岸本勇太が抱く芝居への情熱「稽古中に“見えた”瞬間が一番楽しい」【シアダン vol.03】(前編)
THEATER GIRLが注目する“今知りたい若手俳優”へのインタビュー企画「シアダン」。第3回にお招きしたのはミュージカル『薄桜鬼 志譚』永倉新八役や「『家庭教師ヒットマンREBORN!』the STAGE」雲雀恭弥役などを演じている「岸本 勇太(きしもと・ゆうた)」さん。
俳優としての活動のほか、ソロシンガーとしての顔も持っている岸本さんに、前編で語っていただいたのは役作りへの思いや、全力で駆け抜けた2019年上半期について。クールな面立ちからはギャップを感じるほど、熱く真剣なお芝居への思いをうかがうことができました。
音楽活動の傍ら、芝居の世界に身を投じたきっかけとは
――ダンスボーカルグループ「龍雅-Ryoga-」のメインボーカルとして活動していた岸本さんが、俳優としての活動を始めたきっかけを聞かせてください。
初舞台が2017年の「B-PROJECT on STAGE『OVER the WAVE!』」で、金城剛士役として出演させていただいたのがきっかけでした。それ以前も観劇はしたことがあったんですが、圧倒的に音楽中心の活動をしていたので、自分自身でお芝居というものに触れる時間はなかなかなくて。いざ初めて舞台をやってみた時に、B-PROJECT自体がアイドルの話で、お芝居でありながらも音楽が近くにあったので、あまり遠いものに感じなかったんです。表現方法のちがいだなって思ったくらいで、違和感なくすぐに溶け込めた気がします。
――初めて挑戦したお芝居に音楽の要素があったことで、すっと馴染めたんですね。
難しい部分ももちろんありましたけど、それ以上に楽しさの方が上回ったので。でも、そこからここまで、立て続けに(舞台作品へ)出演させてもらうとは正直イメージしていなかったので、あの時はあの時で全力で楽しんでましたね。
それから剛士の所属するTHRIVE(スライブ)というグループはロックスタイルだったので、龍雅に通じるものがあって、そういう意味でも馴染みやすかったのもあります。B-PROJECTだったから、剛士だったからこそ(役者としての)スタートになり得たんだなと思いますね。
役作りでは「その役を自分がやる意味を考えたい」
――役作りをする時にはどんなことを大切にしていますか?
役をいただいていつも思うのが、その役をどれだけ自分の中に落とし込めるか、どれだけ好きになれるかが大事だなと。無理に真似しようとするより、キャラクターを理解するのが一番の近道というか、すべきことだと思うんです。
いろんな演出家の方とお仕事をさせていただいていると、みなさん舞台人なので生身の人間にこだわる方がけっこういらっしゃって。自分自身も二次元の役を生身の人間がやることの意味を考えなくてはと思うようになりました。元々がマンガやアニメで、そのキャラクターや作品自体を好きな方たちが存在し、わざわざ三次元化しなくても成立しているものを、あえて三次元化している。そのこと自体にそもそもリスクや難しさがあったりする中で、生身の人間がやる意味を考えようと。
――2.5次元作品ならではのアプローチですね。
役作りの時には、100%そのキャラクターになろうというのも大事なんですけど、それにプラスして“岸本勇太”がやる意味を毎回考えるようにしてます。例えばよく言われるのが「ちょっとクールめに」で、実際クールな役も多いんですけど、『薄桜鬼』(※1)の永倉新八はクールさというより、男らしさや熱いイメージのキャラクターなんです。でもそこでも、作中で人斬り集団としても描かれる新選組の一員なので、どこか冷たさや冷酷な部分を持っている一面を表現することで、その“らしさ”みたいなものを出せたらと。
(※1 ミュージカル『薄桜鬼』シリーズ。第2シーズンでは名称がミュージカル『薄桜鬼 志譚』とされ、岸本さんはその「土方歳三 篇」「風間千景 篇」に出演)
それから、その時の演出家の西田(大輔)さんが「これまでの歴代のキャストがどうこうというのは正直あまり関係がないし、一人ひとりが自分がやる意味や、何を残したいかを考えてほしい」ということをおっしゃっていて。僕も歴代キャストにリスペクトはありますし、その人たちが作ってきてくれたから今があるのは理解した上で、真似をしたり比べたりせずに、せっかくだから僕らしさを毎回出せるようにしたいと思ったんです。だから、自分が演じる役には“僕がやるからこそ”っていう要素を入れる、それが役作りに欠かせないポイントになってますね。
