清水くるみインタビュー『東京輪舞(トウキョウロンド)』「現在の東京を取り巻く、さまざまな愛を演劇に昇華して伝えたい」（後編）
2024年3月10日より東京・PARCO劇場を皮切りに、PARCO PRODUCE 2024 『東京輪舞』が上演されます。
オーストリアの劇作家アルトゥル・シュニッツラーが発行し、当時のウィーン社会にセンセーションを巻き起こした『輪舞』（La Ronde）。
19世紀末の世相を背景に男女の情事前後の会話をリレー形式で描写した原作『輪舞』を、本公演では「現在」「東京」に翻案し上演します。注目の劇団、「範宙遊泳」を主宰し、22年に『バナナの花は食べられる』で第66回岸田國士戯曲賞を受賞した山本卓卓(すぐる)さんが台本を担当し、プロデュース公演カンパニーKUNIOを主宰し、演出家・舞台美術家として活躍する杉原邦生さんが演出を担当。
出演は、Hey! Say! JUMPのメンバーでありながら舞台でも力量と輝きを発揮する髙木雄也さん、ミュージカルなどの舞台作品にも多数出演され、朝ドラ『ブギウギ』での好演も記憶に新しい清水くるみさんです。舞台上で二人が様々な登場人物を演じ分け、10の情事の風景をリレー形式で描いていきます。
THEATER GIRLは、清水くるみさんにインタビュー。後編では、舞台出演のときに意識していること、「東京」に上京してきたときの心境など、たっぷりとうかがってきました。
失敗したとしても「命までは取られまい」という父の教え
――とてもシンプルな質問なんですが、清水さんは舞台に立つときに緊張されることはありますか？
実はあまりしないんですよね。初日は緊張するんですけど、それでも昔からあまりしないほうかも。
舞台の本番ってちゃんと稽古を重ねて臨むので、やってきたことをやればいいという気持ちなんです。もちろん準備不足だったら緊張しますけど、台詞が飛んだ経験もまだそんなになくて。実際に飛んじゃったときもけっこう冷静で、またすぐに戻ってくるんですよ。
――昔から緊張しないというのは、もう素質ですね！
小さい頃から、父親にいつも「命までは取られまい」と言われていたかもしれないです。何も命がなくなるわけじゃないんだから存分に楽しんだらいいよ、と言われて育ったんですよ。だからかな？ 失敗しても死ぬわけじゃないんだから、って。
演じている自分と俯瞰している自分。笑いが取れるところは逃したくない！
――ドラマや映画、舞台など、幅広く出演している清水さんですが、舞台出演のときに特に意識していることはありますか？
映像作品は、箱の中で視聴者と一つのものを共有している感覚で取り組んでいます。
それが舞台となると、伝えたい人（お客さま）が目の前の人にいるので、その人に向けて伝えることを大事にしていますね。
映像は遠くまで届けようとするとオーバーな芝居になってしまいますが、舞台は一番後ろの席にいる人にまで届けるつもりで演じます。あと、私お客さんをめっちゃ見ちゃうんですよ。
――本番中に、ですか？
はい、実は冷静に見ていて（笑）。コメディだったら「今日はなんでこんなに笑いが薄いんだろう？」とか、分析しています。
楽屋のスピーカーに流れてくる舞台上の音を録音して、前日と比べて「間がちょっと長かったから笑いが薄かったんだ」とか。
――研究熱心ですね。
笑いが一番難しいですからね。今回もユーモアのあるシーンは、笑いが取れそうなので逃したくないなと思っています。
本読みしていると、演出の杉原さんが笑ってくださるので、それがちょっと安心するんですよ。「言い方を変えたら、1回目よりも笑ってる」とか、逆に「さっきより笑わなくなったな」とか。その反応を見ながら、どうしていこうか考えたりしています。
――先ほどの本番中の話もそうですが、一つ一つの機会をとても大事にしていらっしゃるんですね。
演じている自分と俯瞰している自分が同時にいるんですよね。だから憑依型にはなれないタイプなんですよ。舞台上で起こったことも全部覚えているし、我を忘れる経験が実はなくて、そういう経験も一度はしてみたい……。
――ゾーンに入る、みたいな感覚でしょうか？
映像だとあるんですけどね。舞台はそうなると怪我のリスクもあるので、周りのこともしっかりと見ながらやらないといけなくて。常に別の自分が頭の上にいる感覚があります。
「清水くるみ」と「東京」。上京したときは夢見る少女のようだった
――清水さんがオーディションに受かったのが13歳。10代からお仕事をしてきて、現在まで振り返ってみていかがですか？
私の周りにいる友だちは転職もしていますけど……。私はこの仕事しかやったことがないので、それ以外の自分があまり想像つかないんです。
仕事の選択肢を増やしたくて大学にも進学しましたが、やっぱりこの仕事が楽しいし、やめるという考えを持ったこともなくて。「こんな楽しいことを仕事にしていていいんだろうか？」という逆の意味での不安はずっとあります。
もちろん楽しい分、苦しいこともたくさんありますが、それがまた楽しいといいますか。周りにも恵まれて良い環境でお仕事させてもらっているので、本当にありがたいですよね。
