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大東駿介インタビュー 『What If If Only―もしも もしせめて』「今までに感じたことない演劇体験をしてほしい」(前編)

INTERVIEW

2024年9月10日(火)、世田谷パブリックシアターにて『What If If Only―もしも もしせめて』が開幕します。

本作は、現代イギリス演劇を代表する劇作家の一人・キャリル・チャーチルの最新作。Bunkamuraが日本と海外のクリエイターの共同作業のもと、優れた海外戯曲を今日的な視点で上映するDISCOVER WORLD THEATRE(以下、DWT)シリーズの第14弾として、同じくキャリル・チャーチルの作品である『A Number―数』とともに上演されます。

愛する人を失い、苦しむ“某氏”を大東駿介さん、“未来”と“現在”を浅野和之さんが、“幼き未来”(Wキャスト)とともに演じます。演出を手掛けるのは、これまでにDWTシリーズで3作品を演出し、高い評価を得ているジョナサン・マンビィ。独特な表現スタイルと文体で人間心理を描くチャーチルの2作品をどのように紐解いていくのか、注目が集まっています。

今回、THEATER GIRLは大東駿介さんにインタビュー。前編では、難解な戯曲の解釈のしかたや、丁寧で濃密だという稽古内容などを伺いました。

インタビュー後編はこちら

今このタイミングで、自分の手元にこの本が来てくれたことをすごく幸せに感じた

――最初に戯曲を読んだときの感想を教えてください。

読み終わった瞬間、“こんな作品に出会えることがあるんだな”と。出会えてよかったと、(戯曲を)胸に抱えました。一見難解な本ですが、個人の感情をものすごく丁寧に描いているなと思ったんです。意図的に虫食いにしているような……一度書いた文章を、わざと消しゴムで消したような本というか。それって、自分のなかで、自分だけが理解できる言葉と似ていて。今を生きる人たちには不安や悲しみ、痛みとかがあるけど、それでも前に進んで生きていくという、その葛藤がこの短い戯曲にものすごく凝縮されている感じがしました。それが見事に僕自身にも重なり、今このタイミングで、自分の手元にこの本が来てくれたことをすごく幸せに感じて。奇跡的でありがたいことだなと思いました。

――実際にお稽古が始まってから、役柄や作品について新しい発見はありますか?

たくさんあります。最初に台本をいただいたときは、自分自身と重ねて、自分として作品と向き合っていたのですが。稽古が始まると、それをどう作品に落とし込んでいくか……演出家だったり、ほかのスタッフさんやキャストの方と意見を持ち寄って、育てていく作業になるんです。そうすると、あるべき形が変わっていくというか、育っていく感じがして。その過程がすごくおもしろかったですね。

本をいただいてから稽古が始まるまで、半年ぐらい時間があったのですが、その間に、自分の思い入れがあまりにも深くなりすぎてしまったんです。なので、いざ稽古が始まるとなったときに、その気持ちは置いていかなければと。これは僕の作品じゃないんだからって。それぐらい、自分のことのように受けとめてしまったので。いったん作品として、みんなと作り上げて昇華させていく作業をして。僕が戯曲を受けとったときのあの感覚を、劇場に来てくれるお客さまによりわかりやすく届く形にするにはどうしたらいいか、模索する時間が始まったという感覚でした。

――具体的に、どのように作り上げていったのでしょうか。

例えば、僕が演じる役には名前がなくて、“某氏”と表現されているんです。稽古を進めていくうえで、まず名前を考えようとなりました。さらに、誰と一緒に暮らしていたのか、その人の名前は何で、どういう人生を歩んだのか。そういったものを短い戯曲から読み解きながら、どのエリアで暮らしていて、何歳ぐらいで彼女と結婚して、何歳ぐらいで彼女と別れて……とプロセスを全部、年表にしてみようと。客観的な距離感をしっかりと置けるように、そういう手順を踏んでくださったんです。それがなかったら、僕は自分の主観から離れられずにかなり苦しんだと思います。

さらに、舞台上には登場しない“僕が愛していた彼女”を演じてくれる方を稽古場に呼んで、実際に某氏と“彼女”がどんな暮らしをしていたのかを表現するというワークショップもやりました。二人で買い物に行ったりして、彼女との日常を作ったんです。その次に、そういった彼女との行動を、全部一人でやってみる。つまり、彼女を失った後の生活を体験するのですが、そのときの喪失感がものすごかったんです。その喪失感から、この本は始まるんですよね。

――とても丁寧なお稽古ですね。

とてもありがたかったです。僕が海外の戯曲に向き合うときによく思っていたのは、どれだけ稽古に時間をかけても、丁寧に本を読み解こうとしても、どうしても“また聞きの距離”というのがあるように感じていて。僕たちが受けとめる言葉は、戯曲を翻訳した方からのものなので、それが本当に戯曲作家の意図なのかどうか、なかなか解釈が難しいんですよ。でも今回は、翻訳の広田(敦郎)さんが毎日稽古場にいてくださって。戯曲を英文で読んだ演出家と広田さんと、翻訳されたものを読んでいる僕たちの意図が微妙に違うかもしれないとなったときに、その場で“もしかしたら、こっちの日本語のほうが適切かもしれないですね”と歩み寄る作業ができました。日本語で、より正しく伝える方法を常に考えられる環境があることは、ホントにありがたいですね。

――実際に、意図に相違があることも多いのですか?

