• HOME
  • topic
  • REPORT
  • ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』観劇レポート!「ここでしか得られない心の栄養がある」

ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』観劇レポート!「ここでしか得られない心の栄養がある」

REPORT

これぞ、笑って泣けて愛に満ち溢れるハッピーミュージカル!

そんな代名詞がこれでもかというほどぴったりな作品『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』が、現在絶賛公演中だ。今回は、本作の観劇レポートをお届けする。

※作品の内容に触れています。

冒頭の「ワン・ツー・エンッ!」。

ミュージカルファンの間で“踊る指揮者・塩ちゃん”と称される、塩田明弘の掛け声が会場に響く。

その合図でオーケストラの生演奏とともに、客席が手拍手でリズムをとりだした。一体感と高揚感。これらが同時に押し寄せ、胸躍らずにはいられない。思わず前のめりになってしまいそうな上半身をぐっと抑え、意識的に背もたれに背中を押し付ける。それほど、ワクワクが抑えきれない。

物語の舞台は、1977年のディスコブームに沸き立つアメリカ・フィラデルフィア。スター歌手を夢見る主人公デロリス(森公美子/朝夏まなと)が、登場からソウルフルな歌声を披露していた。

どうやらここはオーディション会場。最初のナンバー『天国へ行かせて(ナイトクラブver.)』は、「スターになって成功してやる!」というデロリスの気概を感じる一曲だ。

しかし、愛人のカーティス(大澄賢也)はオーディションの不合格を言い渡し、デロリスをテキトーになだめる。さらに「自分なしでデロリスが成功できるはずもない」とバカにするし、挙げ句の果てには、本妻のコートをクリスマスプレゼントとしてデロリスに渡してきた。女としても人としてもナメられたものだ、と我慢の限界を感じるデロリス。

「カーティスなんて必要ない! 自分自身で世に出てみせるわ!」

今度ばかりはカーティスと離れる決意をしたデロリスだったが、その晩、偶然にも殺人現場を目撃してしまう。なんと、その殺人を犯したのはカーティス! 思わぬ形で事件の目撃者となったデロリスは、カーティス一行から命を狙われる羽目に……。世はクリスマスだというのに、踏んだり蹴ったりの一日である。

日本初演から足掛け10年に及んでデロリスを演じてきた森公美子。そのパワフルな歌声と天真爛漫なキャラクターを思い浮かべる人も多いだろう。デロリスは、そんな森の魅力を存分に味わえる役柄である。

写真提供/東宝演劇部

時折、チャーミングなアドリブで会場を笑わせてくれるので、“森公美子”という存在が透けて見える瞬間はあるのだが、一方で、それによる違和感は一切ないのがなんとも不思議である。芯からパワフルでダイナミックなデロリスに、客席は幾度となく元気をもらえるし、デロリスを通じて森自身のことも丸ごと愛おしく感じてしまう。まさに唯一無二の魅力だ。

Wキャストの朝夏まなとは、長い手脚がとってもよく映える。特に、登場時の赤いミニワンピースと紫のロングブーツ姿は、オーディションのシーンであるにも関わらず、キレキレのダンス、エネルギッシュな歌声、キラキラなオーラで圧倒的な存在感を放っていた。

太陽のように明るい笑顔が印象的な朝夏が演じるデロリスは、自分の感情に正直でまっすぐ。成長することを恐れないので、根底に揺るがない強さがあるようにも見て取れた。シスターたちに出会い、ともに理解し合っていく過程を、丁寧に緻密に描いていたため、観ている側も共感しやすいデロリスだったように思う。

クリスマスの夜なのにカーティスから追われ、行き場を失ったデロリスを匿う場所として、警官・エディ(石井一孝/廣瀬友祐)が案内したのは教会だった。デロリスとエディは高校時代の同級生。当時、明るいデロリスに憧れていながらもアプローチする勇気のなかったエディの姿を、今の彼から想像できてしまうのが面白い。

石井一孝演じるエディは、大らかさと優しさを持ち合わせていながらも、どことなく頼りない雰囲気がかわいらしかった。ソロのミディアムナンバー『いつか、あいつになってやる』では、主役にいつもなれないエディの哀愁を感じ、「エディがんばれ」とつい応援したくなる。ポップスターのようにかっこよくなりたい理想の自分と、“汗っかきエディ”と周りから揶揄される現実の自分……。その間(はざま)で揺れ動く複雑な心情をしっとりと歌い上げていた。

写真提供/東宝演劇部

今回、本作初参加のエディ役・廣瀬友祐。外見だけ見ると、自身が持つスタイリッシュさを隠し切れていない感(?)はあるのだが、芝居でその印象を見事打ち砕いている。真面目で良い人、だけどドジでツッコミどころあり。外見と内面の絶妙なバランスが「こういう人いるよね」と思わせてくれて逆にリアルだった。最後はデロリスを守るためかっこいい姿を見せてくれるのだが、これからも無理に背伸びはしないエディであってほしい、なんて思ってしまう。

目に見える成功を追い求めてきたデロリスにとって、姿形のない神に仕えるシスターたちは、今まで培ってきた価値観とは真逆の世界に生きる人々だ。それはシスターたちにとってもそうで、最初は互いの違いに戸惑う。

