石黒賢インタビュー 『反乱のボヤージュ』 「僕にとって舞台は非常に特別なもの」(前編)
2025年5月6日より東京・新橋演舞場、6月1日より大阪・大阪松竹座にて、舞台『反乱のボヤージュ』が上演されます。
脚本家として「眠れる森」や「坂の上の雲」など、テレビドラマの脚本を数多く手がけヒット作を世に送り出し、小説家としても「破線のマリス」で江戸川乱歩賞、「深紅」では吉川英治文学新人賞など、いくつもの文学賞を受賞した野沢尚氏。2001年に発表された「反乱のボヤージュ」はスペシャルドラマとしても放送された人気小説。そんな野沢尚氏の傑作が、ついに舞台化が決定。
「反乱のボヤージュ」は、集英社の文芸誌「小説すばる」にて2000年4月から2001年1月まで連載され、同年4月に単行本として刊行された。緻密な人間描写と社会問題への鋭い洞察が、発売当時から大きな反響を呼び、2001年に若松節朗監督により2話のスペシャルドラマとして放送され、第52回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞するなど大きな話題となりました。
物語の舞台は名門大学の学生寮。廃寮を目論む大学側から送り込まれた舎監と、寮存続を懸命に守ろうとする学生たちとの心の交流を中心に描かれる。ただの青春群像劇にとどまらず、学生たちが抱える葛藤や成長、そして舎監との絆が、瑞々しくも力強く描かれています。今回の舞台化で脚本・演出を手掛けるのは、作家・演出家としてこれまで数々の名作を生みだしてきた鴻上尚史氏。社会を切り取る鋭い視点と斬新な演出スタイルで知られる鴻上尚史氏が、原作の緻密でスリリングな展開や人間模様を、現代的な視点も加えて、創り出します。
出演は、学生寮の舎監・名倉憲太朗役に、様々な役を幅広く演じ切る確かな演技力を持つ石黒賢さん。元機動隊としての複雑な過去を持つ名倉を深みを持って演じます。また学生寮で暮らす医学部一年生の坂下薫平役には豊かな舞台経験を持ち強い存在感を放つ岡本圭人さん。複雑な家庭環境を背負い、父親への反発と思慕を抱きつつ成長する様を伸びやかに演じます。
他に、学生寮で暮らす三年生の江藤麦太役に大内リオンさん、かつて学生襲撃事件を担当していた刑事・久慈役に加藤虎ノ介さん、学生寮の食堂担当の調理師・日高菊役に南沢奈央さん、首都大学学長補佐で廃寮を主導する宅間玲一役に益岡徹さんと、実力派俳優が揃い、作品により一層厚みを加えていきます。
THEATER GIRLは、石黒賢さんにインタビュー。前編では、本作に出演が決まった時のお気持ちや演じる役柄や稽古場の雰囲気などについてうかがいました。
いつかご一緒したいと思っていた
―― まずは本作への出演が決まった時のお気持ちからお伺いできますでしょうか。
最初にお話をいただいた時に、野沢尚さんの原作で、鴻上(尚史)さんが演出をしてくれることになるかもしれないということをうかがって。実は、野沢さんの作品にはご縁がなくて、いつかご一緒したいとは当時から思っていましたが、残念ながらご存命中はご一緒することができませんでした。
今回、野沢さんの小説が原作ということで、やっと野沢作品に出演することができてとてもうれしく思います。そして、鴻上さんが演出をなさるということが決まったと聞いて。鴻上さんとご一緒するのも初めてなので、その2つが出演を引き受けた大きなモチベーションですね。
―― 野沢さんの作品がお好きというお話でしたが、改めて野沢さんの原作の魅力をどんなところに感じられましたか?
「反乱のボヤージュ」の原作に関して言えば、やはり脚本家ならではというか、一場面ごとにそれぞれの学生たちの物語が綴られていて、それが実に映像的なんです。最後に向けての盛り上がりなども、そのまま1章ずつを1話にして、連ドラにできるんじゃないかと思ったくらいです。もしかしたらそういうことを念頭に置いて書かれていたかもしれないし、ビジュアライズしやすい物語の書かれ方だと思いました。
僕が好きな野沢さんのドラマで、『眠れぬ森』という作品があって、とても面白かったですし、登場人物それぞれが細かく描かれていました。野沢さんのオリジナルの作品で、脚本家としての底力を見せられた気がしました。役者としては非常にやりがいのある作品だろうなと感じました。
―― 鴻上さんの演出を受けられるのは今回が初めてということですが、実際に稽古が始まってみての印象はいかがでしょうか?
