演出家 河原雅彦インタビュー KERA CROSS 第六弾 『消失』「演劇の面白さを知ってもらえたら」
2025年1月18日より東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて、2月6日より大阪・サンケイホールブリーゼにてKERA CROSS 第六弾『消失』が上演される。
近年、演劇界での名だたる賞を受賞し、その勢いが留まることを知らない劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)。2019年、その数々の戯曲の中から選りすぐりの名作を、才気溢れる演出家たちが異なる味わいで新たに創り上げる、シアタークリエ5作連続上演シリーズ「KERA CROSS」がスタート。5 作品連続上演を経て、新たなシーズンとして2025年よりシリーズの継続が決定。その幕開けに名作との呼び声も高い、『消失』が上演される。
また、その予測不能の物語に、演出家・河原雅彦が挑む。華やかさと毒を含み、心情に刺さるエンターテインメントを生み出してきた河原がKERA作品を手がけるのは3作目(2021年上演 KERA CROSS 第三弾『カメレオンズ・リップ』、2022年上演『室温〜夜の音楽〜』)。音楽には、東京事変、the HIATUSのメンバーとして活躍する作曲家・キーボーディストの伊澤一葉。KERA(半角アケ)CROSS 第三弾『カメレオンズ・リップ』に引き続き、KERA脚本、河原演出とのコラボレーションが期待されている。
出演には、藤井 隆、入野自由、岡本圭人、坪倉由幸、佐藤仁美、猫背 椿と多彩なキャストが揃った。
今回は、本作で演出を務める河原雅彦のインタビューをお届けする。
本作は“救いも何もない”という印象
――本作は初演から20年が経ちますが、当時からどのような印象をお持ちでしたか。
“救いも何もない”という印象ですね。でも、僕はそういう作品が大好きなんです。元々KERAさんは様々なジャンルの作品を創られていますが、観劇後、家路までどよーんとした気分を引きずるような味わいもそれはそれで貴重な演劇体験だと思うんです。
――2015年に再演されてから9年が経ち、今この時代に本作が上演されることの意義については、どのようにお感じでしょうか。
以前上演されていた時よりも、さらに深刻な時代になったなと思います。ただ、もちろんKERAさんは尊敬する先輩なので、同じ時代に演劇をやらせてもらっている人間として、単純にいい戯曲は残していきたいなという思いがあって。
シェイクスピアのように古典と呼ばれる作品もたくさん上演されていますが、こうして“今も生きる”作家さんが残している作品をどんどん上演した方が良いのではと感じていて。この「KERA CROSS」は、そういう思いがあっての企画なのではと思います。たまたまこの時代にこのタイミングで上演されることになりましたが、特にこの時代だからということではなかったですね。
今回でKERAさんの作品を預からせてもらうのは3本目ですが、満を持してこの『消失』を選ばせていただきました。劇団でしか上演できないのはもったいないですし、チャレンジではありますが、今回プロデュース公演という形でやる意義があると思っています。
――KERAさんの作品の中でも最高難度で、劇団員と役が分かちがたく結びついている脚本ですが、どんなことを求めて今回キャスティングをされたのでしょうか。
たしかにその通りですが、そうなると今後まったく再演ができなくなってくるので。だからこの作品に臨むにあたり、キャスティングは、僕のアベンジャーズに集まってもらう必要があるなと。この人たちだったら地球の危機を救ってくれる、みたいな。
しかも作家が演出している訳ですから、紛うことなき一つの正解があるんですよね。過去二本演出させてもらった『カメレオンズ・リップ』にしても『室温〜夜の音楽〜』にしても、うかつに手を加えて面白くなるような本じゃないんです。それくらい隙のない世界観が濃厚にと書かれているものなので。ただ、作品の髄はしっかり抑えつつも、やっぱり演じる人間が変わればフレッシュなものになるということは前二本やった時に感じました。
でも、やっぱり稽古をしていて面白いんですよね。そこに大倉くんやみのすけさんもいないけれど、藤井さんと自由くん二人の味わいがあるのですごく面白いなと。とにかくみんなで髄を捉えながら進めることが大切だし時間のかかる作業ですが、楽しく取り組めています。
――河原さんにとっての“アベンジャーズ”とのことですが、稽古の中で新たに見えてきたものはありますか。
稽古は僕も含めてみんなで創っているのですが、台本3~4行おきに止まるんですよ。KERAさんの書かれているものってそのくらい繊細なので。特にこの本は全員が裏で何か重たいものを抱えている設定だし、芝居の導入だけ見たらラスト30分にはこんなヒリヒリした救いのない話になるなんて想像できないですよね。
