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東山光明&伊藤裕一インタビュー『僕とナターシャと白いロバ』「一瞬で溶ける雪、その一瞬をぜひ感じて」

INTERVIEW

2016年の初演以来、韓国では必ず冬の時期に上演され、ミュージカルファンの間でも大切に愛され続けているミュージカル『僕とナターシャと白いロバ』が、日本初演されます。詩人・ペクソクと、彼を愛し、彼への思いとともに人生を生きた女性・ジャヤの恋物語を、たった3人で紡いでいくミュージカル。

ペクソクを演じる東山光明さんと、韓国ミュージカルではおなじみ、作中に登場する複数の役どころを演じ分けていく“マルチマン”に扮する伊藤裕一さんにお話を伺いました。

―― まずは今作『僕とナターシャと白いロバ』で、おふたりが演じる役どころについて教えてください。

東山:僕が演じるペクソクは、現在の北朝鮮にあたる平安北道定州に生まれた詩人です。素朴な詩や童謡のような詩を書いた人で、のちに、この物語のヒロインであるジャヤのおかげで韓国で詩集が出て、そこからとても有名になって、今では教科書にも載っているような方なんです。ペクソクというのはペンネームで、漢字では“白石”と書くのですが、彼は石川啄木の影響を受けて、その名前から“石”という一字をとったりと、意外にも日本にもなじみのある人。そんなところも親近感がわいて、役作りも取り組みやすかったです。人となりとしては、当時のモダンボーイで、ちょっと甘えん坊で、女性に対しては一途なんだけれど遊び人的な部分もある(笑)。でも最終的には「この人を…」という思いがあるところを、演じていきたいなと思っています 。

伊藤:僕は韓国ミュージカルではメジャーな役どころなのですが、日本ではあまりなじみのない“マルチマン”を演じます。ペクソクやジャヤを取り巻く人をシーンごとに演じていきますが、ほかにもペクソクの詩を朗読したりもします。ストーリーテラーとはちょっと違った形でお話に介入していきます。作っていて面白いなと思うのは、役と役に切り替わる間に時間があったりすると、「いま自分は誰なんだろう」という瞬間があること。俳優に委ねてもらう余白があって、そんなところにもやりがいを感じています。

―― マルチマンは様々な役を演じていくとのことなのですが、いまお稽古をやっていて「この役、面白いな」と思うものを具体的にひとつ、教えてもらえませんか。

伊藤:そうですね……最初に演じる、ペクソクの友人かな? ペクソクはジャヤと出会ってからどんどん大人になって、感情表現も変わっていくのですが、一番彼が感情豊かなときを見ている友人。会話のテンポも楽しいし、ミツさん(東山)も毎回違ったリアクションをしてくださるので、僕自身、演じていて楽しいシーンです 。

東山:彼は、ペクソクとジャヤの出会いのきっかけでもあるからね!

伊藤:そうですね~

―― おふたりは初共演ですよね。お互いの印象は?

伊藤:『BLUE RAIN』(20年7月)を拝見して、その印象がすごく強くて。めちゃめちゃカッコよかった!

東山: 嬉しい。僕は、共演するということで、どんな人なのかな? と興味がわいて、伊藤君のSNSやブログを読んだんですよ。やっぱりご自分で劇団をやっているだけあって、さすがに発する言葉に説得力があるなと思いました。しかもユーモアもある。そんな第一印象から、実際会ってみると、いい意味でその印象どおりの人でしたね。

―― いまお稽古場はどんな雰囲気ですか?

東山:それこそ『BLUE RAIN』の時は、ソーシャルディスタンスをとった演出で、手を触れあうどころか対面で台詞を言うこともできなかった。今回は意外に、向かい合ってお芝居ができています。それが久しぶりの体験で、楽しく芝居に打ち込めています。

伊藤:人数の少ないカンパニーですから、ディスタンスをとりつつも意外とお話しできる機会もあります。皆さん人柄もあたたかい人ばかりで、わきあいあいとした現場ですよ。

東山:ジャヤのおふたり(AKANE LIVと月影瞳のダブルキャスト)も明るくチャーミングで、楽しい現場ですよね。男ふたりじゃなくてよかったよね(笑) 。

伊藤:えー。僕らふたりの絡みはちょっとコメディチックなものが多いじゃないですか。だから僕、ミツさんと距離をつめようと思ってやっていますよ……!

東山:伊藤君はちょっと……役柄のせいもあるかもしれないけれど、ほんとにカメレオンみたいだよね。ぬるっと横にいるかと思えば、急に怒鳴ったりするような役で、まさにそういう感じが普段もあって、すごいなと感じています。だって、トイレのセンサーに反応しないもんね(笑)?

伊藤:稽古場のトイレ、何回入っても、センサーに反応しないんですよ…… 。

東山:わかりますか? 最近のトイレって、入ったら自動で明かりが点くじゃないですか。伊藤君はそのセンサーに気付かれず、一番奥までいけるという特技があるんです(笑) 。

伊藤:壁タッチしてちょっと戻ったくらいでやっと点きます(笑)。そういう話をしたらキリがないですよ。僕は存在を忘れられやすいみたいで、カラオケでひとりで練習していたら、片付けに入ってこられたり。地方公演に行った時も、ホテルでまだ部屋にいるのに片付けの人が入ってきたり……。

東山:うそやん(笑)。でも、それだけ気配を消せるってすごくない!?

