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演出家・元吉庸泰インタビュー 「先輩方からいただいた教えの一つひとつが、大切な財産」(後編)

INTERVIEW

ミュージカルからストレートプレイ、2.5次元作品、そしてオリジナルミュージカルまで幅広いジャンルの演出、脚本・歌詞を手掛ける元吉庸泰さん。これまでに舞台『鬼滅の刃』(脚本・絵出)、ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』(脚本・歌詞)など数々の話題作を手がけ、そのたびに独自の視点で舞台の魅力を立ち上げてきています。

さらに12月9日(火)から上演されるミュージカル『十二国記 -月の影 影の海-』では、脚本・歌詞、そして1月8日(木)から上演される新作ミュージカル『白爪草』では演出を手掛けられます。

THEATER GIRLは、元吉庸泰さんにインタビュー。後編では、演出から脚本まで様々な作品を手掛ける中、大変だと感じていること、1月から始まる新作ミュージカル『白爪草』での若手クリエイターたちとのクリエーションについて、さらに演出家としての夢についてもお話をうかがいました。

追い詰められないとダメだと気づいた

今はたまたま少しスケジュールに余裕がある時期ですが(取材時)、本当は「演出の現場に入りながら、脚本を書く時間も確保できる」というバランスが理想です。ただ実際は、時間があると逆に書けないんですよね。最近になって、追い詰められないとダメなんだと気づきました。お尻に火がついている方が、圧倒的に筆が進むので、マネージャーさんにも「もっと仕事ください、追い詰めてください」とお願いしているくらいです(笑)。

そうですね。ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』の時なんかは本当に大変でした。重圧もあり、ひたすら追い詰められていました。

昨年の音楽朗読劇「三毛猫ホームズ」では、急遽の依頼で脚本と作詞を担当したのですが、石丸さち子さん演出で、執筆期間はというと、作品を読んだり取材をしたりしたら、実質1週間。でも、ああいう極限の状況の方が集中できるんだなと改めて感じました。

ちょうどその頃、ホリプロのミュージカル『ミセン』という作品で演出助手をしていたのですが、韓国のトップ演出家であるオ・ルピナさんと、振付のKAORIaliveさんが参加されていた現場で。僕はプロデューサーにお話を頂いた時、「やりたいので、なんでもいいから現場に入れてください」と逆にお願いして参加させてもらいました。現場に入らないわけにはいきませんから、全力で取り組みました。でもその結果、なんとか対応できるようになったんです。

その現場でルピナさんからも、本当に多くを学ばせていただきました。同い年ですが、韓国のトッププロとして活躍し、大規模作品を手がけてこられた経験は圧倒的です。韓国では場当たりでテクニカルを作る文化があり、それを仕切れないと無能と思われるそうで、現場でルピナさんの取り組みを間近で学べたことは本当に貴重でした。

さらに、舞台『刀剣乱舞』の現場では末満さんからも多くの示唆をいただき、演出の幅を広げていただきました。こうした学びを積み重ねながら、一生勉強を続けていけたらと思っています。

このメンバーからどんな作品が生まれるのか、楽しみで仕方ない

ありがたいことに、今回の作品はコロナ禍の時期に、プロデューサーが「『スリル・ミー』のような上質な二人ミュージカルを作れないか」と考えたことから始まった企画です。若いチームで挑戦したいという意向で声をかけていただき、トライアルとして、SUPERNOVA KAWASAKIという約200席の劇場で試すことになりました。

僕自身が感じているのは、「少人数で、上質で、世界に届けられる作品をつくること」が求められているということ。そのために、音楽・台本・演出のすべてをきちんと整える必要があります。今は大規模ミュージカルが主流で、チケット代によって収益構造を支えている部分もありますが、少人数のオリジナルミュージカルは本当に回収が難しいんです。ミュージカル畑にとって無名の新作ならなおさら。でも、そんな中でトライアルの機会をいただけるのは、とてもありがたいことだと感じています。

脚本は若い才能である福田響志、音楽はヒグチアイさん。最初に聞いたとき、「ヒグチアイさんが参加してくださるのか!」と驚きました。最初の打ち合わせでは「そもそもミュージカルとは?」という基本から語り合い、原作の魅力をどうミュージカルに落とし込むか、音楽が何を語るのか、響志くんとヒグチさんと3人で徹底的に話し合いました。曲が仕上がってからも、何度も構造を見直して突き詰めています。

さらに題材そのものが難しく、何度もどんでん返しがある挑戦的な作品です。「今の時代に、こんなチャレンジをさせてもらっていいのだろうか」と思うほどですが、それ以上に本当にうれしい機会です。

今回のスタッフも、“これからの時代を担う人たちが集まっている”という印象があります。スタイリングもテクニカルも若い才能が揃っていて、このメンバーからどんな作品が生まれるのか、楽しみで仕方ありません。その一方で、「これは本気で問われる場だな」と、芝居も空間の使い方もすべてが試されるという緊張感も大きいです。

