木村達成×前田公輝インタビューミュージカル『スリル・ミー』「スリルを求めてくるような渇望的なものを与えられるような芝居になっていけたら」（前編）

2023.09.04

INTERVIEW

2023年9月7日(木)より東京芸術劇場シアターウエストにて、ミュージカル『スリル・ミー』が上演されます。

本作は1920 年代に実際に起こった、一番悪名高く凶悪な伝説的犯罪を土台とする緻密な心理劇。出演者はたった 2 人。“私”と“彼”、そして１台のピアノから始まる美的なメロディー。難題に挑むのは、演劇界を担う俳優たち。シンプルであるがゆえに緊迫した空間での、美しく濃密な時間。客席を圧倒するエネルギー、強烈な旋律の頂点に向かって走る100分。世界各国で上演が相次ぎ、韓国でも異例のロングランを記録している話題作です。

演出を手掛けるのは、日本の演劇界のトップを走り続ける演出家、栗山民也さん。尾上松也さん（私）×廣瀬友祐さん（彼）、木村達成さん（私）×前田公輝さん（彼）、松岡広大さん（私）×山崎大輝さん（彼）の3ペアが“私”と“彼”を演じます。

THEATER GIRLは、木村達成さんと前田公輝さんにインタビュー。前編では、『スリル・ミー』という作品に感じる魅力、この日が初対面だったお二人のお互いの印象などをうかがいました。初対面という貴重なタイミングでのお二人の姿は必見です。

インタビュー後編はこちら

二人で100分間戦わなければいけないことに苦しさを感じた

――ミュージカル『スリル・ミー』に出演するにあたって、本作にどんなイメージを抱かれていましたか？

前田：僕は、以前に観劇したことがあったのですが、そのときは現実に巻き起こった事件なんだという衝撃的なイメージが強かったです。

――出演が決まったときは、どんなお気持ちでしたか？

前田：これが初演だったらまた気持ちが変わっていたと思いますが、今までに数々のキャストの方が演じて来られているので、『スリル・ミー』という作品自体もそうですし、それ以上にいろんな方々が、“彼”というフィルターを通して表現されていることに対してのモチベーションという部分が割と強く出たかもしれないです。

――木村さんは本作にどんなイメージを抱かれていましたか？

木村：やっぱり二人で100分間戦わなければいけないことに、苦しさを感じた気がします。内容はもちろん衝撃的ですが、台本が頭の中に入って役の気持ちになっていけばどうにかなるとは思いました。

やっぱり蓋を開ける前ってどうしても怖いですよね。もちろん稽古に入っても安心する瞬間は一つもないかもしれないですけど、でもやっぱり今置かれている状態が一番しんどい時期かもしれないです。

お互いの第一印象とは…！？

――お二人は、本日初めてお会いされたということですが（取材は稽古開始前）、ミュージカル『ロミオ＆ジュリエット』では同じベンヴォーリオ役を演じられている共通点がありますが、実際にお会いされてみてお互いの印象はいかがでしょうか？

前田：数分でこんなことを言うのもあれですが、よくファーストインプレッションって5分で決まると言うじゃないですか。

木村：別にけなしてもらっても全然いいですよ（笑）。

前田：いやいや（笑）、でも、もっと知りたくなりました。会う前は「こういう方かな」という勝手な印象があったんですけど、これから関わっていくにつれていろいろな発見があるのではと思っています。

――これからどんどん木村さんを知っていきたいという感じでしょうか。

前田：そうですね、まあこの数分ではなかなかわからないと思うので。とはいえ考えられないぐらい密な関係でお仕事をしていくと思うので、まず達成さんという以前に、自分がそこに馴染んでいかないといけないなと。本質的にどんなことを考えているのか、中盤あたりでもまだわからないかもしれませんね。もちろん役を通しては見えるかもしれないですが。

――木村さんはいかがでしょうか？

木村：インタビューを受けていると、その方の姿勢ってかなり分かってくるじゃないですか。それで言うと割と自分に近いというか、発言する責任感をちゃんと持った方だと思いました。

