竹中直人×倉持裕×生瀬勝久インタビュー 『マイクロバスと安定』「“とんでもない芝居”が起こる予感しかしません」（後編）
2025年11月8日(土)より東京・本多劇場を皮切りに、竹生企画第四弾 『マイクロバスと安定』が上演されます。
本作は、竹中直人と生瀬勝久の演劇ユニット・竹生企画の第四弾公演。屈指の超個性派俳優でありクリエイターでもある二人が、「一緒に芝居づくりを」と竹中が熱望した倉持裕を作・演出に迎え2011年に始動した。前作から7年ぶりとなる本作では、“演劇の聖地”下北沢・本多劇場にて上演されます。
そして共演者には毎回、二人がぜひ舞台で共演してみたい俳優たちを迎えるという趣向。今回集結したのは飯豊まりえさん、戸塚純貴さん、サリngROCKさん、松浦りょうさん、浜野謙太さんと、個性豊かな共演陣が揃いました。
THEATER GIRLは、竹中直人さん、作・演出：倉持裕さん、生瀬勝久さんにインタビュー。後編では、倉持さんが手掛ける作品の魅力や初めて舞台を観る方へのメッセージ、本作にちなみ「3年後に地球が滅亡するとしたら……⁉」という質問にもお答えいただきました。
どうしてこんな発想が出てくるんだろう
――竹中さん、生瀬さんは、倉持さんの作品づくりをこれまで3作ご一緒されてきて、どんな魅力を感じていらっしゃいますか？
生瀬：倉持さんの描く“シチュエーションと人間関係がかけ離れているというのは、4作通じて言えることだと思います。例えば、普通“浪人生たちの集まり”といった設定だとしたら、緻密な作品を書くと思うのですが、そこにとんでもないシチュエーションを持ち込んでくる（笑）。竹中企画は特にそれが顕著で。倉持さんって普段はとても穏やかで常識的な方なのに、どうしてこんな発想が出てくるんだろうと思いますね。
竹中：稽古場の空気がすごくいいです。倉持さんの演出する姿がとても好きです。何度も繰り返し稽古をしていくうちに、心の中で何かがうごめいてくる。その感覚を、自分の中でバランスを取りながら探っていく過程がすごく好きです。
答えがどこにもない。言葉では説明できない何かがそこにある。それを稽古の中で感じてゆく。そんな日々が苦しく面白い。それが、倉持さんの演出する舞台の一番の魅力ですね。
「3年後に地球が滅亡する」としたら……⁉
――本作は「3年後に地球が滅亡する」という物語ですが、もしご自身が同じ状況になったとしたら、どのように生きると思いますか？
生瀬：僕はまず、「3年後に地球が滅亡する」ということ自体を信じないと思いますね。この世に“絶対”はないと思っているので。だから、普段通りに日常を生きると思います。僕にとっての日常は、“続いていくもの”というより、“いつ終わってもおかしくないもの”。明日、突然なくなるかもしれないという感覚で生きているので、それが僕にとっての普通なんです。
倉持：僕も、基本的には今まで通りに生きたいと思います。ただ、「3年後に滅亡する」と分かっている状態ってどうなんだろうと考えますね。たとえば、“あと3年しかない”と分かったら、人って急に老けるのではないかなと（笑）。今より平均寿命が短かった昔の人って現代人よりも老けていたりするじゃないですか。今より急いで歳をとるといいますか。だからあと3年で終わると思うと、たとえば１年で10歳くらい歳を取っていくような感覚になるのかもしれないな、なんて思います。
竹中：それを考えたら怖いですね。今、昔の映画を見ると、大学生が“おじさん”に見えますからね（笑）。今の方が全然若いですよね。だから倉持さんの言うとおり、3年後となったら急にみんな老け出すんじゃないかなって。だから、「あと3年で滅亡する」と言われたら、本能むき出しになっちゃいそうですね。ただただ生かされていたんたな…なんて悟る事が出来たら良いですが…。
人生は常に後悔の連続
――本作は「二人の男性の間に溝が生まれてしまう」という物語ですが、「今思えば、あの時こうしていればよかった」と感じるような、後悔や人との溝にまつわる経験はありますか？
竹中：人生は常に後悔の連続です。僕は毎日後悔しています。ほんの一言で人を傷つけてしまったり、誤解を生んでしまったり。
生瀬：僕は、あまり他人と深い溝ができることがないんです。というのも、そこまで親密にならないタイプなんですよ。だから、人を信じすぎて裏切られるようなこともない。その代わりに、勘違いで人を見てしまう癖があるんです。何気ない一言がずっと気になったり、「あの人、苦手だな」と思い込んだり。でも何年か経って話してみたら、「あれ、すごくいい人じゃないか」って気づくことがよくあります。
倉持：そうやって誤解してしまっていた時のことを、後々後悔したりされるのですか？
生瀬：やっぱりその時期の自分の態度を思い返すと、「なんでもう少し理解してあげなかったんだろう」と反省することもありました。本当は人を嫌いになるなんて、あまり意味のないことなんですよね。
竹中：相手の状況を知らないまま、一言で判断してしまうことは多いですものね。
――舞台の現場でもそうした経験はありますか？
竹中：演劇は特に、その人の人間性が如実に出るんです。映画みたいに「カット！オッケー！」で終わらない。毎日、同じ空間で常に同じ人間と顔を合わせますからね。