実は僕、ミュージカル『スリル・ミー』を、小劇場・アトリエフォンテーヌ時代のキャパ100名ほどの頃から観ているんです。栗山民也さんが、何もない空間からあの緻密なミュージカルを立ち上げていく現場を偶然観客として目撃して、それが自分の原点のひとつにもなりました。その後、スタッフとして参加し、演出助手にも入り、なぜか稽古の代役まで務めたことがあります。伊礼彼方くんと二人で通し稽古をやったりして……「なんで僕なんだ」と思いながら(笑)。

栗山さんが作品のどんな部分に“面白さ”を見いだしてこの作品を構築していったのか、現場での栗山さんのお話を聞かせて頂いていて、とても大きな学びになったことを覚えています。だからこそ、今回の新作に臨むにあたって、緊張感は大きいですが、それ以上に誠実に向き合いたいと思っています。

これがまた、ホリプロさんとの流れが本当に面白くて。最初は、小林香さん演出の『カルメン』に演出助手として参加したことがきっかけでした。その後、鈴木裕美さんの流れで『シラノ・ド・ベルジュラック』にもつかせていただき、ちょうどホリプロ作品との縁が深い時期に『スリル・ミー』の現場に呼ばれたんです。

そのときに今回の作品を手掛けているプロデューサーの井川さんが参加されていて、「何か一緒に面白いことをしましょうよ」と声をかけていただき、「ぜひお願いします」とお返ししたところ、そこから『ジェイミー』に呼んでいただくことになりました。

実は『ジェイミー』の前に、鴻上さん演出の『スクール・オブ・ロック』の予定があったのですが、上演が少し延期になった関係もあり、結果的に『ジェイミー』から響志くんとも出会って……。実はホリプロタレントキャラバンの最終審査員もやらせて頂いたこともあり・・・本当にご縁が続いていて、もう神社にお礼参りに行かないといけないくらいです。

正直、楽しさと同じくらい怖さもあります。ゼロからミュージカルを立ち上げるとなると、「そもそもなぜミュージカルで描くのか」という問いに必ず向き合うことになるので、その重さは大きいです。

僕が目標としている作品のひとつに、荻田先生がつくったミュージカル『アルジャーノンに花束を』があります。これは完全オリジナルのミュージカルで、荻田先生が38歳のときに手掛けられ、主演の浦井健治さんが初演時には菊田一夫演劇賞、再演時には読売演劇大賞最優秀男優賞を受賞されました。あの“金字塔”をどう積み上げていったのか。原作をどのようにミュージカルに引き寄せ、脚本に落とし込み、音楽を組み立て、演出として形にしていったのか。その背中をずっと追ってきました。

先輩たちがオリジナルミュージカルを立ち上げてきた過程は、常に自分の前に突きつけられる課題でもあります。原作ものには原作の力がありますが、それとは別のプレッシャーがあります。『鬼滅の刃』や『十二国記』などの原作が持つ圧倒的な存在感ともまた違う種類の重圧です。もちろん『白爪草』にも原作はありますが、“日本のオリジナルミュージカルとして世界に届けていく”という別軸の責任がありますね。

日本の演出力や技術は、海外の演出家も驚くほど高い

夢はトニー賞ですね(笑)。ただ、大きな願いとしては、日本のお客様の熱量は本当にすごいのに、多くの作品が国内だけで完結してしまっている現状を変えたいと思っています。日本の演出力や技術は、海外の演出家も驚くほど高いレベルにあります。その力を外に持ち出して、「日本のクリエーションはすごい」と評価される流れをつくれたらなと。

舞台『千と千尋の神隠し』が海外で喝采を浴びたり、「進撃の巨人」-the Musical-がニューヨークで評価されたりと、素晴らしい循環が起きています。その中で、自分の作品や、自分が積み上げたクリエーションが海外に渡って盛り上がり、また日本に戻ってくる――そんな動きが生まれたら本当に幸せだと思います。

「日本のクリエイターはすごいぞ」という中に、少しでも自分の名前が並んでいたらうれしいですし、賞にも……できれば絡んでいきたいですね。

『ジェイミー』を観た日本版演出・振付のジェフリー(・ペイジ)も、「日本のクリエイターは短期間でこんな作品を作れるのか」と驚いていました。『千と千尋の神隠し』の海外公演も、日本の力があってこその成功です。もっと世界とつながっていきたいですし、そうした場に自分も関わり続けたいと強く思っています。

そうですね。ただ、海外は資金のかけ方が桁違いです。投資が回る構造なので、時間も予算も十分に使えますし、労働基準も整っていて、じっくり作り込める環境があるんです。一方で日本は、限られた条件の中で勝負しなければなりません。それでも高いクオリティを出せるのは、本当にすごいことだと思います。

