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ミュージカル『モーツァルト!』観劇レポート!「変化を感じ取っていただけるのでは」古川雄大が体現する3度目のヴォルフガング

REPORT

現在、東京・帝国劇場にて絶賛上演中のミュージカル『モーツァルト!』。

本作は、かの有名な音楽家・モーツァルトの35年の生涯を、「才能が宿るのは肉体なのか?魂なのか?」というテーマを軸に描くウィーン発の大ヒットミュージカル。日本版は、小池修一郎氏が演出・訳詞を手がけ、2002年に初演を上演。以来、上演の度に大きな反響を巻き起こした帝国劇場を代表する作品のひとつであり、「帝国劇場 クロージング ラインナップ」にもタイトルを連ねている。

日本初演から約22年間、積み上げられてきたミュージカル『モーツァルト!』の歴史に、今回、約3年ぶりに新たな風が吹き込んだ。

音楽の天才ヴォルフガング・モーツァルトは、今作が3度目のヴォルフガング役となる古川雄大と、今作が帝国劇場初主演となる京本大我がWキャストで演じる。

今回は、古川雄大がヴォルフガング役、涼風真世がヴァルトシュテッテン男爵夫人役、星 駿成がアマデ役を演じた公演の模様をレポートする。

※作品内容に一部触れています。

帝国劇場のステージには、3度目にして観たことのない新たなヴォルフガング(古川雄大)の姿があった。

モーツァルトの短い人生を象徴するように、物語はヴォルフガングの墓場でのプロローグから静かに動き始める。時間は巻き戻り、シーンは“神の子”ヴォルフガング・モーツァルトの才能を祝福する貴族たちの華やかな社交場、そして青年へと成長した“今”へ移ろっていく。

ヴォルフガングの傍らには、宮廷で喝采を浴びた幼きヴォルフガング少年の姿をした才能の化身=アマデ(星 駿成)の姿がある。才能という切っても切り離せない、もう1人の自分とともに駆け抜けたヴォルフガングの人生が描かれていく。

古川は開幕コメントで「3回目にして理解出来た部分や新しい発見があります」「今回のヴォルフガングから変化を感じ取っていただけるのではないか」と述べていた。「自分の中の決まり事をあえて取っ払って」挑んだという3度目の古川ヴォルフガングは、伸びやかで情熱的な歌声で観客の心を震わせるだけでなく、まさに全身で“僕こそ音楽(ミュージック)”を体現。

古川の歌声は、相変わらず凛とした響きを持ちながらも、これまで以上に内から解き放たれて鳴り響くような印象に。そのメロディに酔う感覚は、幼き神童の才能に魅入られた冒頭の貴族たちが感じていたものと同じだったのかもしれない。一瞬、その歌声に圧倒された後、ただただ無心に拍手喝采を送りたい気持ちに駆られた。

古川はこれまでに31歳、34歳(公演期間中は33歳)でヴォルフガングを演じている。そして、ヴォルフガングの享年35歳を超えた37歳の今、3シーズン目となるヴォルフガングに挑んでいる。彼自身がキャリアを積み重ねたことで熟したミュージカル俳優としての懐の深さが、ヴォルフガングの人生にさらなる深みを与えていたことは間違いないだろう。

同時にヴォルフガングの子供っぽいふるまいはとてもお茶目でチャーミング。あまりに自然に無垢に笑う姿はどこか浮世離れしていて、古川はまだこんな振り幅を隠し持っていたのかと驚かされた。

才能の呪縛にもがくナンバー「影を逃れて」は、進化を遂げたヴォルフガングの真骨頂といえるだろう。フェイクを入れたこれまでにないアレンジには、古川が作中のヴォルフガング同様に“もがいた”痕が見え隠れする。

そんなヴォルフガングの妻となるコンスタンツェ役は、今回新たに真彩希帆が演じる。古川とはミュージカル・ピカレスク『LUPIN〜カリオストロ伯爵夫人の秘密〜』での共演が記憶に新しい。

コンスタンツェとヴォルフガングのデュエットナンバー「愛していれば分かり合える」では、つかの間のキュンとできる温かな時間が流れた。2人の相性は抜群で、ちょっとした仕草からも互いへの愛おしさが溢れでる。ヴォルフガングとすれ違い不安を募らせるナンバー「ダンスはやめられない」では、真彩がパワフルな歌声を披露。「愛していれば~」とは打って変わって、葛藤するコンスタンツェを痛々しいほど切なく演じきり、新たなコンスタンツェ像で魅せてくれた。

2005年にコンスタンツェ役(名古屋・福岡公演)として出演した大塚千弘は、今回ヴォルフガングの姉・ナンネールを演じる。弟と同じく天才と呼ばれるだけの音楽の才能を持ちながらも、女性ゆえに音楽家として自立することは叶わなかった行き場のない諦観と悲しみを、その大きな瞳に浮かべた。夢を託した“プリンス”(ヴォルフガング)への思いの移り変わりも、実に繊細に表現。ヴォルフガングとはまた違った意味で“影”に苦しめられるその姿に胸が締めつけられた。

ヴォルフガングに多大な影響を及ぼす父・レオポルト(市村正親)、ヴォルフガングの故郷ザルツブルクを治めるコロレド大司教(山口祐一郎)、ヴォルフガングの才能を見初めるヴァルトシュテッテン男爵夫人(涼風真世)は、長年本作に出演しているベテランのキャスト陣。約3年分のパワーアップを感じるさすがの存在感で、登場する度に空気の色を塗り替えていった。

