伊東蒼インタビュー 『愛の乞食』「舞台に振り回されながら、いろいろな感情を味わっていただけたら」(前編)
2025年8月31日(日)より東京・世田谷パブリックシアターを皮切りに、Bunkamura Production 2025『アリババ』『愛の乞食』が上演されます。
唐十郎氏の初期作品『アリババ』、『愛の乞食』の二作品。唐氏が旗揚げした劇団「状況劇場」によって1966年に『アリババ』が、1970年に『愛の乞食』が初演されました。現実と幻想、現在と過去が溶け合うそれぞれの物語は、叙情的に紡がれる言葉の数々で、人々の中に眠る普遍的なロマンを呼び起こします。通い慣れた街、見慣れた景色が唐氏のフィルターを通して掘り起こされ、現代に生きる人々に活力と希望を与える作品として甦ります。
演出を務めるのは、新宿梁山泊主宰の金守珍さん。6月に新宿梁山泊主催のテント公演でも同演目が上演されましたが、今作では唐氏の初期作品二作が初の全編“関西弁”で連続上演されます。
主演を務めるのはSUPER EIGHTの安田章大さん。共演には、壮一帆さん、伊東蒼さん、彦摩呂さん、福田転球さん、金守珍さん、温水洋一さん、伊原剛志さん、風間杜夫さんと、美しさと猥雑さが混在する唐ワールドを体現するに相応しい個性豊かな俳優陣が揃いました。
THEATER GIRLは、『愛の乞食』に出演する伊東蒼さんにインタビュー。前編では、本作に出演が決まった時のお気持ちや役柄への取り組み、主演の安田章大さんをはじめとしたカンパニーの雰囲気などをうかがいました。
「飛ぶぞ」という気持ちを高めてから臨むようにしている
――『愛の乞食』への出演が決まったときのお気持ちはいかがでしたか。
率直に、とても楽しみだなと思いました。お話をいただいてすぐに作品について調べたのですが、『アリババ』『愛の乞食』というタイトルを検索したところ、古田新太さんが過去に出演された際のポスターは見つかったものの、それ以外の情報があまり見つからなくて。どのようなお話なのだろうと、ワクワクしながら台本をいただくのを心待ちにしていたことを覚えています。
――演じられる万寿シャゲ役について、印象や取り組むうえで意識されていることはありますか?
万寿シャゲは、とにかくエネルギッシュでよく動く子なので、稽古前にはストレッチをするだけでなく、少し体を動かして「飛ぶぞ」という気持ちを高めてから臨むようにしています。
また、自分が心から楽しんで演じなければ、なかなか役に入りきれないところもあって。演出の金(守珍)さんからも「まずは楽しんで」とお声をかけていただいているので、頭を柔らかくしてその場で起こることを受け止め、面白いと思ったことには素直に反応することを大切にしています。
――楽しむことを第一に考えて臨まれているのですね。
はい。自分自身が楽しむことを最優先に、日々取り組んでいます。
――今回は関西弁でのセリフも特徴的ですが、その点で意識されていることはありますか?
私は普段、少しゆっくりと喋ることが多くて。関西弁を話すときにも語尾を伸ばしてしまいがちで、「何してるん?」とついゆったりしたテンポになってしまうんです。それも関西弁らしい可愛らしさのひとつではあるのですが、金さんが大切にされている“スピード感”を意識して、もう少しテンポよく話したほうが良いなと感じました。
実際、共演者の皆さんのテンポの良さを見たときに、そのスピード感がとても格好良くて、自分も近づきたいと思いました。今は、語尾を伸ばさずに自然にニュアンスを出すにはどうすればよいのか、試行錯誤を重ねています。
その包容力や人柄にすごく助けられている
――主演の安田章大さんをはじめ、カンパニーの方々の雰囲気や印象はいかがでしょうか。
本当に、笑い声があちこちから絶えず聞こえてくるんです。常に明るく、舞台上で起きることに対して、出番前の私たちや見学している人たちも自由に反応していいんだ、と思わせてくれるような空気があります。
とても温かい雰囲気で。その輪の中に自然と迎え入れていただける感覚があるので、稽古場がとても楽しいです。
――とても温かく、居心地のいい空気なのですね。先輩の方々も多い座組ですが、稽古をご一緒していて刺激を受ける瞬間はありますか?
