小野塚勇人インタビュー ミュージカル『ヒーロー』「Wキャストは、自分を知るいいきっかけになる」(後編)

2025年2月6日(木)、日比谷・シアタークリエにてミュージカル『ヒーロー』が開幕します。
本作は、過去にトラウマを持ちながらアメコミ漫画家を目指す主人公・ヒーローが、アメリカン・コミックに登場する憧れのHEROたちのような並外れたパワーはなくとも、家族や仲間たちとの交流や別れを通して、自分のなかにこそスーパーヒーローがいることに気づいていくという物語。気鋭の演出家・上田一豪さんが翻訳・訳詞を手掛け、新たなヒーロー像を描きます。
日本初演のオリジナルミュージカルとなる本作で主演を演じるのは、近年、数々の話題作に出演し注目を集めている有澤樟太郎さん。ヒーローの高校時代のガールフレンド・ジェーンを山下リオさんと青山なぎささんがWキャストで、ヒーローの従兄弟で親友・カークを寺西拓人さんと小野塚勇人さんがWキャストで。ヒーローとジェーンの高校時代の同級生・スーザンを宮澤佐江さんが演じます。
THEATER GIRLは、カーク役の小野塚勇人さんにインタビュー。後編では、Wキャストならではのおもしろさや、役者として大事にしていること、タイトルにちなんだお話などをお聞きしました。
自分だけじゃ発想できなかった新しいヒントをもらえる
――小野塚さんはこれまでにもWキャストの経験がありますが、難しさやおもしろさはどんなところに感じますか?
役作りをするときに引っ張られちゃうから、もう一人の方の芝居を見たくないという人もいますけど、僕はまったくないですね。“そういうパターンもあるのか。おもしろそう”とか“それ、いいっすね! 俺もやりたいな”みたいな共有もあるし。“俺のキャラだったら、こう変えられるな”とか、自分だけじゃ発想できなかった新しいヒントをもらえる感覚があるんです。
歌だったら、“そこでちゃんと音をとるの、カッコいいな”とか。ダンスだったら、“そういうポーズ、カッコいいな”“あっ、そこで回ってるのか!”とか、勉強になるじゃないですか。そういう意味でも、Wキャストであることはマイナスじゃなく、むしろプラスだととらえているので。おもしろさといえば、そういうところですね。自分一人では想像できないことがキャッチできるので、見え方が広がるし、それぞれのキャストの方向性が違えば、お客さんも観ていておもしろいんじゃないなって。今回も、そこは変わらないですね。

――小野塚さんが、役を演じる際に大事にしていることは?
役の番手やキャラクターにもよりますが、自分のポジションを一番気にするかもしれない。作品のなかでどういう立ち位置がいいのか、という。そのうえで、お芝居を引き算していったほうがいいのか、それとも足し算してみんなの盛り上げ役に徹した方がいいのかとか、というところを判断して、自分がこうしたいということよりも、演出の方や作品が自分の役に何を望んでいるかを考えます。
――そう考えるようになったきっかけはあるのでしょうか。
そうしたほうが評価されることが多いというのが、経験としてどこかで染みついたのかなぁ。たとえば僕のファンの人は、僕が何をやっても温かい反応をしてくれるじゃないですか。でも、まっさらな目で作品を観ている人には身内ネタに感じられるかもしれない。その目線を意識しないといけないなって。それを忘れなければ、笑いをとるにしても媚びにいかなくなるし。
――媚びると伝わりますよね。
そうなんですよね。くどいなーと思われたくもないし。僕はどちらかというと、役作りに関しては引き算思考なんですよ。自分で考えていったものを1回稽古で出してみて、その映像を後で見ながら“やっぱりくどいな、いらないな”と、最終的には引いてしまったり。そこのバランスは、すごく考えるかもしれないです。ただ、自分が主演の場合は、“これを受け取ってください!”みたいに強く主張することもある。その作品で求められているものによって、やることを変えるというやり方が多いですね。

