振付・演出森山開次×岡山天音インタビュー『TRAIN TRAIN TRAIN』「“新たな何か”を感じていただける瞬間をお届けできれば」（前編）

2025.11.24

INTERVIEW

ダンサー・振付家・演出家の森山開次さんと舞台芸術での共生社会の実現に取り組んできた東京芸術劇場、表現活動を通じて多様性のある社会を目指すNPO法人「スローレーベル」の芸術監督を務める栗栖良依さんとがタッグを組み、多様な視点と感性から舞台芸術をひらく全く新しいコンセプトの創作に挑戦。

物語の舞台は、不思議な音色を奏でる蒸気機関車“ムジカ”。そこに集う個性豊かな乗客たちと不思議な機関車が奏でるこの旅は、新たな出会い・発見・冒険に満ちています。子どもも大人も、視覚だけ、聴覚だけでも、あらゆる感性で楽しめる、新しい舞台作品がここに誕生します。

出演には、東京2020パラリンピック開会式で主役の“片翼の小さな飛行機“を務め、俳優・表現者として活躍の場を増す和合由依さん。独自の魅力と演技力で際立つ存在感を見せる俳優の岡山天音さん、美しい歌声と知的で朗らかな魅力で多彩に活躍するミュージシャンの坂本美雨さん、ろう者俳優・デフパフォーマーとして手話表現を生かした豊かなパフォーマンスを生み出しているKAZUKIさん、明るい歌声とキャラクターで国民的な人気を誇るタレント・歌手のはるな愛さんをはじめ、23人の魅力的なキャストが揃いました。

THEATER GIRLは、振付・演出を務める森山開次さんと、物語の中心となる人物を演じる岡山天音さんにインタビュー。前編では、本作の構想への思いや俳優・表現者としての岡山さんの魅力、森山さんが手掛ける演出の印象や本作での表現への取り組みについて、お話をうかがいました。

インタビュー後編はこちら

まずは一枚の絵を描くことから始まった

――本作はパラリンピック開会式での「絆」から生まれたとのことですが、改めて作品を構想された思いをお聞かせください。

森山：パラリンピックに携わった経験は、僕にとって本当に大きな財産でした。ただ、関わった誰もがそうだったと思いますが、あの出来事をお祭りという形で終わらせたくないという思いが強くあったんです。とはいえ、すぐに新しい作品として形にできるわけでもなく、まずは一枚の絵を描くことから始まりました。パラリンピックのときは飛行機をテーマにしていたので、「次は列車の物語だろう」と感じて、そこから手を動かし始めたのが最初のきっかけです。

――今回は岡山さんをはじめ、和合由依さん、坂本美雨さんなど、総勢23名の表現者の方々が参加されています。岡山さんをキャスティングされた理由についてもお聞かせいただけますか？

森山：列車の物語を作ろうと思ったとき、まず（和合）由依を先頭にした絵を描いたんです。その時点で「ここにいろいろな人が乗り合わせてほしい」という気持ちが強くあり、最初の絵にはすでに“ひとりの旅人”の姿も描かれていました。そのキャラクターを誰に託すべきか考えたとき、「心の旅をしているような雰囲気を持つ人」というイメージが浮かんだんです。

（岡山）天音さんはテレビなどで拝見することも多く、候補の中でも特に惹かれるものがありました。率直に言うと、“天音”という名前の響きがまず印象的でした。「天の音」と書くその名前がとても美しく、作品づくりにおいて名前の持つ意味や音の印象が役作りに影響することも多いので、その雰囲気に強く惹かれて。「天の音を探す人」なのではと感じて、ぴったりだと思いました。

もともと列車の物語には“音”のモチーフを取り入れたいと思っていたので、天音さんにお願いすることが決まってから、「天の音を聞く男・詩人」という人物像が自然と立ち上がっていきました。物語自体は絵から始まっていましたが、核となる“音を聞く”というテーマがより明確になり、改めて天音さんにお願いして良かったと感じています。

――稽古を重ねる中で、俳優・表現者としての岡山さんの魅力はどのように感じていますか？

森山：役者として思考したり、想像を広げたりしながら役をつくっていくのは当然ですが、天音さんは、その“声の聴き方”がとても豊かなんです。自分の声や感覚だけではなく、周囲にある多様な“声”を丁寧に拾い、その一つひとつに思いを寄せていける人だと感じています。いろいろな人を見つめ、さまざまな方向へ心を旅させながら耳を澄ませているような印象があるんです。

稽古の場でもそれは強く伝わってきます。実際のところはご本人にしかわからない部分もあると思いますが、さまざまな“音”を集め、いろいろなものをキャッチしていく姿が、この役に非常に合っていると感じています。

初めて出会った形の作品だと感じた

――岡山さんは、最初にこの作品の企画を聞いたとき、どのような印象を持たれましたか？

岡山：これまでにお受けしたことのない、初めて出会った形の作品だと感じました。（森山）開次さんの中にあるイメージが、いくつかの文章や企画書という形で提示されていて、それを読ませていただいたのが最初です。今まで出会ったことのないタイプのお話だったので、当時の自分にはどんな作品にたどり着くのか想像がつきませんでした。

ただ、普段の自分の活動ではなかなかご一緒できない方々と、表現という一つの目的に向かって、それぞれの色を持ち寄りながら作品づくりができることに大きな魅力を感じて。そこが最初の強い印象だったと思います。

――今回は「詩人」の役を演じられます。セリフのない役ということですが、どのような表現が見られそうでしょうか？

岡山：セリフがないという設定自体が、とても大胆だと感じています。ただ、自分としては「挑戦」という堅い言葉で括りたくはなくて、むしろ遊び心を大事にしながら参加し続けたいなと。幕が上がる頃には、きっと自然とどこかにたどり着いているはずだという感覚があります。

これまで自分が取り組んできた表現とはまた異なる、新しい武器のようなものを携えて、「TRAIN TRAIN TRAIN」という旅に出るつもりです。ダンスや所作といったひとことでは括れない、いくつもの表現の中間のような身体性になる気もしていて。まだ皆さんと一緒に形を探っている段階なので断言はできませんが、新しい表現になるのではないかと思っています。

――実際に森山さんとご一緒されて、演出家としてはどのように感じていますか？

岡山：開次さんのオリジナリティが強く感じられますね。ご自身のルーツやモチーフがどのように物語へ影響しているのかを伺うと、言葉にするのをためらうほど独特で、とても刺激的なんです。

同じ世界を生きているはずなのに、何をどう捉え、どのように身体へ取り込んで表現しているのか──その視点や感性の違いが、作品や芝居に自然に反映されていて。そうした背景を垣間見るたびに、「本当に貴重な現場に参加させてもらっている」と実感しています。