藤野涼子インタビュー『スイートホームビターホーム』「コメディは新しい挑戦」（後編）

2025.12.04

INTERVIEW

2025年12月6日（土）より大阪松竹座を皮切りに、『スイートホームビターホーム』が上演されます。

藤井清美さんが作・演出を務めるお仕事コメディ3作目のテーマは「信頼とは何か」。私たちが日々の中で見失いがちな「信頼」をテーマに、笑って泣けるお仕事コメディとして心に残るオリジナルストーリーが届けられます。

理想と現実の狭間で葛藤しながらも、ひたむきに仕事や家族と向き合う主人公・努力良介を中山優馬さんが務め、良介のかつての恋人で、今は事業で成功しているものの自分を信頼できない佐久間亜紀子役を秋元才加さんが演じます。

後輩の弓川夏葉役を藤野涼子さんが務め、さらに、井上拓哉さん、舞羽美海さん、瀬戸カトリーヌさん、駿河太郎さんが出演。そして、主人公を揺さぶる謎多きキーパーソンである山田役を佐藤アツヒロさんが演じます。

THEATER GIRLは、藤野涼子さんにインタビュー。後編では、演出の藤井清美さんの印象や作品に参加する際大切にしている“軸”について、藤野さんが感じる舞台の魅力や最近ハマっていることなど、たっぷりとお聞きしました。

インタビュー前編はこちら

藤井さんは「笑い声だけで場の空気が一気に温かくなる方」

――演出の藤井清美さんの印象や掛けられた言葉で何か印象的なものはありますか？

藤井さんは常にニコニコしながら私たちの芝居を見守ってくださる方だという印象があります。

先日の本読みでも、コメディ作品ならではのテンポの良いやり取りの中にクスッと笑える場面がいくつもあったのですが、そのたびに藤井さんが明るく「ハハハハ」と笑ってくださって。その笑い声が聞こえるたびにうれしくなりました。

ポスター撮影の時も藤井さんが立ち会ってくださって、「ポージングは自由に好きなようにしてください」と声をかけていただきました。さらに定規を渡されて「この定規で夏葉ちゃんを表現してください」と言われたのですが、それがまるで大喜利のようで（笑）。

測るふりをするのか、武器のように扱うのか……と必死に考えながらポーズをつくりました。その時も藤井さんが笑ってくださって、その笑い声だけで場の空気が一気に温かくなる方だと感じました。

そして先日、藤井さんからとても大切な言葉をいただいて。本作は「“お仕事コメディ”シリーズ」ですが、台本を読む中で人間ドラマの濃さを感じて、「本当にコメディなのかな？」と思う瞬間もあったんです。でも、藤井さんは「言葉や行動で“狙って笑わせる”タイプのコメディではない」とおっしゃっていて。

役を一つずつ掘り下げていく中で生まれる、“こういう人いるよね”“このタイミングで空気読めずに言いがちだよね”という共感。お客様への対応と同僚とのやり取りが一気に変わる「あるある」。そういった“生活に根ざした共感の笑い”を大事にしたい、と話してくださったんです。

その言葉を聞いて、私自身もこの舞台に取り組むうえで、その視点を大切にしながら役と向き合いたいと思いました。

今回のコメディも挑戦の一つ

――藤野さんは映像から舞台まで幅広いジャンルの作品に出演されていますが、作品に出演する際、大切にしている“軸”のようなものはありますか？

もちろん、作品そのものの魅力をどこに感じるかは大切にしています。ただ、この業界に入ってちょうど10年が経ち、得意な分野や不得意な分野が少しずつ見えてきたように感じます。そのうえで、苦手だと感じるものを避けるのではなく、あえて挑戦していくことが大切だと考えるようになりました。

今回のコメディも、まさにその挑戦の一つです。人を笑わせることは、自分にとって一番難しいことだと感じていて、正直、とても怖さがあります。でも先日の本読みで感じたように、皆さん本当にお芝居が達者で、その中に入ると自分の課題がはっきり見えてくるんです。稽古は大変だと思いますが、それ以上にワクワクしていて、実はそうした状況こそが自分は一番好きなんだと気づきました。

今まであまり挑戦してこなかったジャンルにも、これからは積極的に踏み込んでいきたいと思っています。

――舞台作品にも定期的に出演されていらっしゃいますが、舞台の魅力や、今後挑戦してみたいことはありますか？

舞台の魅力は、幕が上がったら下りるまで“止まれない”ところにあると思います。そのあいだどんなアクシデントが起きても、カンパニー全員で物語を前へ進めようとするあのエネルギーが、舞台に立っていて一番楽しい瞬間です。

私自身、観劇することも多いのですが、役者やスタッフが作り出す空気に、お客さまのエネルギーが重なることで、その日だけの特別な瞬間が生まれるんです。

演じている側は毎回そのすべてを受け止められるわけではないものの、“みんなで作り上げている”という空気がとても好きだと感じます。

藤野さんが最近ハマっていることとは……！？

――稽古などでお忙しい日々を過ごされているかと思いますが、最近ハマっていることや、息抜きにしているリフレッシュ方法はありますか？

絵を描くことにハマっています。実はずっと苦手意識があり、iPadのアプリを使うときもあれば、アクリル絵の具で描くこともあるのですが、「ちゃんと勉強していないと描いてはいけない」という先入観が強く、これまでなかなか踏み出せずにいました。

――そこから描くようになったきっかけは何だったのでしょうか？

先日出演した舞台で、共演者の方に絵を描かれる方がいたんです。その方が、出演者の衣裳を絵はがきにしてプレゼントしていて、それが本当に素敵で。「私もやってみたい」と思ったことが最初の一歩でした。

描き始めてからは、絵専用のInstagramのアカウントも作りました。投稿ごとに、描いた理由やそのときのエピソードを書き添えているのですが、続けているうちに「自分はこんなことを考えていたんだ」「ここを大事にしていたんだ」と気づくことが多くて。絵を描く時間が、自分を見つめ直すきっかけにもなっています。