中川晃教インタビュー ミュージカル『CROSS ROAD～悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ～』「自分の最高傑作を作り上げることが悪魔としてのゴール」（前編）
2024年4月22日（月）から、日比谷・シアタークリエにて、ミュージカル『CROSS ROAD～悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ～』が開幕。
劇作家・藤沢文翁さんのオリジナル作品の一つであり、東宝初の朗読劇として 2012 年にシアタークリエで上演された『CROSS ROAD～悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ～』。2022 年にミュージカル化され、壮大な世界観と思わず口ずさみたくなる多彩でダイナミックな音楽は観客を魅了し、大きな反響を呼びました。それから約2年の時を経て、本作の再演が決定。
超絶技巧で知られる天才音楽家ニコロ・パガニーニは、その類稀なる音楽の才能ゆえに「魂と引き換えに悪魔と契約し音楽を手に入れた」という噂が常につきまとっていた。街外れの十字路で悪魔アムドゥスキアスと血の契約を結んだパガニーニは、100 万曲の名曲の演奏と引き換えに、命をすり減らしてゆくことになる——。
今回THEATER GIRLでは、音楽の悪魔アムドゥスキアス役の中川晃教さんにインタビュー。前編ではパガニーニを演じるWキャストのお二人の印象や初演時にあった反響などについてうかがってきました。
“しなやか”な相葉さん、“硬派”な木内さん。悪魔から見たそれぞれのパガニーニ
――ニコロ・パガニーニ役は初演時から続役する相葉裕樹さんと今回から演じる木内健人さんのWキャストとなります。中川さん演じる音楽の悪魔アムドゥスキアスから見て、それぞれのパガニーニにはどんな違いがありますか？
現在、『血の契約』というキラーナンバーの振り付け稽古がちょうど終わったタイミングです（取材時）。その印象としては、木内さんはどちらかというと硬派なイメージがあって、相葉さんはしなやかな印象がありますね。また、美しさのタイプが異なるのですが、相葉さんが艶やかな美しさだとすると、木内さんは凛とした美しさといったところでしょうか。
パガニーニは超絶技巧で知られているヴァイオリニストなので、普通の奏法では押さえられないような指の動きで演奏をするんです。そういったヴァイオリンの演奏シーンをダンスで表現する場面では、相葉さんには円を書くようなしなやかさ、さらにスピード感がある。筆で字を書くとき、最後にシュッシュッと払う感じ。キレがあるんです。
一方で、木内さんは動きの中に感情を乗せていこうとしているのが見えて、一挙手一投足に表現があるんですよね。そのあたりもこれからどう進化していくのか、とても楽しみです。
お二人ともミュージカル経験が豊富なので、歌も踊りもお芝居も三拍子バランスが取れている。そんなパガニーニの印象です。
儚げで危うい。そんなパガニーニをもっと世に知らしめたい
――悪魔であるアムドゥスキアスは、パガニーニに異常に執着しています。なぜ悪魔はそこまでしてパガニーニにこだわっていたのか。中川さん自身はどう感じられていましたか？
僕は、音楽の才能を持っているかどうかを見極めるのが悪魔の仕事だと思っています。パガニーニはもちろん音楽の才能を持っているけれども、周りや親が彼を天才だと囃（はや）し立てる。その言葉にプレッシャーを感じすぎてしまい、「自分より天才はもっとたくさん世の中にいる。一生懸命練習してもこれ以上の演奏はできない」と自身を決めつけていて。そう思い悩んでいるところに悪魔は目をつけるわけです。
誰しも人生の中で「もうこれ以上は無理だ」と諦めそうになったときに「なんで？ もっと考え方を変えてみたらいいんじゃない？」と周りの人が言ってくれたことで道が開けた経験がきっとあると思うんです。
でも、パガニーニはそうはならない。音楽に行き詰まりながらも、自分の中に音楽に対するひたむきな情熱や想いがある。そんな儚げで危ういところがアムドゥスキアスはやっぱり好きなんでしょうね。この人をもっと世に知らしめたい。そう思いたくなるような逸材だからではないでしょうか。
――ちなみに、その部分はパガニーニを演じるお二人に共通していますか？
入口は共通しているかもしれないですね。けれど、どこまで本気でそう思わせてくれるかは、これからのお芝居の中に僕も自分自身で見出したり探したり感じたりできたらいいなと思っています。
ただ、これってその人のフレッシュさだったりするのかもしれないですよね。現場に入るときに新鮮な状態で手垢がついていない雰囲気といいますか。たとえば、おどおどして慣れていない様子から「なんだか素敵」「ちょっとかわいいな」「この人の面倒を見てあげたいな」と思わせる感覚と少し似ているのかもしれないです。
――悪魔という人ならざるものだからこそ、人間らしい部分を見るとグッと来てしまうのかもしれませんね。
まさにそうだと思います。
虜になってしまう音楽の魅力。さらに実はオタク心をくすぐるポイントも
――本作は日本のオリジナルミュージカルとして、初演時からとても注目されていました。実際に中川さんの周りであった意外な反響や印象に残っている声はありましたか？
音楽がとても美しい、というお声をいただきましたね。ミュージカル作品のナンバーとして聞いたことがないようなタイプの楽曲だけれど、どんどん酔いしれるように魅了されていく、と。それこそ、まさに「音楽の悪魔の虜になってしまいそう」という感想を寄せてくださる方もいらっしゃいました。
あとは、オタク心に刺さるという意外な感想もあったんです。パガニーニとアムドゥスキアスの主従関係と言ったらいいのでしょうか？ パガニーニのコスチュームなのか髪型なのか、パガニーニの美少年の要素とその美少年を開花させていくアムドゥスキアスという芸術を授ける悪魔との関係性なのか……。本作にはオタク心をくすぐるようなポイントがあるらしいです。
――舞台上で描かれている場面以外の様子も想像しがいがある、という感じでしょうか？ たとえば、二次創作をしたい欲求に駆られるような。
そのような感覚だと思います。自分の中で残しておきたくなった、と。でも歴史物や時代物って、そういうところありませんか？ 衣裳やセット、使う言葉にイマジネーションを掻き立てられて、シーンやキャラクターごとに自分の中で一つの絵が出来上がる。そのような感想を伝えてくれる方もいらっしゃいましたね。
取材・文：矢内あや
Photo：TATSUYA ITO
ヘアメイク：松本ミキ
公演概要
ミュージカル『CROSS ROAD～悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ～』
原作・脚本・作詞：藤沢文翁
作曲：村中俊之
編曲：江草啓太
演出：末永陽一
出演者：
音楽の悪魔 アムドゥスキアス 中川晃教
ニコロ・パガニーニ 相葉裕樹／木内健人（W キャスト）
ジプシーの娘 アーシャ 加藤梨里香／有沙 瞳（W キャスト）
皇帝ナポレオンの妹 エリザ・ボナパルト 元榮菜摘
ヴァイオリン教師 コスタ 坂元健児
パガニーニに仕える執事 アルマンド 山寺宏一／畠中 洋（W キャスト）
パガニーニの母 テレーザ 春野寿美礼
荒居清香 荒川湧太 小倉優佳 川口大地 柴田実奈 趙 京來 德岡 明 中野亮輔
宮田佳奈 山﨑感音
2024 年 4 月 22 日(月)～5 月 12 日(日) 東京・シアタークリエ
5 月 17 日(金)～19 日(日) 大阪・新歌舞伎座
5 月 24 日(金)～26 日(日) 福岡・博多座
チケット料金： 12,500 円（全席指定・税込）
製作：東宝
