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大東駿介インタビュー 『What If If Only―もしも もしせめて』「今までに感じたことない演劇体験をしてほしい」(後編)

INTERVIEW

本作は、現代イギリス演劇を代表する劇作家の一人・キャリル・チャーチルの最新作。Bunkamuraが日本と海外のクリエイターの共同作業のもと、優れた海外戯曲を今日的な視点で上映するDISCOVER WORLD THEATRE(以下、DWT)シリーズの第14弾として、同じくキャリル・チャーチルの作品である『A Number―数』とともに上演されます。

愛する人を失い、苦しむ“某氏”を大東駿介さん、“未来”と“現在”を浅野和之さんが、“幼き未来”(Wキャスト)とともに演じます。演出を手掛けるのは、これまでにDWTシリーズで3作品を演出し、高い評価を得ているジョナサン・マンビィ。独特な表現スタイルと文体で人間心理を描くチャーチルの2作品を、どのように紐解いていくのか、期待が集まっています。

今回、THEATER GIRLは大東駿介さんにインタビュー。後編では、共演者の浅野和之さんの印象や、作品にちなんだ質問、また、今後の展望などもお聞きしました。

インタビュー前編はこちら

舞台初共演になる浅野和之さんの印象は「尊敬しかない」

――浅野和之さんとは舞台初共演だそうですが、役者としての印象を教えてください。

もう尊敬しかないです。心が豊かでやさしくて、愛情深くて。こんな方と一緒に芝居ができているのは、ホントにありがたいことだなと思います。稽古場で、ものすごく体が動くし。セリフも膨大な量ですが、アイデアが次から次へと溢れてくるというか、好奇心や探究心がダイレクトに伝わってくるんです。それはきっと、この戯曲を通して浅野さんと向き合っているから、余計に感じるのだと思います。僕がこんなことを言うのは恐れ多いのですが、ホントに素直に人と向き合ってくれるので、すべてのセリフや動きに説得力が出るんですよね。一緒に作品に携われていることがとても幸せだと感じさせてくれる俳優で。僕もこういう人になりたいと、すごく思います。

僕の役者人生のなかで、“いい芝居をすればいいんだろう”と、そうあるべきだと自分を追い込んでいる時期もあったんです。でも、やはり大事なのは人間だなって。“この人と一緒に仕事をしたい”と思われる生き方をしていないと、腹から湧き上がるような芝居は生まれないんだなって、浅野さんを見ているとすごく感じます。エネルギーが溢れているとか、覇気をまとっているというわけでは決してないんですよ。むしろ、それがない。例えるなら、柔らかい日差しのなかで揺れているカーテンみたいな方で(笑)。

――心情的には苦しい部分もあるお稽古かと思いますが、浅野さんがいてくれるおかげで救われることもあるというか。

そうですね。浅野さんが演じる“未来”は、某氏の写し鏡のような役どころなんですが、実は一人称なんじゃないかと思っているんです。某氏の自問自答、自分との葛藤……進まなきゃいけないのはわかっているけど、進めない。そういう自分との応酬なのかなって。劇中では、絶望するような言葉を投げかけられたりしますが、どこか希望というか、命に対するやさしさも感じられる。浅野さんが演じることで、その奥ゆきが増すんです。それがスゴいなって。

実は僕、最初に本を読んだとき、浅野さんの役を自分が演じると勘違いしていました。でも今になってみると、その読み方も間違っていなかった気がして。それはやはり、どっちもどっちなんだろうなって。この本を読んでいると、時間や次元を超えて、自分の未来や過去とすごく向き合うんです。浅野さんを見ていると、こんな未来でありたい、当たり前のように新しいことにチャレンジできる人でありたいと思います。

――いろいろなことを考えさせられる脚本なのですね。

この本は、チャーチルがコロナ禍を経て書いたものなんです。僕もコロナ禍で大切な人を亡くして、本当に立ち直れたのかわからないくらい、今もツラい気持ちをどこかに抱えている。でも、そういう人ってたくさんいると思うんです。なんとなく平和な気持ちで暮らせていたけど、それにも少し限界がきているのかなと感じたり。この本には、大切な人の死をきっかけに、これまで自分が気になっていたけどやらなかったこと……あのとき、ちゃんと環境問題に取り組んでいたらとか、あのとき、もっと社会について学んで何かアクションを起こせていたら、みたいなことがぐわっと押し寄せてくるんです。

今、ニュースを見ると、世界情勢とか環境問題とか人間社会の不安は尽きないのに、その社会に生きて、さらに依存もしている。「おまえら、いつそれに向き合うんだ」と、この本に言われている感じがすごくするんです。でも、苦しみに耐えろと言われているかというと、そうじゃなくて。小さな小さな一歩を踏み出そうよ、よりよい未来に進んでいこうという、とても現実味のあるやさしい背中の押し方をしてくれる。きっと、万人に当てはまる内容だし、荒療治のような本だなとも感じます。

最近、不条理さを感じた出来事とは……!?

――本作は不条理さもテーマの一つかと思いますが、大東さんが最近、不条理さを感じた出来事はありますか?

