松岡広大×山崎大輝インタビュー ミュージカル『スリル・ミー』 「この2人じゃないといけないところまで持っていけたら」(前編)
2023年9月7日(木)より東京芸術劇場シアターウエストにて、ミュージカル『スリル・ミー』が上演されます。
本作は1920 年代に実際に起こった、一番悪名高く凶悪な伝説的犯罪を土台とする緻密な心理劇。出演者はたった 2 人。“私”と“彼”、そして1台のピアノから始まる美的なメロディー。難題に挑むのは、演劇界を担う俳優たち。シンプルであるがゆえに緊迫した空間での、美しく濃密な時間。客席を圧倒するエネルギー、強烈な旋律の頂点に向かって走る100分。世界各国で上演が相次ぎ、韓国でも異例のロングランを記録している話題作です。
演出を手掛けるのは、日本の演劇界のトップを走り続ける演出家、栗山民也さん。尾上松也さん(私)×廣瀬友祐さん(彼)、木村達成さん(私)×前田公輝さん(彼)、松岡広大さん(私)×山崎大輝さん(彼)の3ペアが“私”と“彼”を演じます。
THEATER GIRLは、 松岡広大さんと山崎大輝さんにインタビュー。前編では約2年ぶりに再演が決まったときのお気持ち、松岡さんが演じる「私」、山崎さんが演じる「彼」の魅力的に感じる部分など、たっぷりとお話をうかがいました。
演劇は一度じゃ終わらない
――前回はコロナ禍で一部の公演が中止になってしまいましたが、約2年ぶりに再演が決まったときはどんなお気持ちでしたか?
松岡:前回は一部が中止になってしまった背景があって、僕は『スリル・ミー』に関しては、ずっと現実との重なり方について考えていたんです。この作品は偶然性、さらに残酷な言葉で言うと再現性のある題材なので、何度もやらなくてはいけないと思っていますし、やっぱり演劇は一度じゃ終わらないので。今回またお声掛けいただけて、大輝くんとの思いを醸成して発酵させることができるのはとても嬉しいです。
山崎:本当に嬉しいですね。広大くんも言っていた通り、前回は公演が途中で終了してしまって。本当に突然終わってしまった感じだったんです。僕らも公演をしていく中で、変化したり何かを掴みかけたりしている時期でしたし。もっとその先に行けそうだったので、 途中で終わってしまって悔しい思いをしました。だからこそ、今回またやらせていただけるのが本当に嬉しくて。時を経て、絶対にあの頃とは違ったものを作ることにはなるので、2人でまた挑戦させてもらえることがすごく嬉しいですね。
――2年の期間を経ての再演は、ちょうどいいタイミングだとお感じでしょうか?
松岡:そうかもしれないです。2年って大きく何かが変わるわけではないけど、個人的には変わった感覚が実感としてあるので。年齢も20代から30代に大きく変わるわけではないけど、2年って言ったら700日以上経っていますし、そうやって考えると時の重さを感じるのでいい機会なのかなと。最初は「早すぎるんじゃない?」と2人で話していたんですが、今はちょうどいいのかなと思っています。
――まさか2年で再演できるとは思わなかったという感じでしょうか?
松岡:そうですね。もう少し経ってからかなと思っていました。
山崎:前回のときも、何年も経ってお互い30歳くらいの時にまたやれたらいいねって話をしていたんです。だからこそ、2年なんだって(笑)。
――前回は初共演でしたが、今はだいぶ仲も深まってらっしゃいますよね。取材中も仲の良さが伝わってきます。
松岡:まあ、仮初めの姿ですけどね(笑)。
山崎:仮初めの姿とか言うな(笑)。
「私」も「彼」も不器用なところが魅力
――それぞれ松岡さんが演じる「私」、山崎さんが演じる「彼」の魅力的に感じる部分はどんなところでしょうか?
