京本大我(SixTONES)主演。ミュージカル『ニュージーズ』観劇レポート!
東京・日生劇場にて、日本初演となるミュージカル『ニュージーズ』が現在公演中だ。コロナ禍による中止を乗り越え、満を持して開幕となった本作。今回は観劇レポートをお届けする。
観劇レポート
トランペットの哀愁漂う音色から舞台は始まり、徐々にオーケストラ全体が奏でる「Overture」が鳴り響く。このメロディーを聞いて心躍らずにはいられない。さすがディズニーの数々の名曲を生み出したアラン・メンケンだ。これからどんなエンターテイメントが繰り広げられるのだろうかと期待に胸が膨らむ。
舞台の幕が上がり、ビルの屋上で暮らす二人の少年の姿が現れる。京本大我演じるジャックと松岡広大演じるクラッチーだ。まだ朝の鐘が鳴っていない薄暗い夜明け。ジャックは父親への思いを胸に抱きながら、いつの日かニューヨークを出てサンタフェで暮らすことを夢見ていた。
ミュージカル『エリザベート』でルドルフを三度にわたって演じた京本。儚くて繊細な皇太子の印象が強かったが、最初のシーンからそれは見事に覆される。
貧しいながらも新聞売りのニュージーズとしてたくましく生きる少年・ジャック。華奢で色白なイメージの京本はどこにも居ない。そこに存在していたのは懸命に力強く生きる“ジャック”そのものであった。役に合わせて体つきも一回り大きくなったように見える。
そして何よりも驚いたのは力強くて深い、伸びやかな歌声だ。サンタフェへの憧れと切実な思いを乗せながら冒頭の「サンタフェ(プロローグ)」を歌い上げていた。クラッチーとの兄弟のようなやりとりはもちろん、二人の歌声が合わさるハーモニーは聴いていて心地がよい。
朝を迎え、ニュージーズが新聞を仕入れに街に出る。売った新聞代がそのまま収入になる彼らは、一人ひとりが小さな個人事業主だった。だが一度仕入れた新聞は買い戻しができない。つまり売れ残りの損失は各自で背負わなければならなかった。毎日必死に新聞を売っていても彼らの生活はまさにその日暮らし。
「今日も新聞をたくさん売るぞ」とニュージーズが軽快なリズムに合わせて、圧巻の群舞を魅せる。ここでも京本は情熱的にリーダーとしてのカリスマ性を発揮。ニュージーズを堂々と引き連れ、力強さとしなやかさを兼ね備えたダンスを光らせていた。
販売価格は据え置きのまま、新聞の卸値が値上がりすることを知らされるニュージーズ。自分たちの権利を訴えるため、組合を結成しストライキを起こそうとする場面ではメンバーそれぞれの技術力の高さが伺える気迫のダンスシーンとなっていた。
一度中止になってしまった本作。味わったその悔しさをぶつけるかのように、それぞれが熱い思いを爆発させていた。舞台をめいっぱい使って、バレエ、タップ、アクロバット……と幅広いジャンルのダンスを繰り広げ、ニュージーズが持つエネルギッシュさと情熱をパワフルに表現した。
松葉杖をつきながら踊るクラッチーの身体能力の高さにも驚かされる。右脚を引きずっているので振付の制約があるのだが、群舞の中にいても綺麗にまとまっているのだ。
ニュージーズに新しく入ることになった加藤清史郎演じるデイヴィ。幼いながらに小賢しさを感じる弟レスとの掛け合いも絶妙なコンビネーションだ。父親が怪我で失業し、自分たちで働かなければいけなくなった二人だが、親がいる彼らはニュージーズの中でも異色なバックボーンを持つ。最初のデイヴィには「ここは僕のいる場所ではない」とも取れる戸惑いがあったように見えた。しかしジャックやニュージーズと触れ合う中で、徐々に仲間として打ち解け合い、ストライキのブレイン的存在を担っていくようになる。
子役として活躍していたイメージが強い加藤だが、キャリアを感じさせる説得力を持った芝居はもちろんのこと、甘く伸びやかな歌声でも輝きを放っていた。
咲妃みゆ演じるキャサリンは舞台に現れた瞬間、この物語のヒロインだとひと目で分かる。ジャックに話しかけられて軽くあしらうキャサリンは、可憐ながらも芯の強さを感じるディズニーらしいヒロイン像だ。
バーレスクの客席で再会するシーンでは、隣に座るジャックを牽制するキャサリンだったが、ジャックが残していった絵を見て自分の似顔絵だと気付く。その瞬間からジャックに惹かれていくキャサリン。表情や佇まいで微妙な心の動きが舞台上から伝わってくる。
仕事をする女性が少なかった1899年当時のニューヨークで、女性記者として働く若いキャサリンはとても珍しい存在。ニュージーズがストライキを計画していると知り、彼らを取材しようと決意するわけだが、これは彼女にとって自分の仕事を世間に認めてもらうチャンスでもあった。世の中をよくしたいと新聞記者としての正義感を固めていく「何が起きるのか」では、台詞混じりの難しい曲調を堂々と歌い上げた。
