松岡広大×山崎大輝インタビューミュージカル『スリル・ミー』「この2人じゃないといけないところまで持っていけたら」（後編）

2023.09.15

INTERVIEW

2023年9月7日(木)より東京芸術劇場シアターウエストにて、ミュージカル『スリル・ミー』が上演されます。

本作は1920 年代に実際に起こった、一番悪名高く凶悪な伝説的犯罪を土台とする緻密な心理劇。出演者はたった 2 人。“私”と“彼”、そして１台のピアノから始まる美的なメロディー。難題に挑むのは、演劇界を担う俳優たち。シンプルであるがゆえに緊迫した空間での、美しく濃密な時間。客席を圧倒するエネルギー、強烈な旋律の頂点に向かって走る100分。世界各国で上演が相次ぎ、韓国でも異例のロングランを記録している話題作です。

演出を手掛けるのは、日本の演劇界のトップを走り続ける演出家、栗山民也さん。尾上松也さん（私）×廣瀬友祐さん（彼）、木村達成さん（私）×前田公輝さん（彼）、松岡広大さん（私）×山崎大輝さん（彼）の3ペアが“私”と“彼”を演じます。

THEATER GIRLは、松岡広大さんと山崎大輝さんにインタビュー。後編では、栗山さんの演出を受けるにあたって意識したいことや本作への思いについて語っていただきました。

インタビュー前編はこちら

稽古中は栗山さんとずっと議論したい

――稽古への関わり方もだいぶ変わってきそうですね。今回、他のペアも一新されていますが、栗山さんの演出を受けるにあたって意識したいことはありますか？（取材は稽古前）

松岡：『スリル・ミー』の稽古って本当にすれ違いなんです。前回は、僕らが暗中模索していたので他のペアの稽古場を見させてもらいましたが、成河さんの「私」を見ても感嘆の声しか出ないし、まったく違うということがわかったので。今回は栗山さんと稽古の時間はずっと議論したいなと思います。やっぱりどうしても時間が足りないので、初日から通せるようにして栗山さんに見てもらうのが一番いいのかなと。

山崎：その方が早いよね。

松岡：ずっとブロック通しをするぐらいね。

山崎：この作品は断片的にやる方が難しい。

――通した方がやりやすいんですね。

山崎：はい。それこそ前回「彼」を演じていた時は、通しをするとイラっとくる言葉が変わるんですよ。その時によって引っかかることが違って。やっぱり通していくと「私」の言ってる言葉や態度に対して、「彼」として気に障る部分がちょっと違ってくるんですよ。

松岡：栗山さんって話し合うのがすごくお好きな方だと思うので、我々が自分の意見をもっと提示していかなければと思います。

――稽古では、ペアごとに栗山さんと3人の空間なんですね。

松岡：そうですね。

――そう考えるとすごく贅沢な時間ですね。

松岡：本当に贅沢ですよね。それが2人芝居の好きな理由でもあるんです。3人芝居の場合は誰かがガス抜きをしてくれるんですけど、2人芝居の場合は2人で作って、演出家さんやスタッフさんとのチームワークは議論や対話をしないと生まれないので、今回はたくさん話したいなと思います。

――2人芝居だと稽古でも常に細かく見られている状態ですよね。普段よりも緊張感を感じたりもされますか？

松岡：最近、何を見られてもいいっていう考えになってきたんです。稽古ってやっぱり恥をかいて試すところなので。なんなら本番よりも稽古でどれだけできたかが大事だと思っていて。

――お二人は正反対な雰囲気があっていいですね。

山崎：いやいや、違いますよ。彼は剣山ですけど、僕はその裏側にこうなってる（尖ってる）だけなんで（笑）。実は裏を返したら俺の方が尖っている時もあるので。

――そうなんですね、意外でした。

松岡：騙されちゃダメですよ（笑）。こういう場になるとよく大輝くんについて言うんですけど、自分で喋っていることがだんだん分からなくなってくるんです。

山崎：あ、そうそう。

松岡：だから、だらだら延びちゃうんですよ。ちょっとおかしな子なんで（笑）。

山崎：いや、やめろ！　保護者すな（笑）。

――いいチームワークですね（笑）。最後に、本作を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。

山崎：あまり深いことを考えずに観に来てほしいなと思います。ただ、もちろん観終わった後にはいろいろと考えていただきたいです。でもやっぱり劇場に足を運ぶことへのハードルの高さをすごく感じるんですよね。

松岡：そうそう。本当にそれよな。

山崎：特に今回やらせていただくお芝居って、本当に生々しいものを作るので。リアルなものを作るからこそ、興味があっても来るのがおっくうになることもあると思うんです。なので、本当に身構えずに来ていただけらなと。ただ、「来てほしい」と手放しで言えるわけでもないので、そこがちょっと難しいさじ加減だなと思います。

松岡：楽しんではもらいたいよね。

山崎：そう。やっぱり楽しんでほしいとは思いますね。

松岡：以前、舞台『ねじまき鳥クロニクル』という作品が中止になってコロナ禍というものを痛感して、少しずつ劇場は再開していきましたが、演劇が大好きな人しか来なくなってしまったんです。でも、それは誰も悪くないし、今もまだいつ中止になってもおかしくない状況なので。特にこの作品は途中で帰ってしまう人もいるかもしれない。でも、僕らは絶対に中座はさせない。あとはお客さまに想像の自由を与えられたらと。この作品は史実を元にしていますが、「私たちが不勉強だったから理解できなかった」と思わせないようにしたいです。演劇は一度観ただけで人生を変える力があると思うので、ぜひ楽しんで来ていただきたいです。