有澤樟太郎インタビュー『10th Anniversary Concert ～ARIPA!! 2025～』「“応援してきてよかった”と思っていただける時間にしたい」（後編）

2025.10.18

INTERVIEW

『ジョジョの奇妙な冒険ファントムブラッド』、『キンキーブーツ』など、話題作の主演を次々務め、今やミュージカル界に欠かせないスターとして大躍進中の有澤樟太郎さん。

そんな彼の初コンサートにして、デビュー10周年記念となる『有澤樟太郎 10th Anniversary Concert 〜ARIPA!! 2025〜』が10月18日より兵庫、東京にて開催されます。

10周年を共に祝うのは、東啓介さん（10月18日）、牧島輝さん（24日）、阪本奨悟さん（25日昼）、三浦宏規さん（25日夜）、松下優也さん（26日）と、豪華ゲストが揃いました。

THEATER GIRLは、有澤樟太郎さんにインタビュー。後編では、これまでの活動で「ターニングポイントだと感じた瞬間」や本格的にミュージカルの世界に足を踏み入れた大きなきっかけ、11年目以降に向けての目標や決意をお聞きしました。

インタビュー前編はこちら

一つひとつの作品から刺激をもらいながら、少しずつ掴んできた

――デビュー10周年という節目を迎えましたが、ご自身の中で「ここがターニングポイントだった」と感じる瞬間はありますか？

明確に「この瞬間に大きく跳ねた」という出来事はあまりなく、どちらかといえば、一つひとつの作品から刺激をもらいながら、少しずつ掴んできた感覚です。そういう意味では、ターニングポイントは数多くあったと思います。上京したタイミングもそうですし、ある舞台に立ったことを転機として語ったこともあります。

ただ、あえてひとつ挙げるとすれば「誰かに求められる」という経験です。ターニングポイントとして、自分から発信することよりも、人から与えていただいたものの方が大きかった気がします。普段の生活でも人に必要とされる場面はありますが、この仕事では「あなたに任せたい」と言葉にしていただけるので、それが大きなやりがいにつながりました。

その中でも主演やタイトルロールを任せてもらえたのは、本当に大きな出来事でした。特に『ジョジョの奇妙な冒険ファントムブラッド』の主演に決まったときのことは、今でも鮮明に覚えています。最初に「帝劇作品のオファーが来ている」と言われて、自分ができそうな役をいろいろと想像していたんです。すると次に「ジョジョ役で話が来ている」と聞いて、まさか自分にその役が回ってくるとは思っていなかったので本当に驚きました。その後、正式に「有澤さんで行きたい」と連絡をいただき、帝劇で主演を任せてもらえることになった瞬間は、本当に痺れました。

それまでの僕は、人を支えるポジションにいることが多かったので、あの経験は間違いなく大きなターニングポイントになったと思います。

――『ジョジョの奇妙な冒険ファントムブラッド』で主演を務めた経験が大きなターニングポイントになったのですね。最近は、主演を務める機会も増えてきましたね。

まだまだ慣れるという感覚はありませんが、やはり任せてもらえるのはすごくうれしいことです。ただ、主演を務めるということは、成功も失敗も背負うことになるので、責任の重さは強く感じます。その分、「自分自身のこと」以上に「作品全体のこと」を考えるようになりました。

例えば、ミュージカル『ヒーロー』で“ヒーロー”役を務めたときは、日本初演の作品で、しかも単独主演を任せていただいたので。舞台の出来によって作品の評価が決まってしまうことになるという、強いプレッシャーがありました。

主演というのは、自分だけが頑張れば良いわけではなく、あくまで「作品を良くしたい」という思いが一番にあるべきだと思っています。それは僕が作品に携わる上で大切にしていることです。

もちろん、お客さまの中には僕自身を目当てに観に来てくださる方もいらっしゃいますし、それぞれの楽しみ方があると思っています。ただ最終的には、作品そのものを好きになっていただきたいんです。何度も観劇したいと思っていただけるのは、やはり作品自体が面白いからこそ。だからこそ「作品を観てもらいたい」という気持ちが一番強いですね。

ミュージカルの世界に足を踏み入れる大きなきっかけとは

――近年、主演作もどんどん増え、ミュージカル界での活躍が目覚ましいですが、本格的に「ミュージカルをやっていこう」と思ったきっかけはどんなことだったのでしょうか？

最初に本格的にミュージカルに携わったのは『ウエスト・サイド・ストーリー』でした。残念ながら公演はコロナ禍で中止になってしまいましたが、僕にとっては、ミュージカルの世界に足を踏み入れる大きなきっかけになりました。