僕はシルク・ドゥ・ソレイユをよく観に行くのですが、『O(オー)』や『KÀ(カー)』のように100億円以上の予算をかけた舞台は圧倒的に美しいです。でもその中で、日本人クリエイターやパフォーマーが堂々と勝負している姿を見ると、「日本にも勝負できる強みがある」と感じます。

もちろん、クリエーションの規模や技術では向こうが勝つ部分もあります。たとえばサウンドでは、トップクリエイターがシンセの素材の音から組み立てるような精密な制作をしていますし。ただ、それも時間と予算があれば可能な領域で、ノウハウは手に入らないわけではありません。だからこそ、狭い知識だけで勝負しないようにしたいですね。

ミュージカル『十二国記 -月の影 影の海-』は僕自身も原作が大好きで、深い結びつきを感じている作品です。演劇は期間芸術なので、お客様が“一度で理解し楽しめる”ようにする必要があり、その調整が非常に繊細で難しい作業でした。

脚本の制作では、スタッフの方々と愛をもって打ち合わせを重ね、テキストの土台を作りました。多くの方に観ていただき、物語と言葉が伝わればうれしいです。

ミュージカル『白爪草』も同じように、素晴らしい原作から響志くんが愛情を込めて脚本を書き、ヒグチアイさんが音楽をつけてくれました。僕はその作品を受け取り、観客の皆さんにしっかり届けられるよう、演出としてクリエーションを重ねています。まだ制作の途中ですが、絶対に後悔させない作品にしますので、ぜひ楽しみに劇場へ遊びに来てください。

取材・文・撮影:THEATER GIRL編集部

公演概要

ミュージカル『十二国記 -月の影 影の海-』

■原作:小野不由美『月の影 影の海 十二国記』(新潮文庫刊)

【キャスト】
◆ヨウコ(中嶋陽子):柚香 光
◆陽子(中嶋陽子):加藤梨里香

◆楽俊(らくしゅん):太田基裕・牧島 輝(Wキャスト)
◆蒼猿(あおざる):玉城裕規 ◆舒栄(じょえい):原田真絢 ◆延王(えんおう):章平
◆景麒(けいき):相葉裕樹

【スタッフ】
原作:小野不由美『月の影 影の海 十二国記』(新潮文庫刊)
脚本・歌詞:元吉庸泰
音楽:深澤恵梨香
演出:山田和也
振付:原田薫
デザイン・ディレクション:松井るみ
装置:平山正太郎
照明:髙見和義
音響:山本浩一
衣裳:中原幸子
ヘアメイク:宮内宏明
映像:横山 翼
アクション:渥美 博
キーボードコンダクター:長濱 司
歌唱指導:本田育代・吉田華奈
演出助手:末永陽一・國武逸郎
舞台監督:北條 孝・都倉宏一郎
舞台化企画:馬場千晃
アシスタントプロデューサー:柴原一公
プロデューサー:塚田淳一・村田晴子
スーパーヴァイザー:今村眞治

【東京公演】
2025年12月9日(火)~29日(月)
日生劇場

【福岡公演】
2026年1月6日(火)~11日(日)
博多座

【大阪公演】
2026年1月17日(土)~20日(火)
梅田芸術劇場 メインホール

【愛知公演】
2026年1月28日(水)~2月1日(日)
御園座
企画協力:新潮社
ビジュアル原案:山田章博
製作:東宝株式会社

作品公式HP:https://www.tohostage.com/12kokuki/

新作ミュージカル『白爪草』

<公演スケジュール>
期間:2026年1月8日(木)~1月22日(木)
会場:SUPERNOVA KAWASAKI

<キャスト>
白椿 蒼:屋比久知奈
白椿 紅:唯月ふうか
※五十音順

【声の出演】
安蘭けい

<スタッフ>
原案:映画「白爪草」
音楽・歌詞:ヒグチアイ
脚本・歌詞原案:福田響志
演出:元吉庸泰
音楽監督:竹内 聡
編曲:齋藤優輝
美術:平山正太郎
映像:KENNY
照明:浜崎 亮
音響:山本浩一
衣裳:小田優士
ヘアメイク:水崎優里(MIG)
振付:塩野拓矢(梅棒)
稽古ピアノ:石川花蓮
舞台監督:松井啓悟

主催・企画制作:ホリプロ

公式HP:https://horipro-stage.jp/stage/sirotsumekusa2026/
公式X:https://x.com/siromusical
公式Instagram:https://www.instagram.com/sirotsumekusa.musical/
公式tiktok:https://www.tiktok.com/@sirotsumekusa.musical

THEATER GIRL編集部

観劇女子のためのスタイルマガジン「THEATER GIRL(シアターガール)」編集部。観劇好きの女子向けコンテンツや情報をお届けします。

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