三浦宏規インタビュー『メディア/イアソン』「導かれているなと日々強く感じています」（後編）
2024年3月12日（火）より、世田谷パブリックシアターにて、演出・森新太郎氏、脚本・フジノサツコ氏による新たなギリシャ悲劇『メディア/イアソン』の幕が上がります。
古代ギリシャの劇作家・エウリピデスが生み出した、ギリシャ悲劇の最高傑作とも言われる「メデイア」。夫イアソンの裏切りにより、我が子を殺めるという王女メディアの凄惨な復讐劇ですが、本作ではそれにとどまらず、若き日の二人の出会いや、幾多の障害を乗り越えながら愛を成就する前日譚もが、二人の間に産まれた3人の子供たちの視点から描かれます。
よりドラマティックな構成となった物語を彩るのは、わずか５名の俳優陣。タイトルロールの一人、イアソンを演じるのは、ミュージカル界のトップスターであり、ストレートプレイや映像作品にも活動の場を広げる井上芳雄さん。もう一方のタイトルロール、王女メディア役には、舞台や映像作品に数多く出演するだけでなく、読書家で、書評や自らの連載も手掛ける南沢奈央さんが抜擢されました。
そして、イアソンとメディアの三人の子供たちを演じるのは、三浦宏規さん、水野貴以さん、加茂智里さん。数々の舞台作品にミュージカル、ストレートの垣根なく挑戦し、その表現力で注目を集める三浦さんは、本作で演出の森氏とは初顔合わせとなります。
森氏演出の『パレード』『奇跡の人』『モンスターと時計』に出演し、様々なやくどころを担ってきた水野さん、スウィングとして森氏演出作品に関わっていた際に、その才能が高く評価され今回の出演へと繋がった加茂さん。森氏の信頼が厚い二人の演技にも期待が高まります。
今回、THEATER GIRLが取材を行ったのは、子供たちの一人を演じる三浦宏規さん。後編では複数の役を演じる上での役作りについてや、共演者のみなさんの印象、三浦さんの中でのミュージカルとストレートプレイの違いについてなど、盛りだくさんの内容で伺ってきました。
役作りは、主役二人を支えられるよう「キャラを立ててオーバーに」
――先ほども触れられていたように、今作で三浦さんはメディアとイアソンの子どもたちの一人を演じるだけでなく、イアソンと共に冒険へと挑むヘラクレスや、メディアの弟アプシュルトス、使いの者など、複数の役を演じられますね。こちらも新しい挑戦になるかと思いますが、役作りにはどのように臨まれていますか？
それぞれについて書いてある本や資料を読んで背景や人物像を探ることもしますし、とにかく稽古場ではまず自分で思った通りに演じてみる。それを見た森さんからオーダーを受けて、「なるほど！」と考えて、変えて、という繰り返しですね。
今回は一つの役を掘り下げるというより、次々と色んな役を演じていくわけですが、それらの役はメディアとイアソンというタイトルロールのお二人がいて、それを支えるキャラクターたちなので、若干キャラは立ててオーバーに演じてみたりしています。リアルさよりは、キャラ立ちをはっきりさせる方向ですね。
衣裳ももそんなに役によってガラッと変わるわけではなくて、王冠をかぶったり何かを持ったりと、ワンアイテムかツーアイテムを足すだけで異なるキャラクターになっていかなければならない。身体表現だったり声だったり、分かりやすく変えるよう心がけています。
キャスト5名の稽古場の雰囲気は？「すごく居やすいです」
――今回はキャスト5名で作り上げるということで、稽古中も濃密なやりとりが交わされているのではと思うのですが、稽古場の雰囲気についても聞かせていただきたいです。
楽しいですよ。笑いも絶えないし。けれど、集中する時にはグッと集中する感じです。みなさん素晴らしい役者さんたちですから、瞬間的にガッと（役に）入る。この作品といっしょで、稽古場も緩急がはっきりしているというか。オンオフがきっちりしてるのって、なんかいいですよね。すごく居やすいです。
――どなたかが引っ張っていくというより、みなさんで一致団結して作っていっている感じなんでしょうか？
そうですね。でもやっぱり（井上）芳雄さんがいると、何だか心強いです。アイデアもいろいろと出してくださるし、かなり緊迫したお芝居をしていても、ふとした時に冗談を言って和ませたり。そういう稽古場の雰囲気作り方が素晴らしいなと思います。こうして舞台作品でご一緒するのが実は初めてなので、勉強になるなぁと感じています。
「みなさん本当にすごい」三浦さんが語る共演キャストの印象
――井上さんのお話が出ましたけども、ほかのキャストのみなさんについても、印象などを聞かせていただけますか？
印象ですか、……すごいっす（笑）。 みなさん本当にすごい。南沢さんは最初にお会いした時に、すごく落ち着いていらっしゃる、おしとやかな方という印象を受けたのですが、今回演じられるメディアというキャラクターは、とてもあどけない少女らしい姿で始まるような役作りをされていて。普段の姿からはどんなメディアを作られるのか、全く想像がつかないんですよ。今日は、メディアがずーっと笑い転げるっていうシーンの稽古があって。「ツボにハマってただただ笑っているように」という森さんのちょっとした無茶なオーダーだったんですけれど（笑）、本当に少女のようで、なんというか、とにかく可愛いらしかったんです。「すごい！」って思いました。
――森さんのオーダーがもたらした結果にも、そのオーダーに応える南沢さんにもびっくりですね。
