飯豊まりえインタビュー 『ハムレットQ1』 「感情のまま演じるというのは、舞台も映像も変わらない」(前編)
2024年5月11日(土)よりPARCO劇場にてPARCO PRODUCE 2024『ハムレットQ1』が上演。
シェイクスピアの四大悲劇の一つに数えられる『ハムレット』には3種類の原本があり、二つの四折版(Quatro)がQ1とQ2、もう一つの二折版(Folio)がF1と呼ばれています。現在もっとも上演されているのはF1。本作は、F1 版の長さが約半分で、物語が凝縮されたQ1版での上演です。数多くのシェイクスピア劇を手掛けてきた森新太郎さんの演出により、新しい視点で描かれます。シェイクスピア戯曲を知りつくした松岡和子さんの新訳で上演されることでも注目を集めています。
主人公・ハムレットを演じるのは吉田 羊さん。ハムレットの恋人・オフィーリア役には飯豊まりえさん。ハムレットの親友・ホレイショー役には牧島 輝さん。オフィーリアの兄・レアティーズ役には大鶴佐助さん。ハムレットの母親・ガートルード役には広岡由里子さん。ハムレットの叔父・クローディアス役には吉田栄作さんと、豪華な俳優陣が集結。さらに、佐藤 誓さん、駒木根隆介さん、永島敬三さんら実力派が脇を固めます。
THEATER GIRLは、飯豊まりえさんにインタビュー。前編では、出演が決まったときの気持ちや、主演を務める吉田 羊さんの印象、実際に稽古に参加して感じたことなどを伺いました。
ステキなご縁をいただけたなと感じました
――本作に出演が決まったときの気持ちを教えてください。
私は舞台の経験があまりないのですが、森(新太郎)さんの演出で、吉田 羊さんがハムレット役を演じられるというお話を聞いたときに、とてもおもしろそうだなと好奇心を刺激されました。それと、私が最初に知ったウィリアム・シェイクスピアの作品が『ハムレット』だったこともあり、いつかシェイクスピア作品をやってみたいと思っていたので、ステキなご縁をいただけたなと感じました。
――森さんの演出は、どのあたりに惹かれたのでしょうか。
森さんの演出を受けたことのある俳優さんから、お稽古が1000本ノックのようですごく厳しいという話を聞いていたのですが、でもそれは、自分にとっての大きな挑戦になると思いました。お芝居やキャラクターを深める作業はもちろん、忍耐力も鍛えてもらえるのではないかとポジティブな感覚があったんです。
瞬発力が大事なドラマにくらべると、舞台は稽古期間が1カ月以上あったりと、作品に向き合える時間が長いので。そういった意味で、シェイクスピア作品で、さらに千本ノックの森さんとご一緒できるなら、作品をより深く愛しながら演じることができるんじゃないかなと思いました。
――吉田 羊さんがハムレットを演じられることについては、どのような魅力を感じたのですか?