若い俳優さんたちに言語化して分かりやすく伝えているなという印象です。彼らは、鴻上さんがおっしゃっていることが今は100パーセント表現できないかもしれないけれど、キャリアを重ねていったら「あの時、鴻上さんが言っていたのはこういうことなんだ」と気づく日がきっと来るだろうなというくらい、彼らに対して具体的な言葉で話しかけています。
鴻上さんご自身の言葉ですが、「抽象的なことは言わない」そうで、本当に具体的な言葉でわかりやすく説明されています。
若い子たちが自分の思いを伝えやすい環境を作りたい
―― 学生役の皆さんも多いですが、稽古場の雰囲気だったり、カンパニーの結束力はいかがでしょうか?
とてもいいと思いますよ。それはやはり鴻上さんの人柄だと思います。
―― 石黒さんも若い俳優さんたちにアドバイスなどされたりしますか?
聞かれれば答えますが、僕の役割としては、若い子たちが自分の思いを伝えやすい環境を作りたいなと。ただ、芝居というのはそういう関係性は関係ないんですよね。同じ舞台に上がってしまえば、50年やっていようが、デビューして半年だろうが、フラットなので、若い子たちが「こういう風に行こうと思うんですけどどうですか?」と言えるような雰囲気でいたいと思っています。
―― 今回、岡本圭人さんとは初共演で新鮮とコメントもされていましたが、実際に稽古を重ねてみての印象はいかがですか?
だいぶ変わりましたね。鴻上さんの演出の中で、彼の中でもそれが咀嚼されてきて、非常にナチュラルな芝居になってきていると思います。稽古が始まって1週間ぐらいでそうなるんですから、やはり感受性というか、感性をちゃんと持っている人なんだなと思います。
―― 本作では舎監の名倉憲太朗役を演じられますが、役柄の印象や、稽古ではどのように役を作っているところでしょうか?
名倉も彼らとコミュニケーションを取ることで変化していきます。彼は警察も辞めて、女房も亡くなって、子供もいなくて、自分が生きるための目標もなく、これからの何年かをどう過ごしていけばいいのかということを諦めていて、生きる意味を感じることができない日々を過ごしていました。
そんな彼が学生たちと触れ合うことで目覚めていくという物語でもあるので、その変わっていくさまを、どの段階でどのように見せていくか考えているところです。手の内を明かすように演じていきたいと思っているので、心の目線も、5度、10度、15度とだんだん上を向いていくような演技をしていきたいです。
セリフにもありますが、子供のいない彼が、彼らを子供になぞらえて、自分が父親である気分を味わうんです。自分が今まで築いてきた人生で、若者たちに何かを伝えて残したいという思い、それは僕も共感できる部分です。若い人たちに何かを伝えて、彼らの糧になってくれたら生きてきた意味があるのかなと思える、そこは年齢的にも名倉に非常に共感できる部分です。
―― 名倉は、今の石黒さんにとって演じやすい役柄ですか?
常にチャレンジングな役柄ですし、僕はこういった性質の男を演じてきたことは極めて少ないので・・・。

取材・文:THEATER GIRL編集部
公演概要
『反乱のボヤージュ』
2025年5月6日(火)~5月16日(金)新橋演舞場
2025年6月1日(日)~6月8日(日)大阪松竹座
原作 野沢尚(「反乱のボヤージュ」集英社刊)
脚本・演出 鴻上尚史
名倉憲太朗・・・石黒 賢
坂下薫平・・・岡本圭人
江藤麦太・・・大内リオン
司馬英雄・・・小日向星一
本多真純・・・駒井 蓮
葛山天・・・小松準弥
田北奈生子・・・谷口めぐ
沖田・・・前田隆太朗
茂庭章吾・・・財津優太郎
立花・・・渡辺芳博
神楽・・・葉山 昴
久慈刑事・・・加藤虎ノ介
日高菊・・・南沢奈央
宅間玲一・・・益岡 徹
公式サイト:
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/202505_enbujo/
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/202506_shochikuza/
