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板尾創路×松田凌インタビュー 舞台『聖なる怪物』「この世界観の中に自分がいたらとすごく興味が湧いた」(前編)

INTERVIEW

2023年3月10日(金)より新国立劇場 小劇場にて、舞台『聖なる怪物』が上演されます。

作・演出を手掛けるのは、『赤い雪 Red Snow』で長編映画監督デビューし注目を集めた新進気鋭の映画監督・甲斐さやかさん。その初舞台作品となる今作は「信仰心」そして「神の存在」について見るものに問いかけます。ときにホラーともとれるほど、鋭く人間関係を描き出す映画監督としての感性が、演劇という生の空間でどのような世界観を作り上げるのか期待が高まります。

本作のW主演を務めるのは、お笑い芸人として確たる地位を築き近年では映画監督・俳優としても唯一無二の存在感を放つ板尾創路さんと、2012年ミュージカル『薄桜鬼』で舞台初出演にして初主演を務め、以後、舞台・ドラマ・映画など多くの作品での活躍が目覚ましい松田凌さん。

板尾さんは教誨のため刑務所を訪れる山川真之神父役を、松田さんは自らのことを“神”と呼ぶ死刑囚・町月正紀役を演じます。また、石田ひかりさんが、敬虔な信者で行方不明になった娘について相談するため山川を訪ねる里井真知子役を、莉子さんが真知子の娘・舞花役を、朝加真由美さんが認知症を患う夫が問題を起こし、山川に救いを求める女性・加賀谷を演じ、作品世界にさらなる深みを加えていきます。

今回THEATER GIRLは主演の板尾創路さんと松田凌さんにインタビュー。前編では脚本を読んで感じたことや、稽古の手応え、お互いの印象などについて語っていただきました!

インタビュー後編はこちら

脚本を読んだ時から吸い込まれるように惹かれるものを感じた

――最初に今作の脚本を読まれた時の印象や、どんなところに魅力を感じたかを聞かせてください。

松田:僕が台本を読ませていただいたのは、出演が決まる前で。最初に全てを理解できたかと言われると、できませんでした。それでも引き込まれるものがあった……というと、すごく抽象的で申し訳ないんですが、自分が出演させていただけるようならば、どうにか(配役に)選んでいただきたいという熱意を制作の皆さまにお伝えしたんです。それくらい今作には、初めて読んだ時から吸い込まれるように惹かれる何かがあるように感じました。

――出演が決まる前に目を通されたということですが、その段階ですでに松田さんが演じるとするならば町月だという点は決まっていたのでしょうか?

松田:そうですね。「この役です」と伝えられていたわけではないんですが、自分がやるとしたらここしかないかなという感覚では読ませていただいていました。

――実際に稽古が始まった今あらためて、理解が深まったことで見えてきた今作の魅力はどんなところにあると思われますか?

松田:ひとつは、もともと映画監督をされている甲斐さやかさんが、今回舞台の脚本と演出を初めて手掛けられるというところですね。観に来たお客さまは多分、今までの舞台の形とは少し違った印象を受けられると思うんですが、甲斐さんの脚本が持つ唯一無二性というようなものを随所から感じてもらえると思います。それは演じる側としても感じていますし……と、僕がここで言葉で伝えるよりも、観ていただいたほうが強く伝わるんじゃないかなと思います。

――板尾さんは、脚本を読まれた時はいかがでしたか?

板尾:正直、最初に本を読んだ時には「ずっと出てるやん、俺」って。

――(一同笑)。

板尾:「こんなにセリフ覚えなあかんのや」「楽屋に戻ったり、休憩する時間もないな」と思いましたけど。でも二度三度と読んでいくと、ト書きに書かれているセットの様子であったり、小道具の動きや照明のイメージなんかが、すごく物語にマッチしていて。こういうふうになるんだろうな、こういう演出なんだなって、読みながら想像ができたんです。その中に自分が立つというイメージをした時に「あぁ、なんか、やってみたいな」と。

この世界観の中に自分がいてお芝居をしたら面白そうだなという興味が、すごく湧いてくる本でした。普段は物語やセリフであったりに惹かれたりすることはあっても、あんまりそこまで思わないんですよ。今回の作品は、こういう劇場がこういうセットになるんだなというところに魅力を感じながら、何度か本を読ませていただきました。

これは舞台美術や照明、音響、その世界観の中で成立するお芝居

――自分を神と呼ぶ死刑囚・町月と、彼と向き合う神父・山川、どちらも一筋縄ではいかない役どころかと思われますが、稽古に入ってみての手応えはいかがでしょうか?

松田:僕自身のことではないんですけど、先ほどの通り、本当に板尾さんは全シーン出てらっしゃるので。お休みできる時がないですよね?(笑)

板尾:(頷いて無言の肯定)

松田:いやもう、すごいなと思いながら見ています。僕としては、基本時に今回対峙して一緒にお芝居をさせていただく方が板尾さんだけだったりするので。板尾さん、甲斐さんとお話をさせていただきながら、(芝居を)ゼロから作れることにやりがいは感じていますけど、手応えみたいなものはまだないです。どうなんでしょうね……最後までないのかもしれないですけど(苦笑)。

板尾:ふふふ。

――板尾さんはいかがですか?