女性ならではの距離感といいますか。女性である羊さんが演じられることで、ハムレットの弱さみたいなところが自然と浮き出てくるのかなと思いましたし、通常とは違ったハムレットになるであろうところに魅力を感じました。
――吉田 羊さんとご一緒してみての印象を教えてください。
羊さんは常にハムレットという役と向き合われていて、お稽古のときも、ご自身が考えてこられたお芝居を演じられるのですが、森さんから“こうやってほしい”とお話しがあれば、「はい!」とすぐに切り替えて応えられるんです。そうして準備段階でいろんなお芝居を試して、“あっ、これは違う。じゃあ、こういうふうに切り替えてみよう”というようにみなさんと作っていくことができるので、私も「まずは自分の考えてきたお芝居を試してみよう」と思うことができました。そのおかげで、自分にとってお芝居に取り組みやすい環境になって、すごく助かりました。
羊さんのハムレットは、ちょっと憧憬の要素が入っていたりして、オリジナルのハムレットになるのではないかなと思います。“女性である羊さんだからできることは?”というのを常に森さんと考え、楽しみながら作り上げられている印象があります。
すごくやさしい人である部分は繊細に汲みとっていきたい
――お稽古が始まってからは、どのように役へアプローチしていったのでしょうか。
オフィーリアは、ハムレットの嘘の狂った姿を見て自分も狂っていってしまうんです。愛する人の影響を強く受けてしまう、とてもやさしい人なので、その部分は繊細に汲みとって演じていきたいなと思いました。
あと本読みの期間が一週間あったおかげで、オフィーリアのセリフを一つひとつ確認しながら、深いところまで読み込めたという実感がありました。稽古中、森さんから「飯豊は今、どういう思いでこのセリフを言ったの?」と質問されることが多かったのですが、私もその問いにお答えして、お互いの考えなどをしっかり話して役に落とし込めた時間があったのは、すごくよかったです。
――本読みに一週間もかけてくださる現場というのは、なかなか貴重だと思います。
実際に立って動いてみないとわからないこともあったりしましたが、立ち稽古の際に本読みのときのイメージと違っていたら、森さんが「あっ、ごめん。ちょっと違ったな」とすぐに切り替えて、可能性を一緒に探ってくださるんです。それもすごくありがたかったです。
――そうすると、最初に脚本を読んだときの印象と変わってきた部分もありそうですね。
どんどん解釈が変わっていくところが、シェイクスピアの魅力なのかなと思います。今回の“Q1”は、一般的に上演されている“F1”と比較するとキュッと凝縮した内容になっているのですが、森さんが「感情の流れがシンプルになるぶん登場人物の感情がわかりやすいし、“ここで間をとりたいな”というところにたっぷり時間を使える。その“間”ができることで、お客様が“今、この人は何を考えてるんだろう”と考える余白の時間を作れるのがメリットだ」とおっしゃったことがあって。それを聞いたとき、オフィーリアを演じる自由度が上がりました。それからは、稽古場でいろいろと試すことができて、充実した時間を過ごしています。
――では、ハードルの高さも楽しみながらお稽古ができていると。
そうですね。むしろ、難しいところに自ら突っ込んでいったような感覚もあります(笑)。演劇というものを学ぶには、あえて厳しい場所に身を置いて、勉強したいなと思いました。
自分なりにお芝居が固まったかなと思っていても、次の日に森さんが「この流れをちょっと変えてみようか」と演出が変わったり、驚かされることも多いです。ですが毎日、“ここはこうしてみようか”と話し合いながら、みんなで作品を作っていくんだという雰囲気が新鮮で刺激的でとても楽しいです。
――長い時間をかけて稽古を重ねる舞台ならではの雰囲気ですよね。
ホントに風通しのいい稽古場だなと感じます。キャスト各々が演技プランを持っていて、それを受け入れてくださる森さんがいて。森さんはバイタリティー溢れる方で、稽古が始まる1時間ぐらい前には稽古場に入っていらっしゃってプランを練られていたりするんです。稽古期間も残り3分の1ぐらいですが(取材時)、すでに通してできるくらいまできているので。きっと安心して本番の舞台に立てると思います。
取材・文:林桃
Photo:梁瀬玉実
ヘアメイク:星野加奈子
スタイリスト:髙山エリ
公演概要
PARCO PRODUCE 2024『ハムレットQ1』
作: ウィリアム・シェイクスピア
訳: 松岡和子
演出: 森新太郎
出演:
吉田 羊 飯豊まりえ 牧島 輝 大鶴佐助 広岡由里子/佐藤 誓 駒木根隆介 永島敬三/
青山達三 佐川和正 鈴木崇乃 高間智子 友部柚里 西岡未央 西本竜樹/吉田栄作
【東京公演】
2024年5月11日(土)~6月2日(日)
PARCO劇場
【大阪公演】
2024年6月8日(土) 13:00/18:30 6月9日(日) 13:00
森ノ宮ピロティホール
【愛知公演】
2024年6月15日(土) 13:00 6月16日(日)13:00
東海市芸術劇場 大ホール
【福岡公演】
2024年6月22日(土) 13:00/18:30 6月23日(日)12:00
久留米シティプラザ ザ・グランドホール
企画・製作: 株式会社パルコ