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ミュージカル『この世界の片隅に』観劇レポート!「原作の持つぬくもりが自然とにじみ出る、じんわりと温かい気持ちになれる作品」

REPORT

2024年5月9日(木)より日生劇場にて絶賛上演中のミュージカル『この世界の片隅に』。

本作は、こうの史代によるマンガが原作で、戦時下の広島県呉市に生きるすずと、彼女をとりまく人々を淡々と丁寧に描いた物語。これまでテレビドラマ化やアニメ映画化もされてきたが、今回、初めてミュージカルとして上演されることとなった。

主人公の浦野すず役は、昆夏美と大原櫻子がWキャストで演じる。すずが嫁ぐ相手の北條周作役は、海宝直人と村井良大のWキャスト。すず、周作と三角関係になる白木リン役は、平野綾と桜井玲香のWキャスト。すずの幼馴染・水原哲役は、小野塚勇人と小林唯のWキャスト。また、すずの妹・浦野すみ役を小向なるが、周作の姉・黒村径子役を音月桂が演じるなど、実力派俳優が勢揃いした。

今回は、浦野すずを昆 夏美、北條周作を海宝直人、白木リンを桜井玲香、水原 哲を小野塚 勇人、すずの幼少期を澤田杏菜、黒村晴美を大村つばきが演じた公演の観劇レポートをお届けする。

※作品内容に一部触れています。

幕が開くと、主人公・すず(昆 夏美)が登場し、「この世界のあちこちに」を歌い始める。そこへキャストたちが次々と現れ、大合唱に。本作のテーマが散りばめられた歌詞がグッとくる。華やかなプロローグに心を奪われていると、一転、舞台は昭和20年7月の呉に。空襲によって大切なものを失い、布団に横たわるすず。そこから過去を回想したり、回想シーンのなかでさらに過去を回想したり、また現在に戻ったりと、時間を前後しながら物語は進んでいく。

おっとりした性格のすずだが、芯の強さや、感情の機微を鋭く察知する一面も。だからこそ、夫の周作(海宝直人)に対して嫉妬の感情を覚えることもあるのだが、それをとても愛らしく演じる昆。セリフの抑揚や歌声はもちろん、目に宿した熱量ですずの頑固さを表現するなど、芝居の幅の広さで魅せた。

対する海宝も、あまり感情を表に出さない周作を、声色や視線によってやさしさ溢れる内面を表現。不器用ながらも、すずと徐々に心を通わせていく姿にキュンとし、自然と二人を応援したくなる。

©こうの史代/コアミックス・東宝 製作:東宝

すずに大きな影響を与える登場人物の一人が、遊郭で働く白木リン(桜井玲香)。艶やかな外見ながら、どこか儚さを感じさせる佇まいで懸命に時代を生きる様子を、桜井は繊細に演じた。すずとは互いに魅かれ合いながらも、一歩引いた友情を育む様子が愛おしい。

©こうの史代/コアミックス・東宝 製作:東宝

そして、すずの幼なじみ・水原 哲(小野塚 勇人)もまた、すずにとって重要な存在だ。家の事情により自身で進む道を選べなかったが、葛藤しながらもその運命を受け入れ、歩んでいる。

©こうの史代/コアミックス・東宝 製作:東宝

そんな“選べなかった”人たちに対し、自分の人生を自ら選び強く生きているのが、周作の姉で、すずの義姉にあたる黒村径子(音月 桂)だ。当初はすずにキツくあたっていたが、径子への罪悪感から実家に帰ろうとしたすずを、「すずさんの居場所はここじゃ」と引きとめる。すずと二人で歌う「自由の色」はまっすぐに胸を打ち、客席のあちこちからすすり泣きが聞こえてきた。

©こうの史代/コアミックス・東宝 製作:東宝

本作の世界観を構築するうえで大きく作用しているのが、アンジェラ・アキの手がけた音楽だ。開幕記念会見の際、アンジェラが「原作の持つ温かさやピュアさと、素晴らしい脚色を立て、支えられる音楽にできるように」と言っていた通り、セリフや会話とナチュラルに溶け合い、観ている者の感情を揺さぶってくる。冒頭で披露される「この世界のあちこちに」のほか、「波のウサギ」などの楽曲は、いくつかのシーンでイントロが流れたりと、物語のつながりを示すという点でも大きな役割を担っている。

©こうの史代/コアミックス・東宝 製作:東宝

また、舞台機構の持つ効果も大きい。八百屋舞台に、わら半紙を連想させる白い背景というシンプルなセットだが、すずが絵を描くシーンでは、その背景がすずの帳面となり、描いている絵が映し出されたり。あるときは、空襲を受けた街並みや軍艦が映し出されたり。回るだけでなく上下に動く盆により、坂道などの風景を演出することもできる。花祭りのシーンでは、その特徴が最大限に発揮されていた。

©こうの史代/コアミックス・東宝 製作:東宝

ラストは再び、全キャストによる「この世界のあちこちに」の歌唱。「どんな人も居場所があるんだ」という歌詞が、最初に聞いたときより深く心に刺さる。自分の居場所とは?――上演中、そう問いかけながら観る人も多いのではないだろうか。

その答えが見つかるか否かは別として、最後にはじんわりと温かい気持ちになれる本作。それは、原作に対する役者・スタッフ陣の愛とリスペクトが大きいが故に、原作の持つぬくもりが自然とにじみ出るから。さらに、演技力のみならず歌唱力にも秀でたキャスト陣。まさに、世界に対しても吸引力のある新たな和製ミュージカルの誕生といえるだろう。

文:林桃

ミュージカル『この世界の片隅に』開幕記念会見レポートはこちら

『この世界の片隅に』PV【舞台映像Ver.】

公演概要

ミュージカル『この世界の片隅に』

原作:こうの史代『この世界の片隅に』(ゼノンコミックス/コアミックス)

音楽:アンジェラ・アキ

脚本・演出:上田一豪

出演:
浦野すず:昆 夏美/大原櫻子(W キャスト)

北條周作:海宝直人/村井良大(W キャスト)

白木リン:平野 綾/桜井玲香(W キャスト)

水原哲:小野塚勇人/小林 唯(W キャスト)

浦野すみ:小向なる

黒村径子:音月 桂

白木美貴子 川口竜也 加藤潤一

飯野めぐみ 家塚敦子 伽藍 琳 小林遼介 小林諒音 鈴木結加里 高瀬雄史

丹宗立峰 中山 昇 般若愛実 東 倫太朗 舩山智香子 古川隼大 麦嶋真帆

桑原広佳 澤田杏菜 嶋瀬 晴

大村つばき 鞆 琉那 増田梨沙

【東京公演】
5月9日(木)~5月30日(木)
日生劇場

【全国ツアー公演】
北海道公演 6月6日(木)~9日(日) 札幌文化芸術劇場 hitaru
岩手公演 6月15日(土)~16日(日) トーサイクラシックホール岩手 大ホール
新潟公演 6月22日(土)~23日(日) 新潟県民会館 大ホール
愛知公演 6月28日(金)~30日(日) 御園座
長野公演 7月6日(土)~7日(日) まつもと市民芸術館
茨城公演 7月13日(土)~14日(日) 水戸市民会館 グロービスホール
大阪公演 7月18日(木)~21日(日) SkyシアターMBS
広島公演 7月27日(土)~28日(日) 呉信用金庫ホール

公式サイト:https://www.tohostage.com/konosekai/

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

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