――芸能活動を始めたばかりのときは、地元の名古屋から仕事の際に東京に来る生活を送られていたと思います。寂しさとかはありましたか？
いや、ワクワクしかなかったです！ 子どものときから、幼稚園のバスに乗ってみんなはママと離れたくなくて泣いているのに、私はルンルンで乗って見返りもしなくて、母が逆に泣くっていう（笑）。
お仕事で東京に来ているときも、母親のほうが寂しがっていました。心配の電話がたくさん来ても「はいはい、大丈夫だから」みたいな感じで（笑）。
――それを経て、実際に東京に上京したときの気持ちはいかがでしたか？
ステージの上に立って何かをするのが好きだったので「キラキラした世界に行けるんだ！」という気持ちで上京してきましたね。振り返ってみれば、苦しいことも楽しいこともあったんですけど、当時は夢見る少女のように楽しさしか感じていなかったと思います。
もし自分が男性として生まれていたら、どんな役に挑戦してみたい？
――本作は現在の東京で生きるリアルな男女の物語を描いています。もし、清水さんが男性だったとしたら「こんな役を演じてみたかった」というのはありますか？
小さい頃から男勝りな性格で、友だちのお母さんに「くるみちゃん、宝塚行きなよ」って言われたことがあるんです。それで「宝塚って何だろう？」と気になっていたので、親が宝塚の舞台に連れて行ってくれました。そのときに宝塚の男役の方に圧倒されて！
だから、もともとこの世界に入る前は宝塚の男役に憧れていたんです。あの大きな羽根をつけて階段を降りてみたかった……！
――そうだったんですね。ちなみに、「こんな役やってみたかった」と思う役柄やキャラクター像はありますか？
もし私が男の子として生まれていたら、ミュージカル『ニュージーズ』に出演してみたかったです。ブロードウェイで実際に観たときもう感動しちゃって、出待ちしてサインをもらったほど。
そのときのポスターを今でも家に飾ってあるんですけど、今までで一番心を揺さぶられた舞台だったので、もし自分が男の子だったらやりたかったですね。
かっこいいし、ワクワクするし、音楽も全部が素敵で！ 女の子の役もありますけど、あれはやっぱり新聞を販売する少年たちのニュージーズ側で出たいですね。
「悩んだら悩んだだけ、答えがちゃんと見つかる」
――ここまで清水さんとお話ししてみて、ポジティブで芯の強い女性という印象を受けました。そんな清水さんは壁にぶち当たったとき、どんなふうに乗り越えてきたのでしょうか？
苦しいのは、そのときだけじゃないですか。この苦しさが永遠に続くわけではないので、「これをどう笑い話に変えようか？」と思いながら過ごしています。だから、苦しくても落ち込みすぎないですね。
――今だけだから、と捉えられるんですね。
苦しくても、どん底まで悩めるなら悩み続けたいです。悩んだら悩んだだけ、答えがちゃんと見つかるじゃないですか。結果がちゃんと待っているから、そこにたどり着くまでにもがいて、そこを通り切ったら笑い話に変えたいなと思っています。
――逆に、壁がない人生もつまらないですよね。
そうですね。私の人生、壁は沢山ありました。挫折もたくさんあるし、スランプに陥ったこともあります。でも毎回落ち込んでいたらやっていけないので、自然と強くなりました。
やっぱりこのお仕事をやっていると強くなる気がします。今では精神的にもめちゃくちゃタフだと思います。
――元々そういう気質もありながら、この世界に入ってより？
そうだと思います。今回もまた何か壁にぶつかることがあるかもしれないけれど……いや、絶対あります。それでも頑張って乗り越えていきたいですね。
――最後に、作品を楽しみにされている方にメッセージをいただければと思います。
リアルとエロス。きっと女性のお客さまがたくさん観にいらっしゃると思うので、女性を誘惑してしまえるくらいの魅力を出せるよう、稽古を頑張って役者としても精進したいと思っています。
脚本が面白いので、きっと楽しんでいただける作品になると思います。ぜひ観にいらしてくださいね！
取材・文：矢内あや
Photo：梁瀬玉実
公演概要
PARCO PRODUCE 2024 『東京輪舞』
原作：アルトゥル・シュニッツラー
作：山本卓卓
演出・美術：杉原邦生
出演：髙木雄也 清水くるみ
東京公演：
2024年3月10日(日) ～ 2024年3月28日(木)
PARCO劇場（渋谷PARCO 8F）
福岡公演：
2024年4月5日(金) ～ 2024年4月6日(土)
久留米シティプラザ ザ・グランドホール
大阪公演：
2024年4月12日(金) ～ 2024年4月15日(月)
森ノ宮ピロティホール
広島公演：
2024年4月19日(金)13:30開演、18:00開演
広島上野学園ホール
企画・製作：株式会社パルコ
公式サイト ：https://stage.parco.jp/program/tokyoronde
お問い合わせ：パルコステージ 03-3477-5858
https://stage.parco.jp/
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