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木村達成インタビュー『セツアンの善人』 「いい顔だけじゃなく、汚いところも見て欲しい」(前編)

INTERVIEW

2024年10~11月、世田谷パブリックシアター芸術監督・白井晃さんが演出を手がける『セツアンの善人』が上演されます。『セツアンの善人』は白井さんも大きな影響を受けているというドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトの代表作の1つです。

これまで数々のブレヒト作品を演出してきた白井さんが、「善人とは?」「幸福とは?」を問う本作を初演出。さらに本作上演にあたり、ドイツ文学者の酒寄進一さんが新訳を手がけています。

主人公を演じるのは葵わかなさん。葵さんは、「善人探し」をする神様に善人だと認められる貧民街の心優しき娼婦のシェン・テ役と、彼女が作り出した架空の従兄のシュイ・タ役の1人2役に挑みます。彼女が恋に落ちる失業中のパイロット、ヤン・スン役の木村達成さんをはじめ、渡部豪太さんや七瀬なつみさん、あめくみちこさん、小林勝也さん、ラサール石井さんといった豪華キャストが集結。

今回、THEATER GIRLでは、シェン・テが恋に落ちる失業中のパイロット、ヤン・スンを演じる木村達成さんにインタビュー。NHK大河ドラマ「光る君へ」への出演など、舞台だけでなく映像でも活躍する木村さんは、本作が実に1年ぶりの舞台出演となります。インタビュー前編では、「難しい」と思わず唸った本作への印象や、演じる役への思いをお聞きしました。

インタビュー後編はこちら

理解できる範囲のさらにその先にまだ“何か”がある気がする

――まずは本作へのファーストインプレッションを教えてください。

難しいお話だなと思いました。僕の、一度で理解できる範囲を超えていましたね。今もまだ全然理解できていない。ただ、一人二役を演じることになる葵わかなさんはすごいなと。

――大変そうな役ですよね。

本当にそう。1人2役で、この物語を演じ切ると考えるとすごいなと思います。

――以前のインタビューでは「観劇が苦手」と仰っていましたが、これまでブレヒト作品に触れる機会はありましたか?

今回が初めてです。でも、すごく感覚的ですが、ドイツ人劇作家の方の作品って、なんだか日本っぽさがある気がしていて。この作品も、原作を読んでみて、どこか日本っぽい作品だなと思う部分はありました。

――具体的にどんなところに日本っぽさを感じたのでしょう?

なんというか、情景が自分で想像できるんです。今回はセツアンというアジアと思しき街という設定だということもあるかもしれないけれど、そんなに大きくない街でいろんな人たちが細々と働いて、でもお金がなくて……という情景が、どこか遠い外国で起きているものとして想像しなくても、日本人の自分であっても想像しやすかったんですよね。

――神様が善人探しをするという設定も印象的ですよね。

別に僕は神様とかは信じていないんですが、でも神様はいそうだなと思っているんです。

――信じてはいないけど、いてほしい?

そうそう。人間に化けてひょっこり現れて、徳を積んだらいいことがあるとか。信じてはいないですが、そういうものであってほしいなとは思っています。

――では、ストーリー全体の印象はどう捉えていますか。

ストーリー自体は端的というか、わかりやすいです。だけど、なにか潜んでいそうな匂いがする。理解できる範囲のさらにその先にまだ“何か”がある気がしていて、それが肝なんじゃないのかなと思っています。その“何か”は、これから稽古をやっていく中で見つけていくことになると思うんですが、表面から読み取れるものの先に、さらに何か見出せる気がしてならないんですよね。

ヤン・スンは「卑怯なやつだけど人間っぽい」

――ご自身が演じるヤン・スン役についてはいかがでしょう。

卑怯なやつだけど人間っぽいなと思いました。

――失業中のパイロットという役どころですが、この役を演じるにあたって、ご自身にとって挑戦となりそうなことはなんでしょうか。

毎回が挑戦だと思っています。全てやったことのない役ですからね。だから、全部が挑戦だし、集まった人たちがとても興味のある方々なので、その人たちと一緒にお芝居できることが楽しみです。今回の僕の役で深く関わるのは、シェン・テ役の葵わかなさんと、ヤン・スンのお母さん役の七瀬なつみさんかな。舞台の楽しみの一つは、いろんな人とお芝居ができることなんです。

――今、お名前も挙がった葵さんへの印象を教えてください。

もう本当に頑張り屋さん。以前、彼女に「どうやって役作りしているの?」と聞いたことがあるんですが、すごく緻密にいろんなことを考えていらっしゃる。

――木村さんの役作りとはまた違ったアプローチをされている?

