小関裕太×太田基裕インタビュー KOKAMI@network vol.21『サヨナラソングー帰ってきた鶴ー』「生きることの捉え方を改めて教えてくれる作品」(後編)
2025年8月31日(日)より東京・紀伊國屋ホール、9月27日より大阪・サンケイホールブリーゼにて、『サヨナラソング ー帰ってきた鶴ー』が上演されます。
本作は、「生きのびること」テーマとして、日本の民話「鶴女房」のその後の世界と、ある家族を中心とした現実の世界が交錯しながら展開されていくオリジナル新作。物語はある売れない作家が残した遺書のような小説から始まり、2つの世界が複雑に絡み合い、重なりながら、それぞれの結論へと進展していく。作・演出を鴻上尚史さんが手掛けるオリジナルストーリーです。
現代では宮瀬陽一、物語世界で与吉を演じるのは、繊細な演技力で舞台・ドラマ・映画などジャンルを問わずに活躍している小関裕太さん。
現代では篠川小都、物語世界でおつうを演じるのは臼田あさ美さん。現代では相馬和彦、物語世界で馬彦を演じるのは太田基裕さん、現代では結城慎吾、物語世界で吾作を演じるのは安西慎太郎さんと、人気と実力を備えたキャストが集結しました。
THEATER GIRLは、小関裕太さんと太田基裕さんにインタビュー。後編では、役作りで意識していることや大事にしていること、「生き延びること」がテーマの本作を通して感じた“生きること”への新たな気づきなどをお聞きしました。
自然と対比が生まれると感じている
――今回のご自身の役作りで、意識していることや大事にしていることはありますか。
小関:2役を演じることで、自然と対比が生まれるのかなと。あえてはっきり演じ分けようとはしていませんが、その違いを楽しみたいと思います。
与吉は、おつうとの関係の中で好奇心が強くなり、欲深さを持ってしまった人物です。うっかり彼女を一度失い、その経験を経て、もともと持っていた愛情がより深まりました。根本的には少しおっちょこちょいで爪が甘い部分もあり、その性格は鶴が帰ってきた後も変わりません。そうしたチャーミングさと愛情の深さが彼のキャラクターだと感じています。
「本当におバカだな」と思う部分も、おつうが「それほど私のことを愛しているんだから」と許してしまう。その様子がくすっと笑えるように、鴻上さんが脚本の中で描かれていると稽古を通して感じているので、そこが大きなポイントだと思います。
一方、現代の宮瀬は純文学を描くことにこだわる人物です。「誰かに理解されなくても関係ない、自分はこれを書きたい」という人生を歩んできて。プライドが強く、妻はもともと宮瀬のファンで、その才能に惹かれて結婚しています。しかし結果的に妻の方が小説家として売れ、生計も妻の収入で成り立っている。妻としては宮瀬が創作に没頭できる環境を整えようとしますが、それが逆に彼にとってはぬるま湯のような居心地のよさになり、殻を破れないまま苦悩を抱えてしまったのではないかと感じます。
また宮瀬は「妻を愛している」というよりも、「自分を愛してくれている妻」を愛している部分があるように思います。常に自分の作品に目を向けていて、子どもを見ているようで実は作品の題材を探しているようにも見える。そうした人間像の違いが、この2役の対比として浮かび上がってくると感じています。

――太田さんは自身の役柄についてはいかがでしょうか?
太田:まだ見えない部分が多く、「こうだ」と断言するのは難しいのですが、鴻上さんとお話しした際に、馬彦は「いわゆる資本主義的な人間」ということをおっしゃっていて。社会をうまく回すためには、理想と現実の間でどうバランスを取るかが大切だと。そこに“馬彦”という1人の人間としての欲望が絡んでくることで、さらに複雑になっていく。その欲望をどう捌いていくのかが、村の存続を含めて彼の課題なのかなと感じています。
それは人を使うこともあれば、お金やおつうが織る布といった資源を扱いながら村を回していくこともあります。馬彦なりに答えを探そうとしているのですが、人間である以上、どうしても自分の欲も混じってしまい、少し歪んでしまう部分もある。そうした複雑な要素が絡み合った人物だと思います。
馬彦は、それぞれの関係性によって変化していくキャラクターなのかなと。社会の中で生きる難しさや、どこか中間管理職のような立ち位置もある。村長や長老、村人たちと関わりながら、どちらとも上手くやりつつ、この村をどう存続させるかを常に考えている人物なのかなと思います。

