さとうほなみ×瀬戸さおりインタビュー　舞台『剥愛』「人間のどうしようもないところと向き合う。多くの人の心に刻まれる作品になったら」（後編）

2023.10.17

INTERVIEW

2023年11月10日(金)から、東京・シアタートラムにて、舞台『剥愛』が開幕します。

本作は、脚本家・演出家の山田佳奈さんが主宰する劇団・□字ックによる新作公演。

物語の舞台は、とある片田舎の剥製工房。そこで、死んだ動物の皮を剥ぎ、内臓を取り除いて防腐処理を施し、その動物の生きていた姿に復元する剥製師をテーマに、人それぞれの正義の在り方、愛情のゆがみ、欲望、人が過ちを犯していくまでを丁寧に描きます。

キャストには、主演のさとうほなみさんをはじめ、瀬戸さおりさん、山中聡さん、岩男海史さん、柿丸美智恵さん、吉見一豊さんといった個性豊かな俳優陣が集まりました。

今回、THEAER GIRLでは、主人公である都会から片田舎へ出戻りしてくる長女・菜月を演じるさとうさん、剥製工房がある実家に暮らす寡黙な次女・栞を演じる瀬戸さんにインタビュー。

後編では、演出の山田さんとのエピソードや意気込み、作品にちなんでお二人が考える「正義」についておうかがいしてきました。インタビュー中は、お二人の仲の良さが終始見えながら、それぞれの強みにお互いが褒め合い、羨ましがる一面も。物語や役柄を真摯に理解しようとするお二人の姿勢は、本作への期待をより一層高めてくれました。

インタビュー前編はこちら

爆発的な感情を表現するシーンは、心も頭も身体も使いながら

――演出の山田佳奈さんとは、何かお話しされましたか？

さとう：私は撮影以外にも一緒に取材を受けていて、プライベートで会う機会もあるので、佳奈さんとはいろんなことをお話ししました。

佳奈さんの作品『タイトル、拒絶』でいうと、瞬間的に気持ちがバーンと爆発する演出が大好きで、「ここが好き、ここが好き、ここが好き」と具体的に挙げられるくらいなんです。それを佳奈さんにずっと演説しているんですけど（笑）、そういう感情の爆発はこの『剥愛』でも絶対起こりうると思っていて、それが今からとても楽しみです。

瀬戸：先日3人でお話ししたとき、山田さんの中にもいろいろなコンプレックスがあって、それが『剥愛』のさまざまなところに散りばめられていると感じました。

爆発的な感情が出てくる場面は、身体的にも動きを取り入れたいとおっしゃっていたので、心も頭も身体も使って作品を作っていく感じになりそうだな、と。あとは、フラットな状態で稽古場に入っていって、みんなで関係性を一から作りながらやっていきたいと今は思っています。

――特に栞には明確な爆発点がありますよね。

瀬戸：そうなんですよ。やっぱり溜めていた分、爆発も大きい。溜めていく段階は、カンパニーの皆さんからの影響も大きいと思うので、そこを一から作っていくには関係性が大事もなってくると思います。

正義のあり方が多面的な現代。お二人が考える「正義」とは？

――ここからは作品にちなんだお話を伺わせてください。本作は、登場人物それぞれの正義がテーマの一つにもなっていますが、お二人が考える「正義」とはなんでしょうか？

瀬戸：正義……。難しいですけれど、正義や悪って、見方や文化によっても違ってくるから、本当に人によってさまざまだなと最近は思っています。

――ちなみに、瀬戸さんの個人的な正義はありますか？

瀬戸：それでもやっぱり絶対的なものはないのかな、と最近は考えています。この前、山田さんとも「善悪の判断って難しいよね」という話をしていて、自分でもいろいろと考えてみたのですが、やっぱり絶対はないかな。状況や環境によっても変わってくるし、「これ！」というのは難しいかも。