二幕冒頭でニュージーズたちと共に負けじとタップダンスを披露する場面もキャサリンの気の強さがちらりと垣間見えた。それでいて可憐なのだから、この絶妙なバランスが非常に素晴らしい。
ジャックと出会って単に恋に落ちるヒロインではなく、自らも闘い、道を切り開いていこうとするキャサリンは、宝塚歌劇団在団時から高い演技力に定評のあった咲妃だからこそ演じられたように思える。
本作はジャックとクラッチーの友情も重要な柱の一つ。一幕の終盤でストライキを行ったニュージーズだったが、感化院のスナイダーに追われ、クラッチーは逃げ遅れてしまう。引きずっている右脚をスナイダーに松葉杖で叩かれる姿は思わず胸が痛む。その後クラッチーは劣悪な環境の感化院に閉じ込められてしまった。
その責任を感じたジャックは冒頭と同じ「サンタフェ」を歌うのだが、ここの歌い分けが見事であった。冒頭の夢を語るシーンとは打って変わって、現実を受け止められず逃げ出したい気持ちになるジャック。苦しさに翻弄されながら感情をぶつけて歌いきり、そのまま一幕が閉じる。観客は余韻に浸らざるを得ないだろう。
二幕でクラッチーが歌う「感化院からの手紙」では「自分は大丈夫だ、役立たずでごめん」と切なくも笑顔で歌い、ジャックに思いを寄せる。ムードメーカーとして常に明るく振る舞う彼だったが、ジャックとの特別な関係性を繊細に表現するこのシーンは心がギュッと締め付けられる。
ニュージーズたちを見守る頼もしい存在、バーレスクのスター・メッダ役は霧矢大夢が演じた。ジャックの絵の才能を認め、彼の心強い協力者として寄り添う。ショーのシーンでは色気たっぷりにパワフルな歌声で観客を沸かせた。
新聞社のオーナーとしてニュージーズと対峙するピュリツァー役を演じるのは松平健。当時の混沌とした時代背景を写したかのような、ビジネスマン特有の損得勘定は最後まで一貫している。それもあってどこか憎みきれない役柄なのだが、松平が演じることでより人間臭さがあふれるピュリツァーとなっていた。
初日のカーテンコールで演出の小池修一郎に「去年より数倍上手い。歌も演技も堂々たるもので、正直ここまでやれるようになるとは思わなかった」と言わしめた京本。日本初演のディズニーミュージカルということもあり、開演前から多大な注目を寄せられていたため、おそらくそのプレッシャーは京本に大きくのしかかっていたはず。それでもそんなことは微塵も感じさせない堂々たるジャックであった。ミュージカル界に「京本大我」の名を轟かせる当たり役となったのは間違いない。
正義感あふれるステレオタイプのヒーローではなく、ころころ変わる表情が豊かで人間らしさがありありと表現された京本のジャック。葛藤や苦しみ、弱さ、荒っぽさなど完璧ではない姿も違和感なく演じた精巧な役作りは凄まじい努力の賜物だっただろう。それを座長として舞台上で説得力を持って体現する姿に、一緒にいるキャストだけではなく観客も心を動かされたはずだ。
昨年、コロナ禍の影響をもろに受けてしまったミュージカル『ニュージーズ』だったが、それをバネにキャスト全員が熱い情熱を持って挑んでいた。カンパニー全体から伝わってくるエネルギッシュな鼓動は客席にダイレクトに響く。ミュージカルの醍醐味と言ってもよい観劇後の爽快感を存分に味わえる作品だ。
東京・日生劇場は、10月30日(土)まで。大阪・梅田芸術劇場メインホールは11月11日(木)〜17日(水)に公演する。
▼「NEWSIES JAPAN 2021 Official Trailer」はこちら
文:矢内あや
ミュージカル『ニュージーズ』ゲネプロ&初日カーテンコールレポートはこちら
公演概要
ミュージカル『ニュージーズ』
作曲:アラン・メンケン
作詞:ジャック・フェルドマン
脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
演出・日本語訳・訳詞:小池修一郎(宝塚歌劇団)
出演:
京本大我(SixTONES)
咲妃みゆ 松岡広大 加藤清史郎
霧矢大夢 松平健
ほか
【東京公演】
2021年10月9日(土)~10月30日(土)
日生劇場
【大阪公演】
2021年11月11日(木)~11月17日(水)
梅田芸術劇場メインホール
公式サイト:https://www.tohostage.com/newsies/
製作:東宝/TBS