――役者・小野塚勇人としてのパブリックイメージと、実際の自分とのギャップを感じることはありますか?
僕は、役に憑依みたいなことができなくて。どちらかというと、自分が持っている性格のなかから、“この役だったら、ここが共有できるかも”というふうに広げていくので、役によって全然違うと言われることはそんなにないのかな……わからないけど。たとえば、すごく真面目な役だったら、自分自身の真面目だなと思うところを探していくんですね。まったく違う人間を作っているという感覚がないので、そんなにズレは感じないですね。だから、公演が終わっても役が抜けないとかもないし。そういう人を見ると、大変そうだなと思います。
――今回、劇中でギターの演奏シーンがありますが、ギターの経験は?
ないです。まったくないので、今、毎日練習しています。でも、保険をかけるわけではないですが、カークのキャラ的にヘタでも許されると言われているので(笑)。もちろん最低ラインはクリアしないといけないですが、まぁ生モノなのでね、日によってクオリティが変わるところもあるだろうし。いい意味で緊張も利用して臨みたいなと……お楽しみにって感じですね(笑)。

人のために動ける人はスゴい
――脚本を拝読して思ったのは、人は自分のためにがんばるのには限界があり、大切な存在があるからがんばれるのかなと。
うーん、どうなんでしょうね。たぶん、“人のために生きている自分が好き”という人もいますよね。人のために生きていたら、いつか自分のいいことにつながるんじゃないか、みたいな感覚もあるじゃないですか。もちろん、恋人やパートナーだったり子どもだったり、親だったりへの無償の愛というのは絶対にあるけど。それを全員に対して向けるというのは、100%リアルではないと思うんですよね。
たとえば神社とかでお祈りするのも、自分の悩みを言葉にすることによってちょっとラクになるというか。人間って、すがったり依存したりするものがあるとラクになれるので、その感覚に近いのかなって。
――では、タイトルにちなみまして……小野塚さんにとってのヒーローとは?
なんだろう……ホントにベタですけど、困っているとき、自分を顧みずに手を差し伸べてくれる人とか? みんな、自分が生きるのに必死なわけじゃないですか。そんななかで、自分の時間を削ってでも相手のために悩める人って、ステキだなと思います。舞台のカンパニーでも、一人で悩んでいる人がいたら、ごはんに誘って話を聞いてあげる先輩とかがいらっしゃるんですよ。僕もまったくやらないわけではないけど、常に周りにアンテナを張って、人のために動ける人ってスゴいなって。そういう人こそ、みんなの思い描くヒーロー像に近いんじゃないかなと思います。
――アメコミのヒーローで好きなキャラクターはいますか?
ヴェノムと……僕、映画『アベンジャーズ』が好きなんですよ。だから、アイアンマンとか。あとは、デッドプールとか。ちょっとひねくれたダークヒーローが好きなんですよね(笑)。アイアンマンもそうじゃないですか。ちょっと素行が悪いけど、ユーモアもあって~みたいな。あっ、だから、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』も好き! 正統派より、そういうキャラクターに惹かれる傾向がありますね。

取材・文:林桃
撮影:Jumpei Yamada
公演概要
ミュージカル『ヒーロー』
【公演日程】2025 年 2 月 6 日(木)~3 月 2 日(日)
【劇場】日比谷・シアタークリエ
【チケット代金】13,000 円(全席指定・税込)
【スタッフ】
脚本 アーロン・ティーレン
作曲・作詞 マイケル・マーラー
翻訳・訳詞・演出 上田一豪
ヒーロー・バトウスキー
有澤樟太郎
ジェーン・フォスター
山下リオ/青山なぎさ(W キャスト)
カーク
寺西拓人/小野塚勇人(W キャスト)
スーザン・シュミッティ
宮澤佐江
ネイト
吉田日向/木村来士(W キャスト)
アル・バトウスキー
佐藤正宏
テッド 田村良太 カイル 西郷 豊
木暮真⼀郎 高倉理子 髙橋莉湖
製作 東宝