生瀬：本当にそう。だからこそ、溝って難しいんです。
竹中：野田秀樹さんに初めて「一緒に舞台をやりませんか」と言われた時、「絶対に野田さんとは合わないんじゃないか」と思ったんです。『Q』という作品をやった時ですね。ワークショップ形式が本当に苦手で、どう演じていいかわからなくてね。どんどん痩せていって、友達に「病気なんじゃないか」と心配されるくらい（笑）。でも、そこからなんと三度も一緒にやっているんです。すごいことですよこれは。
不思議ですよね。「絶対合わない」と思っていたのに、なぜかまた一緒にやっている。最初は本当につらかったのに、気づいたら野田さんと時間が合えば一緒に飲んでる（笑）。
倉持：それは本当にすごいことです。野田さんが竹中さんを呼ぼうと思ったことも、そしてそれに応える竹中さんも、どちらもすごいですね。
何も予習せずに来てほしい
――今回、初めて劇場に足を運ぶ方やお芝居そのものを初めてご覧になる方に向けて、見どころをお聞かせいただけますか。
生瀬：僕自身、初めて演劇を観たときの衝撃が、この世界を目指すきっかけになったので。それくらい演劇との出会いは人生の転機でした。
今回の『竹生企画』を初めて観てくださる方にとって、それが同じような出会いになるかどうかは分かりません。観る人の気分や体調、その日のタイミングによっても印象は変わると思うので。でも、もし誰かにとってその“きっかけ”になれるなら、とてもうれしいです。だからこそ、僕たちは本多劇場という空間に一つの世界を丁寧に作り上げていきたいと思っています。
それから、初めてお芝居を観る方におすすめしたいのは、「何も予習せずに来てほしい」ということです。作品の内容や登場人物の関係性など、事前に知る必要はありません。下北沢の駅を降りて、本多劇場まで歩いて、そこで観て帰る——その一連の時間を丸ごと楽しんでもらえたらうれしいです。
倉持：本当にその通りだと思います。何も考えずに観るのが一番です。初めてお芝居を観る方ほど、「どんな話なんだろう」とか「今のセリフはどういう意味なんだろう」と考えてしまうかもしれまんが、出来ればそんなふうに分析しようとせず、ただ“感じる”だけでいいんです。
目の前で起きていることをそのまま受け取ってほしい。『竹生企画』の舞台はお客さんに話しかけるような演出はなく、ただ俳優たちが舞台上で淡々と生きているので。観客を意識せず、堂々とその世界を生きる姿って、なにやら感動的なんですよね。なので、目の前で起きていることにただ反応していただければいいと思います。
竹中：あとはやっぱり“顔”ですよ。このビジュアルを見てください。今回のキャストが集まっただけで、もうそれだけで本多劇場の空間が成立してしまう。独特で、とんでもない面々がそろいました。この七人の顔が並んでいる光景だけでも、観る価値があると思います。
――それでは最後に、公演を楽しみにしている皆様へメッセージをお願いします。
生瀬：これまで3回やってきましたが、楽しんでいただけた方にとってはものすごく楽しい作品だと思います。苦手な方は来てくださらなくてもよいのですが（笑）、僕らがやっていることに興味を持ってくださる方、新しいお客様にもぜひ劇場に足を運んでいただきたいです。下北沢は本当に素敵な街ですし、ぜひ演劇に触れてもらえるきっかけになればうれしいです。
倉持：本多劇場という空間は、お客様との距離がとても近くて、いい意味で実際よりも狭く感じられる稀有な劇場です。そんな密な空間で、竹中さんと生瀬さんが真正面からぶつかり合う芝居を見られるのは『竹生企画』ならではだと思います。ぜひその臨場感を楽しんでいただきたいです。
竹中：『竹生企画』が第四弾まで続けられたのは、本当にお客様のおかげです。心から感謝しています。いっしょうけんめいがんばります。ぜひ楽しみにしていてください！
取材・文：THEATER GIRL編集部
撮影：石阪大輔
公演概要
竹生企画第四弾 『マイクロバスと安定』
作・演出：倉持 裕
出演：竹中直人 生瀬勝久 飯豊まりえ 戸塚純貴 サリngROCK 松浦りょう 浜野謙太
公演期間・劇場
2025年11月8日(土)〜30日(日) 東京 下北沢 本多劇場
2025年12月5日(金)〜7日(日) 兵庫 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2025年12月10日(水) 広島 ＪＭＳアステールプラザ 大ホール
2025年12月13日(土) 熊本 市民会館シアーズホーム夢ホール
2025年12月19日(金) 盛岡 トーサイクラシックホール岩手 大ホール
2025年12月21日(日) 久慈 久慈市文化会館アンバーホール 大ホール
2025年12月23日(火) 青森 リンクステーションホール青森 大ホール
2025年12月27日(土) 長岡 長岡市立劇場 大ホール
当日引換券・当日券については公式HPをご確認ください。
https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/takenama-4
