木村達成×前田公輝インタビューミュージカル『スリル・ミー』「スリルを求めてくるような渇望的なものを与えられるような芝居になっていけたら」（後編）

2023.09.05

INTERVIEW

2023年9月7日(木)より東京芸術劇場シアターウエストにて、ミュージカル『スリル・ミー』が上演されます。

本作は1920 年代に実際に起こった、一番悪名高く凶悪な伝説的犯罪を土台とする緻密な心理劇。出演者はたった 2 人。“私”と“彼”、そして１台のピアノから始まる美的なメロディー。難題に挑むのは、演劇界を担う俳優たち。シンプルであるがゆえに緊迫した空間での、美しく濃密な時間。客席を圧倒するエネルギー、強烈な旋律の頂点に向かって走る100分。世界各国で上演が相次ぎ、韓国でも異例のロングランを記録している話題作です。

演出を手掛けるのは、日本の演劇界のトップを走り続ける演出家、栗山民也さん。尾上松也さん（私）×廣瀬友祐さん（彼）、木村達成さん（私）×前田公輝さん（彼）、松岡広大さん（私）×山崎大輝さん（彼）の3ペアが“私”と“彼”を演じます。

THEATER GIRLは、木村達成さんと前田公輝さんにインタビュー。後編では、“私”と“彼”役についてお互いに期待することや栗山民也さんの演出を受けるにあたって楽しみなことをお聞きしました。

インタビュー前編はこちら

木村さんは「パーソナルスペースに入るのが得意！？」、前田さんは「どっしりしていて、発言に重みがある」

――本作では、木村さんが「私」、前田さんが「彼」を演じられますが、それぞれどんな「私」と「彼」になっていきそうでしょうか？

木村：でも今日お話しさせていただいて、“彼”だなと思いました。

前田：えー！　本当？

木村：どっしりとしているし、発言にも重みがある。僕が上っ面で何か言ったとしても「それは違うと思うよ」と言ってくれると思いますし。すごく“彼”感があって、そこはとても信用しています。まだ数少ない会話の中でしかそれは読み取れなかったけど、そうであってほしいなと。もちろん“彼”っぽくなくても全然いいんですけど。僕らなりの“私”と“彼”を見つけていけばいいと思うので。僕も別に“私”だからって弱くなるつもりもないですし。

前田：僕はさっき撮影の時に「少し絡んでみて」と言われて、達成さんがほぼ膝枕状態で来られたんです。その時にちょっと安心しました。距離感の詰め方って人それぞれなんですけど、やっぱりパーソナルスペースを壊してなんぼだと思うので。そこのスタートを切ってくれたので本当にありがたかったですね。これから彼と私の距離感がどうなっていくかわからないですが、最初に空気感みたいなところが体一つでも交わるとやっぱり安心します。

――木村さんはパーソナルスペースに入るのがお得意だったりするのでしょうか？

木村：いや、僕わりと土足で行きがちだから、けっこう煙たがられることもあるかも（苦笑）。

前田：今日の撮影ではすごくそれが心地よかったですね。どうやって絡もうかなと思っている間にもう膝にいたので（笑）。

自分に嘘をつき続けなければいけない

――本作は栗山民也さんが演出を務められますが、稽古に向けて期待することや楽しみなことはありますか？（取材は稽古開始前）

木村：今回、役を掴むスピードがどこまで早くなるかわからないし、もちろん僕の考えには全くないようなことをする“私”なので、理解したと言ったら絶対に嘘になると思うんです。何かに執着する感覚って自分の中の引き出しにはないものだから。

もちろん早く欲しいとは思いますけど、やっぱり感覚なので、それが掴めない時は嘘になってしまう。でも、可能な限りその嘘がなくなっていけばこの100分間はあっという間に終わるかもしれないので、そのちょっとしたジャブをもらえたらありがたいですね。

前田：栗山さんの演出を受けたことのある役者の中には「栗山さんに作ってもらった」とおっしゃる方もいるんです。もちろん自分の中で「こうできたら」というのはありますが、そこらへんは割と柔軟にできればと思っています。

やっぱり栗山さんはずっとこの『スリル・ミー』という作品を愛されてきて、その時間が10年ぐらいあるので、今は台本なんか読まなくてもページ数やセリフもインプットされている領域だと思うんです。だからそこに関しては、作品の本質を我々が見失って、少し足し算が多くなってしまったとしても、それを全部軌道修して正してくれると思いますし、ちゃんと『スリル・ミー』という作品にはめていただけると思います。

僕は元々ミュージカルの経験があまりないからこそ、新しい空気感が出せたらいいなと。おこがましいかもしれないですが、少しでもその一端のような時間が流れたらいいなと思います。

――では最後に、本作を楽しみにしている方に向けてメッセージをお願いします。

前田：この作品を「スリルを感じられる」と思って劇場に足を運んでくださるのであれば、我々のペアは割とそのヒリつきみたいなところは出せるのではと思います。すごく個性は強く出そうだなと思うので、このペアもそうですが他のペアも含め、この『スリル・ミー』という作品を愛してもらえるように、まずは自分たちが愛を持って臨みたいと思うのでよろしくお願いします。

木村：なぜ役の名前がなくて“私”と“彼”なのか、なぜそういう描き方をしたのか。それは見え方や聞こえ方的にそのフレーズの方がハマるし理解しやすいからなのかなと思っています。このインタビューを読んでくださった方にどれだけ僕たちの回を観劇できるかはわからないですが、より興味をそそられてほしいし「何でチケット取っていなかったんだ」と後悔してほしいですね。

共通質問にも答えときます？「スリルを追い求めてしまうものはなんですか」とか（笑）？

前田：ぜひ、答えましょうよ。

木村：僕は高所かな。実際にはスカイダイビングもやったことがないんですけど、めちゃめちゃやりたいですね。高所だと、例えば観覧車もそんなに得意じゃないですけど、得意なフリはめちゃくちゃします（笑）。平和ボケしているのかもしれませんが、未到の地だとなぜか思っちゃうんですよね（笑）。

前田：僕は時間です。いつもギリギリで余裕を持った行動は一切しないです。でもなんとかなるとどこかで思ってる（笑）。そこにスリルを感じますね。