中山優馬インタビュー 『大誘拐〜四人で大スペクタクル~』 「まるでジェットコースターに一緒に乗り込んでいる感覚」(後編)
2025年10月の東京シアター1010公演を皮切りに、全国13カ所で、舞台『大誘拐〜四人で大スペクタクル~』が上演されます。
2024年の公演に引き続き、中山優馬さん、柴田理恵さん、風間杜夫さん、白石加代子さんが再集結し、抱腹絶倒の大誘拐劇を繰り広げます。
原作は、天藤真氏が1978年に発表した推理小説。82歳の小柄な老婆が国家権力とマスコミを手玉に取り、百億円を略取した痛快な大事件を描き、1991年には映画化もされました。
THEATER GIRLは、とし子誘拐を企てる犯人グループのリーダー戸波健次役の中山優馬さんにインタビュー。後編では、少人数の舞台で感じる魅力や初演時の印象深いエピソード、舞台での芝居の面白さ、長丁場の舞台を乗り切るための体調管理法などをうかがいました。
ドタバタ劇ならではの面白さ
――今回は4人だけの少数精鋭での上演になります。少人数で演じる魅力や、実際に演じられて感じた楽しさややりがいについて教えてください。
まず一つ大きいのは、ドタバタ劇ならではの面白さですね。4人しかいないので、自分の持ち場を崩してしまったら大変なことになるので。綱渡りのような感覚がありますし、大先輩3人と一緒に、僕自身も重要なピースとして舞台に立てていることが本当にうれしいです。お互いにパスを出し合いながら次へつないでいく、その面白さを強く感じます。
それは若手4人では決して生まれない空気感だと思います。大ベテランの方々がドタバタと動き回る姿が、こんなに面白いんだと実感しましたし、それがこの作品の大きな魅力だと思います。
演出も面白くて、例えば「今は誰の役?」とわかるようにたすきを掛けて演じる場面があるんです。たすきを掛けていたら別の人になっているみたいな。その力は役者自身の人間力であり、ヒューマンパワーなんですよね。簡易的な方法であっても、ベテランの方々が心意気ひとつで役を切り替えていく。それがドタバタ劇と絶妙に噛み合い、とてもパワフルで面白い作品になっていると思います。

ハプニングも含めて楽しい思い出
――初演時に大変だったことや思い出に残っているエピソードはありますか?
風間さんは本当に大変そうでしたね。袖に捌けてから次の役に着替えて出てくるまで、本当に時間がないんです。僕の子分役も風間さんが演じてくださっていて、子分が2人いる設定なのですが、「なあ!」と声を掛けると風間さんが「へい!」と答える。もう一度「なあ!」と言うと、今度は反対側に走っていって「はい!」と別の子分を演じる。その動きを僕が受け止めるわけです。普通は逆の構造なのに(笑)。それも演劇ならではの楽しさだなと思いました。
それから、椅子を使った場面でのハプニングもありました。椅子は車やテーブルなど、いろいろなものに見立てて使うのですが、ある日、僕が登場するシーンで椅子を持って出るはずが、舞台袖に椅子がなくて、そのまま出てしまったんです。ただ、舞台上に別の椅子があったので、それを使って臨機応変に進めることができました。結果的にいつもと違うドタバタ感が出て、それも面白かったですね。そういったハプニングも含めて楽しい思い出です。
綱渡りのような緊張感が舞台に立つ面白さ
――中山さんは定期的に舞台出演をされていますが、改めて舞台でのお芝居の面白さや魅力をどのように感じていますか。
「助け合い」の精神がないと成立しないところですね。舞台はノンストップなので、途中で止まることができません。だからこそ、捨てていく作業なんです。失敗はすぐに捨てて前に進まなければいけない。セリフを噛んでも、動きを間違えても、それを引きずっている余裕はないんです。
例えば、自分が何かミスをして舞台に“事故”を残してしまったとしても、その後に登場する誰かがフォローしてくれるんです。そうやって支え合いながら進んでいく綱渡りのような緊張感が、舞台に立つ面白さだと思います。
また、舞台は止まらないからこそ感情が切れずに、流れに乗ってどんどん先へ進める。その瞬間瞬間に集中していると、同じ作品でも「今日はこういう感情でフィニッシュしたな」と終演後に思えたりして、一回ごとに違う作品に出会える感覚があります。
僕は観客として舞台を見るのも好きなのですが、やはりその場で役者が動き、泣き、怒り、感情をむき出しにして存在する姿を目撃するのは格別です。映像の中ではなく、生身の温度が伝わってくる空間で観ることにこそ面白さがあると思いますし、客席からどこを見るのも自由であるのも舞台ならではの楽しみ方だと思います。
――舞台での経験は、映像作品など他のお仕事にどのような影響を与えていると感じますか?
いい影響もあれば、悪い影響もありますね。例えば悪い方で言うと、久々に映像の現場に行くと「芝居が大きすぎる」と言われることがあります。舞台の感覚が染みついていて、自分では気づかないうちにサイズ感が合わなくなってしまうんです。
逆にいい影響は「地力がつく」ところだと思います。舞台は常にフルショットで戦っている感覚なので、全身に神経を行き渡らせなければなりません。映像は引きの絵が少なく、顔のアップに集中すれば成立する場面も多いですが、舞台ではそうはいかない。だからこそ鍛えられる部分が大きく、結果的に映像の仕事にも役立っていると感じています。

一番はしっかり食べて眠ること
――昨年に続き、今年も長丁場の舞台になりますが、走り抜けていくために、体調管理などで意識されていることはありますか?