山崎:僕が演じていた「彼」も不器用ですけど、広大くんが演じていた「私」も相当不器用ですよね。“ここ”しか見えなくなるというか。それが2人の良さなんだろうとも思うんですけどね。
松岡:「生の暴走」というテーマにはあっていたよね。
山崎:そうそう、まさに僕らが前回テーマとされていたのが「生の暴走」だったんです。それにはすごく合っていたなと思いますね。
松岡:それで言うと僕は「虚飾」です。ふさわしい言葉が「虚飾」くらいしか浮かばないですね。着飾っていることよりも「虚飾」という言葉を使うことによって、「彼」も周りより秀でている感覚もあるだろうし。他とは違う知性があるよということを世間に向けて全面的に出しているんです。ただ、それを隠すということはコンプレックスなんですけど。
そういうことを非常に感じる役で、一人になると心細くて不安定になってしまう。だからそれを隠すために物を破壊したり、最終的には人を殺めてしまったりするんです。自分の心の弱さに抗おうとする、すごく生々しい10代だなと感じました。
山崎:お互いに似ている部分が多いと感じました。すごく“人間”だなって。返してみれば、僕もすごく人間っぽいですし。
松岡:「お前そんな話するなよ」という風に、弟のことを聞く時に表情がガッと変わるんですよね。だから家庭に対してすごくコンプレックスがあるのは、自分の矮小さを認めたくはないけど、 実際にはそうなっているというか。2年前はそのジレンマをすごく感じました。
もう「生の暴走」だけではできない
――先ほども話に出ましたが、前回は「生の暴走」というキーワードを掲げられていましたが、それは引き続き意識されるのでしょうか?「新しい目標を掲げて臨みたい」ともコメントされていましたが。
松岡:もう「生の暴走」だけではできないと思います(笑)。その年齢でしか出せないものがあると思うので。逆に言えば2年経って出せるものもありますから、あまり若さに頼らずもう少し論理的にテーマを見つけられたらと思っています。「生の暴走」と言ってしまえば、すごく自然発生的でそれに身を委ねるという、どこか追随していくイメージがあると思いますが、今回は自分たちで作りたいし、以前と台本を読んだ時の見え方が全然違うんですよね。
――2年前と今台本を読むのとでは全然見え方が違っているんですね。
松岡:明らかに違うのが明白なので、もっと“社会について”みたいなことを掲げられたらいいなと思います。
山崎: 前の台本に書き留めていたメモって、今見ても「確かにそうではあるけど」ってことが多いんですよね。 だから同じものを追い求めることは多分しないのかなと。かと言って違うものを作らなきゃとも別に思っていないので、それはまたこの渦の中に飛び込んだら何か見つかるのかなと思っています。
2年前とは変わった広大くんと、多分俺も変わってはいるんだろうけど、進み具合や変わり具合って人によりけりじゃないですか。だからどう影響を及ぼし合うかは、一緒にやってみないとわからないのが正直なところですね。栗山さんが何て言うのかも気になりますし。
松岡:印象的だったのが、コメントを示し合わせたわけではないんですが、僕は「対話や議論をテーマにしたい」と言った時に、大輝くんも「稽古場でも作品の中でも対話をちゃんとしたい」って言ってたよね?
山崎:そうそう。やっぱり前回は初めましての状態から濃密なお芝居を作っていく中で、割とそんなに細かい対話をしたわけじゃなかったんですよ。そういう意味では自然とやっていた感じだったんですけど、今回はせっかくすでに関係値があるんだったら、もうちょっと話をして、逆にこの2人じゃないといけないところまで持っていけたらいいなと思いました。
松岡:お互いにイエスノーが言えるようになったんです。その責任感がちゃんとあるし、何でできないのかも議論できるようになっていると思うので、それが詰められたらいいなと思います。
――今はそういうことがはっきりと言い合えるような関係になっているんですね。
松岡:まあ、上辺ですけどね(笑)。
山崎:おい(笑)。別に、前も言えなかった訳ではないんですけどね。
松岡:そうだね。物理的に時間もなかったし。時間のせいにしたくないけど、やっぱりどれだけ時間をかけたかだと思うので。
取材・文:THEATER GIRL編集部
Photo:MANAMI
ミュージカル『スリル・ミー』木村達成さん×前田公輝さんのインタビューはこちら
公演概要
ミュージカル『スリル・ミー』
2023年9月7日(木)~10月3日(火)
東京芸術劇場シアターウエスト
原作・音楽・脚本:Stephen Dolginoff
翻訳・訳詞:松田直行
演出:栗山民也
出演者:
尾上松也(私役)×廣瀬友祐(彼役)
木村達成(私役)×前田公輝(彼役)
松岡広大(私役)×山崎大輝(彼役)
ピアニスト:
朴勝哲/落合崇史/篠塚祐伴
チケット:
9,500円
注釈付席:9,500円
注釈付補助席:9,500円
(税込・全席指定)
【ツアー】
■大阪公演
2023年10月7日(土)~10月9日(月・祝)
サンケイホールブリーゼ
■福岡公演
2023年10月11日(水)・12日(木)
キャナルシティ劇場
■名古屋公演
2023年10月14日(土)・15日(日)
ウインクあいち 大ホール
■群馬公演
2023年10月21日(土)・22日(日)
高崎芸術劇場 スタジオシアター