白石隼也インタビュー 『マーク・トウェインと不思議な少年』 「不器用だけれど、なりふり構わず進んでいくマーク・トウェインの生き様を感じてほしい」(後編)
2023年9月9日(土)から、東京・新国立劇場 小劇場にて、『マーク・トウェインと不思議な少年』が開幕します。
本作は、劇作家であり演出家であるG2さんが、マーク・トウェイン自ら作家人生を賭けて描こうとした小説『不思議な少年』の世界と、トウェイン自身の人生と交錯させて描き出すオリジナルストーリーです。
『トム・ソーヤーの冒険』などの著者として知られ、アメリカでは毎年のように全集が出版されている文豪マーク・トウェイン。そんな彼が晩年に書いた小説『不思議な少年』は、16世紀のオーストリアの小村を舞台に、自らをサタンと名乗る美少年の巧みな口車に乗せられ、不思議な世界へ誘われる少年たちの物語です。人間をとことん精緻に見つめ、ペシミズム(厭世観)を全面に打ち出した作風は、読む人に衝撃を与えました。
本作の語り部であり、サム・クレメンズ(マーク・トウェインの本名)を演じるのは、別所哲也さん。小説「不思議な少年」の登場人物である少年役には平埜生成さん、サムの妻オリヴィアを演じるのは筧美和子さんなど、実力派キャストがそろいました。
THEATER GIRLでは、若き日のマーク・トウェインを演じる白石隼也さんにインタビュー。後編では、稽古を経てマーク・トウェインに対して変わった印象、本作への意気込みなどをうかがいました。8月に33歳になられた白石さん。今後自身が周りからどのように見られたいかについてもお聞きしてきたので、お楽しみに。
偉大な作家の成功の裏には、もがきながらも必死に生きる人間らしさがあった
――前編で、マーク・トウェインはもともと尊敬する作家だったというお話がありましたが、実際に今その役にチャレンジしてみて、マーク・トウェインに対して印象が変わった部分はありますか?
以前までは、彼が作るフィクションを見て「こういう人なのかな?」と想像するだけだったのですが、今回はマーク・トウェインの本名であるサム・クレメンズという人間としての彼に焦点を当てた物語になっているので、より彼の人生について知るきっかけとなりました。
アメリカには、マーク・トウェインの研究者がたくさんいて、彼に関する書物もさまざま残っているんです。それらを読んでいると、アメリカの文学界の第一人者として引っ張ってきたといいますか、存在感がある人だなと思います。
出自でいうと、彼はアメリカ西部の田舎の生まれで、さまざまな仕事を転々としながら最終的に作家として、いろんな物語を作っていく人生になった。それまでアメリカの文学界は、東部のわりと富裕層で知識のある人たちが作っていった歴史があるので、西部のミシシッピ川で遊んで育ったような子が文学者になっていくこと自体、おそらく稀だったと思うんです。
だからこそ、彼が書く自由奔放な物語を、アメリカの人たちは衝撃をもって迎え入れたんだと思います。まさに偉大な作家というイメージがありましたが、本作に取り組む中で知ったのは、彼は自身の立ち位置をもがきながらもなんとか掴み取っていたこと。それが、とても親近感の湧くキャラクターだと思いました。
――その彼が晩年、人間に対する悲観的な見方をもった小説『不思議な少年』を出版していたということですが、そういったところも本作で描かれているのでしょうか?
いえ、その点を掘り下げるというよりも彼の人生全体、創作だけではなく、作家業以外にも投資家の側面があったり、出版社を自ら立ち上げたりと、彼がどう生きてきたのかが描かれています。
作家としての苦悩、生きるうえでの苦悩、生活するうえでの葛藤……。マーク・トウェインの人生が描かれています。
「種から芽が出るという自然の摂理」に不思議さと命のありがたみを感じた
――作品にちなんだお話もうかがいたいのですが、『不思議な少年』というタイトルにちなみまして、白石さんが最近「不思議だな」と感じたことはありますか?
本当にしょうもないんですけれど、先日パクチーの種を買ってきて、それを植えたらちょっと芽が出てきました。7センチくらいまで伸びてきたんですが、種から芽が出るという自然の摂理にあらためて不思議だなと思って。
――室内で育てているんですか?
