板尾創路×松田凌インタビュー　舞台『聖なる怪物』「この世界観の中に自分がいたらとすごく興味が湧いた」（後編）

2023.03.11

INTERVIEW

2023年3月10日（金）より新国立劇場小劇場にて、舞台『聖なる怪物』が上演されます。

作・演出を手掛けるのは、『赤い雪 Red Snow』で長編映画監督デビューし注目を集めた新進気鋭の映画監督・甲斐さやかさん。その初舞台作品となる今作は「信仰心」そして「神の存在」について見るものに問いかけます。ときにホラーともとれるほど、鋭く人間関係を描き出す映画監督としての感性が、演劇という生の空間でどのような世界観を作り上げるのか期待が高まります。

本作のW主演を務めるのは、お笑い芸人として確たる地位を築き近年では映画監督・俳優としても唯一無二の存在感を放つ板尾創路さんと、2012年ミュージカル『薄桜鬼』で舞台初出演にして初主演を務め、以後、舞台・ドラマ・映画など多くの作品での活躍が目覚ましい松田凌さん。

板尾さんは教誨のため刑務所を訪れる山川真之神父役を、松田さんは自らのことを“神”と呼ぶ死刑囚・町月正紀役を演じます。また、石田ひかりさんが、敬虔な信者で行方不明になった娘について相談するため山川を訪ねる里井真知子役を、莉子さんが真知子の娘・舞花役を、朝加真由美さんが認知症を患う夫が問題を起こし、山川に救いを求める女性・加賀谷を演じ、作品世界にさらなる深みを加えていきます。

今回THEATER GIRLは主演の板尾創路さんと松田凌さんにインタビュー。後編では甲斐さやかさん演出の稽古場の雰囲気についてや、作品にちなんだ質問としてご自身の験担ぎやジンクスなどについて語っていただきました！

インタビュー前編はこちら

甲斐さん演出による稽古場は「皆で共に作り上げている感覚」

――脚本・演出を担当される甲斐さやかさんについては、映画監督という映像分野に携わる方だからこその、これまでにない舞台になりそうだとのことでしたが。ここまで稽古場で演出を受けられてみての印象や、稽古でのやりとりなどについて聞かせていただけますか？

松田：甲斐さんご本人が、とても柔和で優しい方なんですよ。本当にこの作品をこの人が書いたのかなって、疑問に感じるくらい（笑）。

板尾：ははは！　演出家さんっぽくないしね（笑）。

松田：そうなんですよね。今回が初演出だからというのもあるのかもしれないですけど、皆で共に作り上げている感覚が強いように思います。今作はセリフの言い方ひとつでも物語の動きが変わってきたりするんですが。だから例えば「このセリフはないほうが物語が進むんじゃないか」とか「このセリフの言い方はこうでいいのか」とか、そういったディスカッションをよくしてくださるんです。

繊細に作っていっているなと感じますし、多分そうでないと、舞台上にどのようにしてこの世界観が生み出されていくのかというところに、アプローチしていけないんだろうなと。板尾さんがおっしゃっていたように「まぁ、こんな感じの形だろう」とドシッとしっかり作ってしまうと、後から全く違うとなりかねないですから。かなり繊細に作っていっていますし、甲斐さんもすごく考えながら一緒に作ってくださっていると感じます。

――甲斐さんご自身による脚本ではあるけれど、あらためて皆さんで一緒に作っていっているような感じなんですね。

松田：補正、というのとも違うかもしれないですけど。やっぱり僕たちが演じるから変わっていく部分もあれば、演出上こうしたほうが面白いとか、小道具をもう少し印象的に使ってみようとかで変化していくところもありますね。もともとの舞台装置自体が面白いなと思いますし。でもちょっと、心配になるんですよ。甲斐さん、ちゃんと寝てらっしゃるかなって（苦笑）。

――板尾さんはいかがですか？

板尾：物静かな方だなと思います。映画監督も普段から当然演出はするわけですけど……まぁ、僕も分かるんですが、俳優さんの気持ちや、どう動きたいかを見せてもらったほうが、こっち（＝演出側）としても演出しやすいところがあるんですよ。人によっても違うとは思いますけど。演出家や監督が、手取り足取り、こうでこうで……とやっていくよりも、（演じる側に）自分の感性で動いてもらうほうがよりリアルな映像が撮れるので。