前田：それは自分もすごく感じました。

木村：それをすごく感じたし。そういう方って信用できるんですよね。もちろん薄っぺらく話す人もいますけど。

前田：一度頭の中で会議をしてほしいですよね（笑）。

木村：でも前田さんはそんなことを感じないし、ちゃんと責任感があって言葉一つ一つに重みがあって軽くない。僕に関してはこれ以上もこれ以下もなくこのまんまなので。

前田：えっ？　本当に？

木村：マジでないんですよ。

前田：そうなんだ（笑）。だからこれから見つけていくしかないですよね。やっぱり生きてきた時間があるし何もないことはないと思うので。

木村：本当にこのままなんですよ。けっこう今ドア全開。

前田：あはは（笑）。でも自分で感じているのと客観的に見るのとではやっぱり違うし、それこそこの作品で何かしらのエネルギーが見えた時に、僕は「やっぱりドアを開けていなかったんだな」と思うかもしれない（笑）。

本作で魅力に感じるのは「矛盾しているところ」

――本作は、お二人と一台のピアノのみで100分間繰り広げられるとても濃密な作品になっていますが、改めてこの『スリル・ミー』という作品のどんなところに魅力を感じていますか？

前田：たくさんありすぎて“ここ”というのを挙げるのが難しいですが、演じる中である程度固めていかなければいけないのかなと。稽古に入る前までに言語化しなくても自分の中で落とし込めるぐらいになっていたらいいなと思いますね。

木村：変にキャラクターを乗せる必要がないところも魅力じゃないですか。大枠は決まっているけどみんな違った色にできるから、こうやって数多く上演されてきたんだと思いますし。

前田：テーマとしてはいろいろ柱があると思っていて、すごくオーソドックスに言うと、やっぱり二人の“依存関係”があって、なおかつ若気の至りだからこそ見えなくなってしまうというか。そのおごりが“彼”のフィルターを通して見ると足を踏み外してはいるけど、結局事件として語り継がれるものになってしまうんですよね。

もしこれがストレートプレイだったら、100分間このスリルを引っ張っていくのはまた話が変わってくる気はしますけど。シンプルなピアノの構成ではありますが、音楽が入ってくることによって目を覆いたくなる描写でも見たくなる。そういう矛盾しているところが魅力なのかなと。自分が観劇した時にもそれをすごく感じました。

グッと力が入るような描写もありますが、劇場から出たいかと言ったらそうじゃない。そのスリルみたいなところはやっぱりタイトルになっているだけあるなと。そういったことを感じ取れるのがこの作品の魅力の一つかなと思いました。

渇望的なものを与えられるような芝居になっていけたら

――今回、お二人以外に、尾上松也さん×廣瀬友祐さん、松岡広大さん×山崎大輝さんの3ペアで上演されますが、お二人のペアならではの魅力はどんなところだと思いますか？

前田：他の方々はわからないですが、さっき達成さんが言っていたように初対面の時にどんな感じだったのかはちょっと気になります（笑）。でも合うに越したことはないのかなと思いますね。今の感覚でもう一度台本を読んでみたくなりました。

――木村さんは、前田さんとどんなペアになっていきそうと感じていますか？

木村：そりゃあ、一番見ごたえのあるペアであって欲しいですよね（笑）。他のペアを見てからこのペアを見て「ああ、そういうことね」と思うところもあっていいと思うし、逆に全然わからなくもなってほしい。丁寧にわざわざ全てを伝える必要もないと思うんです。観劇した後に感じる感想は、各々の感じ方や考え方で違うと思うので。

ただ、ビビらずに踏み込んでいけるようなペアではありたいですね。丁寧に伝えすぎることに重きを置きすぎない、ましてやお客さんとの距離がすごく近いというのもあるし、ミュージカルだからといって歌に走る方向性の二人では絶対にないと思うから。喋っている言葉のまま音楽がのってくるような感じでできたらと思います。

前田：そうですね。

木村：他のペアのことをあまり気にしていないと言ったら嘘になりますけど。でも「なんかこのペアすごく面白かった」とか「なんでかわからないけど面白かった」でも全然いいと思うし。お客さんが僕らにスリルを求めてくるような、そういう渇望的なものを与えられるような芝居になっていけばいいなと思います。