はい、室内です。エスニック料理が好きで自分でも作るのですが、パクチーを取り扱っていないスーパーもあるので入手に困るときがありまして。自分で育ててみようかなと思いました。
――やっぱり自分で育てると、その分、特別感が出ますか?
まあ、おいしく感じますね。命をいただいている気分にもなりますし。
33歳を迎えて、周りから見て少しでも「親しみやすい人」になれたら
――白石さんは8月3日に誕生日を迎えられましたが、周りから見て33歳の白石さんは、どんな自分で存在していたいですか?
僕は昔から無愛想だと言われ続けて生きてきたのですが、もういい大人になってきたので、これからは親しみやすい人になりたいですね。
――無愛想というのは、ご自身で自覚しているところなんですか……?
自分でも無愛想なんだろうな、というのはなんとなく……。これまでの人生で何千回と言われてきたので、そこはもう認識せざるをえないですね。
たぶん他の人は初対面のときや、気まずい空気になったときに、なにか無理やりにでも笑顔を頑張って作ってみるのでしょうが、そういう努力をまったくしてこなかった自負はあります(笑)。
――そこはもともとのご性格ということですよね。でも、これからの白石さんは、少し笑ってみようかなという気持ちなのでしょうか?
生まれたときからそうでしたね。だけどこれからは、ニコニコしていたいなとは思います。なかなか難しいですけれど(笑)。
上昇思考の強かったマーク・トウェインの生き様は、現代の人々にも響くものがあるはず
――最後に本公演への意気込み、お客さまに向けてメッセージをお願いします。
マーク・トウェインは、日本では『トム・ソーヤーの冒険』『ハックルベリー・フィンの冒険』『王子と乞食』など、子ども向けの児童文学で親しまれている作家ですが、晩年期には人間に対して悲観的な見方をしている本をいくつか出版しました。人間としても作家としても、現状いる自分の立ち位置に満足せずに、とても上昇的な人だったのではないかと思っています。
現在、僕が日本に住んでいて感じるのは、「より高みを目指したい」「今の生活からより良いところへ抜け出したい」といった思いを持った人と最近あまり出会わない気がしていて。たしかに今は不景気なのもあって「リスクを冒さずに現状維持で生きていければいいや」という、もちろんそれも一つの幸せになる方法ではあります。
でも、たった一度きりの人生、何かやりたいことがある、もしくは欲しいものがあるなら、突き進んでトライしてみてもいいのではないかな、と僕は思っていて。まさにマーク・トウェインは、アメリカがゴールドラッシュに沸き、一攫千金を夢見る若者が大勢いた時代に生き抜き、文学で成功を勝ち取りました。その彼の不器用だけれども、なりふり構わず突き進んでいく姿は、きっと観てくださる方にとって良い活力や刺激につながると思っています。
演出のG2さんが「僕はハリウッド映画が好きだから、どうしても脚本も演出もハリウッドナイズしちゃうんだよね」とおっしゃっていました。G2さんが表現する舞台は、まさにハリウッド映画のような、映画でいうととても細かいカット割りになっている。今回の舞台も、観ている方がそれぞれいろんなアングルを切り取って見られる飽きないお芝居になっているはずです。
特に、今の自分の生活に悶々としている人、一歩踏み出してみたいけれど勇気が出ない人に観ていただけたら、きっと何かお土産を持って帰っていただけるのではないかと思います。
取材・文:矢内あや
Photo:MANAMI
公演概要
『マーク・トウェインと不思議な少年』
原作:マーク・トウェイン「不思議な少年」「不思議な少年44号」およびマーク・トウェインの諸作品
脚本・演出:G2
出演:別所哲也 平埜生成 筧美和子 白石隼也 他
【東京公演】
2023年9月9日(土)〜24日(日)
新国立劇場 小劇場
【大阪公演】
2023年9月30(土) 17:00公演/10月1日(日) 12:00公演
COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
主催・企画・製作:フジテレビジョン
公式サイト:https://www.fushigina-shonen.jp