藤野涼子インタビュー 『スイートホーム ビターホーム』「コメディは新しい挑戦」(前編)
2025年12月6日(土)より大阪松竹座を皮切りに、『スイートホーム ビターホーム』が上演されます。
藤井清美さんが作・演出を務めるお仕事コメディ3作目のテーマは「信頼とは何か」。私たちが日々の中で見失いがちな「信頼」をテーマに、笑って泣けるお仕事コメディとして心に残るオリジナルストーリーが届けられます。
理想と現実の狭間で葛藤しながらも、ひたむきに仕事や家族と向き合う主人公・努力良介を中山優馬さんが務め、良介のかつての恋人で、今は事業で成功しているものの自分を信頼できない佐久間亜紀子役に、秋元才加さん。
後輩の弓川夏葉役に、藤野涼子さん、さらに、井上拓哉さん、舞羽美海さん、瀬戸カトリーヌさん、駿河太郎さんが出演。そして、主人公を揺さぶる謎多きキーパーソンである山田役を佐藤アツヒロさんが演じます。
THEATER GIRLは、藤野涼子さんにインタビュー。前編では、本作に出演が決まった時のお気持ちや役柄への取り組み、主演の中山優馬さんをはじめとした共演者の皆さんの印象などをお聞きしました。
コメディというジャンルに挑戦するのは今回が初めて
――今回、藤井清美さんが手掛ける「お仕事コメディ第三弾」となる本作に出演がきまった時はどんなお気持ちでしたか?
実はコメディというジャンルに挑戦するのは今回が初めてです。ずっと挑戦したいと思っていた分野でもあったので、その世界に飛び込めることがとても楽しみです。ただ……初挑戦ということもあり、少し不安な部分もありました。
これまで舞台では時代ものや歴史ものに出演させていただくことが多かったので、現代コメディは本当に新しい挑戦になります。

――今回演じる弓川夏葉役について、現段階での役の印象について聞かせてください。
一幕を読んだとき、夏葉ちゃんはズバズバと論理的に物を言う場面が多く、「信頼」より「数字」を重視するタイプの営業スタイルの持ち主だと感じました。
最初はずっとその調子で進むのかと思っていたのですが、二幕に入ると、なぜ彼女がそうした営業スタイルになったのか、そしてプライベートと仕事を切り分けるようになった背景が丁寧に描かれていくんです。その理由の一つには“世代”が関わっていて。
夏葉ちゃんは25歳で、私自身も同い年です。まさに大学時代や就活のタイミングでコロナ禍に直面した世代。彼女も同じような困難を経験してきたのだろうなと、読みながら自然と自分と重ねていました。

共感してもらえるように演じられたら
――脚本を読んでいて、特に面白いと感じたのはどういった部分でしょうか?
世代を問わずさまざまな人物が登場し、それぞれが“その時代ならではの”悩みを抱えています。就職活動の状況、働き方、人間関係の築き方など、置かれた環境によって生まれる悩みが丁寧に描かれているところが、とても興味深かったです。
観客の皆さんも、ご自身の経験と重ねながら共感できるポイントが多い作品になるのではないかと感じました。
――年代問わず、誰かに寄り添える部分がたくさんありそうですね。
そう思います。私自身の体験ではありませんが、同世代の友人たちから「オンライン授業で友達ができなかった」「就職後もずっとリモート勤務で、上司とほとんど顔を合わせないまま人間関係が築けず困った」という話をよく聞きました。
夏葉ちゃんも、きっと同じような状況を経て今の会社で働いているのだと思います。入社して1〜2年がオンライン続きだったことで、上司との距離感やコミュニケーションの取り方に迷いが生まれたのではないかと感じました。
20〜30代の方も多く観に来てくださると思うのですが、夏葉を「嫌な人」としてではなく、「こういう気持ち、わかる」と共感してもらえるように演じられたらと思います。

“相手を思いやる気遣い”は営業職ならでは
――今回の舞台は“モデルハウスの営業”という職種が題材になっています。何か調べられたことや、現時点で共感できる部分はありますか?
実は以前から、モデルハウスを一度見に行ってみたいと思っていたんです。でも、25歳の私が一人で行っても営業さんも話しづらいでしょうし、伺うだけでご迷惑になるのでは……と思って、まだ実際には行けていなくて。
ただ今回、作・演出の藤井さんがとても丁寧に下調べをされていて、その情報を役者にも共有してくださいました。資料も分かりやすくまとめてくださっていて、そこからたくさん勉強させてもらっています。
先日、本読みの際には「営業さんたちが日々気をつけていることリスト」までいただいていて。例えば、モデルハウスに上がるときはスリッパを内側に向けて揃える、室内に入る前にはジャケットを脱いで腕にかける、などの細やかな所作。
さらに驚いたのは、お客様宅を訪問した際、バッグを床に直接置かず、布を敷いてから置くというマナーがあることでした。電車などでもつい床に置いてしまうことがありますし、衛生面を考えると確かに大切な配慮ですよね。
こうした“相手を思いやる気遣い”は営業職ならではだと知って、とても新鮮でした。

役ではなく“自分”として楽しんでしまった
――主演の中山優馬さんをはじめとした共演者の方々の印象はいかがでしょうか?
本読みの場が、皆さんと初めてご一緒する機会だったのですが、私が演じる夏葉ちゃんは、あまり笑わず冷静沈着で、周囲を見ながらズバッと物を言うタイプなんです。ただ、実際の本読みでは皆さんの掛け合いが本当に面白くて、ずっとニコニコしてしまいました。気づいたら役ではなく“自分”として楽しんでました。
皆さんとても温かくて、和やかで楽しい雰囲気の稽古場です。お芝居の中で私がどんなボールを投げても、必ず「受け止めよう」と前のめりに反応してくださるんです。その姿勢がとても心強くて、立ち稽古は大変だろうと思いながらも、本読みが終わった時にはすでにワクワクしていました。
――本作は“家”を中心に物語が展開しますが、藤野さんにとって「家のように落ち着ける場所」や「存在」はありますか?
自宅のソファですね。二人がけの、ベロア素材の緑色のソファを4年前から使っていて、実家にいた頃もコロナ禍も、ずっとそのソファで過ごしてきました。今は窓際に置いていて、太陽が出ている時は日差しを浴びながら寝転んで台本を読んだり、一日中そこにいたりします。
――窓際というのが、また気持ちよさそうです。
はい。窓を開けて、鳥の声を聞きながらリラックスしています。

取材・文:THEATER GIRL編集部
撮影:Jumpei Yamada
公演概要
『スイートホーム ビターホーム』
作・演出:藤井清美
キャスト:
努力良介 中山優馬
佐久間亜紀子 秋元才加
弓川夏葉 藤野涼子
丸元翔太 井上拓哉
辰巳万理 小林美江
黒田 勝 駒井健介
黒田 光 勝賀瀬彩莉
河野 梓 雪見みと
段田晴菜 舞羽美海
田辺舞子 瀬戸カトリーヌ
権藤正則 駿河太郎
山田 佐藤アツヒロ
【大阪松竹座】
2025年12月6日(土)初日~14日(日)
【北國新聞赤羽ホール】
2025年12月20日(土)
【シアターH】
2025年12月26日(金)初日~29日(月)
公演HP:https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/202512sbhome/
