土屋太鳳インタビュー 『マクベス』「献身的なマクベス夫人を演じたい」(前編)

2025年5月8日(木)、彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて、彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.2『マクベス』が開幕します。
本作は、吉田鋼太郎さんが芸術監督を務め、2024年5月にスタートした【彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd】の二作目。一作目となる『ハムレット』に続き、四大悲劇のなかでも人気の作品です。
主演を務めるのは、10代の頃からシェイクスピアの言葉の魅力を全身で感じてきた藤原竜也さん。その妻・マクベス夫人を演じるのは、シェイクスピア作品初挑戦となる土屋太鳳さん。さらに、バンクォー役に河内大和さん、マクダフ役に廣瀬友祐さん、マルカム役に井上祐貴さん、スコットランド王・ダンカン役にたかお鷹さん。そして、演出と上演台本を手がける吉田鋼太郎さんも、三人の魔女の一人として出演します。
THEATER GIRLは、マクベス夫人役の土屋太鳳さんにインタビュー。前編では、シェイクスピア作品初出演への意気込みや、“悪女”といわれるマクベス夫人に対して抱く思いなどをお聞きしました。
少しでもマクベス夫人のトゲを刺していけたら
――ご自身の思う『マクベス』が愛される理由や、作品のイメージを教えてください。
私個人としては、野生的な悲劇だと思っています。とても普遍的な物語といいますか。“歳を重ねていくにつれて、誰にでもありえる”物語なのかなと。それから、女性の立場など、様々な問題提起をする内容が入っているなと感じています。
マクベス夫人は名前がないですが、それは今も、変わっているようで全く変わっていなくて。「○○ちゃんのお母さん」、「○○さんの奥さん」と、現代でもそういう“○○の”とつけられがちだと思うんです。そういうところでも、今回たくさんの方に共感していただけるのではないかなと。観てくださった方々の心に、少しでもマクベス夫人のトゲを刺していけたらと思っています。
――それは、ライフステージの変化を経て、さらに強く感じるようになったのでしょうか。
子どもに限らず、一緒にいるパートナーや飼っている犬などにもいえると思うのですが、一生懸命応援していたらいきすぎてしまったり、守ろうとしていたら共依存のような関係になってしまったり。そういうことって、誰にでもあり得るお話だなと感じていました。

――マクベス夫人は、「夫を滅ぼした女性」「愛を貫いた女性」「権力に溺れた女性」などさまざまな解釈が可能ですが、現時点でどのようなキャラクターだととらえていますか?
私は、献身的な女性だったのではないかと思っています。夫をただ一生懸命守ろうとした、幸せになりたいけれど、幸せではない時間が長かった人なのかなと。そして、どんどん心が壊れていって、そのことに気づかずに、さらに誰かを守ろうとしたことから起きてしまった悲劇なのかなと思います。
――メインビジュアルを拝見したとき、土屋さんの表情にゾクッとしました。
本当ですか!? でも、それはメイクさんのお力が大きくて。私の眉毛って、(メインビジュアルの眉の位置より)もうちょっと下なんですけど。ビジュアル撮影のメイクをしていただくときに、「上にキュキュっと上げるように(眉を)描いて、知的さを表現するね」と、おっしゃってくださって。
――先ほど、マクベス夫人は献身的な女性だったのではないかとおっしゃっていましたが、悪女の代名詞的に評されることについては、どう感じていますか?
私、悪女って、たぶん最初から悪女ではないと思うんです。その人の持つ過去が大事というか、悪女になったのには何か理由があると思いますし……きっと自分のなかで守りたいものがあったんでしょうね。なので、その過去をしっかり見るべきだなと。
それが、結果的に悪女に見えるかもしれないですが。今はまだ、台本を読んでいても、悪女と言われることがしっくりこなくて……マクベス夫人は悪女なのかな。どうなんでしょう(笑)?
――自分の欲望を貫き通すために手段を選ばないところなどは、悪女なのかなと。
たしかに。それが極端な方向へいってしまったのかもしれませんね。それから、“その人が相手だから悪女になってしまう”ところもあると思うんです。そういう意味で、私もマクベス夫人の過去や(マクベス役の)竜也さんをしっかりと見ながら、悪女になっていきたいですね。
――今は、マクベス夫人の過去に思いをめぐらせながら役を固めている段階ですか?
そうですね。そのなかで、夫人が日常生活で感じていることをしっかりと入れていきたいなと思っています。たとえば、“自分の子どもにはこう生きていってほしい”という思いとか。そうしたいろいろな小さな粒を大きくしていくような気持ちです。