でもまぁ、舞台はまたちょっと違うとは思うんですけど、甲斐さんなりの映画監督としての役者との向き合い方なんだろうな、これは。という感じに、本当に自由にやらせてもらっているというか、「ここはもっと前に出て、身体の向きはこう！」というような演出ではないので。きっと役者の感情を優先してくれてるんでしょうね。で、僕らは舞台経験もあるし「客席がこっちで、袖があっちで、セットがこうあるから……」というのを多少考えながら稽古しますから、何というか、言われずとも自然に……（笑）。

松田：（笑）。

板尾：ここはこうしたほうがいいかなということをやっていくので、うん。いつもやっている演劇の稽古よりは、松田くんも言ったように、皆で作っている感覚があるんですよ。甲斐さんの良さを尊重しつつ、スタッフも含めて皆が自分たちの技術をもってそれぞれの仕事をやっていく、そういう座組みのような感じがしています。何というか……不思議な稽古で。演劇の稽古というより、ずーっと映像のリハーサルをしているような感じがしますね。

松田：あぁ、そうですね。

板尾：甲斐さん、すごく意見を聞いてくださるし。「こう思うんですけど、どうですか？」「そうですね、じゃあそれでやってみてください」と、すごく柔軟で。そういった感じでやっています。

松田凌が縛られて生きるほど信じているものとは？

――今作の重要な要素であるところの“信仰心”にちなみまして、おふたりには信頼しているものや、ジンクス、験担ぎのようなものはありますか？

板尾：験担ぎ……何かあるぞ。そうですねぇ……（しばらく考える）。一月、二月はろくなことがないので、あんまり変わったことはしない、ですかね。あはは。

――傾向として、その時期にはあまりいいことがないんですね（笑）。

板尾：まぁ、僕の勝手なあれなんですけどね。静かに、淡々と過ごすといった感じです。松田くんはきっとありますよ、ジンクス。

松田：僕、すっごく自分ルールみたいなものに縛られて生きてて。なんか、そういう病気があるんですって。なんだっけ、強迫性の……。

板尾：あぁ、あるね。

松田：自分のルールからはみ出しちゃうと……っていう。まぁ、僕はそこまでではないんですけど。多分僕、数字に捉われ過ぎてるんです。9とか奇数が好きなので、例えばドアの鍵が閉まってるかなってチェックしたりする時にも、9回くらいこう、ガチャガチャやりますし。コンビニに行ったら、募金箱に入れるのは11円だし。そういうのを信じちゃって、縛られて生きてるんです（笑）。

――なるほど。

板尾：奇数に縛られちゃってるんだ（笑）。

松田：そうなんですよ（笑）。あとは、これをする時には左手で、みたいなのもあります。

――靴はどっちから履く、とかもですか？

松田：靴は意外とないんですよ、あはは。でもなんか、これは左でっていうのがあって。そこが崩れたからどうなるっていうことはないんですけど。それから、舞台の本番前には亡くなった祖父にこうやって手を合わせてから行くっていうのもあります。信仰しているものがありすぎて、苦しく生きてます（笑）。

――では最後に、読者の方へ向けた、観劇へのお誘いのメッセージをお願いします。

板尾：松田凌と私、板尾創路の組み合わせっていうのは初めてなんですけども。あまりないレアな感じがするので、その感じを楽しんでいただけたら（笑）。多分、松田くんファンの人は、普段彼が見せないような顔が見られると思います。それを僕が引き出しますので。もう、今回しかないです。僕しかできない松田凌の魅力を引き出しますので、ぜひ3回観に来てください。

松田：ふふふ、ありがとうございます。そんなもったいなお言葉をいただいて。板尾さんと真ん中を張れるっていうのは、自分にとっても人生の財産となるものだと思いますし。板尾さんからおっしゃっていただいたように、自分も……まぁ、もちろんみなさんよくご存知だとは思うんですけど、板尾さんの知らないお顔を自分が引き出せるように……（笑）。

板尾：せやな（笑）。

松田：頑張りたいと思います！　なので、今、板尾さんは3回とありましたが、５回にさせてください。5回観に来るくらい、本当に面白い……かと言われると皆さまの感じ方次第になるとは思うんですけど。甲斐さん初演出作品、観たことのない舞台になると思うので、ぜひ、劇場に来てください。よろしくお願いします！