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木村達成インタビュー『セツアンの善人』 「いい顔だけじゃなく、汚いところも見て欲しい」(後編)

INTERVIEW

2024年10~11月、世田谷パブリックシアター芸術監督・白井晃さんが演出を手がける『セツアンの善人』が上演されます。『セツアンの善人』は白井さんも大きな影響を受けているというドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトの代表作の1つです。

これまで数々のブレヒト作品を演出してきた白井さんが、「善人とは?」「幸福とは?」を問う本作を初演出。さらに本作上演にあたり、ドイツ文学者の酒寄進一さんが新訳を手がけています。

主人公を演じるのは葵わかなさん。葵さんは、「善人探し」をする神様に善人だと認められる貧民街の心優しき娼婦のシェン・テ役と、彼女が作り出した架空の従兄のシュイ・タ役の1人2役に挑みます。彼女が恋に落ちる失業中のパイロット、ヤン・スン役の木村達成さんをはじめ、渡部豪太さんや七瀬なつみさん、あめくみちこさん、小林勝也さん、ラサール石井さんといった豪華キャストが集結。

今回、THEATER GIRLでは、シェン・テが恋に落ちる失業中のパイロット、ヤン・スンを演じる木村達成さんにインタビュー。NHK大河ドラマ「光る君へ」への出演など、舞台だけでなく映像でも活躍する木村さんは、本作が実に1年ぶりの舞台出演となります。インタビュー後編では、3度目のタッグとなる白井さんとのエピソードを中心に、1年ぶりとなる舞台への思い、作品にちなんだ“いい人エピソード”などを語ってもらいました。

インタビュー前編はこちら

「僕を見て!」感情を募らせたあの日から3年

――演出を手掛ける白井晃さんとは3年ぶりにご一緒されるとのことですが、3年前と今、ご自身でなにか変化は感じていますか。

3年前と今……白井さんに、最初にお会いしたのは2020年なので、当時からの僕の変化をわかってくださるとは思いますが。今回も3年ぶりにまたいっぱいお尻を叩いてくださるんじゃないかなと。

――これまで音楽劇「銀河鉄道の夜2020」、ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』でご一緒されていますが、記憶に残っていることはありますか。

『ジャック・ザ・リッパー』のときは、本番中、歌いながら床を思いっきり殴っていましたね。もう拳がズタズタでした。

――それはどんな思いから?

あのときは、白井さんに対して「僕を見て!」という気持ちが強かったんです。終始、苛立ちを抱えていて、舞台上を壊してやろうみたいな気持ちで臨んでいましたね。あとは言われたことができなかった自分に対しての腹立たしさもありましたし。

――音楽劇「銀河鉄道の夜2020」のときもそういった苛立ちはあったのですか?

いや、それがそういう記憶は一切ないんです。多分、もうそれどころじゃなかったんでしょうね。いっぱいいっぱいで(笑)。

――今回は白井さんとどんなセッションになりそうですか?

白井さんとは、出会った頃がコロナ禍だったので、実はご飯を食べたりお酒を飲んだりする機会がこれまで一度もなかったんです。だから、普通にお話できる関係になりたいですね。

――稽古場以外での交流ということですね。

ああ……でもちょっと待ってくださいね。今想像してみたんですが、じっくりと顔を突き合わせて、ご飯を食べながら話すと考えると、ものすごく恥ずかしいかもしれないです(笑)。なんだろう、すごく照れるというか。お父さんと話している感じになっちゃうのかも。

――緊張というより照れくささや恥ずかしさがくるんですね。

そうですね。他にこういうふうに感じる人っていないんですけど、この恥ずかしさはなんなんでしょう……。

――一緒に仕事をしている人にオフの姿を見せるのが気恥ずかしい、というのともまた違うものですか?

そうですね。お芝居をすることって羞恥だと思うんです。全てを見られているような感覚なので。だから、白井さんにも「木村はこうしたら、次はこっちに動くよな」と、僕の手の内を全部見られている感じが、この照れにつながっているのかもしれないです。例えば、白井さんが考え事をしているときに、パッと目が合うと、すごく恥ずかしい。そういうと、恋の話みたいに聞こえてしまうけど(笑)、こういう気持ちになるのは本当に白井さんだけですね。

――他の演出家の方に同様の恥ずかしさを感じることは?

ないんです。これまでご一緒した印象的な演出家の方だと、「一緒にエンジョイしながらグルーブで作り出す」の杉原邦生さん、「基礎があってこその流れを理解したときの楽しさがあって、血液をどんどん送り出して淀みなく流れる」の小川絵梨子さん、「芝居をしないことの恐ろしさと自信を与えて下さった」五戸真理枝さん、「今目の前でやるんだったら何やってもいいぞ」の栗山民也さん、という感じかな。僕の個人的な印象ですけど、恥ずかしいとか照れくささはないんです。でも白井さんは、将棋でいうと一局指すのを全部見透かされている感じ。自分で「これ」と思ってやってみると、「それはみんなやると思うな。だからちょっと違うのがほしいかな」と言われてしまって、動きが読まれているような……。