2007年から出演する涼風は、香寿とWキャストでこの役を演じ続けている。諭すようにヴォルフガングに歌いかける姿は、思わずこちらの背筋が伸びるような毅然とした雰囲気が印象的だった。

2幕中盤、父に認められることが叶わないまま父を失ったヴォルフガングは、ラストに向けて音楽家として成功しながらも心を摩耗していく。その姿はまさに狂気そのもの。妻すら遠ざけ譜面に筆を走らせるヴォルフガングは、まるでなにかに取り憑かれたようで、観ていて息苦しさを感じたほど。

類まれなる才能とともに突き進む力強さと、いまにも消えてしまいそうな儚さの合間を行ったりきたりしながら、彼は“音楽”そのもののように生きる。そして人生の最期に奏でた1音で、観客に圧倒的な余韻を残す。

ヴォルフガングの人生を浴びるミュージカル『モーツァルト!』は、いわゆるハッピーエンドの物語ではない。本作を天才の物語として受け取るなら、共感できる人の方が少ないだろう。だが、才能を“夢”と置き換えると、彼の背負ったものがほんの少し身近に感じられるのではないだろうか。

とはいえ、「才能が宿るのは肉体なのか?魂なのか?」というテーマは簡単に答えが出せる問いかけではない。作品の余韻に浸りながら、この難解なテーマを熟考するもよし。ただシンプルに圧巻のミュージカルを浴びる気持ちで劇場に足を運ぶのもよし。“音楽”、ひいてはミュージカルの楽しみ方は自由なのだから。

ミュージカル『モーツァルト!』は9月29日(日)まで、東京・帝国劇場にて上演。その後、10月8日(火)~27日(日)まで、大阪・梅田芸術劇場メインホールにて、11月4日(月)~30日(土)まで、福岡・博多座にて上演される。

文:双海しお
写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『モーツァルト!』古川雄大出演回開幕レポートはこちら

公演概要

ミュージカル『モーツァルト!』

キャスト:
ヴォルフガング・モーツァルト/Wキャスト 古川雄大 京本大我
コンスタンツェ(モーツァルトの妻)   真彩希帆
ナンネール(モーツァルトの姉)     大塚千弘
ヴァルトシュテッテン男爵夫人/Wキャスト 涼風真世 香寿たつき
コロレド大司教             山口祐一郎
レオポルト(モーツァルトの父)     市村正親

セシリア・ウェーバー(コンスタンツェの母)未来優希
エマヌエル・シカネーダー(劇場支配人) 遠山裕介
アントン・メスマー(医師)       松井工
アルコ伯爵(コロレドの部下)      中西勝之

ほか

脚本/歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽/編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
オリジナル・プロダクション:ウィーン劇場協会

演出/訳詞:小池修一郎(宝塚歌劇団)

製作:東宝

2024年8月19日(月)~9月29日(日)
帝国劇場

平日:S席17,500円 A席11,000円 B席6,000円
土日祝日・千秋楽:S席18,500円 A席12,000円 B席7,000円
(全席指定・税込)

ツアー:
2024年10月8日(火)~27日(日)梅田芸術劇場メインホール(大阪)
2024年11月4日(月)~30日(土)博多座(福岡)

公式サイト:https://www.tohostage.com/mozart/

博多座大千穐楽公演生配信

① 2024年11月29日(金)12時公演
② 2024年11月30日(土)12時公演

アーカイブ配信:
① 2024年11月29日(金)12時公演
各公演、ライブ配信終了後準備整い次第開始~12/6(金)23:59
③ 2024年11月30日(土)12時公演
各公演、ライブ配信終了後準備整い次第開始~12/7(土)23:59

出演者:
①2024年11月29日(金)12時公演
京本大我、真彩希帆、大塚千弘、香寿たつき、山口祐一郎、市村正親、
未来優希、遠山裕介、松井工、中西勝之、星 駿成

朝隈濯朗、安部誠司、荒木啓佑、奥山 寛、木暮真一郎、後藤晋彦
田中秀哉、西尾郁海、廣瀬孝輔、港 幸樹、山名孝幸、脇 卓史
彩花まり、池谷祐子、伊宮理恵、樺島麻美、久信田敦子
鈴木サアヤ、原 広実、松田未莉亜、安岡千夏、柳本奈都子

②2024年11月30日(土)12時公演
古川雄大、真彩希帆、大塚千弘、涼風真世、山口祐一郎、市村正親、
未来優希、遠山裕介、松井工、中西勝之、若杉葉奈

朝隈濯朗、安部誠司、荒木啓佑、奥山 寛、木暮真一郎、後藤晋彦
田中秀哉、西尾郁海、廣瀬孝輔、港 幸樹、山名孝幸、脇 卓史
彩花まり、池谷祐子、伊宮理恵、樺島麻美、久信田敦子
鈴木サアヤ、原 広実、松田未莉亜、安岡千夏、柳本奈都子

販売期間:
①2024年11月29日(金)12時公演 9/20(金)10:00~12/6(金)20:00
②2024年11月30日(土)12時公演 9/20(金)10:00~12/7(土)20:00

販売価格:
各回 5,500円(税込)
※ご購入時システム手数料として別途200円が必要となります。

詳細ページ:https://www.tohostage.com/mozart/stream.html

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

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