一幕ラストシーンでは、デロリスに歌の指導を受けながら、シスターたちが聖歌隊の練習をする過程を描く。最初は“言葉にできない”ほど、歌が下手なシスターたちだったが、どんどん力強くなっていく歌声。それと比例し、水を得た魚のように表情も生き生きとしていく。そんな彼女たちに歌を教える喜びを感じ、指導にも熱が入るデロリス。アラン・メンケンの素晴らしい楽曲とともに、彼女たちが全身で歌の楽しさを表現する姿は、自然と胸に熱いものがこみ上げてくる。この感動は理屈ではない。ミュージカルや音楽の醍醐味を肌で感じられるシーンだ。

マフィアのボスで、デロリスを狙うカーティスを演じた大澄賢也は、ダンディーな色気と同時に、裏社会のボスらしい威厳と脅威を感じさせる。そんなカーティスに従えるTJ役の泉見洋平、ジョーイ役のKENTARO、パブロ役の林翔太の三人組は、悪役といえども抜け目があって憎めないキャラクターだ。もちろん、歌もダンスもバチバチに決めてくれてかっこいいのだが、良い意味で三者三様の“小物感”があってそれぞれの芸の細かさを感じずにはいられない。

シスター・メアリー・ロバートを演じるのが夢だったという梅田彩佳。今まで誰かに反抗した経験もなく、外の世界を知らず教会の中だけで生きてきたメアリー・ロバートを可憐に演じた。デロリスとの出会いをきっかけに、最初は引っ込み思案だったメアリー・ロバートにもだんだんと自我が芽生え出す。「自分の気持ちに嘘をつきたくない」と、心の叫びを強く訴えるナンバー『私が生きてこなかった人生』では、デロリスからもらった紫のブーツを小さな身体で大事そうに抱えて歌う姿がとても愛らしかった。

修道院長を演じた鳳蘭は、自分とはかけ離れた異質さゆえに、自由奔放なデロリスを受け入れられず苦悩する姿を、格式ある歌声と佇まいをもって繊細に演じた。神に仕える身でありながら、どこか人間らしさを捨てきれていない修道院長。それがデロリスとの台詞の応酬にも表れていて、くすっと笑えるシーンも多い。

写真提供/東宝演劇部

教会の運営資金確保に翻弄するオハラ神父(太川陽介)。経営難の教会を救うため、デロリスの歌の力を積極的に借りていくのだが、そばで見守っていながらも教会内のことに関してはどこかドライで他人事な感じがなんとも味わい深い。それが常に悩み悶える修道院長との良いコントラストになっていたように思える。

さらに、春風ひとみ演じるシスター・メアリー・ラザールスが軽快にラップをこなすシーンや、柳本奈都子演じるちょっとお調子者っぽい性格が垣間見えるシスター・メアリー・パトリックの芝居も、本作に彩りを添えていた。

終盤にかけて、感動と幸福感が大渋滞する本作。カーテンコールでは、出演者と観客が一体となって歌い踊れる場面があるので、ここは恥ずかしがったら逆に損だ。キャストと一緒に踊って盛り上がる、その一択のみ!

写真提供/東宝演劇部

正反対な者同士が、互いを尊重し理解し合う。言うは易し行うは難しとは言葉通りで、現代社会を生きる私たちもそれはよく知っていることであろう。けれど、この作品において、彼女たち(デロリスとシスターたち)は本物の愛を実現させる。とにかく多幸感に満ち溢れた作品であることは間違いないが、人間としての愛を築くその過程から学べることもきっと多いはずだ。

そして、この作品からでしか得られない“何か”がある気がしている。その“何か”は観た人それぞれが感じる部分だとは思うのだが、共通しているのはきっと心の栄養ではないだろうか。作中でデロリスが愛を知り、自分も大事なものを愛そうとし、それに応えるシスターたちの姿……。それはもう、即効性のあるビタミン剤のように抜群に効く。

「忙しい日々に疲れてしまった」「最近なんだか気分が晴れない」。

そんな気持ちを抱えているとするならば、本作からぜひ栄養をもらいに行ってほしい。(もちろん元気な人も!)彼女たちが両手を広げて会場で待っているはずだ。ここには誰をも受け入れてくれる愛と希望があると信じている。

写真提供/東宝演劇部

文・撮影(※):矢内あや

※Wキャスト デロリス役 朝夏まなと エディ役 廣瀬友祐

ミュージカル『天使にラブ・ソングを ~シスター・アクト~』取材会レポートはこちら

公演概要

『天使にラブソングを~シスター・アクト~』

【東京公演】
2023年11月5日(日)~11月29日(水)
東急シアターオーブ

【大阪公演】
2023年12月6日(水)~12月10日(日)
梅田芸術劇場 メインホール

【静岡公演】
2023年12月23日(土)・12月24日(日)
静岡市清水文化会館マリナート

原作:タッチストーン・ピクチャーズ映画「天使にラブ・ソングを…」(脚本:ジョセフ・ハワード)
音楽:アラン・メンケン
歌詞:グレン・スレイター
脚本:シェリ・シュタインケルナー&ビル・シュタインケルナー
追加脚本:ダグラス・カーター・ビーン
演出:山田和也

出演:
森公美子/朝夏まなと(Wキャスト)
石井一孝/廣瀬友祐(Wキャスト)、大澄賢也
春風ひとみ、梅田彩佳
泉見洋平、KENTARO、林翔太
柳本奈都子、河合篤子、福田えり
太川陽介
鳳蘭

ほか

公式サイト:https://www.tohostage.com/sister_act/

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

プロフィール

PICK UP

関連記事一覧