本当に毎日が刺激の連続です。たとえば、私がうまくいかなかったとしても、安田さんが必ず面白くしてくださるんです。本来は自分一人で成立させられることが理想なのですが、安田さんが「思ったことは思った通りにやってみていい」と言ってくださるので、挑戦してみよう、やってみようと思えます。その包容力や人柄にすごく助けられているなと感じますし、安心して思い切り稽古できています。
――座長として、とても大きな存在ですね。
そうですね。本当に心強いです。
――今回、稽古を通して得る学びも多いのではないでしょうか。
舞台は、共演者の皆さんと同じ空間で芝居をつくり上げていくものなので、目の前で起きていることを自分の演技にも生かしています。その場で感じた気持ちを大事にして芝居に反映させると、また新しい発見があったりするので。私は、頭で知識を詰め込むよりも、見たり聞いたり、実際に体験したことを自分に落とし込むタイプなので、稽古の現場で学べることは本当に多いです。
――まさに「現場で学ぶ」というタイプなのですね。今回唐十郎さんの世界観をどのように受け止めて演じようと考えていますか?
台本を最初に読んだときは、一度で全てを理解するのは難しかったんです。でも何度も読み返したり、皆さんのお芝居を見たりするうちに、「このセリフはこういう意味だったんだ」と腑に落ちていく瞬間がありました。
コメディ要素が強くて思わず笑ってしまうシーンが続く中で、ふと「あれ、この言葉は笑いのまま流してはいけない大事なものかもしれない」と気づく場面もあるんです。そういう“笑いの中に潜む刺”のような部分が、唐十郎さんの作品の世界観だと私は感じています。
『アリババ』を観ていると、安田さんや風間(杜夫)さん、壮(一帆)さんが、その「逃してはいけない一言」をきちんと届けるお芝居をされていて、「こういう空気の変化を自分もつくりたい」と思いました。自分のシーンでも、大切な言葉を決して取りこぼさないよう意識しようと。そうしないと、この作品の核心や魅力をお客様に届けられないと思うので、そこはしっかり大切に取り組んでいます。
経験したことのない感覚ばかりで楽しい
――金守珍さんの演出を実際に受けられた印象はいかがでしょうか。
一幕の稽古を最初の段階で一気に通したのですが、とにかく「止まらないで動く」ということを常に言われました。私は頭で考えるよりも、実際に体を動かしてみたり試してみる方が合っているタイプなのだと改めて気づきました。 金さんが「動いてみて」と常に促してくださったことが、自分にとってとても大きかったです。そのおかげで、万寿シャゲやこの作品に対して頭でっかちにならずに向き合えたと思います。「考えなきゃ」「作らなきゃ」と思いすぎずに済んだのは、金さんが体を使うことを大事にしてくださったからだと感じています。
――今までの舞台経験の中でも、新しい感覚がありましたか?
今回の役は、舞台でも映像でも今まで演じたことのないキャラクターです。唐さんの描かれる人物像は他に似ているものがなく、本当に初めて挑む役どころなので、すべてが新鮮です。経験したことのない感覚ばかりで、とても楽しく演じています。
――新しい伊東さんの姿を見られる作品になりそうですね。映像作品へも多数出演されていますが、舞台ならではの面白さや新鮮さはどんなところに感じていますか?
映像は撮影直前にテストがあって、その時点で「これが正解かな」と思うものを形にして挑むイメージです。でも舞台のお稽古では、正解を持っていくというよりかは「これは違うかもしれない」「この役は別の表情を持っているかもしれない」とヒントを見つけていく感覚です。そうした発見をできるだけ重ねたいと思っています。
また映像はシーンごとに繰り返し撮りますが、舞台は冒頭から最後までを一連で演じられます。同じ役であっても「今日はこういう気持ちになるんだ」「こういう方向にも変わっていくんだ」と日々新鮮な発見があるので、それが舞台ならではの面白さだと感じますね。
――一連で演じるからこそ、毎回新しい発見があるのですね。
はい。役と最初から最後までずっと一緒にいられる機会はなかなかないので、とてもうれしくて幸せだと思いながら演じています。
取材・文:THEATER GIRL編集部
公演概要

Bunkamura Production 2025
『アリババ』『愛の乞食』
作: 唐十郎
脚色・演出: 金守珍
出演:
安田章大 壮一帆 伊東蒼 彦摩呂 福田転球 金守珍 温水洋一 伊原剛志 風間杜夫 ほか
企画・製作: Bunkamura
【東京公演】
2025年8月31日(日)~9月21日(日)
世田谷パブリックシアター
【福岡公演】
2025年9月27日(土)17:00/28日(日)13:00
J:COM北九州芸術劇場 大ホール
【大阪公演】
2025年10月5日(日)~13日(月祝)
森ノ宮ピロティホール
【愛知公演】
2025年10月18日(土)13:00、18:00/19日(日)13:00
東海市芸術劇場 大ホール
※出演者について
伊東蒼、伊原剛志は『愛の乞食』のみの出演となります。
風間杜夫は東京公演・福岡公演の『アリババ』のみの出演となります。
公式HP https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/aino-alibaba2025.html
