白石隼也インタビュー　『マーク・トウェインと不思議な少年』「不器用だけれど、なりふり構わず進んでいくマーク・トウェインの生き様を感じてほしい」（前編）

2023.09.08

INTERVIEW

2023年9月9日（土）から、東京・新国立劇場小劇場にて、『マーク・トウェインと不思議な少年』が開幕します。

本作は、劇作家であり演出家であるG2さんが、マーク・トウェイン自ら作家人生を賭けて描こうとした小説『不思議な少年』の世界と、トウェイン自身の人生と交錯させて描き出すオリジナルストーリーです。

『トム・ソーヤーの冒険』などの著者として知られ、アメリカでは毎年のように全集が出版されている文豪マーク・トウェイン。そんな彼が晩年に書いた小説『不思議な少年』は、16世紀のオーストリアの小村を舞台に、自らをサタンと名乗る美少年の巧みな口車に乗せられ、不思議な世界へ誘われる少年たちの物語です。人間をとことん精緻に見つめ、ペシミズム（厭世観）を全面に打ち出した作風は、読む人に衝撃を与えました。

本作の語り部であり、サム・クレメンズ（マーク・トウェインの本名）を演じるのは、別所哲也さん。小説「不思議な少年」の登場人物である少年役には平埜生成さん、サムの妻オリヴィアを演じるのは筧美和子さんなど、実力派キャストがそろいました。

THEATER GIRLでは、若き日のマーク・トウェインを演じる白石隼也さんにインタビュー。前編では、出演が決まったときの心境、役作りの難しさなどをうかがいました。

インタビュー後編はこちら

自分が好きな作家を演じられることに、とても光栄な気持ち

――『マーク・トウェインと不思議な少年』への出演が決まったときは、どんな心境でしたか？

マーク・トウェインは僕がもともと好きな作家でした。そのマーク・トウェインに関する題材の舞台をやるということで、どんな脚本になるのか非常に楽しみにしていましたし、マーク・トウェイン役をできることをとても光栄に思いました。

――今年7月に同じく小説『不思議な少年』を原作にした舞台『The Mysterious Stranger ザ・ミステリアス・ストレンジャー』を、白石さんが脚本・演出・出演されていましたね。

そうですね。僕が『不思議な少年』を題材にした企画を「これ、どうですか？」と提案したことをきっかけに、舞台『The Mysterious Stranger ザ・ミステリアス・ストレンジャー』の上演が決まりました。そこからの流れもあって、本作のお話をいただいたんです。

マーク・トウェインとサム・クレメンズ、同一人物を二人が演じるという挑戦

――今回は、演出を務めるG2さんのオリジナルストーリーになりますが、脚本を読んでみてどんな印象を持たれましたか？

『不思議な少年』というタイトルになってはいますが、『不思議な少年』の原作を大きく取り上げているわけではなく、どちらかというと、作者であるマーク・トウェインの人生に焦点を当てています。

その中で、『不思議な少年』に出てくるキャラクターを登場させて、作家であるマーク・トウェインと自身が書いたキャラクターが対話していく。そういった扱い方をしているので、ちょっとファンタジックな部分もありながら、マーク・トウェインの生涯を描いた作品になっています。

本作の面白みの一つとして、作者であるマーク・トウェインと彼の本名であるサム・クレメンズは同一人物なんですけれども、二つの人格がある。つまり、一人の人物を二人で演じるという演劇的な挑戦をしていまして、これがまたG2さんならではの演出だな、と思います。稽古はすごく難しいのですが、これがうまくいけば、面白い表現になるのではないかなと。

G2さんの演出は、役者の動かし方、ステージの使い方に長けている方

――お稽古にすでに入っているとうかがいましたが、G２さんの演出を受けてみていかがでしょうか？

今までにもG2さんが演出したお芝居は何本か拝見していて、舞台の使い方がとても上手いという印象がありました。ほとんど完全暗転をしていないのではないかと思うくらい、転換が滑らかなんです。役者の動かし方、ステージの使い方にも長けている方なので、とても勉強になります。

――ご自身も演出経験があるからこそ、つい演出家目線で見てしまうところもあるのでしょうか。

実際に転換に充てる時間が長いので、芝居と舞台を上手に動かすという意味で、他の演出家さんとは違うやり方をされているんです。なので、そこは一役者として参加していても気になってしまいますね。

もしかしたら、僕が7月に演出したばかりということもあって、どこかでそういう目線で見ているところもあるかもしれませんが。

別所哲也さんと同じ役を挑むにあたり、そこをどうつなぎ合わせていけるか

――現在まさに、若き日のマーク・トウェインという役に挑戦されている最中ですが、どんなところに役作りの難しさを感じますか？

別所哲也さんが演じるサム・クレメンズ（マーク・トウェインの本名）と、僕のマーク・トウェインと、二人で一つの役を作り上げているのですが、よくあるその人物の善と悪みたいな、そういうわかりやすい構造にはなっていないんです。

最初はマーク・トウェインが自分の夢に向かってなりふり構わず突き進んでいく若者という描かれ方をしているのに対して、サム・クレメンズは作家としての人生を歩みたい、と。その二人の構造が途中で入れ替わる場面もあります。

別所さんと僕で、そこをどう上手くつなぎ合わせていけるか。二人が葛藤していく様をどう表現していくか。そこが今回とても難しいトライになっています。

――共演者の別所さんとは、お稽古を一緒にされてみてどうですか？

別所さんは大らかで、心の広い方。本当に優しいですよ。同じ役をやっていることもあって、僕が「こういうふうにしたいです」と言っても、それを汲み取ってくださって「何でも好きなようにやってごらん」とおっしゃってくださる。大先輩ではありますが、変な遠慮をせずに伸び伸びとやらせてもらえているので、とても感謝しています。

以前、僕がWOWOWでショートフィルムを撮ったことがあって。別所さんが主宰している「ショートショートフィルムフェスティバル」という映画祭に、僕の作品がエントリーされたことがあって、実はそういったご縁もあるんです。