――もしかしたら、柔軟であることが、瀬戸さんご自身の中で大事にしていることなんですかね？

瀬戸：どう……（笑）？　（さとうさんに聞く）

さとう：いや、素晴らしい答えだと思います（笑）。

瀬戸：難しいよね……難しい。

さとう：私の中では、自分の心が動くといいますか、自分が楽しいと思えることしかできない。それが自分にとって正義であり、ポリシーでもあるんですけど。でもやっぱりさおりちゃんが言ったように人それぞれなので、それが悪だと感じる人もいるだろうし……。私の中ではそれがいいと思って生きてきているところがあるので、だからもう本当に個々だよなという感じはしますね。

――誰しもが、誰かにとってはいい人であり、誰かにとっては悪者であり……。

さとう：そうですね。私のことで言えば、「自分がしたいことだけできていると思うなよ」とか、「君のやり方は間違ってる」と思う人もいるだろうし。

だから、なんていうんだろう。本当に悪いことは、やっぱり法が決めているものでもあったりするから、本当に悪いことは本当に悪いことだけど、それでも人の意見を全く取り入れずに生きるのも不可能だったりすると思うので。そういうのは本当に……さおりちゃんみたいに柔軟に生きていきたいなと思いますね。

瀬戸：私は、ほなみちゃんが羨ましいよ。

さとう：なんでよ（笑）！

瀬戸：私はすぐ流されるから。すーって（笑）。

さとう：きっとそれがいいのよ。

瀬戸：「この意見もいいね」「そうかそうか、そういう意見もあるのか」みたいな（笑）。

さとう：素晴らしい柔軟性じゃないか。

舞台で大事にしたいのは、ライブ感と意気込みすぎない気持ち

――お二人はまさに姉妹のようといいますか、違った持ち味で補い合っているような関係性に感じました。舞台のお仕事でご自身が大事にしていることについて、お伺いしてもいいですか？

さとう：舞台だからこそあるのは、やっぱりライブ感ですよね。それぞれ受け手、答え手がいて、それは日によっても回によっても違うものだと思います。

もちろん、映像作品でもそういう側面はありますが、実際に映るカットは一つだけ。舞台は回によって違うものが生まれたり、違うものが死んでいったりするので、そこが私自身、観ていて楽しいと思うところでもあります。自分が舞台に立つときも、そのライブ感を大切にしたいと思いながら、毎回やっていますね。

――確かにお客さまによっても、見ているところが違ったりしますよね。

さとう：自由ですからね、楽しいですよね。

瀬戸：舞台は毎公演同じでなくてよくて、進化し続けていい。舞台に上がるときは積み重ねてきたものがすでにあるので、あとは捨てて出るだけという気持ちでいつも臨んでいます。

――その場限りのものを、ですね。

瀬戸：あまり「これしなきゃ、あれしなきゃ」とは考えずに、本番までに稽古も積み重ねてきていますし、共演者との信頼関係もすでにあるので、舞台上で起こったことを大事に、ハプニングも含めて（笑）。その場で作っていくものだと思っているから、あまり意気込み過ぎず、考えすぎずに立っている感じがあります。

人間のどうしようもないところと向き合う。心に刻まれる作品になったら

――最後に、本作への意気込みをお願いできますでしょうか。

さとう：『剥愛』に出会ったときの心のえぐられ具合といいますか、私にとって心に刻まれる作品だったので、観に来てくれた方にも同じ気持ちになってもらえる作品になったらいいなと思います。演出の山田佳奈さんも、個性爆発キャストも、みんな違った個性の人たちが集まっているので、とても面白い作品になるのではないかと心から思います。ぜひ、観に来ていただけたらうれしいです。

瀬戸：すでに、すさまじい作品になる予感を感じています。人間のどうしようもないところ。「こういうのが人間だよな」「こんな暗い部分も持っているよな」というものに向き合うのは怖いことではあります。

でも、この作品を観て少しでも何かもらって、「そういうところも自分なんだ」と認めてあげられたら、ちょっと楽になるだろうし、少しでも前を向けるのかなと今は思っています。まだどうなるかは分からないですけれど、とても面白い作品にはなることは間違いないと思いますので、ぜひ観に来てください。