シルヴェスター・リーヴァイが登壇し、作品への思いや、開幕に向けての意気込みを語った。

主演の井上は、「花總さんとはいろんな作品でご一緒させてもらっていますが、ここまで濃いラブストーリーは初めて。素晴らしい女優さんだということはよくわかっているので、ご一緒できるのは本当に楽しいし光栄です。花總さんはやっている役によって普段変わられるみたいで、『エリザベート』のときはちょっと近づきがたい感じがありましたが、今回は公演が終わるまでには“花ちゃん”と呼べるんじゃないかなと思えるくらい（距離感が）近づいています」と、ユーモアに溢れたあいさつで場を温めた。

それを受けて花總は「いや、遅いよ！　本当は稽古の間に（距離を縮めないと）」と笑顔でツッコむと、「『モーツァルト』では姉と弟の役で、『エリザベート』では（井上が）黄泉の帝王役だったので、やっと今回、人間らしい恋愛のやり取りができて。今まで見たことのない井上さん……芳雄くん（笑）の表情をやっとひとり占めできるのが本当に楽しいです」と、息の合った様子が伺えるコメントを。

脚本・歌詞を手掛けたクンツェは、「ベートーヴェンの長い人生を語ろうということで非常に難しい作業ではありましたが、喜びもありました」と制作にあたっての苦労と共に、「大事なのは、お客様のためにミュージカルを作ること。クラシックにあまり馴染みのない方々にも、身近に感じていただける作品にできれば」と、この作品に込めた思いを語った。

音楽・編曲を手掛けたリーヴァイは、「ベートーヴェンが作曲したすべての曲を聴くことから始めました。そのなかから音楽的に適していて、且つ“歌える”曲を、自分自身のエモーションに基づいて決めさせていただきました。さらに、その一音一音をすべてクンツェさんと意見を調整しながら仕上げていきました」と、制作過程を説明。

さらにクンツェは、「この作品は、ベートーヴェン個人に焦点を当てた話になっています。彼は当時、世界で最も素晴らしいピアニストで、演奏時に送られる拍手に非常に依存していました。それが、耳が聞こえなくなったことによって拍手が聞こえなくなってしまうということで、その後のベートーヴェンの内面を作り上げる必要がありましたが、それに適した“声”を選び出してくれたシルヴェスターに感謝したい」とリーヴァイへの謝辞を述べた。

最後に花總は、「（劇中に流れる）ベートーヴェンの曲は、有名で誰もが知っている曲もあれば、“ベートーヴェンの曲にはこんなにステキな旋律があるんだ！”という発見もあると思います。リーヴァイさんがアレンジされたベートーヴェンの曲を私たちが歌うことで“あの曲がこんなふうにアレンジされたんだ”と楽しんでいただけたらいいですね」と見どころをアピール。

井上も「今回は、ドイツ・ウィーンのお二人（クンツェとリーヴァイ）と、去年初演した韓国のチーム、そして僕たち日本のチームと、いろんな言葉が飛び交う国際的な稽古場でした。だからこそ、豊かなものが作れているのではないかなと思います。ベートーヴェンの不屈の生涯を、彼の音楽の素晴らしさや生き様、（トニとの）二人の愛から感じていただけることがたくさんある」と自信を覗かせ、「年末に『第九』を聴くというのが日本のクラシックの習慣でもあるので、この時期にふさわしい作品ではないかと。ぜひ、この新しいミュージカルを体験しにいらしていただければうれしいです」とアツいメッセージを送った。

ゲネプロレポート

※公演内容に一部触れています。

本作はベートーヴェンの“愛”をテーマに、「弟の確執」「貴族からの独立」「幻聴による強迫観念」「叶わぬ恋」など、様々なエピソードを織り交ぜながら、ベートーヴェンが残した楽曲のメロディーに歌詞をつけてキャストが歌うという、実に斬新なアプローチから作られている。

初日前会見で、クンツェが「シルヴェスターがベートーヴェンの内面を表現するのに適した“声”を選び出してくれた」とコメントしていたように、ルートヴィヒを演じる井上は、時に甘く愛を語り、時に絶望し、時に怒りをあらわにと豊かな歌声を求められるのと同時に、クラシックならではの難しい旋律を見事に歌い上げた。なかでも「運命を決めるのは僕だ」と拳を突き上げながら歌う声の音圧には、全身の産毛が逆立つくらい震えた。

物語が進むにつれて役の心情が変化していくため、高い表現力を要求されるという意味では、トニを演じる花總も同じだ。夫との間に満たされぬものを感じ、自らを「哀れな人形」と嘆いたり、ルートヴィヒに惹かれながらも戸惑いをぬぐいきれなかったり。自身のなかで複雑に絡み合う感情を繊細に歌い分ける。特に、本作唯一のオリジナル曲における歌声は、圧巻以外の言葉が見つからなかった。

そして本作は、ルートヴィヒが本当の愛を知ることによって訪れた内面の変化を描く物語でもある。弟のカスパール（海宝直人/小野田龍之介）との確執も、愛に対する見解の違いが原因だ。孤独感を抱える晩年のルートヴィヒにとって、カスパールの存在は間違いなく救いとなったはず。第1幕・第2幕で同じシチュエーションで同じ楽曲を歌う場面があるが、それぞれルートヴィヒとのデュエットとカスパールソロであるのも感慨深い。