伊藤:わざとじゃないんですけどね……(苦笑)

―― ところで今回、東山さんは初主演で、伊藤さんは初ミュージカルだそうですね。

東山:初・初コンビです!

伊藤:ミツさんが主演が初めてというのはびっくりです。今回もしっかり作品の芯を担ってくださっていますし、もしかしたら主演の重圧があるのかもしれないけれど、そういうことは表には出さずスマートに稽古場にいる。主演の星のもとに生まれてきたのでは!?

東山:いやいや、本当に初めてなんですよ……逆に伊藤君はミュージカル、やっていただろうと思っていたよ。初ミュージカルで、3人芝居。ひとりが歌う分量も多いし、すごい体験じゃない?

伊藤:そうですよね……。ペクソクさんとジャヤさんが歌ったあとに僕が出ていって、お客さんがずっこけないかが心配です(笑)。一番縮みあがるのが、M10ですよ。その直前にミツさんが、もうこの人の持ち歌なんじゃないの!? というくらい、雰囲気も声質もミツさんにぴったりの素敵なナンバーを歌って、そのあとに僕が出ていくので…… 。

東山:ずっこけないよ絶対! その前の芝居でマルチマンはバツーン!と存在感を出してるじゃん、直前の僕の歌なんてそれこそ消し飛ぶよ(笑)……でも今回、音楽監督・歌唱指導の福井小百合さんがとても緻密に指導してくださっています。初めて触れるような雰囲気の曲も多いけれど、きちんと歌っていけば、そのシーンの心情も理解できるような構成の作品だよね。いいミュージカルだよね……。

―― そんな『僕とナターシャと白いロバ』、どんな作品なのでしょうか。ビジュアルイメージも儚く美しいもので、あの画像からはどんな切ない物語が紡がれるのだろう、と思いましたが……。

東山:僕も、悲しい恋の物語かな? と思って稽古に入ったのですが、いま荻田(浩一)さんの演出を受けながら、それだけじゃないお話なんだと日々感じています。晩年のジャヤを、死んだペクソクが迎えにきて、ジャヤの最期にペクソクが寄り添うところから始まるのですが、儚いだけではなく、ふたりが理解しあって物語が終わっていけばいいなという気持ちです。

伊藤:そうですね。38度線で引き裂かれたペクソクとジャヤの悲恋が主軸にはありますが、ふたりが引き裂かれたあとも、歴史の“IF”だったり、“あのときこうだったよね”というものを、いまは一緒にいないふたりが俯瞰して見ていくような話です。だから、実際はお互いは見ることができなかったペクソクの顔、ジャヤの顔を、僕・マルチマンは、そしてお客さまは見ることができる。そしてペクソクとジャヤ自身も、それぞれの人生を振り返って……しかも過去ってそんなに鮮明に思い出せませんけれど、ふたりは鮮明に見ているんです。自分で呆れちゃうような可愛らしい過去や、もしくは知らなかったことをまざまざと見せつけられる辛さがあったりする。そしてそれが本当のことなのか、IFのことなのか、解釈はお客さまが決めていいんだと思います。美しく、雪が降っているような静かな物語なのですが、感情はスピーディにずっと回転している作品です。

東山:あと音楽も素敵ですよね。安齋麗奈さんが白いピアノ一台で演奏してくださるのですが、ピアノだけでこれだけの豊かな音楽になるんだという驚きがあります。この世界を彩ってくれる素晴らしい楽曲たちもぜひ楽しんでほしいですよね。

―― 最後に読者の方へメッセージをお願いします。

東山:本当に、この作品が日本で初めて上演されるこの瞬間を、見逃してほしくないです! こんなご時世ではありますが、一瞬で溶ける雪、その一瞬をぜひ感じてほしいと、一日一日、稽古を重ねるたびに思っています。劇場でお待ちしています。

伊藤:僕は本読み稽古の段階からボロ泣きするくらい、この作品が好きです。悲しいだけでなく、楽しいシーンや面白いシーンもたくさんあります。先ほど感情はスピーディに回っていると言いましたが、観終わった時、その感情のルーレットがどこで止まるかは、もしかしたら日によって違うかもしれません。観る方それぞれが、違う結末にたどり着くんじゃないかなと思うような作品です。でも、どんな感情にたどり着いたとしても、最後に自分が出会った感情を大切に持って帰途につけるような作品だと思います。僕もこの作品から、生き方のヒントをもらっている気がしています。ぜひ、観に来ていただきたいです。

取材・文:平野祥恵

公演概要

僕とナターシャと白いロバ

2021年2月3日(水)~2月28日(日)
浅草九劇

上演台本・訳詞・演出:荻田浩一
音楽監督・歌唱指導:福井小百合
振付:港ゆりか

キャスト:
東山光明
AKANE LIV/月影 瞳
伊藤裕一

公式サイト:http://g-atlas.jp/mnwd_jpn/

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

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