『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』観劇レポート! 煌びやかなマッシュ・アップ・ミュージカルが再び
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』は、2001年にバズ・ラーマン監督によって製作された映画を、アレックス・ティンバース演出でさらにパワーアップさせたミュージカル作品。2018年のポストン公演を皮切りに、2019年にオープンしたNYブロードウェイ公演では、トニー賞最優秀作品賞(ミュージカル部門)をはじめ10部門を受賞するという快挙を遂げた。
劇中では、19世紀にオペレッタを創始したオッフェンバックから、ローリング・ストーンズ、エルトン・ジョン、マドンナをはじめとする20世紀のメガヒット曲やレディー・ガガまで、160年以上にわたるポピュラーミュージック約70曲が散りばめられている。2023年の日本初公演では、松任谷由実をはじめ、日本の第一線で活躍するアーティストたちによる訳詞提供という初の試みが行われ、話題となった。
客席を巻き込み、めくるめく世界へと誘う革命的なミュージカルとして大きな反響を呼んだマッシュ・アップ・ミュージカルが、今年も開幕! 昨年に引き続き、パリのナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の花形スターであるサティーン役を望海風斗と平原綾香がWキャストで、サティーンと恋に落ちる若き作曲家・クリスチャン役を井上芳雄と甲斐翔真がWキャストで演じる。
今回のレポートでお届けするのは、望海&甲斐によるバージョン。ジドラー役を松村雄基、ロートレック役を上川一哉、デューク役を伊礼彼方、サンティアゴ役を中河内雅貴、ニニ役を加賀 楓が務めた。
※作品内容に触れています。
本作は、2025年に一時休館する現・帝国劇場のクロージングラインナップの一つ。感慨深い思いで会場に足を踏み入れた途端、そのきらびやかなセットに目を奪われた。真紅のライティングで赤く染まった空間に、巨大な象のオブジェや風車、シャンデリア、そして、異国ムードあふれるBGM……一瞬にしてナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の世界へ入り込んでしまう。
開演前からキャストがパフォーマンスをするプレショーがあり、現実世界から夢の世界へと誘われたところで、クリスチャンの幕開けによって物語がスタート。ジドラーの「Welcome to the Moulin Rouge!」という力強い掛け声とともにフレンチカンカンが繰り広げられると、客席からも歓声と拍手が起こり、大盛りあがり! ジドラーのちょっと胡散臭い笑顔も、「ムーラン・ルージュ」の興行主であることを考えると納得がいく。そして、デューク登場。公爵らしい余裕ある身のこなしと、美声を生かした歌唱で伊礼が魅せる。
サティーンの登場シーンは、紺碧の照明のなか、ブランコで降りてくる姿は、まさにダイヤモンドのような輝きをまとっている。その後のマッシュアップのなかに「Material Girl」が入っているのも、後のクリスチャンとの恋愛模様を考えると感慨深い。劇中では数々の衣裳を身につけているが、望海が抜群のスタイルと美しい身のこなしでどれも見事に着こなしており、度々見惚れてしまった。
クリスチャンは、ロートレックとサンティアゴと出会うシーンから、若者ならではのひたむきとピュアさ全開で気持ちがいい。サティーンへの思いを込めて歌う「Your Song」は、甲斐自身の柔らかな歌声に素朴さが滲んで胸を打つし、同曲をサティーンと歌う際には、綿あめのような甘い雰囲気でとろけそうになった。
二幕冒頭のサンティアゴとニニのダンスシーンは、色気あふれる中河内と、しなやかな踊りのなかに艶のある加賀が魅惑の極み。また、サティーンと、彼女を想うロートレックの会話もグッとくる。劇中にロートレックの絵画が登場するのも、とても効果的。このように、登場人物一人ひとりにキチンと物語があるのが魅力だ。
ラストに向かって、三角関係のもつれや病気といった困難にこれでもかと襲われるサティーン。はたからは悲しい物語に見えるだろう。だが、恵まれぬ生い立ちで、どこか屈折した思いを持っていたサティーンが、自身の最期を予期することで強さを手に入れ、素直にクリスチャンの愛を受け入れられるようになる。それはある意味、幸福なのかもしれない。 クリスチャンのモノローグ&情熱的な歌唱から一転、カーテンコールではキャスト全員での華やかなパフォーマンス。これのおかげで、クリスチャンに寄り添い悲しみに沈んだ心が非常に救われる。さらに、ジドラーがテンション高くリードし、「皆でCANCAN!」。客席も歓声と手拍子で応え、まさに会場が一つに。
“客席参加型”のような紹介のされ方もされる本作ゆえ、楽曲を知らないからと観劇を躊躇する人がいるかもしれない。だが、どこか聞き覚えのある楽曲も多く、ミュージカル初心者でも大いに楽しめるだろう。気負わず、素直に「ムーラン・ルージュ」の世界に身をまかせて浸ってほしい。
文:林桃
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公演概要
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』
2024年6月20日~8月7日 東京・帝国劇場
2024年9月14日~28日 大阪・梅田芸術劇場メインホール
キャスト:<各役50音順>
サティーン:望海風斗/平原綾香
クリスチャン:井上芳雄/甲斐翔真
ハロルド・ジドラー:橋本さとし/松村雄基
トゥールーズ=ロートレック:上野哲也/上川一哉
デューク(モンロス公爵):伊礼彼方/K
サンティアゴ:中井智彦/中河内雅貴
ニニ:加賀 楓/藤森蓮華
ラ・ショコラ:菅谷真理恵/鈴木瑛美子
アラビア:磯部杏莉/MARIA-E
ベイビードール:大音智海/シュート・チェン
アンサンブル(E)/スウィング(S) (五十音順表記)
ICHI(E)/乾 直樹 (E)/加島 茜 (E)/加藤さや香 (E)/加藤翔多郎 (E)/酒井 航 (E)/篠本りの (S)/杉原由梨乃 (E)/仙名立宗 (E)高橋伊久磨 (E)/田川景一 (E)/田口恵那 (E)/茶谷健太 (S)/富田亜希 (E)/平井琴望 (E)/堀田健斗 (S)/三岳慎之助 (E)
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