振付・演出 森山開次×岡山天音インタビュー 『TRAIN TRAIN TRAIN』「“新たな何か”を感じていただける瞬間をお届けできれば」(後編)
ダンサー・振付家・演出家の森山開次さんと舞台芸術での共生社会の実現に取り組んできた東京芸術劇場、表現活動を通じて多様性のある社会を目指すNPO法人「スローレーベル」の芸術監督を務める栗栖良依さんとがタッグを組み、多様な視点と感性から舞台芸術をひらく全く新しいコンセプトの創作に挑戦。
物語の舞台は、不思議な音色を奏でる蒸気機関車“ムジカ”。そこに集う個性豊かな乗客たちと不思議な機関車が奏でるこの旅は、新たな出会い・発見・冒険に満ちています。子どもも大人も、視覚だけ、聴覚だけでも、あらゆる感性で楽しめる、新しい舞台作品がここに誕生します。
出演には、東京2020パラリンピック開会式で主役の“片翼の小さな飛行機“を務め、俳優・表現者として活躍の場を増す和合由依さん。独自の魅力と演技力で際立つ存在感を見せる俳優の岡山天音さん、美しい歌声と知的で朗らかな魅力で多彩に活躍するミュージシャンの坂本美雨さん、ろう者俳優・デフパフォーマーとして手話表現を生かした豊かなパフォーマンスを生み出しているKAZUKIさん、明るい歌声とキャラクターで国民的な人気を誇るタレント・歌手のはるな愛さんをはじめ、23人の魅力的なキャストが揃いました。
THEATER GIRLは、振付・演出を務める森山開次さんと、物語の中心となる人物を演じる岡山天音さんにインタビュー。後編では、本作の魅力や多様な身体性・表現スタイルを持つキャストとの創作で感じていること、約2年ぶりの舞台出演となる岡山さんに舞台ならではの楽しさ、魅力をお聞きしました。
多様な視点からいろいろな楽しみ方ができる構造になっている
――本作は蒸気機関車「ムジカ」を舞台に、子どもから大人まで視覚と聴覚の両方で楽しめる作品になると伺っています。どのような方に、どんな魅力を感じてほしいと考えていますか?
森山:この舞台は、多様な視点からいろいろな楽しみ方ができる構造になっていると思います。岡山さんが演じる詩人のレンというキャラクターを軸に観ることもできますし、別の登場人物を追って観ることもできる。ふと、日常で電車に乗ったときの体験が重なって「わかるな」と感じる瞬間もあるでしょう。同じ空間にいながら、それぞれが違う受け取り方をしていく──その状況自体が、とても素敵だと考えています。
理解し合うことはもちろん大切ですが、同時に、異なる視点から物事を見られることも同じくらい重要です。今回は、その“多様な視点”を楽しんでいただける舞台を目指しました。コンテンポラリーダンスは観る方の想像力に委ねる部分が大きいのですが、抽象性だけでは伝わりにくいところもあります。そこで、物語の枠組みをあえて設定しながら、その中で想像を広げてもらえる構造にしたいと思っています。
たとえば、天音さんがどんな思いで“旅”をしているのかを、作品の中で詩という形で発してもらっています。その言葉や姿から想像を広げていただきたいですし、周囲にいるダンサーたちの存在も、物語の見え方を変えていきます。彼らのことを「スチームダンサー」と呼んでいるのですが、旅に寄り添うように並走し、観客の想像を刺激する役割を担っています。
彼らが旅人のように見える瞬間もあれば、まったく別の存在に見えてくることもある。その答えは観客の皆さんに委ねられているので、その自由さそのものを、楽しんでいただけたらうれしいです。
――岡山さんや和合さんをはじめ、多様な身体性・表現スタイルを持つ23名のキャストと創作を進めるうえで、苦労されている点や、逆にその多様性ゆえの魅力を感じる部分はありますか?
森山:大変だと感じたことはありませんが、もちろん試行錯誤はあります。たとえば手話を取り入れる場面では、言葉を発しながら同時に手話をどう組み込むか、情報保障をどう成立させるかといった課題に向き合う必要があります。ただ、それらは最初から「挑戦したい」と考えていた要素でもあるので、難しさと面白さが常にセットになっているんです。想像を働かせながら作っていくプロセスも含めて、その難しさ自体が楽しさにつながっていると感じています。
振付の観点で言えば、普段は自分が動いて示し、同じメソッドを共有しているダンサーには比較的伝えやすいのですが、今回は車椅子のアーティストや俳優など、まったく異なる身体性を持つ表現者が集まっています。だからこそ、自分の想像を超える身体のあり方や動きがどんどん生まれてくる。その刺激がとても新鮮で、創作の醍醐味になっています。
ダンサーであればこちらが示した動きをすぐに形にできますが、そうではない身体と向き合うことで、「この人が動くとどうなるんだろう」「どんな質感の空気をまとうんだろう」と、ワクワクしながら創作できるんです。そんな多様な身体から立ち上がる表現を、楽しんでいきたいと思っています。