――3年ぶりにその感情とも対面するかもしれませんね。

このお仕事をいただいた当初は、3年分の蓄えが僕にもあるから、「今なら少しくらい白井さんとやりあえるぞ」という気持ちもあったと思います。でもいざ稽古が近づいてきて、改めて我に返ると、ちょっとブランクもあるし怖いですね。やりあうのはやっぱり無理だなという気持ちになっています(笑)。

「汚いところも見てほしい」1年ぶりの舞台へ掛ける思い

――ブランクという言葉もありましたが、今回は実に1年ぶりの舞台出演です。デビュー以来、これだけ期間が空いたのは初めてかと思いますが、心境としてはいかがですか。

舞台では、点と点を結んで線にするという作業が自分の中に身に付く感覚があります。一方で映像は、瞬間瞬間にいいところを出していかなきゃいけない。もちろんそれも楽しいしやりがいもあります。最近はいい顔だけじゃなくて、汚いところも見て欲しいという気持ちが高まっているので、生々しいとか不細工なところが、今回の作品では出していけると思うんですよね。

――出したくてしょうがなかったものが存分に出せそう?

そうですね。白井さんの作品は特にそうなんですよ。「木村いい顔してんな」という視線で見られている感じがするから、鼻水でも汗でも垂らしながら、必死になっている。「銀河鉄道の夜2020」ではずっと泣いていて、舞台上では顔面が涙と鼻水でつねにキラキラ光っていましたし、『ジャック・ザ・リッパー』ではとにかく必死だから序盤から汗だくで。今回はどうなるのか、楽しみですね。

――善人をテーマとした作品にちなみ、「自分っていい人だな」「この人いい人だな」など、いい人にまつわるエピソードを教えてください。

最近は周りの人に迷惑をかけてばっかりで、いい人らしいことをしてないなぁ。でもいい人って難しいですよね。自分は当たり前だと思ってやっていることも、周りからしたら「偉いな」ということかもしれないし。自分がいい人かはわからないけど、僕のことを支えてくれる人はみんないい人だと思っていますよ。僕が駄々こねているときにお尻を叩いてくれる人たちもいるし、本当にいい人に囲まれていると思います。

――それも木村さんがいい人だからこそ、人に恵まれているんじゃないでしょうか。

いや、でもここで僕自身の“いい人のエピソード”が一つも出てこなくて情けないです(笑)。でもそれも人間らしいかもしれないですね。この作品も、これからも、みんなに支えてもらってがんばって歩いていこうと思います。

取材・文:双海しお
撮影:野村雄治
ヘアメイク:齊藤 沙織
スタイリスト:部坂尚吾(江東衣裳)

ジャケット※セットアップ\218,900(eleventy / eleventy 03-3470-8237)、ニット\49,500、
トラウザーズ\46200(ともにHEUGN / IDEAS 03-6869-4279)、
時計※アンティーク\572,000(OMEGA × Tiffany / PRIVATE EYES 03-3940-0707)

インタビュー前編はこちら

公演概要

『セツアンの善人』

【作】ベルトルト・ブレヒト 【音楽】パウル・デッサウ 【翻訳】酒寄進一
【上演台本・演出】白井晃 【訳詞・音楽監督】国広和毅

【美術】松井るみ 【照明】齋藤茂男 【音響】井上正弘 【衣装】伊藤佐智子
【ヘアメイク】川端富生 【振付・ステージング】山田うん 【演出助手】豊田めぐみ 【舞台監督】田中直明

【宣伝美術】秋澤一彰 【宣伝写真】山崎伸康
【宣伝衣装】伊藤佐智子 【宣伝ヘアメイク】川端富生

【出演】
葵わかな 木村達成 渡部豪太 七瀬なつみ あめくみちこ

栗田桃子 粟野史浩 枝元萌 斉藤悠 小柳友
大場みなみ 小日向春平 佐々木春香

小林勝也 松澤一之 小宮孝泰 ラサール石井

【演奏】
磯部舞子(バイオリン・東京公演) 加藤優美(バイオリン・兵庫公演)
島津由美(チェロ) 熊谷太輔(パーカッション)

【日程】2024 年 10 月 16 日(水)―11 月 4 日(月・休)
【会場】世田谷パブリックシアター

【チケット料金】
一般:S 席(1 階席)9,500 円 A 席(2 階席)8,500 円 B 席(3 階席)5,000 円
高校生以下・U24:各一般料金の半額
※劇場友の会、アーツカード割引あり ※未就学のお子様はご入場いただけません
【チケット一般発売】8 月 25 日(日)

【お問合せ】世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515(10:00~19:00)

【主催】公益財団法人せたがや文化財団 【企画制作】世田谷パブリックシアター
【後援】世田谷区

【世田谷パブリックシアターHP】https://setagaya-pt.jp/
【『セツアンの善人』公演ページ】https://setagaya-pt.jp/stage/16042/

<兵庫公演>
【日程】2024 年 11 月 9 日(土)13:00、11 月 10 日(日)13:00
【会場】兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【主催】兵庫県、兵庫県立芸術文化センター
【お問合せ】芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255(10:00~17:00 月曜休/祝日の場合翌日)

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THEATER GIRL編集部

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