新木宏典×崎山つばさインタビュー『赤ひげ』「明治座150周年にふさわしく。まるでドキュメンタリーを届けているような作品になれば」（後編）

2023.10.27

INTERVIEW

2023年10月28日（土）から東京・明治座にて、12月14日(木)から大阪・新歌舞伎座にて、明治座創業150周年記念『赤ひげ』が開幕します。

山本周五郎の傑作小説『赤ひげ診療譚』が原作となる本作。江戸時代後期の小石川養生所を舞台に、名医ではあるが武骨で変わり者な医長・赤ひげ（新出去定）と若い医師たちが日々格闘しながら、医療、命、そして生きることに向き合う姿を描きます。

貧しい者たちを救うため身を粉にして働き、ときには経費削減を命じる公儀に逆らうことも厭わないーー。そんな赤ひげを演じるのは、テレビドラマ版『赤ひげ』でも、新出去定役を務めた船越英一郎さん。今回が舞台初出演となります。

今回THEATER GIRLでは、医員見習として新しく小石川養生所にやってくる保本登を演じる新木宏典さん、同僚の津川玄三を演じる崎山つばささんにインタビュー。後編では、役柄にちなみご自身の中で、成長することについてどう感じているか、本作で主演を務める船越英一郎さんの印象など、たっぷりとお話をうかがいました。

インタビュー前編はこちら

どこにでも「成長」するスパイスは落ちている、すべてを発破に繋げる

――新木さんが演じる保本も、崎山さんが演じる津川も、物語の中でそれぞれ成長していきます。保本のように赤ひげから直接影響を受ける人もいれば、保本が来たことによって触発される津川もいる……。ご自身の中で、成長することについてどう感じますか？

新木：僕の年齢まで来ると、非常に難しいと思うんですよ。「40歳から何を成長するの？」という。体力的にも衰えてきますし、むしろ無理せず怪我しないように気をつける。ちゃんと自分の体調を管理したうえで、できる範囲のことを精一杯やりましょうという感じでもあって。だから40歳になると、そんなに成長を見込めないんですよね。

――自然と抑え気味にしてしまうのでしょうか？

新木：だから、僕はそれが嫌で改名したんです。（2023年6月、荒木さんは40歳になったのを機に「荒木宏文」から「新木宏典」に改名されました）

「40歳からより無理をするぞ！」という思いで。なので、成長を諦めてはいないんですけれど、そのために必要なのは先輩の背中を追いかけること。これも必要ですが、後輩に追われている自覚があったほうが加速できるわけです。

後輩と同じ作品に肩を並べて共演したとき、自分は現時点でこの作品にたどり着いているけれど、彼はその年齢でこの作品にたどり着いているので、圧倒的に俺よりも早い。つまり、持っている才能が違うし、このあとより成長も加速していく。（若いほうが比較的に）時代のニーズに合わせた作品に出やすい年齢でもあることを考えたら、可能性も才能も僕より秘めている。そんな人たちがたくさんいると考えたら、この危機感をプレッシャーとして感じて、頑張る糧にできると思うんですよね。

「競うこと自体が間違ってるんだよ！」と言ってしまえば、楽に走れるけれど、同じように走ると決めたら必死になるしかないです。だから、先輩後輩は関係ない。同業者にはすべて刺激をもらうべきだと思っています。

もっと言うと、別のジャンルで働いている同世代の会社員もそうですよね。僕は家庭を持つ選択肢を諦めて、役者として芸能界一本に絞って必死でやっていますが、同い年の幼馴染は中学生高校生の子どもたちを面倒見ながら、家庭を持っている。仕事と家族を両立していることを考えたら、僕よりもすごいことをしていますよ。

家族を持ってない僕は、もっと頑張れるはず。そう思うと、どこにでも成長するスパイスはゴロゴロと落ちていると思います。楽さえしなければ、世の中は刺激だらけだと思いますね。

――あえて発破を掛けるといいますか、自分にプレッシャーを与えて。

新木：すべてが発破に繋がると思います。後輩を育てることも、まさにそうですよ。その子たちがすごいスピードで加速して成長していけば「ずっと先輩でいるためには、もっと頑張らなきゃ！」と思えるわけで。その子たちの成長速度を遅らせれば楽しながら走れるけれど、一緒にどんどん加速していったほうが先の未来は明るいとは思います。

赤ひげとして存在していた船越さん。津川が初めて赤ひげに会った感覚とリンクできるかも

――今回、船越さんは舞台初出演ということですが、すでにお会いしましたか？

崎山：ビジュアル撮影のときにお会いしましたよ。

赤ひげなのか、船越さんなのか、お話ししているとどちらだか分からない瞬間があって。もう染みついているんですよね、きっと。

もちろん、船越さんは船越さんで存在していらっしゃると思いますが、僕にとってはもう赤ひげにしか見えなくて。場を和ませるためにジョークを言ってくださるときも、基本は船越さん自身のユーモアからだとは思うのですが……それでも、やっぱり赤ひげなんですよ。

だから、僕が初めて船越さんに会った感覚と、津川と赤ひげの関係性が、もしかしたらリンクするかもしれません。そう思わせてくれるような人でもありますね。

今回、船越さん自体は初舞台ということですが、本作に関しては、赤ひげとしてずっと生きている方なので。そこはもう「初めてだから」というのは、個人的にないと思っています。もちろん、その中でも、今まで自分が舞台で経験したことを、僕なりに少しでもこの舞台に還元できたらという思いがあります。

それに、『赤ひげ』の世界をつくるという意味では、みんなが同じベクトルに向かっていくことでもあるので、稽古場で船越さんからいただく言葉もあるだろうし、演出の石丸さんからいただく言葉もあるだろうし、作品をよりよくしていくためには一人ひとりの力が合わさってこそだと思います。そこは、僕自身も頑張っていかなければと思っていますね。