当初は「ミュージカルは圧倒的な歌唱力やダンス力といったスキルが求められる世界だ」と思い込んでいましたし、そういうイメージを持っている方も多いと思います。けれど実際に稽古に取り組んでみると、結局は“お芝居”なんだと気づいたんです。歌やダンスはもちろん大切ですが、芝居と結びついていなければ、ただ上手いだけで終わってしまう。ダンスも歌もすべては表現なんだと気づいて。その発見がとてもうれしかったです。

「自分にも挑戦できる場所がある」と感じてから、さまざまなミュージカル作品に出演する中で、その思いはますます強くなっていきました。評価されるのは歌やダンスの技術だけではなく、人柄といった部分も大切にされる世界なのだと知り、改めて「この道で続けていきたい」と思えたんです。

「カッコよく歌える」ことを目指していきたい

――今後挑戦してみたい役柄や、歌ってみたい楽曲はありますか？

自分のこれまでのセットリストを振り返ると、実は“歌い上げる曲”が少ないなと気づいたんです。芝居の中で歌う曲が多く、特にお芝居の合間に挟まれるような楽曲が中心だったので、『キンキーブーツ』の「Soul of a Man」のようなしっかり歌い上げるナンバーにもっと挑戦してみたいですね。

歌いたい曲は本当にたくさんありますが、普段聴いている音楽の影響もあって、リズムが効いていて“カッコいい”と感じる曲に特に惹かれます。トレーニングを重ねる中で声もだいぶ出るようになってきましたし、歌唱力のある方がたくさんいらっしゃるので、自分も「ただ声を出す」だけではなく、「カッコよく歌える」ことを目指していきたいです。

それでこそ優也さんはグルーヴ感が本当にすごいですし、spiさんと『ジャージー・ボーイズ』でご一緒したときにも感じましたが、流れている音楽そのものが違うんだろうなと。同じ曲を聴いても、きっと聴こえ方や感じ方がまったく違うんですよね。自分もそんな風に歌えるようになりたいと、常に思っています。

まだまだ足りない」と常に感じている

――これまでの活動を振り返って、どんなところがご自身の“強み”や“武器”だと感じていらっしゃいますか？

自分で感じるのは、ハードルを高く設定しているところですね。「まだまだ足りない」と常に感じているので、慢心せずに取り組めているのではないかと思います。

それから、人が好きなことも大きな強みだと思います。といっても「誰とでも仲良くしたい」という意味ではなく、人そのものに興味があるんです。その気持ちは芝居にも直結している気がします。相手に興味を持てるということは、相手を受け入れられるということですし、それは役を演じるうえでも大切なことだと思うので。

どんな役でも必ず“人間らしさ”はにじみ出るものなので、常にそこを大事にしてきました。「人間らしさを表現できること」、それが自分の強みであり長所だと感じています。

――今後、11年目以降に向けての目標や決意についてもお聞かせいただけますか。

僕は19歳でデビューして、今年で30歳になりました。周りの方々からは「30代は楽しいよ」とよく言われるのですが、正直「本当にそうなのかな？」と思う部分もあります（笑）。ただ、20代はあまり深く考えずに楽しめた時間だったので、30代はもっと考えることが増えるのだろうと感じています。それも含めて、未知の世界として楽しみです。

役者としては、年齢を重ねることで新しく挑戦できる役が増えていく一方で、学生役のように少しずつ演じられなくなる役もあるのかなと。ただ、それもまた一つの魅力ですし、まだまだ出会える役はたくさんあるはずです。これからも一つの役にとどまらず、さまざまな役に挑み、多くの役者さんや演出家、監督の方々とご一緒できる時間を大切にしていきたいです。

芸を磨くうえで一番大切なのは“人との出会い”や“ご縁”だと思っているので、これからも一歩一歩進みながら、その出会いを大切にしていきたいと思います。

――最後に、コンサートを楽しみにしている皆さまへメッセージをお願いします。

想像以上に楽しみにしてくださっている方が多いようで、ありがたいことにチケットのお申し込みが予想を超え、追加公演も決まりました。3年間イベントを行っていなかったこともあり、「もしかしたら皆さんに忘れられてしまったのでは」と不安に思う瞬間もあったのですが、この反響を受けて、本当に待っていてくださったのだと実感し、とても励みになっています。

僕は舞台に立つ役者として作品を届けることを一番に考えていますが、今回のように一人で挑むイベントを楽しみにしていただけていることも、本当にうれしいです。応援してくださる皆さんに「この人を応援してきてよかった」と思っていただける時間にしたいですし、同時に、常に大切にしている「作品を楽しんでいただきたい」という思いも融合させたいと思っています。ぜひ、楽しむ気持ちだけを持って会場へお越しいただけたらうれしいです。