夏の終わりに思い浮かぶこととは……!?
――本作は夏の終わりから秋にかけて上演されますが、“夏の終わり”といえば何が思い浮かびますか?
太田:夏の終わりというと、「もう今年も終わるな」という実感がわいてきます。夏が過ぎるとすぐに冬が来て、年越しの準備も始まる感覚があるので、「1年って早いな」と感じますね。
小関:僕は夏の終わりから秋にかけて、カツオがどんどん美味しくなっていくな、と思います(笑)。この時期は特に好きな季節ですね。

――本作は「生き延びること」がテーマですが、作品を通して感じた生きることへの新たな気づきや、改めて“生きている”と感じる瞬間について教えてください。
太田:作品の中では、可能性の幅やさまざまな選択肢が描かれています。それを改めて考えるだけでも、生きる希望が生まれると感じるのかなと。自分を追い込みすぎず、楽な居場所を見つけて大切にすることが、生きることへの希望につながるのではと思います。
日常の中で「生きている」と実感する瞬間は、力を抜いたときにふと訪れることが多いですね。空の青さに目を向けたり、何気ない瞬間のありがたさに気づいたりしたときに、「ああ、生きているな」と実感します。そうした力が抜けたときに、改めて生を感じられるのかもしれません。
小関:実際には、この作品を観ていただいて感じ取ってほしい部分が大きいのですが、日常には楽しいことも苦しいことも常にあって、たくさんの矛盾をはらんでいると思います。その波の大きさは人によって違いますし、苦しさが続くことも少なくありません。けれど、この作品は前向きになれる気づきや考え方を与えてくれる。生きることの捉え方を、改めて教えてくれる作品だと感じています。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:梁瀬玉実
【小関裕太】
ヘアメイク:堀川知佳
スタイリスト:吉本知嗣
ジャケット¥ 参考商品、
パンツ¥ 参考商品/ともにSALMAN(PLAYMONKEY/info@playmonkey.inc)
カットソー¥28,600(税込)/ULTERIOR(ELIGHT Inc. 03-6712-7034)
他スタイリスト私物
【太田基裕】
ヘアメイク:車谷結
スタイリスト:小島竜太
『サヨナラソングー帰ってきた鶴ー』初日前会見レポートはこちら
公演概要

KOKAMI@network vol.21『サヨナラソングー帰ってきた鶴ー』
【作・演出】鴻上尚史
【出演】
小関裕太 臼田あさ美
太田基裕 安西慎太郎
三田一颯/中込佑玖(Wキャスト)
渡辺芳博 溝畑 藍 掛 裕登 都築亮介
<東京公演>
【日程】2025年8月31日(日)〜9月21日(日)
【会場】紀伊國屋ホール
<大阪公演>
【日程】2025年9月27日(土)〜9月28日(日)
【会場】サンケイホールブリーゼ
【チケット料金(東京・大阪共通)】9,800円(全席指定/税込/前売・当日共通)
☆U-25チケット:4,800円(当日引換券/税込)
※25才以下のお客様を対象とした枚数限定チケットです。公演当日劇場受付にて、引換券と身分証明書を提示の上、座席指定チケットを受渡し。
【制作協力】ニューフェイズ
【企画・製作・主催】サードステージ
【公式HP】https://www.thirdstage.com/knet/sayonarasong/
【オフィシャルX(旧Twitter)】@sayonarasong
