『阿呆浪士』出演 宮崎秋人さん特別インタビュー
『阿呆浪士』は、喜劇作家・鈴木聡さんの代表作。1994年に劇団「ラッパ屋」の公演で好評を博し、98年の再演では三味線の名手としても知られる浪曲師・国本武春さんを迎えて大きな話題となりました。
1月から、その名作がパルコ・プロデュースとして、新国立劇場 中劇場の公演を皮切りに約20年ぶりに上演されます。演出は、読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞した実績も持つラサール石井さん。極上のエンターテインメント時代劇に期待が膨らみます。
稽古真っ只中の12月中旬。THEATER GIRL編集部は、主人公・八の友人スカピン役を務める「宮崎秋人(みやざき・しゅうと)」さんにインタビューを敢行。今回の上演にあたっての役の見どころや作品の魅力、パーソナルな部分まで、じっくりと語っていただきました。
『阿呆浪士』
時は元禄。
とある長屋に住む魚屋の八(はち)は、ある日ひょんな取り違いから赤穂浪士の血判状を手にしてしまう。お調子者の八は、長屋小町のお直の気を引きたい一心で、自分が本物の赤穂浪士だ、と嘘をついてしまう。
一方、大石内蔵助は、風車売りに身をやつし、飄々と暮らしている。大石内蔵助の娘・すずは、いつまでも討ち入りを決行しない父に業を煮やして赤穂から江戸に乗りこんで来る。すずは、お調子者の八を利用し、集まってきたニセモノの赤穂浪士たちと討ち入りを決行しようとするが・・・。
赤穂浪士は赤穂の殿様に忠臣したが、阿呆浪士は阿呆の神様に忠臣する。
武士道でもない、意地でもない。
ノリよく、楽しく、正直に、あっぱれ散った、花の元禄。
乞御期待、『阿呆浪士』。
「阿呆」って言葉が最後は格好よく聞こえてくる作品
――赤穂浪士は時代劇のクラシックとして何度もドラマや映画になっています。本作は赤穂浪士のドラマをベースにした喜劇となっていますが、出演が決まったときの率直なお気持ちを教えてください。
自分は今まで赤穂浪士の物語に触れてこずに生きてきたんです。ただ、出演が決まったと同時に台本をもらってすぐ読んだんですけど、ぜんぜん前知識がなくても素直に好きになれる作品だなって。
もちろん後から調べたり、知っている方からお話を伺ったりとかして、もっと好きになっていきましたけど。すごく景気のよい作品だし、年明けにはぴったりな舞台になるんじゃないかと思いました。
――今回のお話が来る前は、赤穂浪士にどんなイメージを持たれていましたか?
自分のところの大将の仇を討つ。実行したら切腹する覚悟で、男の義理を通すぐらいのイメージです。共演する松村(武)さんが赤穂浪士にすごく詳しくて、お会いしてからたくさん興味深いお話を伺いました。本当に浪士たち一人ひとりにそれぞれのドラマがあって、なんだったら討ち入りするぞって言ってたのに逃げちゃうヤツとかもいたりして(笑)。
四十七士とか言いますけど、47人が全員一色なわけじゃないんだと。今回の阿呆浪士も全員討ち入りには行ったりしますけど、それぞれ本当にぜんぜん違うドラマがありますし。鈴木(聡)さんの台本って、タイトルをもじってるだけじゃなくて、「これ、実際にあったんじゃないか?」っていうくらいリアルなんですよ。史実とフィクションが絶妙に入り混じった素敵な作品だなって思いました。
――台本を拝見させていただきましたが、喜劇だからこそ落語の人情話のような格好よさも感じました。
「阿呆」って言葉が最後はすごく格好よく聞こえてくるんですよね。タイトルだけだと「おバカなヤツがいっぱい出てくるんだろうな」って……まぁいろんな意味でおバカな人たちではあるんですけど(苦笑)。それがだんだんと愛くるしくも見えてくるし、なんだったら格好よく見えてきてしまう。そういう魅力がありますね。
しかも、一人ひとりの動機とか裏づけがしっかり描かれていて、全員ちゃんと着地している。ここまでの人数をきれいにまとめるのって本当に難しいことだと思うんですよ。やっぱり脚本が素晴らしいんでしょうね。
目指すのは「二.五枚目」。共演者の誰よりも汗を掻きたい
――3度目の上演となる今回は、 青春物語の側面にもスポットが当てられているそうですね。20~30代の出演者が中心で、活気のある稽古が想像されます。
初日から演出のラサール(石井)さんが「みんなのことを覚えるためにもゲームしよう」と言ってくださって、ちょっとしたワークショップみたいなことをやったんです。そのおかげで、うかがい合う時間みたいなものがなくて、すぐに共演者のみなさんと打ち解けられましたね。トップギアでお芝居に入れたというか。
ぼくはキャリア的にもセリフを覚えて行って当然だし、なんならちょっと「みんなにプレッシャーかけてやろう」って思いもあったんですけど、最初から誰ひとり台本を持つこともなくて。松村さんとかは、けっこう序盤から長いセリフがあるんですよ。それを台本も見ずに、ものすごい勢いでやられていて。その瞬間、全員が「あ、この現場は台本持てねぇな」って思ったんじゃないですかね(笑)。
「今日は代役でやります」ってときもあるんですけど、その代役の方すら完璧に覚えて台本持たずにやってたりして。他人の役をやってるのにちゃんと笑いをとりにいく感じとか、みなさん気合いの入れ方がすごいなと思いますね。
――それは刺激的な環境ですね。稽古場以外でのコミュニケーションもあるのでしょうか?
稽古が終わってから、けっこうみんなでご飯に行ったりしてますね。ぼくがおかやま(はじめ)さんや松村さんに「行きましょう」って毎日のように誘って。今まであんまり自分から誘ったりしたことがなかったんですけど、今回の現場は役どころもあるし、いろんなトコにグイグイいくのはぼくかなと。たぶん友だちが今の自分を見たらビックリすると思います。普段は、人に連絡とかしないですから(笑)。
――今の環境だからこその行動だと(笑)。本作で宮崎さんは、主人公の友人で浪人のスカピン役で出演されます。役づくりをされているなかで「ここを見て欲しい」というポイントがあれば聞かせてください。
おかやまさんとも話をしていて、意識しているのは「二枚目にならない」ってことですかね。後半になると、けっこう胸打たれるようなことを言ったりするから格好よく見えるんです。だからこそ、「二.五枚目」にとどめろってよく言われます。そのあたりは本番でも意識したいなと。
たぶん三枚目に徹し過ぎると、それを受け取る側が受け止めきれないと思うので。ちゃんとセリフを伝えながら、不器用であり続けるというか……「格好よくなってないかな?」って自分のことを疑いながらやってはいます。あとは、「誰よりも汗を掻く!」って思いながらやっていますね(笑)。松村さんとかもすごい熱量で稽古されているし、自分も負けないくらいやろうっていう。