板尾:今は稽古場で、イメージの中でずっと稽古をしていて、皆さんどんどん役に入っていっている感じなんですが。さっき言ったことにも関係するんですけど、まだ(舞台装置などが)何もないところでやっているので、空間や照明をイメージしたりということがほとんどできてない感じなんです。だからまだ、芝居もなかなか定まらないというか、こうだと決めにくい状況で。それは多分、この脚本がそういうものだからだなと。舞台美術や照明、音響、その世界観の中で成立するお芝居なので、役者のセリフと動きだけではなかなか掴めないよね。

松田:そうですね。

板尾:だから今は探っている状態です。この作品は、(この段階で)あんまり作り過ぎるとちょっとズレちゃうかも分からないので、小屋に入ってからの期間に集中してやらないとダメなのかなと。先に稽古場で作って固めてしまうと、ひょっとしたら後から「こうじゃないな」と思ってしまう危険性があるので。だから今は、恐る恐る稽古しています(笑)。

――小屋入りしてから固めていく作業がまた楽しみでもありそうですね。

板尾:そうですね、それはそれでまた楽しみです。だからいろんなパターン、いろんなアプローチを今試しているというか。そんな感じです。

町月という青年は「一人で哲学を作り上げたような人物」

――山川神父も町月もかなり特異な役どころですが、おふたりはご自身が演じる役についてはどのような人物だと解釈されていますか?

松田:まず第一に“死刑囚”というのが、町月という人物にまつわるパワーワードだと思うんです。これはいろいろな取材を通しても感じたことではあるんですが。これまでに死刑囚役を演じたことはなかったので、死刑囚と呼ばれるような人々についての資料に目を通したり、それに基づいた映画も数多くあるので観たりもしましたけど。今はもう、あんまりそんなことも考えなくなっちゃったというか。というのも、町月という青年自身が一人で哲学を作り上げたような人物なので。

――哲学、分かる気がします。

松田:自分の考えが突き抜け過ぎていて、もう生きる・死ぬとか、罪とか罰とか、悪とか正義とか、そういったものには捉われていないんですよね。そういう、人々が世の理だと思っているようなことさえも、多分彼にとっては陳腐なもので。そういう境地にもう行き着いてしまっている。だからすごく知性のある人なんだろうなとは思うんですけど、今の自分の言葉で彼について語ろうとしても、どう語っていいのか分からない気がしています。でもその感じが、今回のフライヤーなどにも書かれている「“神”か、“ペテン師”か、それとも“怪物”か」という言葉そのものだなと。

――板尾さんはいかがですか?

板尾:そうですね。あんまり今の段階で言っちゃうと……ネタがバレちゃう(笑)。

松田:特に板尾さんの役はそうですよね(笑)。

板尾:僕がやっている山川神父っていうのは、真面目な人なんだなとは思うんです。すごく真面目で、神を信じていて。けども、ひとつのことを信じ過ぎると、人間って環境や偶然の巡り合わせによってはとんでもないことになっていくのかなと……そういう感じがするので。これから生きていく上で気を付けないとなって思います。それに神父さんって、いろんな人の罪とか悩みとか、そういったものを聞く立場の人ですけど。自分はひとつのことしか信じていなくて、ひとつの正義、ひとつの信仰を抱いていて、そんなに多様な悩みに対応できるのかって、稽古をやりながらすごく疑問に思うようになったんですよね。質問の答えになっているのかは分からないですけど、僕はそういう人物だと感じています。

関西出身という共通点「楽しくやってます」

――お互いの印象についても伺わせてください。おふたりは今回が初共演ですよね。稽古開始前には板尾さんが松田さんについて「物静かでイケメン」とコメントされていましたが、稽古でのやりとりもされるようになった今はどんな印象をお持ちですか?

板尾:変わらないですね。僕が大阪出身で、彼も兵庫県の尼崎市出身なので、関西人同士で楽しくやってますよ。

――松田さんの演技などに関してはいかがでしょうか?

板尾:普段は本当にいい青年……って、30過ぎた方に言ったら怒られるかもしれないですけど(笑)。静かでソフトで、礼儀正しく真面目っていう感じなんですが、いざ稽古になるとバチっとスイッチが入るところがさすがだなと感じてます。引き出しも多いので、お稽古していて楽しいですね。

――スイッチというと、お芝居に入る前と後では雰囲気にかなり変化があるというイメージでしょうか。

板尾:そうです、ギャップがすごいので。僕はあんまり変わんないですけどね。普段も舞台の上も袖でも。

――では、松田さん。共演される前の板尾さんのイメージと、共演されてみての印象はいかがでしたか?

松田:第一印象以前に、もうずっと(テレビなどで)拝見させていただいていたりしていたので、自分としては念願だったというのもあるんですが。初めてお会いしたのはたしか、ビジュアル撮影の日にご挨拶させていただいた時だと思うんですけど、男性が男性に言うことながら、色っぽい、格好いいって感じました。

板尾:そんなことないですよ。腹黒い質問だなぁ。

松田:いやいや(笑)。すごくこう……自分がこれから先、まねしたくてもできないような、板尾さんにしかない空気感だなって。稽古に入ってからは、よくお話しさせていただいたりしていて、とても楽しいです。話題はお芝居のことであったり、普段のとりとめのないことであったり。そしていざ稽古となると、今回の役柄を通してセッションをさせていただくというか。自分がいろいろと試したりしても全部受け止めてくださいますし、稽古は稽古でまた楽しんでやらせてもらっています。

取材・文:古原孝子
Photo:梁瀬玉実

インタビュー後編はこちら

公演概要

『聖なる怪物』

作・演出:甲斐さやか

キャスト:板尾創路 松田凌/莉子 朝加真由美/石田ひかり

<公演日程>
2023 年3 月10 日(金)~3 月19 日(日)
会場:新国立劇場 小劇場

<料金>
S 席/8,500 円 バルコニー席/6,500 円
※未就学児入場不可
※全席指定

<公式サイト>https://thesacredmen.com
<公式Twitter>https://twitter.com/thesacredmen

主催・企画・製作:ミックスゾーン

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

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