岡本圭人インタビュー『消失』「自分のことを知って、やっと他の役になれる」（前編）

2024.12.24

INTERVIEW

2025年1月18日より東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて、2月6日より大阪・サンケイホールブリーゼにてKERA CROSS 第六弾『消失』が上演されます。

近年、演劇界での名だたる賞を受賞し、その勢いが留まることを知らない劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ（KERA）氏。2019年、その数々の戯曲の中から選りすぐりの名作を、才気溢れる演出家たちが異なる味わいで新たに創り上げる、シアタークリエ5作連続上演シリーズ「KERA CROSS」がスタート。5 作品連続上演を経て、新たなシーズンとして2025年よりシリーズの継続が決定。その幕開けに名作との呼び声も高い、『消失』が上演されます。

また、その予測不能の物語に、演出家・河原雅彦さんが挑みます。華やかさと毒を含み、心情に刺さるエンターテインメントを生み出してきた河原さんがKERA作品を手がけるのは3作目（2021年上演『カメレオンズ・リップ』、2022年上演『室温』）。音楽には、東京事変、the HIATUSのメンバーとして活躍する作曲家・キーボーディストの伊澤一葉さん。KERACROSS 第三弾『カメレオンズ・リップ』に引き続き、KERAさん脚本、河原さん演出とのコラボレーションが期待されています。

今回、THEATER GIRLではガスの修理業者のジャック・リントを演じる岡本圭人さんにインタビュー。前編では、役柄への印象や本作の面白さを感じる部分などについて語っていただきました。

『Le Fils 息子』を河原さんに観に来てもらった

――本作への出演が決まったときのお気持ちを聞かせてください。

オファーが来たときには「（自分を）舞台に立たせたい」と思ってくださる方がいることだけで、すごくありがたいなと思いました。

KERAさんの戯曲は難解な部分がありますし、今までにやったことのないジャンルでもあったので、自分にとっては挑戦にもなります。ただ、台本を読んだときには、自分がジャック・リント役をやるということが想像つかなかったんです。想像がつかない役は今までなかったのですが、ここ数年でいろいろな舞台に出演させていただいたこのタイミングで新しい挑戦ができること、昔から観ていた河原（雅彦）さんとご一緒できるということが、とてもうれしいです。

――「想像がつかなかった」とのことですが、役柄についての印象や今の時点ではどのように演じたいと考えているかを教えてください。

まだ全然想像できないんですよね……。今までは翻訳劇に携わることが多かったので、海外作品だと「何歳で何をしていて、どういう見た目で」ということがト書きで説明されていることが多いんです。でも、ジャック・リントは「作業員の格好をしている男２」としか書いていなくて。「どういうことだ!?」と思ったところにも面白さを感じました。「なんで作業員の格好をしているんだろう」とも考えましたし、自分が出るシーンの最初には「算数のドリルを解いている」とも書いてあって「この人は何者なんだ？」と感じることが多かったです。

――では、役柄に加えて作品全体に対して、どんな部分に面白さを感じましたか。

この戯曲自体の面白いところでもあるのですが、演じる側も観ている側も、次に何が起こるか分からない作品だと感じました。自分が演じるジャック・リントも「なんだ、この人？」と最初は思っても、徐々に人物像が浮かび上がっていく書き方をKERAさんはしているのかなと。

どの登場人物も一緒で、最初からどういう人なのかということは分からないのですが、物語が進むにつれて、だんだんと人物像が浮かび上がってくるんです。KERAさんは登場人物全員を善人として書いていると思うのですが、徐々にそれぞれの人物に感情移入しやすくなっている戯曲だなと思いました。

謎が多くて「この後は何が起こるんだろう」と全く予想ができないんですよね。読書も観劇も普段からよくしているのですが、ここまで「次に何が起こるか分からない」ような戯曲・舞台は初めてなので、お客さまにどう感じていただけるのかすごく楽しみです。

