松田悟志×松村龍之介×小波津亜廉インタビュー 『星列車で行こう』「楽曲と芝居が調和するところが、この作品ならではの魅力」（前編）
2025年10月4日（土）より東京・新橋演舞場、 10月30日（木）より大阪・大阪松竹座にて、舞台『星列車で行こう』が上演されます。
本作は、夜空を駆ける“幻の列車”を舞台に、人生の岐路に立つ人々が出会い、悩み、そして希望を見出していく姿を描いたオリジナル ストーリー。初演は2024年に、京都・南座、名古屋・御園座にて上演され、多くの観客の心を掴みました。
脚本は小説家の真山仁氏、演出・補綴は坂東玉三郎氏が手がけ、歌、芝居、美術、照明、そのすべてを玉三郎の美学と感性が貫き、観る者を幻想的で繊細な世界へと誘います。
“夢が見つかる”という伝説を持つ星列車を舞台に、迷いを抱えた若者たちが再び走り出すまでの心の旅路を描く今作。
初演に引き続き、影山拓也さん（IMP.）が、自らの力で運命を切り拓きたいと星列車に乗り込む青年・太郎役で主演を務めます。さらに闇バイトから逃げ出し「星列車」に迷い込む次郎役の松田悟志さん、歌舞伎俳優を志すもかなわず星列車にたどり着く五郎役の松村龍之介さん、乗客を案内する不思議な車掌役の石井一孝さんが続投。また、太郎のかつての友人役として小波津亜廉さんが本作から新たに参加します。
劇中では越路吹雪の「一寸おたずねします」、堀内孝雄の「家を出てゆきたい」、浜田省吾の「MONEY」、ベン・E・キング の「Stand by Me」といった往年の名曲の数々を、ダンスシーンを交えて披露。劇場内には満天の星空が広がり、観客は列車とともに壮大な宇宙の物語を体験することとなります。
THEATER GIRLは、松田悟志さん、松村龍之介さん、小波津亜廉さんにインタビュー。前編では、再演が決まった時のお気持ちそれぞれの役柄について、影山拓也さん（IMP.）の座長としての印象など、たっぷりとお話をうかがいました。
実現できたことはとても幸せ
――松田さんと松村さんは今回“再演”という形になります。今回は東京と大阪での上演となりますが、再演が決まった時の思いや楽しみにしていることをお聞かせください。
松田：京都と名古屋で上演していた時から「東京と大阪でもやりたいよね」という声はキャストの中から自然に出ていたので、再演が決まった瞬間は本当にうれしかったです。ご観劇くださったお客様から「東京でもやってほしい」「大阪でも観たい」というお声を本当にたくさんいただいていたので、実現できたことはとても幸せでした。
発表までしばらく黙っていなければならなかったのが大変で、その間も「どうして東京でやらないんですか」と言われ続けて……心の中で「決まっているんですけどね」と思いながら過ごしていました。
松村：やはり自分の住んでいる東京で上演できるという喜びは大きいです。前回とは違った場所で上演できる新鮮さもありますし、京都と名古屋の初演の際は実際に旅をしながら『星列車で行こう』を上演していたので、その感覚もすごく良い作用をもたらしていました。
今回東京での上演になると、終演後にはそのまま自宅に帰るわけですから、その切り替えがどうなるのか、自分でも楽しみです。「玄関を出た瞬間に星列車モードになるのか、みんなに会った時になるのか」など、その変化も楽しめそうだなと思います。
松田：京都や名古屋ではホテル住まいだったので、晩ご飯も「龍ちゃんどうしてる？」とすぐ連絡を取り合って一緒に食べに行くことも多かったです。朝ご飯も一緒に食べたりと、まさに旅を共にしていました。それぞれの家に帰ることになると少し寂しさもありますが、あのときの旅のような一体感はすごく良い思い出になっています。
――小波津さんは、今回の公演から新しく参加されるお気持ちはいかがですか？