基本は「よく食べて、よく寝る」ことだと思います。細かいことでいえば、ホテルでは必ず加湿をしたり、声や体のウォーミングアップを欠かさなかったりといったルーティンはあります。ただ、やっぱり一番はしっかり食べて眠ることだと思いますね。
――スケジュール的に肉体的な負担もあると思いますが、精神的な面での大変さもありますか?
今回の作品では少ないほうだと思いますが、やはり移動は想像以上に疲れるんです。新幹線で行ける場所ならまだいいのですが、乗り継ぎやバス移動が必要な土地もありますし、初めてのホテルで寝て、翌日には本番を迎える。その緊張感と移動の疲れが重なると、体力的にも精神的にも消耗しますね。だからこそ、白石さんは本当にすごいと思います。83歳で全国を巡る体力と、それをやり遂げようとする気迫。圧倒されます。
――確かに、並大抵のことではありませんね。
そうなんです。僕の祖母は白石さんより年下ですが、もう僕の舞台を観に来る体力もないと言うので。2時間座っているだけでも腰が辛い、と。普通はそれが当たり前だと思います。でも白石さんは舞台に立たれる側ですから、本当に信じられないことです。
――中山さんご自身も、多くの舞台経験を重ねる中で、体力や精神面は以前より鍛えられてきたと感じますか?
確かにあります。芝居が楽しいと感じられるようになればなるほど、知識も増え、その分大変さも増えます。最初の頃は知識がなかったので、人に言われたことを繰り返しやるだけでした。同じことを20回、30回と再現できるかが最初の課題で、その時はあまり舞台を面白いと思えなかったんです。同じことをやり続けるのでいずれ飽きが来るし、それでも言い方を変えずに続けなければいけない。
でも経験を重ねていくうちに、それが役者の本質ではないと気づきました。役者に求められるのは、覚えたセリフをそのまま言うことではなく、感情を込めて高い水準を保ち続けること。台詞を覚えて言うことは誰にでもできますが、そこに感情を宿し、一回一回の舞台に全力でのめり込むのがプロの仕事だと思います。そういう意味で、舞台を生き抜くための体力や精神力は少しずつ身についてきたのではないかと感じています。
――最後に、本作を楽しみにしている皆様へメッセージをお願いします。
僕自身の方が、皆さん以上に楽しみにしているくらいです。共演するお三方のパワーを感じて、「人ってすごいな」と思える瞬間がたくさんありますし、生きていること自体にこんなに輝きがあるんだと受け取っていただける舞台になると思います。
物語はアトラクションのようなスピード感で進んでいくので、まるでジェットコースターに一緒に乗り込んでいる感覚になると思います。舞台上でどんなハプニングがあっても、お客様に受け止めていただき、ともに観届けてもらう。そんなふうに、観客と一緒に空気をつくり上げ、一緒に楽しめる作品です。無条件で楽しめる舞台だと自信を持っています。
年齢に関係なく、どんな方にも楽しんでいただけると思います。ご高齢の方にもぜひ足を運んでいただきたいですし、僕より年下の世代の方にも「演劇っていいな」と思ってもらえるはずです。今回はこちらから全国へ伺う公演なので、お近くの劇場でぜひご覧いただけたら嬉しいです。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:野田涼
・ジャケット ¥143,000
・パンツ ¥63,800
ともにNEW ORDER(SianPR)
・靴 ¥29,700/Dr.Martens (Dr.Martens AirWair Japan)
その他スタイリスト私物
※すべて税込価格
お問い合わせ番号
・Sian PR(03-6662-5525)
・Dr.Martens AirWair Japan(0120-66-1460)
公演概要
『大誘拐』~四人で大スペクタクル~
原作:『大誘拐』天藤真(創元推理文庫刊)
上演台本・演出:笹部博司
ステージング:小野寺修二
出演:中山優馬、柴田理恵、風間杜夫、白石加代子
日程・劇場:
<東京公演>
2025年10月10日(金)~10月13日(月・祝)
会場:THEATRE1010
全席指定:9,800円(税込)
一般発売中
【地方公演】
<香川公演>
2025年10月18日(土) レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール
<鳥取公演>
2025年10月19日(日) エースパック未来中心 大ホール
<岡山公演>
2025年10月21日(火) 岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場
<山形公演>
2025年10月25日(土) やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)大ホール
<北海道公演>
2025年11月1日(土) 帯広市民文化ホール 大ホール
2025年11月2日(日) カナモトホール(札幌市民ホール)
<大阪公演>
2025年11月7日(金) サンケイホールブリーゼ
2025年11月8日(土) サンケイホールブリーゼ
<愛知公演>
2025年11月9日(日) 安城市民会館 サルビアホール
<石川公演>
2025年11月11日(火) 金沢市文化ホール
<秋田公演>
2025年11月15日(土) あきた芸術劇場ミルハス 大ホール
<新潟公演>
2025年11月22日(土) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
<長野公演>
2025年11月24日(月・休) 長野市芸術館 メインホール
<神奈川公演>
2025年11月29日(土) KAAT 神奈川芸術劇場 ホール
2025年11月30日(日) KAAT 神奈川芸術劇場 ホール
公式サイト:https://daiyukai.com/
