ケラリーノ・サンドロヴィッチ×緒川たまき×古田新太インタビュー 『ベイジルタウンの女神』「この作品は“ファンタジー”」

2025年5月6日より世田谷パブリックシアターにて、ケムリ研究室no.4 『ベイジルタウンの女神』 が上演されます。
劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏と緒川たまきさんが2020年に始動した演劇ユニット「ケムリ研究室」。第一弾『ベイジルタウンの女神』(2020年)、第二弾『砂の女』(2021年/原作:安部公房)、第三弾『眠くなっちゃった』(2023年)とコンスタントに活動を続けている「ケムリ研究室」が、第四弾公演として『ベイジルタウンの女神』を再演。2020 年初演時コロナ禍の閉塞感を吹き飛ばした、誰にでも楽しめるロマンティック・コメディが よりパワーアップして帰ってきます。
出演には緒川たまきさんの他、シリアスからコメディまで縦横無尽に行き交う劇団☆新感線の看板俳優・古田新太さんがベイジルタウンに住む乞食“王様”を新たに演じます。また坂東龍汰さん、藤間爽子さんら確かな演技力で注目を集めるフレッシュな顔ぶれが参加。さらに小園茉奈さん、後東ようこさん、依田朋子さん、中上サツキさん、秋元龍太朗さんが新たに出演。初演から続投の水野美紀さん、山内圭哉さん、斉藤悠さん、尾方宣久さん、菅原永二さん、植本純米さん、温水洋一さん、犬山イヌコさん、高田聖子さんとともに名実共に強力なキャストが集結しました。
THEATER GIRLは、「ケムリ研究室」のケラリーノ・サンドロヴィッチさんと緒川たまきさん、再演から本作へ出演される古田新太さんにインタビュー。再演へ向けての思いや出演オファーを受けたときの心境について語っていただきました。
もう一度じっくり作りたい
――なぜ今回「ケムリ研究室」として、この作品を再演しようと思われたのでしょうか。
KERA:再演をする時って必ず、「なぜ今この作品なのか」と聞かれるのですが、実はそんな明確な意図はないんです。ただ一つあるのは、初演時は2020年だったので、まさにコロナ元年と言ってもいい年で、僕がその年企画していた4本の中で唯一上演できたのがこの作品でした。コロナ禍で制限がありお客さんを半分しか入れることができなかったので、見逃してしまった方も多かっただろうなと。バタバタしながら作ったこともあったので、もう一度じっくり作りたいという思いもありました。

緒川:そもそも、「ケムリ研究室」の立ち上げは華やかなものにしたいと、まさかコロナ元年になるとは思わずに、こういったテイストのものを作ろうと二人で話していたんです。コロナ禍での制作にはなってしまいましたが、どこかこういう時に作る作品としてはふさわしいものになったと感じています。
ただ、いろんなことにあくせくしながら作っていたので、もう一度落ち着いてこの作品に取り組みたいなと感じたんです。立ち上げから追いかけてくださった方の中にも観られなかった方がたくさんいたと思うので、そのことも申し訳ないという気持ちが残っていて。再演をすればきっと観に来てくださるだろうという願いを込めてという思いもあります。

――古田さんは、この作品の出演のオファーを受けられたときはどんなお気持ちでしたか?
古田:KERAっちとたまきちゃんからいきなり「ベイジルやるんだけど出ない?」と言われて。「空いてたらいいよ」と言ったら、KERAっちが「古ちんの嫌いないい話なんだけど、いい?」って(笑)。それで「スケジュール空いてるならいいよ」と、そんな感じです(笑)。
緒川:古田さんはいいお話がお嫌いだから断られるかもしれないとKERAさんにも言われていたので、ありがたかったですね。なんとかOKしていただけたらと、願うような気持ちでお話ししました。

――今回は“いい話”なのになぜオファーを受けようと思われたのでしょうか。
古田:初演のDVDを観直したら、けっこうひどいキャラクターがたくさん出てくるんです。最後がすごくハートウォーミングに終わるから、そこに騙されていたけれど。
緒川:みんな「生きるためにはひどいこともする」というのが世界観の一つの要素になっているんです。

ファンタジーな部分をくっきりさせられるのでは
――今回再演するにあたり、脚本の改稿や演出を変えようと思っていることはありますか?
KERA:初演の映像を見直すと、やっぱりいろいろと反省点があるんですよね。いつもそうなのですが、台本を書きながら稽古を進めていくので、目指すところはあるものの、どんな肌触りの芝居にするか絞りきれていない部分がありました。改めて見ると、もっとファンタジーな部分をくっきりさせられるのではと感じたので、少し書き直そうと思っています。
それから、やっぱり王様は古ちんがやるとまたちょっとイメージが違うと思うんです。水野(美紀)演じる妹“ハム”とのやり取りのバランスは、少し変わった方が面白いのではと思っています。古ちんとは今までにナンセンスものを3本一緒にやりまして、20年『ベイジル〜』初演の前にやるはずだった『欲望のみ』という作品では、またそれとは違うものをやろうとしていたんですが、緊急事態宣言の発令で中止になってしまったんです。
本当はその作品が陰惨な芝居になる予定だったから、その反動でちょっと温かい芝居になるだろうという計算だったんですよね。今回は名探偵アラータとは違う、ナンセンスとは別の顔の古ちんが見られるのではないかと思います。

――緒川さんは、再演ではどのように役作りをしていこうと考えていらっしゃいますか。
緒川:「ケムリ研究室」では、私は出演者としてだけではなく、様々なキャストとスタッフとをつなぐ役割や、衣裳やヘアメイクなど、いろいろとサポートにも回りながらやっています。『ベイジルタウンの女神』の時は第一作目だったので、私が本来立ち回るべきことも手探りすぎて、充分にできなかったという思いもあるんです。
今回は、そういった役者として気づく部分と、ケムリ研究室として皆さんを引っ張っていく立場と両方いい形に持っていきたいと目論んではいます。その中でマーガレットという役は、割と人の善意にすがって生きているような人なので、人を引っ張っていくような立場とはちょっと違うのですが、その逆の持ち味も大事にしながら、何か皆さんが困っていることがあれば見つけ出していけたらと思っています。

――最後に、この作品を一言で表すとしたら、どういった言葉になりますでしょうか。
KERA:“ファンタジー”ですね。誰が観てもいい芝居だと思っています。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:石阪大輔
公演概要
ケムリ研究室no.4『ベイジルタウンの女神』
【作・演出】ケラリーノ・サンドロヴィッチ
【出演】
緒川たまき 古田新太 水野美紀 山内圭哉 坂東龍汰 藤間爽子
小園茉奈 後東ようこ 斉藤悠 依田朋子 中上サツキ 秋元龍太朗
尾方宣久 菅原永二 植本純米 温水洋一 犬山イヌコ 高田聖子
【東京公演】
2025 年5月6日(火休)〜5月18日(日)世田谷パブリックシアター
【兵庫公演】
5 月22日(木)〜5月25日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【久留米公演】
5 月29日(木)〜5月30日(金) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【豊橋公演】
6 月6日(金)〜6月8日(日)穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
【新潟公演】
6 月14日(土)〜6月15日(日) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
東京公演チケット一般発売:2025年3月15日(土)
企画=ケムリ研究室(ケラリーノ・サンドロヴィッチ+緒川たまき)
製作=キューブ
お問い合わせ=キューブ 03-5485-2252(平日12:00〜17:00)
公演最新情報:https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/kemuri-no4
X (旧Twitter) :https://x.com/cube_stage