長い独白のシーンの初めての稽古の時、森さんに「とりあえず一度やってみて」と言われたのですが、そのすごく長いセリフをほぼ完璧にこなしてらして。稽古場から拍手が起きました。南沢さんの集中力のすごさに圧倒されつつも、「俺、ヤベぇ……」って自分の4ページあるセリフが頭を過ぎってしまいました（苦笑）。
加茂さんと水野さんはいっしょに、メディアとイアソン夫妻の間に生まれた3人の子供をやっています。水野さんは、一番小さな子供の役を演じていらっしゃるのですが、とても幼い子どものように見えるんですよ。かと思えば、貫禄のある王様役も演じる。はじめに台本を見た時、“○○王 水野”って書かれているのを見た時に配役ミスかと思いましたからね。
――配役ミスとは……（笑）。
さらに、“△△王 加茂”って。「えっ、王様って男やんな？ っていうか、おじいさんやんな？」みたいな（笑）。王様役を水野さん、加茂さんの女性二人が演じるのですが、本当に、年齢を重ねた男性の王様のように見えるんですよ。そのテクニックはすごいなぁと思います。
加茂さんもすごいんですよ、声のバリエーションがとても幅広い。もう、どこから声が出ているのか分からないくらいです。おじいさんの王の役をやってる時は、本当におじいさんみたいなんですよ。普段は全然そんなことないのに。僕、終盤で加茂さんが演じている役のセリフを再現するような箇所があるのですが、「いや自分、この声出ないなぁ……」と思いつつ、毎日勉強させてもらってます。
ミュージカルとストレート作品の違いは「何もない」
――今作はストレートプレイですが、三浦さんはミュージカルでも活躍されているイメージをみなさん持っていると思うんです。それぞれに臨むにあたって、三浦さんの中で何か違いはあったりするのでしょうか？
いや、何もないですね。
――ただ、表現の仕方がちがうだけ、と？
ミュージカルだったら心情を歌で伝えて、ストレートプレイなら台詞で伝える。僕はミュージカルだから、ストレートプレイだからと何かが変わるとは思っていないです。たとえそれがダンス作品だとしても、与えられた役を表現するという点において何も変わらないですね。
今後挑戦してみたいことは「ひみつ」、その理由
――今作は出演のオファーがあったということですが、三浦さんが「この作品に出たい」と思う基準はどんなところにあるのでしょうか？
今作について言うなら、ギリシャ悲劇という演劇にすごく興味があったから、というところが一番かなと思います。それに、僕に森新太郎さん演出のストレートプレイというオファーをいただけるとは思っていなかったので、びっくりして。僕自身もそうだし、お客さまもとしてもあまりイメージがなかったと思うので。だから、「いいなぁ、やってみたいな」と思いました。
――では、今後のお話になってしまうんですが、挑戦してみたい役柄やジャンル、作品などは、心の中にあったりされますか？
たくさんあるのですが、言わないようにしています。うん、……ひみつで！（笑）
――承知しました（笑）。最後に、読者のみなさんへのメッセージをお願いします。
今、こうして稽古を重ねていますが、僕自身もこの作品の今後の展開がどうなっていくのか、まだまだ読み切れないところが色々あるんです。もちろん台本は手元にあるのですが、その台本をどう膨らませていくのか、とても楽しみにしています。5人という少数のメンバーでお届けするのですが、セットを含め、とにかくムダを削ぎ落とした舞台になるだろうなと思っています。
セットのイメージを見せてもらったんですが、それが決して物足りなく映るものではなく、ムダを削ぎ落としているからこそ、くっきりと見えてくるものがあるのではないかと感じました。とにかく美しくて、緩急があって、悲劇だから悲しい出来事も起こるのだけれど、その先に希望が感じられるような作品に仕上がると僕は思っています。ギリシャ悲劇というと、もしかしたら難しくて分からないかもしれないと思っている方や、詳しくないから……としり込みしている方もいらっしゃるかもしれませんが、きっと楽しく観てもらえる作品になると思います。ギリシャ悲劇に詳しい方にも、新しいメディアとイアソンをお届けできると思います。ぜひいろいろな方に観ていただきたいなと思っています。
取材・文：古原孝子
Photo：梁瀬玉実
公演概要
『メディア/イアソン』
【原作】
「アルゴナウティカ アルゴ船物語」作：アポロニオス 翻訳：岡道男
「メデイア」作：エウリピデス 翻訳：中村善也
【脚本】フジノサツコ
【演出】森新太郎
【出演】井上芳雄 南沢奈央 三浦宏規 水野貴以 加茂智里
【日程】2024/3/12(火)～3/31(日)
【会場】世田谷パブリックシアター
【お問合せ】 世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515 https://setagaya-pt.jp/
【ツアー公演】兵庫公演：2024/4/4(木)～4/6(土) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【公演 HP】https://setagaya-pt.jp/stage/2164/
【主催】 公益財団法人せたがや文化財団
【企画制作】 世田谷パブリックシアター
【後援】 世田谷区
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