昆 夏美×松下優也インタビュー 「マリー・キュリー」「同じ作品であってもまったく違う2つの舞台が生まれるのでは」(前編)
2025年10月25日(土)より天王洲 銀河劇場にて、11月28日(金)より梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて、ミュージカル「マリー・キュリー」が上演されます。
2023年日本初演された本作は、2020年に韓国で初演され、「韓国ミュージカルアワード」にて、大賞をはじめとする5冠(演出・プロデューサー・脚本・音楽賞)を受賞し、ロンドンでの上演も行った韓国発のミュージカルとして目覚ましい進化を続けている作品です。
日本版上演にあたり、演出の鈴木裕美氏は、韓国で加えられた台本の創作部分を、「ありえたかもしれない」もう一人のマリー・キュリーの物語として捉え、本作品をFact<歴史的事実>×Fiction<虚構>=ファクション・ミュージカルとして演出。その繊細な人物描写が大きな感動をもたらしました。
今公演でタイトルロールのマリー・キュリーを演じるのは、数々のミュージカル作品でその類まれなる歌唱力を遺憾なく発揮し、日本を代表するミュージカル女優となった昆 夏美さんと、宝塚歌劇団100期生として入団し、宙組・花組でのトップ娘役を務め、人気と実力を兼ね備えた星風まどかさん。
マリーの夫、ピエール・キュリー役は、近年『ジョジョの奇妙な冒険』や『ケイン&アベル』、 『キンキーブーツ』など話題作への出演が続く松下優也さんと、ドラマ・映画で活躍しながらも、継続的な舞台出演で印象を残す葛山信吾さんが務めます。
その他、鈴木瑛美子さん、石田ニコルさん、水田航生さん、雷太さん、といった華のある実力派俳優が勢揃いしました。
THEATER GIRLは、昆 夏美さんと松下優也さんにインタビュー。前編では、本作に出演が決まった時のお気持ちや役への取り組みや自身との共通点について、今回が初共演となるお二人にお互いの印象などをお聞きしました。
この作品と役に対して強い責任感を持たなければいけない
――本作は、2023年に日本版が初演され、今回が再演となります。出演が決まったときの率直なお気持ちはいかがでしたか。
昆:私は初演を客席から拝見していたのですが、まさか自分がマリー役としてお話をいただくとは思ってもいませんでした。本当に驚きましたし、プロデューサーの方に思わず「なぜ私なんですか?」と聞いてしまったほどです(笑)。
いただいたお言葉は胸の中に大切にしまってありますが、それ以上に、この作品と役に対して強い責任感を持たなければいけないと感じています。今は、身の引き締まる思いでいっぱいです。
――日本初演をご覧になった際、どのような印象を受けましたか?
昆:女性の人生を真正面から描いたミュージカルって、日本で上演される機会はそう多くないと思うんです。だからこそ、この作品のように女性が逆境に立ち向かい、自ら道を切り開いていく姿が描かれていることに大きな意味があると感じました。
今の時代にとても合ったメッセージ性を持っていますし、特に女性のお客様には深く共感していただけると思います。もちろん男性の方が観ても、いろいろなことを感じ取ってもらえる作品だと思いました。

――松下さんはいかがでしょうか?
松下:僕はお話をいただいた時点では、まだ作品を観たことがなかったんです。でも、すごく評判が良くて、観劇された方々の評価も高いと聞いていたので、「そんな作品に出演できるんだ」と純粋にうれしかったです。出演が決まった後に、映像で作品も観させていただきました。
それから、演出の鈴木裕美さんとは、過去に二度ご一緒させていただいたことがあったので、また同じ作品に関われることもうれしかったです。
――実際に作品をご覧になって、改めてストーリーや作品全体の印象については、どのように感じられましたか?
松下:やはり実在の人物や史実をベースにしている部分があるので、リアリティのある面白さを感じました。同時に、ミュージカルとしてフィクションの要素を生かしたドラマチックな展開や、華やかなシーンも多くあって。そのバランスがとても魅力的だと思いました。
“共通認識”を持つことが一番大切
――本作は、Fact<歴史的事実>×Fiction<虚構>を織り交ぜた“ファクション・ミュージカル“という形ですが、実在しない人物が登場したり、史実に脚色が加えられたりしている点についてはどのように感じましたか?
昆:物語の中で脚色が加えられること自体はよくあることだと思うんです。ただ、“ファクション”としてそれを明確に打ち出しているのは面白いなと感じました。
実際、どこまでが事実で、どこからが虚構なのかという線引きは、私たちもまだ完全にはわかっていないんです。“虚構をあえて提示する”という姿勢は、とてもユニークだと思いますね。
――松下さんはいかがでしょうか?
松下:僕が思うのは、事実かフィクションかということよりも、作品をつくる側と演じる側の間で“共通認識”を持つことが一番大切なんじゃないかということです。
伝記映画のように史実を忠実に描くわけではなく、“ファクション”として謳っているわけですから。以前、ミュージカル『太平洋序曲』という作品に出演したときも同じようなことを感じました。日本が鎖国から開国へ向かう時代を描いたミュージカルで、もともとはブロードウェイで上演された作品なのですが、史実をもとにしつつ、かなり誇張された部分も多かったんです。
演出家はイギリスの方でしたが、キャストも観客も日本人。だからこそ、文化的な違いや所作の表現について、共通の理解を持たないとすれ違ってしまうんですよね。「実際はこうではない」という意見が出たときに、「でも今はそれをあえて描こうとしている」という共通の方向性が必要なんです。
そういう意味では、今回の「マリー・キュリー」も、演出の鈴木裕美さんがしっかりとしたビジョンをお持ちだと思うので、僕たちはその考えを理解しながら、共通認識を持って進めていけたらと思っています。