――土屋さんにとって、シェイクスピア作品は初挑戦となりますね。
シェイクスピア作品のような“THE 演劇”という作品への出演は、夢の一つでした。しかも、彩の国さいたま芸術劇場に立てるという! 今回の舞台は、自分にとって足りないものが、そして、大切にしないといけないことがわかるきっかけになるのではないかなと思っています。
私もまだ、どうなるかわからないですし、これから頭を抱えることになるかもしれないですが。でも、今まで自分がやってきたことを……カラダを動かすことも含めて、出し惜しみをせずにいいパフォーマンスができたらいいなと思います。
――自分の足りないものに直面することは、怖くないですか?
(小声で)怖いです。以前、ミュージカル『ローマの休日』に出演したことがあるのですが、お引き受けした一つの理由に「大声が出ないから」というのがありました。当時、お芝居での声の出し方がわからなくて。このまま“思うように声が出ない”と悩み続けるなら、人前に立って声を出さなければいけない状況を作ろうと。
それがきっかけで、いろいろなタイプのボイストレーナーさんに出会い、声の出し方を知って。そうしたら、声を出すことが少し好きになれたんです。だから今回も、自分の引き出しをもう少し増やすことを目標にしたいなと思っています。
それと、最近思うのが、このお仕事をしていると“~させていただく”という言葉を使うことがすごく多いなと。それは、オファーをしていただくことが多いからなんですけど。でもそればかりでは、お芝居をするうえで、役を生きるうえで何かが足りない気がするので。今回、“させていただく”を少し減らして向き合っていきたいなと思っています。
――自分の引き出しを増やすというのは?
自分には、まだ足りないところだらけだと思うのですが。これから自分が演劇をやっていくうえで、さらにお芝居を好きになるために必要なもの。それと、自分が何のためにライフステージをアップしたのかもわかる気がしています。私は、自分の生き方を役に反映していきたいと思っているので、愛情が膨らんだうえでのマクベス夫人になれたらなと。

――受動ではなく能動の精神が芽生えたのは、最近ですか?
最近かもしれないです。やっぱり30年生きていると、同世代のなかでも体調を崩したり、やりたいことをあきらめざるを得ない状況になったりする人がいて。健康でいられることのありがたみを知るというか。絶対に後悔のないように生きたいし。30歳まで生きられたことの奇跡みたいなものを感じたときに、“これは受け身だけではダメだ”と。自分のやりたいことを、一つひとつ丁寧につなげていこうって。以前はよく「30歳になったら~」と言っていましたが、実際に30歳になって、ちゃんとやっていきたいという責任感みたいなものが出てきたのかなと思います。
――そういう意味では、今回の『マクベス』はとてもいいきっかけになりそうな作品ですね。
たしかに。自分から動いていくという意味では、いいきっかけになりそうです。竜也さんと一緒にインタビューを受けたときに、「太鳳ちゃんが30歳の節目にこの役(マクベス夫人)をやれるのは、とてもいいきっかけになると思う」とおっしゃったんです。竜也さんは、『ハムレット』が人生の教科書になっているらしくて。
私自身も、『マクベス』が自分の人生にとって大切な存在になればいいなと思いますし。プラス、「本当の意味でみんなが活躍するって、どういうことなんだろう」ということを問題提起しながらやっていきたいです。