ただ、救いのない作品とはいえ、やっぱり笑えるようにはなっているんですよね。それぞれいろんなことを抱えている実情があって、そこから来るズレがお客さんを油断させるような。そうやっておかしく見えるところも随所に挟みながら展開していくんです。でもその笑いの作り方も単純ではないから、台本の字面で読むと面白くなるとイメージできないところが面白くなったりして。それをみんなで一つずつ確認しながらやっていくことがとても大切だと思っています。
普通の演劇だったら、稽古の序盤はミザンスという立ち位置をつけていきながら進めるのですが、今回それは二の次で良くて。まずはその場その場で変化する空気感をみんなで共有しながら進めていかなければというか。僕を含め、みんなもあまり経験がないアプローチなのでいろいろと考えながらやっています。繊細に進めていますが、そういうことを一ヶ月間みんなでやれるのは逆に新鮮だったりしますね。
藤井くんは、もう根っからの根明らしくて、 大倉くんに「なんでこの役引き受けちゃったの(笑)」と言われるくらい。そのくらいご本人とは遠い役で。
ただ、僕は勝手に藤井くんに狂気性みたいなものを感じていて。普段から本当にいい人なんですけど、そんな藤井くんから“狂気性”が見えたら、藤井くんにとっても新しい一面だと思うし、作品の見え方としても大倉くんとはまた違ってくるのではと思っています。髄の部分は同じですが、そういった部分は役者が変わると面白くなるところかなと思います。
あとは、圭人くんですよね。 先日、「第五十九回紀伊國屋演劇賞個人賞」も受賞されて。これまで圭人くんがやってきた役って、“何かを起こす”役が多かったと思うんです。でもこの本は、瞬間瞬間、状況に応じての“受け”の芝居が最重要になってくるので、これまでやってきたこととはアプローチが真逆なんですよね。
だから、圭人くんにとってこの作品は、また違う経験をさせてくれる契機になると本人も強く感じていると思います。周りの役者さんはそのへんも達者な人たちばかりですし。圭人くんは、いつも最後まで稽古場に残っていてすごく貪欲な人なんです。だから初日にどんな風になっているか楽しみですね。
元々、一人くらいどんな仕上がりになるか読めないキャストがいる方が楽しいかなと思って、圭人くんがまさにそういう人だったんです。今回一緒にやることができてとても光栄ですね。
――最後に、本作を楽しみにされている皆様にメッセージをお願いします。
キャストやKERAさんに少しでも興味がある方や、今まで作品に触れてきたことがなかった方にこそ観てもらいたい作品です。元々のナイロン100℃ファンの方には、フレッシュな目で観てもらえると楽しめるものになっていると思います。
やっぱり演劇は劇場で体験するのが一番ですし、演劇には刺激的ですごく面白い作品がたくさんあることをもっと知ってもらえたら。そう言う意味では若い方にたくさん観てもらいたいですね。劇団のファンの方々には、こういう試みを応援してもらえたらうれしいです。絶対に損はさせませんので。
インタビューの後は、稽古場取材も実施された。稽古していたのは、チャズ役の藤井 隆、スタンリー役の入野自由、ドーネン役の坪倉由幸の出演シーン。坪倉がタイプライターを打ち、入野の頭には複数のコードが繋がれていた。コードの付け方一つにも河原から細かい指示が入り、細かな拘りが感じられた。
その後は、藤井 隆、坪倉由幸、ジャック役の岡本圭人のシーンに。坪倉演じるドーネンが息子との電話中、岡本演じるジャックがその会話を聞いている……という場面。インタビューで河原自身が話していたように、一つ一つのセリフを細かく止めながら、時には立ち上がり自ら動きながら演出をつけていたのがとても印象的だった。
KERA CROSS 第六弾 『消失』は、2025年1月18日(土)より東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて、その後、大阪・サンケイホールブリーゼでも上演される。
文:THEATER GIRL編集部
公演概要
KERA CROSS 第六弾 『消失』
作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:河原雅彦
出演:
藤井 隆
入野自由
岡本圭人
坪倉由幸
佐藤仁美
猫背 椿
【東京公演】
2025年1月18日(土)〜2月2日(日) 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
【大阪公演】
2025年2月6日(木)18:30/2月7日(金)13:00
サンケイホールブリーゼ
企画・製作:キューブ
公演最新情報:https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/keracross_6
「KERA CROSS 」X (旧Twitter):https://x.com/keracross2019