“前の日本語のままだったら、意味が違ったな”ということは、沢山あります。例えば、セリフの最後に“.”がついていない場合、それは、次のセリフを食い気味に読んでほしいというチャーチルからの指示なんですね。そうすると、“そのまま日本語に訳すと文章が完結してしまって、食い気味に入るのは難しいですよね”みたいな。

いろんな立場からいろんな視点で戯曲を解釈してくれる人がいるので、ホントにアイデアがいっぱい出てくるんです。そうやって、たくさんの選択肢のなかからよりよい道を探すことができる。その作業だけに、2週間ぐらいかけています。そうやって丁寧に向き合える環境に感謝しています。

グリーフケアの専門家に話を聞き「悲しみが今どの段階にあるのか見えてきた」

――稽古の一環として、グリーフケアの専門家の方にお話を伺う機会もあったと伺いましたが、どんなことを感じましたか?

本の見え方がだいぶ変わりました。一般的に、大切な人を失ったとき、人はまず現実を否定したり疑ったりするらしいです。そこから悲しみに変わり、さらに怒りに変わっていく。その心理的な変化を、専門家の方に資料にしてもらったんですが、そうすると、僕の演じる某氏が愛する人を失って何カ月ぐらい経つのか、悲しみが今どの段階にあるのか。自分の体験から導き出した僕の主観でしかなかったそういった感情が、ちゃんと段階で見えてきたんです。

――例えば、どんなふうに?

僕が本を読んだとき、このお話のなかで某氏が悲しみに暮れている時間帯は、深夜2時ぐらいだと思ったんです。深夜に一人でベッドに入るときに、孤独を感じそうだなって。グリーフケアの方に「悲しみというのは、何時ぐらいに押し寄せてくるものなんですか?」と質問してみたら、やはり「私は夜中だと思います」と。でも演出家は、絶対に朝だと(笑)。ただ、彼には、僕やグリーフケアの方の意見も受けたうえで、そう主張する意思があって。僕はその意見を聞いて、すごく納得しました。仕事がある日って、仕事というタスクがあるから、朝起きたときに余計なことを考えない。でも、某氏にとって休日の朝というのは、たぶん彼女とゆっくりできる、一番穏やかで豊かな時間だったんですよね。それが彼女を失った途端、何もない穴に変わる。それを聞いたときに、たしかに説得力もあるし、演出家のビジョンがハッキリ見えてくるのを感じました。

――それほど長い時間をかけて、一つの感情を追究するという経験は、これまでにもあったのでしょうか。

もともと僕は、図書館へ行ったり専門家に会いにいったりして、事前にいろいろと調べてから作品に臨むタイプなんです。今回、それを稽古でやらせてもらって、みんなで共有できたのがよかったなと思います。それと、いつも台本をもらうと、役と向き合いながら、自分の人生の足しになることは何だろうなって探します。例えば時代劇だったら、その時代のことを深掘りするいい機会だな、とか。今回に関していうと、悲しみや痛み、人生観のようなものって、生きていればある程度、自分で発見するじゃないですか。それを、学者の方が生や死についてどう向き合ってきたのかを聞いて、改めて考えることができる。そこがおもしろかったですね。

――いつも個人的にやっていることに専門家の解釈が加わることで、稽古場で実践できる選択肢が増えたと。

そうですね。今、自分の主観を持ち出しちゃうと、それ以外の選択肢が出てこなくなってしまうので。これまでの自分の人生経験とか、得た悲しみとか、この本を読んで自分に重なると思ったものは、“本番中に思わずこぼれ出てしまった”ぐらいに収めようと意識しています。もし全力で出してしまったら、それはただの独りよがりで、自分の発散のために作品を使ってしまうことになるので。それは絶対にしないでおこうと。この難解な戯曲を、お客さまにより伝わりやすくするための最後の後押しとして、自分の感情がちょっと乗っかることで説得力が増したらいいかな、ぐらいに思っています。

取材・文:林桃

インタビュー後編はこちら

公演概要

Bunkamura Production 2024
DISCOVER WORLD THEATRE vol.14
『A Number―数』『What If If Only―もしも もしせめて』

作 キャリル・チャーチル
翻訳 広田敦郎
演出 ジョナサン・マンビィ
美術・衣裳 ポール・ウィルス

出演 『A Number—数』
堤真一、瀬戸康史

『What If If Only—もしも もしせめて』
大東駿介、浅野和之、
ポピエルマレック健太朗・涌澤昊生(W キャスト)

【東京公演】
公演期間 2024 年 9月10日(火)~29日(日)
会場 世田谷パブリックシアター
お問合せ Bunkamura 03-3477-3244(10:00~18:00)

【地方公演】
大阪公演:日程・会場 2024 年 10月4日(金)~7日(月) 森ノ宮ピロティホール
福岡公演:日程・会場 2024 年 10月12日(土)~14日(月・祝) キャナルシティ劇場
大阪・福岡公演お問合せ キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~18:00※日祝は休業)

企画・製作 Bunkamura
公式サイト https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/24_churchill.html

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

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