最近、何かあったかな……あっ、この間、車を駐車場にとめるときに、「最大料金2000円」と書かれていたから、そのつもりでいたら料金が6000円ぐらいだったんです。よーく見たら、最大料金のところに小さく“○曜日の○時は除く”と書かれていたんです。それは、不条理だなと思いました(笑)。でもね、最近は小さな不条理は許そうと思うようになったんです。というのも、不条理と感じるかどうかは、自分との戦いやといつも思っていて。

――そう思います。

ね! 僕、昔は小さな不条理をまったく許せなくて。喧嘩上等! みたいな人だったんですよ。でも今は、「おまえ、やめなさい」「落ち着け」と思えるようになったんですよね。

――そう思えるようになったのは、何かきっかけがあって?

今、十分幸せだなと思うからですね。仲間に恵まれて、周りにはこんなにステキな人たちがいるのに、それ以上、おまえ何望むねん! みたいな。

――それはステキですね!

あと、大概のことを“どうでもいい”で思えるようになったのかもしれない。以前は、なおざりという意味で「どうでもいい」を使っていたんですけど、最近は、いらだったりしたときに魔法の言葉のように使っていて。そのおかげか、不条理を感じることがないんです。ということは、自分の思惑が上手いこといってるのかもしれないですね……あっ、でもこの間、不条理を感じたのを思い出した(笑)!

――何でしょう(笑)?

トレーニングをしているときに、トレーナーから「裸足の感覚を大事にするように」と言われるんです。「足の指で地面をつかむ感覚が大事」って。だから、なるべく裸足でいる時間を大事にしていて。子どもと芝生の上とかにいるときは、僕が率先して裸足になるんです。この間も、子どもと公園で遊んでいたときに裸足になったんですね。そうしたら、知り合いがやってきて「おまえ、なんで裸足なん?」と聞かれたので、「子どもたちを裸足で遊ばせようと思って、僕も裸足になっているんです」と言ってパッと振り向いたら、子どもたちが全員、靴を履いていて! ただただ無邪気な親父が一人おる、みたいになっていたときは、ちょっと不条理だなと思いました(笑)。

――微笑ましいエピソードをありがとうございます(笑)。大東さんは、年齢的にそろそろ40歳も見えてくるかと思いますが、年齢というのは気にされますか?

全然気にしないですね。最近、肉体に関しても、前よりいうことをきくようになったなって感じるんですよ。昔は、最後まで突き詰めて体と向き合うことをせずに、ただがむしゃらにトレーニングしていたんです。でも、今は突き詰めて、ホントに些細なところまで気を遣って向き合っているから、以前より絶対に豊かな肉体になっていると思う。衰えをまるで感じないんですよ。逆に、衰えたと感じたとしたら、それは昔と同じ感覚のままのところなのかなって。

例えば脚本の解釈とかで、セリフ覚えが悪くなったと感じるのは、昔と同じ読み方をしているからで。今は、脚本を読む前に、まず必要な情報を図書館で調べたり、研究者のようなプロの方にお話を伺いにいったりします。そういう土台があると、セリフの一つひとつがより鮮明になって入ってくるんです。だから今は、めちゃくちゃセリフ覚えがよくて。『What If If Only―もしも もしせめて』の本も、“あれっ、俺、いつ覚えようとしたっけ?”と思うくらい、いつの間にか入っていたんですよね。

――では、30代のうちにやっておきたいことはありますか?

スカイダイビング! 今まではスカイダイビングって、気持ちいいとかそういう感情を味わうものだと思っていたんです。でもこの間、学者の方に「血流が滞ったときにスカイダイビングをすると、脳内に一気に血がふぁーっと流れて、循環がよくなる」と聞いて。スカイダイビングってけっこうな大勝負だし、体の血流もよくなるなら、めちゃめちゃおもろいことしかないやん! と思ったので。自分の体を使って実験をしてみたいです(笑)。

――最後に改めて、本作の上演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

僕は演劇を観にいって、いい作品に巡り合えたと感じると、上演後に劇場のドアを開けるのが怖くなるときがあるんです。“あっ、この世界から追い出されてしまう”みたいな感覚になるというか。劇場が、普段の生活から遠ざかった時間の概念もないような、宇宙のような場所に感じられるような。そういう不思議な体験をさせてくれるのが演劇だと思うのですが、まさにこの作品はその体験に導ける作品だと思います。ぜひ、今までに感じたことない演劇体験をしてほしいです。あっ、あと! 世田谷パブリックシアターは、近くにMANOSというおいしいカレー屋さんがあって、そこもオススメですよ(笑)。

取材・文:林桃

インタビュー前編はこちら

公演概要

Bunkamura Production 2024
DISCOVER WORLD THEATRE vol.14
『A Number―数』『What If If Only―もしも もしせめて』

作 キャリル・チャーチル
翻訳 広田敦郎
演出 ジョナサン・マンビィ
美術・衣裳 ポール・ウィルス

出演 『A Number—数』
堤真一、瀬戸康史

『What If If Only—もしも もしせめて』
大東駿介、浅野和之、
ポピエルマレック健太朗・涌澤昊生(W キャスト)

【東京公演】
公演期間 2024 年 9月10日(火)~29日(日)
会場 世田谷パブリックシアター
お問合せ Bunkamura 03-3477-3244(10:00~18:00)

【地方公演】
大阪公演:日程・会場 2024 年 10月4日(金)~7日(月) 森ノ宮ピロティホール
福岡公演:日程・会場 2024 年 10月12日(土)~14日(月・祝) キャナルシティ劇場
大阪・福岡公演お問合せ キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~18:00※日祝は休業)

企画・製作 Bunkamura
公式サイト https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/24_churchill.html

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

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