――河原さんの過去作品もご覧になったことはあるのでしょうか。

かなり観ています！　河原さん作品だと『ピカ☆ンチ』が大好きだったんです。「『ピカ☆ンチ』も書いてるんだ！」って驚きました。あとは、知念（Hey! Say! JUMP）が出ていた『照くん、カミってる！～宇曾月家の一族殺人事件～』（21年）とか（中山）優馬が出ていた『ザ・パンデモニアム・ロック・ショー』（21年）とか。あと、『ロッキー・ホラー・ショー』（17/22年）『カメレオンズ・リップ』とか、いろんな作品を観させていただきました。

――実際にお話しされたこともあるのでしょうか。

実は、舞台を観に行くと、いつも近くに座られていることが多かったんです。でも、当時はそのタイミングで話しかける勇気はなかったので……。初めてしっかりとお話ししたのは、『Le Fils 息子』の舞台を観に来ていただいたときに少しだけ。今日も少しお話ししたのですが、「最近どんなことしてるの？」みたいな日常的なことだけで、役や作品のことはまだ全然お話しできていないです（取材時）

――『Le Fils 息子』のときに本作のお話が来たと聞いています。

そうなんです。実は『La Mère 母』『Le Fils 息子』の最中に、自分のホームページに初めてお仕事依頼をいただいたんです。

――河原さんに『Le Fils 息子』を観に来てもらって、「アピールしたい」という気持ちもあったのでしょうか。

自分が舞台をやるときは、どんな方が来ているのか分からなくて。だからこそ、今後ご一緒するからには「この人はこれができるんだ」というのを観てもらいたいなと思ったんです。一度自分が舞台に立っている姿を観ていただいた方が、河原さんの中でもイメージしやすくなるのかなと思い、お忙しい中来ていただきました。

――なにか感想は聞かれましたか？

父親（＝岡本健一）とずっと話をしていました（笑）。「よかったよ」と感想をいただくよりも、観ていただけたということが重要だと思っているので、うれしかったです。

舞台を見て「自分に興味を持ってもらえるかどうか」が今後に関わってくると思っているので。こうやって興味を持っていただけて、ご一緒できることがすごくうれしいですね。

ジャック・リント役は過去に八嶋智人さんが演じていた

――『消失』は以前にも上演されていた作品ですが、映像を見たり、戯曲を読まれたりもされたのでしょうか。

全部しました！　最初は戯曲を読んだのですが、KERAさんの書くト書きとかセリフ以外のものがすごく独特で。KERAさんは脚本家でもあり、映画監督・演出家・ミュージシャンでもあるので、きっと自分の頭の中にいろいろなものが浮かんでいるんだろうなと。でも、それは読んでいるだけでは分からなかったので、映像を取り寄せて観させていただきました。観た瞬間に「こういうことだったんだ！」と。でも、今回はKERAさんではなく河原さんの演出なので、また違うものになると思うとすごく楽しみです。

この作品は人によって解釈や感じるものが違うと思いますし、河原さんがどのように演出していくのか、どうやってそれぞれの役やジャック・リントという役を想像しているのか興味深いです。

――正直、岡本さんがジャック・リント役というのは少し意外でした。

本当ですか？　たしかに、これまでの役が若かったり、以前は八嶋智人さんが演じられていましたもんね。でも、これまで実年齢に近い役があまりなかったので楽しみです。

KERAさん好きの方やナイロン100℃好きの方は、それぞれの持っているイメージが強いと思うのですが、KERA CROSSでやるという試みで、この戯曲がどう変わっていくのかが楽しみです。それにしても、八嶋さんのジャック・リント、すごく良かったんですよね……。でも、これまでにたくさんの舞台に立たせてもらった経験があるので、自分なりの、今の自分にしかできないジャック・リントという役を作り上げていきたいです。

――八嶋智人さんの演じたジャック・リントに引っ張られることなく、ですね。

そうですね。というか、できないです。真似られないので（笑）！

取材・文：THEATER GIRL編集部
撮影：野田涼