“いつかこういう世界に行ってみたい”という気持ち
――最初に、シェイクスピア作品に刺激や希望をもらっていたというお話がありましたが、どのような影響を受けたのでしょうか。
私が16歳のとき、長谷川博己さんと共演させていただいたのを機に、蜷川(幸雄)さんの存在を知りました。長谷川さんが『から騒ぎ』や『冬物語』など、蜷川さん演出作品のDVDをたくさん贈ってくださったので、それを観させていただいて。当時は高校生で、お仕事をしながら部活もやっていたので、自由になる時間もあまりなかったのですが、行けるときには彩の国さいたま芸術劇場に行ってみたりもしました。
そのときは、“いつかこういう世界に行ってみたい”という気持ち、プラス、物語を追うことがメインで。どれくらいその人になりきれるんだろう、どれくらいその人のことばかり考えて生きればいいんだろう、といったワクワク感でいっぱいだったんです。
今は、物語のどこに自分の心が触れるか、どこに普遍的なものを感じるかという視点に変わったので、その変化がおもしろいなと思います。自分も、竜也さんぐらい経験を積んだり、60代ぐらいになったりしたら、今は難しいと感じているセリフもそんなに難しくないと思えるのかもしれませんが。それから、蜷川さんはとても厳しい演出をされる方だと聞くので、怒られたいという気持ちもあったのかもしれません。
――蜷川さんの厳しい演出に触れてみたいというお気持ちがあったのですね。
それくらいしないと、お芝居はうまくならないのではないかなと。舞台役者の方々は、アドリブに見える演技でも、実はとても練習を積んでいらっしゃると思うんです。映像作品では瞬発力がすごく必要とされて、どんなに練習していたとしても、本番でできなければ意味がないという世界だと思うので、瞬発力の種類が違うのかなと感じています。
私はずっと、映像をメインにやってきたのですが、舞台の演出家さんに「舞台では映像のお芝居は通用しないから、そんなに細かい芝居をしても意味がないよ」と言われたことがあるんです。でも、今まで映像作品をやってきた時間にもちゃんと意味があると思うので、今回の舞台でも、その繊細な気持ちをしっかりと反映させたいです。以前、『プルートゥ PLUTO』という舞台をやっていたときは“骨から”というのを意識していたのですが、今回も骨でしっかりと伝えていきたいと思います。

取材・文:林桃
撮影:梁瀬玉実
ヘアメイク:尾曲いずみ
スタイリスト:藤本大輔(tas)
カーディガン¥59,400、ドレス¥59,400/CFCL(CFCL OMOTESANDO 03-6421-0555)
ネックレス ¥42,900/PLUIE(PLUIE Tokyo 03-6450-5777)
イヤーカフ ¥33,000、リング¥49,500/Hirotaka(Hirotaka 表参道ヒルズ 03-3478-1830)
シューズ ¥49,500/MANA(株式会社コンコルディア info-concordia@mana-l.com)
公演概要

彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.2『マクベス』
2025年5月8日(木)~5月25日(日)
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
チケット:
S席:10,000円/A席:8,000円/B席:6,000円/U-25:2,000円(全席指定・税込)
作:W.シェイクスピア
翻訳:小田島雄志
演出・上演台本:吉田鋼太郎(彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督)
音楽:東儀秀樹
キャスト:
藤原竜也
土屋太鳳
河内大和
廣瀬友祐
井上祐貴
稲荷卓央
海津義孝
天宮 良
坪内 守
塚本幸男
鈴木彰紀
内田健司
堀 源起
蔵原 健
松本こうせい
谷畑 聡
齋藤慎平
伊藤大貴
松尾竜兵
河村岳司
坂田周子
近藤陽子
佐藤雄大
小川向日葵(Wキャスト)
嶋瀬 晴(Wキャスト)
稲田有梨
たかお鷹
吉田鋼太郎
主催:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
制作:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団/ホリプロ
【ツアー】
宮城公演:
2025年5月30日(金)~6月1日(日)
仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール
愛知公演:
2025年6月6日(金)~6月8日(日)
刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
広島公演:
2025年6月12日(木)~6月14日(土)
広島文化学園HBGホール
福岡公演:
2025年6月20日(金)~6月22日(日)
福岡市民ホール 大ホール
大阪公演:
2025年6月26日(木)~6月30日(月)
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