これまで積み重ねてきた自分の“色”も作品に反映させたい
――岡山さんは約2年ぶりの舞台出演になりますが、稽古を重ねる中で、舞台だからこそ感じている魅力や楽しさはありますか?
岡山:今回の作品は、これまで自分が出演してきた舞台とはまったく横並びにできないので、改めて「舞台とはこういうものだ」と語れる段階にはまだいないのかなと。幕が開けば、過去に演劇で立ったことのある劇場なので何か近しい感覚が生まれるかもしれませんが、現時点では、どんな世界が立ち上がっていくのかまだ鮮明には見えていない状態です。
ただ、今過ごしている稽古時間はとても面白いです。普段の仕事では“芝居の延長線上にある演出”に触れることが多いのですが、今回はダンスが軸にある物語なので、考えるポイントが大きく変わってきます。このフィールドの中で自分がどう存在すべきなのかを常に考えていますし、もっと深く考えたいと思っています。
普段とはまったく違う脳の使い方をしている実感があって、それがとても新鮮なんです。この先、同じような現場に巡り合える保証もありませんし、そういう意味でも本当に貴重な場所に呼んでいただいたと感じています。
表現というものを、これまでとは別の角度から見つめ直す時間にもなっています。まったく違うフィールドに飛び込んでいる感覚はありますが、そのうえで、これまで積み重ねてきた自分の“色”もきちんと作品に反映させたいですし、それが自分を呼んでいただけた理由でもあると思うので、その期待に応えたいですね。

――最後に、本作を楽しみにしている皆様へメッセージをお願いします。
岡山:僕自身、まだ“呼び名のわからない表現方法”のようなものを模索している最中で、それを観に来てくださる皆さんに向けてしっかり放出していけたらと思っています。さまざまな場所から集まった人たちと、一つの「TRAIN TRAIN TRAIN」という作品を一緒に形作っているので、ご来場いただく皆さんも、これまでに触れたことのないような、新しい感触に出会えるのではないかと思います。作品としては多くの試みが詰まっていますが、どうか気軽な気持ちでお越しいただけたらうれしいです。
森山:この世界には、本当に多様で豊かなものがあふれています。稽古場にいても、僕自身が仲間の存在や視点に気づかされたり、新しい発見をもらったりしています。この物語を通して、お客様にもさまざまな言葉や音、あるいは視点の変化から生まれる気づきを体験していただけたらうれしいです。いつもと少し視点を変えるだけで、まったく違う音が聞こえたり、思いがけない言葉が降ってきたり、身体の動きの一瞬に新しい発見があったりします。そうした“新たな何か”を感じていただける瞬間を、一人ひとりにお届けできればと思っています。
取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:遥南 碧
公演概要

TOKYO FORWARD 2025 文化プログラム
「TRAIN TRAIN TRAIN」
2025年11月26日(水)〜30日(日)
東京芸術劇場 プレイハウス
振付・演出 森山開次
音楽 蓮沼執太
テキスト 三浦直之(ロロ)
キャスト:
和合由依 岡山天音 坂本美雨 KAZUKI はるな愛 森山開次
/大前光市/浅沼圭 岡部莉奈 岡山ゆづか 小川香織 小川莉伯 梶田留以
梶本瑞希 篠塚俊介 Jane 田中結夏 水島晃太郎 南帆乃佳
演奏 蓮沼執太 イトケン 三浦千明 宮坂遼太郎
スウィング 鈴木彩葉 田村桃子 中村胡桃
スタッフ:
アクセシビリティディレクター:栗栖良依
スペシャル・アンバサダー:ウォーリー木下
チケット料金(全席指定・税込):
S席 一般6,600円 25歳以下(S席)4,500円
A席 一般4,000円
こども(4歳以上18歳まで):1,000円(S・A共通)