その集中力と情熱には圧倒される
――本作で演じられるマリー・キュリーとピエール・キュリーについて、それぞれどのような印象をお持ちですか?また、ご自身と共感する部分などがあれば教えてください。
昆:私は今の時代に生きていて、ジェンダーの問題などに日常的に強く打ちひしがれるようなことはほとんどありません。でも、マリーが生きた時代は「科学の世界に女性が関わるなんて」といった偏見が当たり前にあった時代です。
その中で、研究や成果によって自分の存在価値を証明しようと突き進む姿は、本当に信念の強い女性だなと思いました。何度も挑戦し、失敗してもまた立ち上がって研究に没頭し続ける。その集中力と情熱には圧倒されます。
――マリーの姿勢に、ご自身と重なる部分もありますか?
昆:私もこの仕事を通して表現することをずっと続けたいという思いがあります。オーディションに落ちたりしたこともありますが、そこで「やめよう」と思ったことは一度もないんです。悔しい気持ちはあっても、次に進もうとする力の方が強い。
だから、自分の夢や目標に向かって周りを気にせず、自分と闘いながら突き進むという感覚にはとても共感します。マリーを演じるうえで、そういった思いはきっと役にも生かせると思っています。

――松下さんはピエール・キュリー役を、現時点でどのように捉えていますか?
松下:ピエールは科学者として、とにかく研究に熱中する人だったと思います。自分もこの仕事が好きで、表現者として考えることがすごく好きなので、そういう部分での共通点はありますね。何かにのめり込んで、抜け出せなくなるほど考え続けてしまう。人生をかけて追っているという感じなので。
――お二人とも、熱意という部分で共通しているところがありそうですね。
松下:そう思います。科学と表現という違うジャンルではありますが、何かを突き詰める姿勢や熱意には共通点があると感じます。
昆:マリーとピエールも、お互いに同じ目標を持ち、研究を通して支え合いながら絆を深めていったと思います。共に探求して、発見して、共有する──その過程が二人の愛の形なのではないかなと。好きなことに情熱を注いできた経験がある人ほど、きっとこの二人の関係に共感できるのではと思います。

初共演となるお二人、お互いの印象とは……!?
――お二人は今回が初共演になるそうですね。さらに夫婦役を演じるとのことで、お互いどのような印象を持たれているのか、またどんな関係性を築いていきたいと考えているのかを伺えればと思います。
昆:私、人見知りなんですけど……(笑)。松下さんは人見知りではないですよね?
松下:普通くらいかな。
昆:でも、とても話しやすい方だなと思いました。さっき雑談しているときも、すごく大人っぽい印象で、しっかりされているなと思っていたのですが、年齢が1つしか違わないと聞いて驚きました。
作品の中では、二人の情熱的な恋愛というよりも、研究や信念を通じて結ばれた関係性を描いている印象です。お互いの探究心に惹かれた二人なので、稽古や本番を通して、自然とその空気感が出せたらいいなと思っています。
作品の中ではその空気感がすでに出来上がっているようなシーンばかりなので、これからコミュニケーションを重ねていきたいです。
――松下さんは、昆さんの印象はいかがでしょうか?
松下:以前から一方的に拝見していましたが、実際にお会いしてみると、昆さんのお人柄もあって、いい意味で“ミュージカル俳優すぎない”方だと感じました。すごくフラットで話しやすいです。
昆:ありがとうございます(笑)。
松下:昆さんは自然体で構えていない感じがしてすごく接しやすいです。
昆:うれしいです。年が1つしか違わないと分かって、私の中で10枚くらいあった壁が、一気に4枚くらい割れました(笑)。
松下:それはうれしいですね(笑)。僕はビジュアルがこんな感じなのでちょっと怖そうに思われがちなんですが、まったくそんなことはないので(笑)。
昆:松下さんは見た目がスタイリッシュな印象がありましたが、実際に話すととても柔らかい雰囲気の方だと感じました。
松下:意外と女性には怖がられがちなんですけど、実際はまったくそんなことないんですよ。むしろネイルをしているくらいがラクというか(取材時は『キンキーブーツ』上演時)。キラキラしていると、相手の方の緊張が少し和らぐのがわかるんです。
病院とかで診察券を出すと、女性のスタッフさんが一瞬「ふわっ」と笑顔になるのを見ると、なんかいいなと思います。見た目で最初は相手も構えることがあるのですが、爪を見た瞬間に空気がほどける感じがするんです。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:野田涼
【昆夏美】
スタイリスト:下平純子
ヘアメイク:TAKUMI INOUE(a-pro.)
【松下優也】
スタイリスト:村田友哉(SMB International.)
ヘアメイク:ASUKA(a-pro.)
公演概要
ミュージカル「マリー・キュリー」
脚本:チョン・セウン
作曲:チェ・ジョンユン
演出:鈴木裕美
翻訳・訳詞:高橋亜子
出演:
昆 夏美 星風まどか(Wキャスト)/松下優也 葛山信吾(Wキャスト)/鈴木瑛美子 石田ニコル(Wキャスト)
水田航生 雷太(Wキャスト)
能條愛未 可知寛子 清水彩花 石川新太 坂元宏旬 藤浦功一 山口将太朗 石井 咲 石井亜早実
飯田汐音(Swing)
【東京公演】
2025年10月25日(土)~11月9日(日)
天王洲 銀河劇場
【大阪公演】
2025年11月28日(金)~11月30日(日)
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
企画・製作:AMUSE CREATIVE STUDIO