小波津：正直、とても驚きました。再演でメインキャストが新しく加わるという経験はこれまでになかったので、「これは大丈夫なのかな？」という不安もありました。ただ同時にうれしさもあり、さまざまな感情が入り混じっていました。坂東玉三郎さん演出の舞台に出演できること、そして共演者の皆さんとご一緒できることは大きな喜びです。松村龍之介さんは以前から知っていたので心強いですし、僕が観客として映像を見たときに「旅をしてみたい」と思った感覚を、今度は自分が届ける側として体現できたらと思います。
――実際にキャストの皆さんとお会いしたのはいつ頃ですか？
小波津：松田さんと石井さんにはポスター撮影の時に初めてご挨拶させていただきました。その後、歌稽古で影山さんともお会いしました。その時から皆さんの雰囲気がとても良くて、「楽しい旅をされてきたんだな」と強く感じて。今日こうして4人が再集結して当時のお話を聞かせていただき、改めて素敵な座組だと思いました。東京・大阪公演を一緒に旅できることが本当に楽しみですし、「道連れ」という言葉があるように、良い意味で仲間として一緒に歩めたらと思っています。
小さな変化が作品を大きく動かしていく
――役柄についても伺いたいと思います。前回に続き松田さんは次郎役、松村さんは五郎役を演じられます。今回役を演じるにあたり、新たに取り組みたいことや感じていることはありますか？
松田：昨年は、次郎という役に限らず『星列車で行こう』という作品そのものが最初手探りの状態でした。玉三郎さんも「まずは動いてみて決めたい」とおっしゃっていて。本読みの時から立ち稽古を取り入れ、「とにかく舞台上で生活している姿を見たい」と言われたのが印象的でした。台本を持ったまま立って動いては本の内容を書きかえて、本当に試行錯誤しながら作り上げていった初演だったと思います。
だからこそ今回、再演に向けた稽古期間が初演に比べて短いのは大きな意味があると感じています。玉三郎さんからの「昨年の経験を持ち寄ってほしい」というメッセージだと思うんです。初演で培ったものを一度バラして再構築し、磨き上げた材料で再び組み上げていく作業になると思うので、いい意味で緊張しています。
――凝縮された稽古になりそうですね。
松田：そうなんです。再演なら稽古が少なくてもいいはずですが、今回は新キャストの小波津さんが加わり、ストーリーも変わると聞いています。であれば、むしろ稽古期間が長くてもいいくらいですよね。ただ、すべては玉三郎さんの頭の中にあって、始まってみないとわからない部分が多いので、とにかく心して臨もうと思っています。
――松村さんはいかがでしょうか。
松村：初演を経ての再演なので、前回気づけたことや成長できた部分をもう一度呼び起こしたいと思っています。前回もそうでしたが、メインキャストが4人しかいない座組なので、一人ひとりの細かな変化にすぐ気づくんです。悟志さん（松田さん）が僕の変化に気づいてくれて、それが波及して全体が変わることも多くありました。
例えばかげ（影山さん）の芝居が変わったことで僕の返しが変わり、それによってシーン全体が別のものになる。そうした小さな変化が作品を大きく動かしていくんです。だからこそ再演では、その変化を良い方向に生かせるアプローチをしていきたいと思っています。
――少人数ならではの反応の速さですね。
松田：本当にそうです。南座の初日と御園座の大千穐楽では、もうまったく別の作品のようになっていました。それだけ進化していったんです。玉三郎さんご自身が常に「今日からまた新たな心持ちで上を目指そう」とおっしゃる方なので、僕らも毎日新しい緊張感を持って舞台に立っていました。
南座で中盤が過ぎた頃、玉三郎さんが客席に来られて。歌のリハーサル後に呼び止められて「今日、その仕上がりで舞台に上がるのか」と厳しく指導を受けたこともありました。昨日が良かったからといって今日も同じでいいわけではない、常に上を目指せということなんです。そのおかげで日々、初日の緊張以上の気持ちで舞台に立てました。役者としては本当に幸せな苦しみでしたね。
だから再演が決まってうれしい反面、またあの日々が来るのかと思うと正直怖さもあります。緊張とワクワクの両方を抱えていますし、千穐楽まで気を抜けないと思っています。
