安田顕、林遣都による幻の公演が再誕。安田顕企画・プロデュース 舞台「死の笛」開幕!
幻の公演と言っても過言ではない安田顕企画・プロデュース『死の笛』の再演が7月3日(金)、水道橋・IMM THEATERで初日を迎えた。
初演は2024年。脚本:坂元裕二✕演出:水田伸生✕出演:安田顕、林遣都という豪華すぎる座組ながら、公演数が少なくプラチナチケット状態だった。
あれから2年、坂元が再演にあたり改稿し、幻の公演がより多くの人に届くことになった。奇跡の再演、その初日前日に行われたゲネプロのもようをルポする。
ゲネプロレポート
舞台は戦場の厨房。緩衝地帯であるそこはフェンスで仕切られて、下手(しもて・向かって左)と上手(かみて・向かって右)にスペースが分かれている。下手の厨房でカノオ(安田顕)が疲れたように働いていると、上手にウスダ(林遣都)が入ってくる。

カノオはこの厨房に長くいる料理長で、ウスダは新人。カノオよりも若いウスダは天真爛漫だがもの知らずで、戦時下であるという状況をいまひとつ把握していないようだ。
最初のうちカノオはウスダの無知に呆れているが、なんだか目が離せない。そうして徐々にふたりの距離は近づいていく。

敵と味方に分かれた男ふたりの奇妙な交流。カノオは亡くなった娘ヨヨコの仇を討とうと犯人を探し続けている。ウスダはカガリネさんという女性に恋をしている。それぞれの悲願は叶うのか。カノオの復讐劇や、エエカチチトリ(死の笛)の謎などサスペンス性を盛り込みながら、物語はまったく予期せぬ方向へと向かっていく。

坂元裕二の描く戦場の物語は、具体的な場所や時代はわからない。だがどこか現代とも重ねることができる。いや、むしろ、2年前よりも観る者に響くのではないだろうか。現実をリアルにストレートに描くよりも、ひとつフィルターをかけることで、より題材が普遍性を帯びる。坂元は大ヒットした映画『ファーストキス 1ST KISS』(25年)でタイムトラベルをモチーフにしたSFを描いているが、『死の笛』はさらに映画やテレビドラマでは見られない、舞台だからこそ可能な世界観だといえるだろう。

開幕直後、まず驚くのは言葉だ。カノオとウスダの話し言葉は通常の日本語と少し違う。坂元裕二の創作言語とでもいうのだろうか。坂元いわく「『死の笛』文法」。この独自の文法は、最初、聞くと度肝を抜かれる。安田も林も独特なセリフを覚えるのが大変だったと言う。

基本はその坂元の独特な文法の言葉で進むが、時折、テレビドラマや映画で坂元節とも言われるようなエモーショナルで刺さるセリフも出てくる。逆にまったく質の違う無機質な解説書のような言葉もある。ひとりの作家から多様なスタイルの言葉が紡がれたとき、私たち観客は何に心が動かされるか、それが舞台上で歴然となる。日常で聞き慣れない言葉にもかかわらず、安田と林の会話には、確かに豊かな感情が生き生きと宿っているからだ。

俳優たちは作家の言葉に同化し、さらにその言葉の真髄を無限に増幅させていく。
安田は、坂元の書いた言葉からヒントを得たような動きをすることがある。例えば「糸」。彼の体は時々、糸に吊るされた人形のようになる。坂元がなぜその言葉を使用したのか、それがよくわかるのは安田の動きが明晰だからだ。彼には豊富なアイデアと多くの経験が育んだスキルに裏打ちされた洗練がある。刀鍛冶が丁寧に磨いだツールの厳格さから生まれる叙情のような。対して林は、研ぐ前の素材そのものの魅力といえばいいだろうか。天真爛漫なウスダを全身全霊で演じ、どの場面も全力で楽しみ、全力で嘆く。安田も彼の純粋さを絶賛している。もちろん林も俳優としての経験とスキルは十分ある。それをいつでも生まれたばかりの状態に変える力がある稀有な俳優なのだ。

序盤は、そんな林演じるウスダを、安田演じるカノオが年上として慈しむような心情になっているように見える。だがふたりの交流が深まっていくにつれ、いつしかカノオをウスダが癒やしているようにも見えてくる。安田と林は坂元脚本、水田演出の連続ドラマ『初恋の悪魔』(23年、日本テレビ系)の共演がきっかけで舞台でも共演することになった。ドラマ、舞台を経て、さらに信頼関係が増し、息が合っている。低く重めな安田の声と、明るくやや高い林の声のバランスもいい。
舞台にはふたりしかいないが、のびのび動き回るふたりの軌跡は広いアクトスペースを埋め尽くし、見ていて飽きることがない。ベテラン水田の緻密な演出によることも大きいだろう。坂元とは長く仕事をしていて、『Mother』(10年 日本テレビ系)や『Woman』(13年 日本テレビ系)などを手がけ、坂元の世界を熟知している水田。テレビドラマの演出、映画の監督として有名だが、明石家さんま主演舞台をはじめとして舞台演出も多く手がけてきた。

