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木村達成・桜井玲香・小西遼生ら出演。KERA CROSS第四弾『SLAPSTICKS』観劇レポート!

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劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の名作戯曲を、才気溢れる演出家たちが異なる味わいで新たに創り上げるシリーズ・KERA CROSS。第四弾は三浦直之(ロロ)が演出を務める。

今回は先立って行われた東京・シアター1010での公演初日の様子を観劇レポートとしてお届けする。

観劇レポート

サイレント映画からトーキーへと転換期を迎えるハリウッドがテーマとなる本作。映画作りに情熱を注ぐ人々の姿が、一人の青年の成長を通じて描かれている。

小西遼生演じるビリー・ハーロックは、喜劇俳優として爆発的人気を誇ったロスコー・アーバックルの映画をリバイバル上映してもらえないかと躍起になっていた。

配給会社の社員・デニー(元木聖也)に懇願するも、今どきサイレント・コメディは時代遅れと言わんばかり。なかなか興味を持ってもらえない。そんな二人の掛け合いのシーンから舞台は始まる。

それでも必死に説得を試みるビリー。サイレント・コメディに命を懸けた熱い人々を懐かしむように、当時の思い出を熱く語り出すのだった。

時はさかのぼり、1920年のハリウッド。木村達成演じる若きビリーは、喜劇映画を生み出した“喜劇王”マック・セネット(マギー)の映画会社で助監督として働いていた。コメディに魅せられ、面白い映画を撮るためこだわりを貫き通すーー。そんな彼らの姿がそこにはあった。

写真提供/東宝演劇部

とある日の夜、大量のフィルムを手にしながら編集室で作業をするビリーのところに、突如メーベル・ノーマンド(壮一帆)が現れる。彼女は人気のコメディエンヌ。彼女がこんなところにやってくるとは思ってもみなかったビリーは驚き、気持ちが高ぶる。

しかし、メーベルの様子が正気とは言い難い。実は彼女はコカイン中毒者だったのだ。

写真提供/東宝演劇部

訳ありな彼女の雰囲気に、壮が持つ妖艶な雰囲気がぴたっとハマる。そうこうしているうちに、彼女から預かったコカインをビリーはぶちまけてしまい……。

どうやら思いっきりコカインを吸い込んでしまったビリー。舞台は彼の夢の中へと誘われ、桜井玲香演じる初恋の人、アリス・ターナーとの日々が初々しく描かれる。まさに夢のような淡い時間。

写真提供/東宝演劇部

アリスはサイレント映画の伴奏ピアニスト。二人はサイレント・コメディやアーバックルの話をしながら距離を縮め、次第に惹かれ合っていったのだった。ビリーの初恋の相手役として、桜井の可憐な姿が非常に説得力を持たせる。

しかしそんな時間も幻でしかなかった。眩しい青春の日々に蓋をするアリス。それがビリーとは対照的でなんだか切ない。

公演ではたびたびスクリーンが登場し、実際のサイレント・コメディが映像として流れる。それがとてもコミカルで面白いのだが、CGが存在しない時代に撮影したとは思えないのだ。一歩間違えれば大怪我になりかねないアクションの数々。

笑いのためなら一切妥協しない。サイレント・コメディに命を懸けた人たちの狂気じみたストイックさが伺える。これが物語にさらなる臨場感を与えるスパイスとなっていた。

“太っちょ”と呼ばれ伝説的人気を誇った喜劇俳優・アーバックルを見事に演じ切ったのは、はんにゃの金田哲。実際の体型からは想像が付かない役柄だが、彼特有の軽快な動きや切り返しがとてもしっくりきていた。台詞のテンポ感、声の高さが小気味よくて気持ちがいい。

写真提供/東宝演劇部

アーバックルが主催するパーティにて、物語の大きな出来事となる事件が起こる。そのパーティーに参加したヴァージニア・ラップ(黒沢ともよ)は、女優としてのキャリアをこじあけようとアーバックルに近寄った。

些細なきっかけから、アーバックルの運命はがらりと変わってしまうーー。

写真提供/東宝演劇部

サイレント・コメディに対して愛と希望に溢れていた若きビリーを演じた木村達成は、初々しくて清らか。とてもかわいらしい。そんなビリーがいろんな経験を経て大人になっていく。生々しいほろ苦さを味わう姿、自分にはどうしようもできない不条理に苦悩する姿……。一つの公演とは思えないほど、さまざまな顔を魅せてくれた。

写真提供/東宝演劇部

舞台では時間軸が行ったり来たりしながら、中年のビリーがサイレント・コメディに情熱を注いだ人々の物語をデニーに伝えていく。小西演じるビリーはハンチング帽を被り、見た目はダンディー。だが、青年時代のビリーと魂は繋がっていて、映画に対する沸々とした情熱、成長していながらも面影のある真っ直ぐさを感じさせた。

写真提供/東宝演劇部

“SLAPSTICK”は、どたばた喜劇の意。 アメリカ映画の創成期、セネットが確立した喜劇のスタイルなのである。狂うほどに映画を愛した役者、クリエイターたちの物語は、どこか泥臭く、それでいて大切な何かを思い出させてくれるような温かさがある。

写真提供/東宝演劇部

愛や希望、夢といったキラキラとした感情だけで人生を満たすことはできない。綺麗事では済まされない負の感情を味わうこともあれば、ラベリングが難しい気持ちすらも時には襲ってくる。人はさまざまな葛藤を経て、それぞれの物語を紡いでゆく。それをひっくるめて、人生は“ロマンチック”なのかもしれない。いろんな想いが渦巻く本作。ぜひ劇場で、ロマンチック・コメディ『SLAPSTICKS』を堪能していただきたい。

写真提供/東宝演劇部

公演は東京・シアター1010公演、大阪公演、福岡公演、愛知公演を経て、2月3日(木)から日比谷・シアタークリエにて上演される。

文:矢内あや

ビリー・ハーロック役 木村達成さんインタビュー(前編)
ビリー・ハーロック役 木村達成さんインタビュー(後編)

公演概要

KERA CROSS第四弾『SLAPSTICKS』

作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:三浦直之(ロロ)

出演:
木村達成、桜井玲香、小西遼生
壮一帆、金田哲、元木聖也、黒沢ともよ、マギー
亀島一徳、篠崎大悟、島田桃子、望月綾乃、森本 華(以上、ロロ)
羽鳥翔太、柏木凱斗

公演日程:
東京・シアター1010
2021年12月25日(土)・26日(日)

大阪公演 サンケイホールブリーゼ
2022年1月8日(土)~1月10日(月)

福岡公演 博多座
2022年1月14日(金)~1月16日(日)

愛知公演 日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
2022年1月28日(金)

日比谷・シアタークリエ
2022年2月3日(木)~17日(木)

公式サイト:https://www.tohostage.com/slapsticks/

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

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