僕のスタイルとは全く違いました。僕はすごく客観的にその役を捉えて、「こういう人だったらこんな感じかな」というのをどんどん突き詰めていきますが、ときには逆に、自分のフィルターを通して内側から出てくるものを大切にすることもあります。いずれにしても、最終的には、“木村達成がやった役”になるんです。それとはまた違った葵さんの役の作り方も、僕はすごく魅力的だなと5年前に共演したときに感じました。あと以前、葵さん主演の「パンドラの鐘」を観にいったんです。そのときに、雑念のない素晴らしい声を持っていらっしゃるから、言葉がすっと胸に入ってくるし、説得力もあると改めて感じて。だから、今回のこの役にも合っているんじゃないかなと思いました。

――「セツアンの善人」で葵さんが演じるのは、善人のシェン・テと冷酷なシュイ・タという真逆のキャラクターです。

人間誰しもダークサイドを持っていると思うし、本当は表に出したくない自分がどこかにいるのではないでしょうか。僕が今回演じるヤン・スンという役でも、そういう部分がどんどん出てくるのかなと思っています。

――ご自身の中にあるダークな部分を引っ張りだして……?

引っ張り出すというより、ヤン・スンの場合はさらっとやってのけるという感じなのかな。彼がどこまで本当にシェン・テに恋していたのかもわからないですし。彼女の想いを利用しようとするところが、僕としてはむしろすごく人間らしいと感じた部分ですね。 

取材・文:双海しお
撮影:野村雄治
ヘアメイク:齊藤 沙織
スタイリスト:部坂尚吾(江東衣裳)

ジャケット※セットアップ\218,900(eleventy / eleventy 03-3470-8237)、ニット\49,500、
トラウザーズ\46200(ともにHEUGN / IDEAS 03-6869-4279)、
時計※アンティーク\572,000(OMEGA × Tiffany / PRIVATE EYES 03-3940-0707)

インタビュー後編はこちら

公演概要

『セツアンの善人』

【作】ベルトルト・ブレヒト 【音楽】パウル・デッサウ 【翻訳】酒寄進一
【上演台本・演出】白井晃 【訳詞・音楽監督】国広和毅

【美術】松井るみ 【照明】齋藤茂男 【音響】井上正弘 【衣装】伊藤佐智子
【ヘアメイク】川端富生 【振付・ステージング】山田うん 【演出助手】豊田めぐみ 【舞台監督】田中直明

【宣伝美術】秋澤一彰 【宣伝写真】山崎伸康
【宣伝衣装】伊藤佐智子 【宣伝ヘアメイク】川端富生

【出演】
葵わかな 木村達成 渡部豪太 七瀬なつみ あめくみちこ

栗田桃子 粟野史浩 枝元萌 斉藤悠 小柳友
大場みなみ 小日向春平 佐々木春香

小林勝也 松澤一之 小宮孝泰 ラサール石井

【演奏】
磯部舞子(バイオリン・東京公演) 加藤優美(バイオリン・兵庫公演)
島津由美(チェロ) 熊谷太輔(パーカッション)

【日程】2024 年 10 月 16 日(水)―11 月 4 日(月・休)
【会場】世田谷パブリックシアター

【チケット料金】
一般:S 席(1 階席)9,500 円 A 席(2 階席)8,500 円 B 席(3 階席)5,000 円
高校生以下・U24:各一般料金の半額
※劇場友の会、アーツカード割引あり ※未就学のお子様はご入場いただけません
【チケット一般発売】8 月 25 日(日)

【お問合せ】世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515(10:00~19:00)

【主催】公益財団法人せたがや文化財団 【企画制作】世田谷パブリックシアター
【後援】世田谷区

【世田谷パブリックシアターHP】https://setagaya-pt.jp/
【『セツアンの善人』公演ページ】https://setagaya-pt.jp/stage/16042/

<兵庫公演>
【日程】2024 年 11 月 9 日(土)13:00、11 月 10 日(日)13:00
【会場】兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【主催】兵庫県、兵庫県立芸術文化センター
【お問合せ】芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255(10:00~17:00 月曜休/祝日の場合翌日)

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

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