吉柳咲良インタビュー 『リンス・リピート』「この時代だからこそフォーカスを当ててもらえた作品」(後編)

2025年4月17日(木)より東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて、5月10日(土)より京都劇場にて、舞台『リンス・リピート ―そして、再び繰り返す―』が上演されます。
2019年に現代に潜む家族問題を扱ってオフ・ブロードウェイの話題をさらった、舞台『リンス・リピート ―そして、再び繰り返す―』。娘・レイチェルが摂食障害を患ったことで浮彫になる、家族のすれ違いと苦悩を描いた本作を、日本初上演。演出は第30回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞した注目の若手演出家・稲葉賀恵氏が手がけます。
移民ながら弁護士としてのキャリアを築き、仕事と家庭のはざまで葛藤する母親・ジョーンを演じるのは、映像・舞台で刺激的な芝居で世界中を魅了してきた寺島しのぶさん。摂食障害を患いながらも愛する家族と生きようとする娘・レイチェルをミュージカル『ピーター・パン』『ロミオ&ジュリエット』やドラマ「ブギウギ」「光る君へ」「御上先生」など話題作に出演し、注目を浴びている吉柳咲良さんが演じます。
息子・ブロディに多数の注目舞台や映像作品に出演し、これから更なる活躍が期待される富本惣昭さん、レイチェルのセラピストであるブレンダを文学座に所属し舞台経験豊富な名越志保さんが演じ、優しさと不器用さを持ち合わせる父・ピーターにテレビやラジオ、映像・舞台、エッセイ、イラストなど多才に活動する松尾貴史さんを迎えます。
THEATER GIRLは、レイチェル役の吉柳咲良さんにインタビュー。後編では、初共演となる寺島しのぶさんの印象や舞台の魅力、初舞台から様々な作品を経て成長を感じていることなど、たっぷりとうかがいました。
その関係値を崩さずにいけたら
――ビジュアル撮影の時にお会いされたとのことですが、母親役の寺島しのぶさんの印象はいかがでしょうか。共演するにあたって楽しみにされていることはありますか?
寺島さんに初めてご挨拶させていただいた時はすごく緊張したのですが、その関係値は崩さずにいけたらいいなと思っています。母と娘といえど、この作品はどこか緊張感があると思っているので。レイチェルも母親には言えないことがあったり、母親も人には言えない悩みを抱えているタイプだと思うので、その関係値は崩さないままお芝居ができたらいいのかなと思っています。
でも、やっぱり大先輩で尊敬する方なので、臆せずに安心して身を委ねたいなと思います。悩んだり分からなかったりするところがあったら、たくさん相談したいです。

この文化だけは一生なくならないでほしい
――近年ではTBS系日曜劇場『御上先生』への出演など、数多くの映像作品への出演から、歌手活動、実写映画『白雪姫』プレミアム吹替版の声優など、多彩な活動をされている印象ですが、ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』で初舞台を踏まれてから様々な作品に出演されてきて、舞台のどんなところに魅力を感じていますか?
やっぱり「生のパワーってすごい」と舞台を観ると思います。私たち演者も生で伝えなければいけないからこそエネルギーをすごく使いますが、お客さまの視線や気持ちがダイレクトに伝わる関係性が客席と舞台上であるからこそ、そこから得られるものがありますね。
映像作品の時はSNSで反響を見たりするのですが、舞台はその空間を一緒に共有しているので他人事として捉えられないというか。ダイレクトに受け止めてくださる方たちがいるからこそ、私たちも「届けたい」という気持ちが増します。
同じ空間で感情をたくさんの方が共有して、いろんな考えや思いが劇場には現れると思っていて。私は舞台を観に行った帰り道に、舞台の感想や考察をしている声を聞きながら帰るのですが、いつも「これこれ!」と思います。私たちは毎回こういうものを求めているし、皆さんが演劇に足を運んでくださることは、本当に光栄で幸せなことだと思うので、この文化だけは一生なくならないでほしいです。

――ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』で初舞台を踏まれてから様々な作品への出演を重ねられて、昔よりも成長したと感じることはありますか?
人一倍涙もろくなりました。でも、作品への解釈を深める度合いは昔よりも上がったのかなと思います。どんな役をやっていてもある程度自分の頭の中の感覚でできてしまっていた時期があって、言語化ができなくてもそこに違和感を覚えることがなかったんです。
でも、高校生の時に一度つまずいてしまって。少し「側」の芝居をし始めたというか、芝居が自分のエゴになってきているのではと思った時があったんです。身に付けたテクニックでどうにかしてしまうところがあったのかもしれません。
しかし、本来お芝居はすごく奥深くて、テクニックでごまかせるものではないと思っています。
もちろんミュージカルも喉のために温存しなければいけない時もありますが、根本としてお芝居に気持ちが通っていないとダメだと思うので、そこだけは大切にしたいと思っています。

――出演を重ねるごとに、作品への解釈がどんどん深まっているんですね。
どうしても毎公演同じことをやっていると体が慣れていって新鮮味がなくなっていくと思うのですが、そういった感覚が自分にあまりないのが、私の強みだと思っています。
私、10回飛行機を見ても初めて見た時と同じくらい喜べるんです(笑)。それくらい大きく感情が動くタイプだと思うので。でもやっぱり「この子はどんな食べ物が好きなんだろう」とか、細かいところからその人物を形成して言語化ができるようになったことはすごく大きな成長だったと思います。

――では、最後に本作を楽しみにされている皆様にメッセージをお願いします。
この時代だからこそフォーカスを当ててもらえた作品だと思うし、私としてももっと早く観たかったと思う作品でした。遠くにあるように見えて、実は隣り合わせにあるような、誰もが感じたことのある気持ちがたくさん散りばめられています。
そして、誰に共感するのかも人によって違うと思いますし、改めて人と人とが関わることの難しさや苦しさ、さらにそれを乗り越えられると感じていただける舞台でもあると思います。
改めて自分自身や相手について考えるきっかけになると思うので、他人事とは思わず、隣にいた子が思ってきた世界だと思って、受け止めていただけたらうれしいです。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:野村雄治
ヘアメイク:折原 絵理
スタイリスト:Kaz Nagai
公演概要
舞台『リンス・リピート ―そして、再び繰り返す―』
<東京公演>
期間:2025年4月17日(木)~5月6日(火・祝)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
<京都公演>
期間:2025年5月10日(土)~11日(日)
会場:京都劇場
<キャスト>
ジョーン:寺島しのぶ
レイチェル:吉柳咲良
ブロディ:富本惣昭
ブレンダ:名越志保
ピーター:松尾貴史
<スタッフ>
脚本:ドミニカ・フェロー
翻訳:浦辺千鶴
演出:稲葉賀恵
美術・衣裳:山本貴愛
照明:横原由祐
音響:星野大輔
ヘアメイク:高村マドカ
音楽:西井夕紀子
演出助手:城田美樹
舞台監督:大刀佑介
主催・企画制作:ホリプロ