前川優希の秘めたる熱意「悔しさを感じたからこそ、芝居の面白さに気づいた」【シアダン vol.02】(前編)
THEATER GIRLが注目する“今知りたい若手俳優”へのインタビュー企画「シアダン」。第2回にお招きしたのは、MANKAI STAGE『A3!』皆木 綴役や『最遊記歌劇伝―異聞―』道卓役などを演じている「前川優希(まえかわ・ゆうき)」さん。
7月17日には若手俳優7名による新感覚アーティストグループ「TFG」のメンバーとしても、メジャーデビューをしたばかりの前川さんに、前編では役者としてのルーツや役作りへの向き合い方、シリーズ皆勤賞となっている「エーステ」のエピソードなどをじっくり語っていただきました。読書家らしく、言葉を大事にしながら答えてくれたインタビューです。
器用貧乏な少年が役者を目指したルーツは「カカシ役」
――まずは、俳優の仕事を目指したきっかけについて聞かせてください。
運というか、タイミングでしょうか。中学校では演劇部に入り、高校ではカリキュラムとして演劇を学べる学校に通って、ずっと演劇を勉強していたんですけど。高校3年生の時にお芝居を仕事にするのかしないのか、大学に進学するのかしないのか、進路に迷っていた時期があったんです。
ちょうどその頃にテレビ番組(NHKEテレ『Rの法則』)のレギュラーメンバーのオーディションを受ける機会をいただいて。せっかくだからと挑戦してみたら起用してもらえることになり、「じゃあもう、これをスタートに、芸能を仕事にしてやっていこう」と決めました。そう考えてみると自分は恵まれているなと思いますね。
――チャンスをすかさず掴んで、今の仕事を始められたんですね。演劇に興味をもったのには、何か理由があったのでしょうか?
お芝居が楽しいと思ったのは、小学校6年生の学芸会で「オズの魔法使い」のカカシ役をやったのがきっかけなんです。僕は小さい頃から器用貧乏で、だいたいのことが平均点くらいをさまよってる男なんですけど(笑)、そのカカシ役をやった時に「褒めてもらって嬉しい」「うまくいかなくて悔しかった」っていう思いを同時に実感して。それで「お芝居って面白いかもしれない」って思ったんです。
――ルーツが学芸会とは意外でした。
明確なきっかけっていうとピンとこない感じもあるんですけど、でも確かに、あの時悔しい思いをしなかったら続けていなかったと思います。同じ役を3人で分担してやったんですけど、僕は最後のパートをやらせてもらって。今やっている舞台とちがって本番は一度きりなわけですけど、僕、そのラストシーンでセリフをトチったんですよ。けっこう落ち込んだんですけど不思議と「もうイヤだ」とは思わなかったし、「悔しいな、もうちょっとできたのに。もっとうまくなりたい」って、そういう感情を持ったのは、お芝居が初めてだったんです。 そういう意味では、小さい頃も今も、その気持ちは変わってないんだなぁと思います。どの現場でも悔しい思いはしていますけど、その分だけすてきな時間、満たされた時間も過ごしているので。
役の性格や言動について、思考を積み重ねていく役作り
――では、役作りの上ではどんなことを大切にしていますか?
どんなにクールと言われる人でも怒ったりする時はあるし、人間って状況によってさまざまじゃないですか。だから、その一番分かりやすい部分だけを掘り下げるのではなくて、もっと「(こういう状況では)どう思ってるのかな」って部分を掘り下げていくことが多いです。原作がある作品なら、一通り網羅したり自分も楽しんだりしながら、その役がどういう発言をしているか、どんなことを思った上で言っているのかなどを考えますね。それで「この人はこういう人間なんだな」って理解してから、「こういう状況の時にこの人はどう行動するのか? どういうテンション、どういうニュアンスで人に言葉をかけるのかな?」と考えて、それを積み重ねていくのが僕なりの役作りです。
――役の人物について一度理解してから、自分なりにお芝居に落とし込んでいくんですね。ちなみに、これまで演じてきた役の中で、自分を大きく変えてくれたと感じているのはどの役ですか?
『最遊記歌劇伝―異聞―』の道卓ですかね。僕、演じる役と自分自身がそんなに遠くないことが多いと思うんです。それこそ『A3!』(=MANKAI STAGE『A3!』シリーズ)の皆木 綴は、年齢的にも大学生だし、現実からもあまりかけ離れていない人物像だったりと、僕の中にもある部分をたくさん持っていたので、そこを近付けていくことが多かったんですけど。
いかんせん道卓は、ストイックさや兄貴肌な部分だったりと僕にはないところを多く持っていたので、ないところから掘り下げるというか、身に付けていかなければならないことが多かったんです。それに、過酷で命を懸けたりするような、自分の想像が及ばない状況に身を置いている、そういう人間の振る舞いを想像して体現しようとするのは、なかなか……大変でしたけど面白かったですね。
――前川さんは課題が大きいほど燃えるタイプなのではと感じてきました。
道卓はとても強いという設定なので、お芝居だけじゃなく、見た目の面からも説得力を持たせなくてはという話になって。うちの相方……って言っていいのか分からないですけど(笑)、古谷 大和(※)くんと「1日でも休んだら続かなくなるから」とお互い胸に誓って、稽古初日から欠かさずに筋トレを続けまして。オフの日も家でやったりしていたら、けっこう結果が出たなと思います。まぁ、今はもう落ちてきちゃったんですけど(苦笑)。
(※『最遊記歌劇伝―異聞―』には青藍役、MANKAI STAGE『A3!』には皆木 綴と同じ春組に所属するシトロン役で出演)