開幕前、森で鳥のさえずりがかすかに聞こえ、ある瞬間、しん!となる。緊張感がマックスに高まり、一気に世界に没入させる手腕、死の笛にまつわる場面のスリラー映画の名作のような間合いなど、一部の隙もない。厨房の包丁も小道具ながら武器にもなり得るリアリティがあり、それが戦場の緩衝地帯ながら、どこか油断ならない緊張感をキープし続ける。
坂元が公演パンフレットのなかで「二人だけのオーケストラのような印象を持ちました」と語っている。その言葉を借りれば、『死の笛』は作家の言葉という譜面、俳優の声や身体という楽器、それを最大限に生かすマエストロのような演出でできている。さらに本物の音が重要な役割を担う。安田の発案による平松由衣子のチェロの生演奏に、再演では水田発案の石川高が演奏する笙の音が加わった。
初演は『死の笛』というタイトルに引っ張られたのか、ホラー的な要素が強めだったようにも感じた。だが再演では、エエカチチトリ(死の笛)の音も恐怖だけでなく、敬虔なものに感じるのは、笙の響きによるところも大きい。平松のチェロと石川の笙、ふたつの音色で、世界観にいっそう深みが増した。カーテンコールで顔を出すふたりの衣裳の対称性にも注目したい。

死の笛とは何なのか。それが単なる恐怖の叫びではなく鎮魂の音のようにも聞こえてくる。厨房を覆った森を模した無数の天井から垂れ下がる布の揺れ、そこから漏れる光。空気の動きでかすかに様相を変える装置(美術:土岐研一、照明:望月大介)や様々な音に包まれながら、想像が果てしなく広がっていく。もしかしたら、カノオとウスダの吹く笛はそれぞれの叫びでもあり、同時に、世界中の生きとし生ける者の声なのかもしれないと。
カノオとウスダがひとりの人間として娘や恋人を愛し、厨房で調理をし、敵同士ながら友情のようなものを芽生えさせ、お互いを尊ぶ。無為な行為に心をすり減らすよりも、目の前の人の言葉に耳を傾ける。ふたりの人間の運命的な邂逅を、安田と林は2時間、出ずっぱりで懸命に心と身体を動かし続けながら体現する。とりわけ象徴的なのがカノオとウスダのダンス。ふたりを隔てるフェンスを越えた、ふたりの共同作業の到達点だ。
同じ座組での再演の強みが出た上演。坂元が脚本に手を加え、それを初演の経験をもとに演出家と俳優が台本をより深く読み込んで丁寧に舞台に上げた。2年という長すぎも短かすぎもしない、さながらスープの冷めない時間のようなほどよさが功を奏している。初演を観た人はそこからの変化を比べるのも楽しみのひとつだろう。ふたり芝居のスタンダードの一作として、長く愛されてほしい作品の誕生だ。

東京のあと北海道、大阪と公演は続く。東京公演の前売りチケットは完売だが、各回ローソンチケットにて当日引換券の抽選販売が行われる。
文:木俣冬
撮影:倭田宏樹 村松巨規
公演概要

舞台「死の笛」
企画・プロデュース:安田顕
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生
出演:安田顕 林遣都
■東京公演
会場:IMM THEATER(東京都文京区後楽1丁目3-53)
日程:2026年7月3日(金)〜7月12日(日)
■札幌公演
会場:札幌サンプラザ コンサートホール(札幌市北区北24条西5丁目)
日程:2026年7月17日(金)〜7月19日(日)
■大阪公演
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール(大阪府大阪市中央区大阪城3−6)
日程:2026年7月24日(金)〜8月2日(日)
■チケット
ローソンチケット https://l-tike.com/shinofue/
チケットぴあ https://w.pia.jp/t/shinofue/ (Pコード:543-651) ※大阪公演(一部)のみ取り扱い
イープラス https://eplus.jp/shinofue/ ※大阪公演(一部)のみ取り扱い
東京公演 当日引換券抽選販売
ローソンチケット https://l-tike.com/shinofue/
■公演詳細:舞台「死の笛」特設ページ
https://www.teamnacs.com/stage.php?ex=2026_03