――小波津さんは今回、新たに参加されますが、役柄についてどのように受け止めていますか？
小波津：役としての方向性や雰囲気については玉三郎さんから共有していただきました。僕としては「これができます」「あれができます」というよりも、「どんなニュアンスやスパイスが欲しいですか？」と提示して、その場で求められたことに瞬時に対応できるようにしておきたいと思っています。歌ひとつ取っても、「こちらの表現の方がいいのか、あちらがいいのか」と常にアンテナを張り巡らせておきたいですね。
玉三郎さんと過去に共演させていただいた際は、言葉を発しない舞台だったので、表情やしぐさで役の心情を表していました。その時、役としての感情は一度として同じ瞬間がなく、常に変化していたんです。役者は初めて観に来た方にも毎回同じクオリティを提供しなければなりませんが、アドリブのような“スパイス”だけでなく、「同じように見えて実はまったく違う」感覚を持たなければいけないと気づけたのは、大きな学びでした。
今回参加させていただくにあたり、すでに皆さんが作り上げてこられた“旅の道筋”があると思います。僕はいい意味で図々しく「お邪魔します」と飛び込んでいくタイプなので、その図々しさをプラスに働かせたいです。もし邪魔だったら遠慮なく言ってくださいね（笑）。
影山さんは「天然さと真っすぐなリーダー性が絶妙なバランスで共存している」
――お話を伺っていてもカンパニーの雰囲気がとても良いと感じますが、主演・影山さんの座長ぶりについて、昨年の公演で印象に残っていることはありますか？
松田：かげちゃん（影山さん）は僕らがいじることもありますが、本当に素晴らしい座長だと思います。昨年はそれを何度も実感しました。彼はどこか少年誌の主人公のようなキャラクターで、時に天然な発言で場を和ませることもありますが、終演しカーテンコールの幕が上がった瞬間、お客様に向かって胸を張り、堂々と感謝の言葉を伝える姿は圧倒的でした。そういったことに一番長けているのはやっぱりかげちゃんなんですよね。天然さと真っすぐなリーダー性が絶妙なバランスで共存しているんです。
さらに玉三郎さんは芸に対して非常に厳しい言葉を投げかけられます。役者としては「できることならやっている」と思いながらも、どうしてもできない苦しさの中で逃げ場がない。その状況は本当に辛いものですが、かげちゃんはそこで「もっと教えてください」と前に進むんです。普通なら心が折れそうな場面でも、彼は恐れずにさらに吸収しようとする。その胆力には本当に驚かされました。
座長としてのあり方を、言葉だけでなく行動で示してくれる。なぜ真ん中に立っているのかを背中で納得させてくれる人です。年齢は僕よりだいぶ下ですが、心からリスペクトして舞台に立たせてもらいました。
取材・文：THEATER GIRL編集部
撮影：髙橋 耀太
公演概要
舞台『星列車で行こう』
脚本：真山仁
演出・補綴：坂東玉三郎
出演：影山拓也（IMP.）、松田悟志、松村龍之介、小波津亜廉、石井一孝 他
【新橋演舞場】
2025年10月4日（土）～10月26日（日）
【ご観劇料（税込）】
1等席 13,000円
2等席 9,500円
3階A席 6,000円
3階B席 3,500円
桟敷席 14,000円
【大阪松竹座】
2025年10月30日（木）～11月9日（日）
【ご観劇料（税込）】
1等席 13,000円
2等席 8,500円
公式サイト：
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/202510_hoshiressha_enbujo/
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/202510_hoshiressha_shochikuza/
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