――岸本さんの強みや持ち味が、役の要素として生かされているんですね。
そうですね、それが演じる上での楽しさにも繋がるので。キャラクターを理解していれば、観ているお客さんにも違和感がなくて、自分も楽しめる、キャラクターの範囲内のお芝居ができると思います。でもやっぱり僕はものづくりが好きなので、真似だけすることはものづくりとはちがうと思うんですよ。だからいつも稽古段階から映像でチェックをしながら「これだとやり過ぎちゃってる」「これだと(キャラに)見えてるな」って、いろんな人に相談もしながら、ギリギリの勝負をしてます。
観劇していても、演じていてもナマで演ることが面白いのは、ギリギリを突いてるからなんじゃないかなって。むしろそれが溢れてしまった時もそれはそれで面白いし、舞台ってそこがいいんだと思います。先輩の役者さんが「感情をコントロールできなくなってる様が一番カッコいい」って言っていたんですけど、本当にそうだなと。クールは無表情ではないし、そのクールさ、冷たさの中で何を考えているのか、それを表現できたらいいなと思います。
雲雀恭弥役への思い「舞台へ出るたび空気を変えられる存在に」
――先日まで「『家庭教師ヒットマンREBORN!』the STAGE -vs VARIA partⅠ-」に雲雀恭弥役で出演されていましたが、作品にまつわる印象深いエピソードを聞かせてください。
今回出番はそれほど多くはなかったんですが、次回作への期待を担う役割だということを、稽古の段階から意識しながら取り組みました。千秋楽で正式にpartⅡの上演決定も発表になったので、観た人に“強い雲雀恭弥がpartⅡでは暴れ出す”という期待をしてもらえるよう、どれだけ今作でアピールできるか。演出家のマルさん(=丸尾丸一郎さん)や、ニーコさん(リボーン役)とも話し合いながら詰めていったんです。
雲雀はキャラとしても人気がありますし、物語上欠かせない人物でもあるので、出番の多さよりも、一回一回舞台に出て行く度に存在感が出せるようにと思いながらやっていたんですが。前作の時に「雲雀が出てくると空気が変わる」と何人もの方から声をいただいて、でも自分ではそれを感じ取る余裕がまだなかったんです。今作では空気がキリッとするのを自分でも感じながら、意識的に会場を巻き込んで物語を進めていけるように心がけました。
――たしかに、雲雀恭弥はまとう空気がほかの人とはちがう印象がありますよね。
それに雲雀って出る時にはだいたいセンターからで、いわゆる“センターが似合う男”じゃないですけど、それだけにみんなの注目をちゃんと集められるような芝居や殺陣をしなきゃなと思って。今回はジェーくん(=山田ジェームス武さん)演じるディーノと、師弟で殺陣をするシーンがあったんですが「ほかのシーンとはスピード感が全くちがう殺陣をしよう」と。
マルさんからも「次元がちがう感じのスピード感でやってほしい」ということだったので、映像やパネルの演出も一切使わず、あえて生身の人間の一対一で表現する方法に挑戦しました。ここはジェーくんといっしょに一番こだわったところですし、お客さんからも「あのシーンがすごくよかった」「あのシーンを観て次回作への期待が高まった」という声をいただけてよかったです。
――前作と比べて気持ちに余裕ができたということでしたが、前作と今作で、演じる上での心境の変化はありましたか?
前作では“強さ”をすごく意識していて、“めちゃくちゃ強い雲雀恭弥”を演じていたんですけど。今作では“孤高の浮雲”とも言われる雲雀の、“孤独さ”を重視しました。僕は楽屋でも役ごとでテンションが変わるタイプで、例えば新八の時だったら周りとバカやってるくらいがちょうどいいんですけど。雲雀の時には(共演している)みんなのことを知り過ぎてしまわないほうがいい気がして。
だから今回は、普段からみんなとは少しちがう位置にいて、殺陣なんかも黙々と一人でやりつつ、ジェーくんと合わせる時は合わせる、そこは前回とははっきりと変えました。雲雀の抱えている淋しさみたいなものを意識しつつ、孤高感を出せるよう気を配りましたね。
――稽古場のあり方から、役作りをされていたんですね。
あと、ディーノと雲雀の関係が前回では描かれなかった部分なので、力を入れました。ジェーくんとは今回が初めましてだったんですが、本当に気さくな方で。「勇太、こうやって見せたいとかある? やりにくいところはない?」って、こまめに声をかけてくださったんです。殺陣師さんもけっこう任せてくれる方だったので、原作アニメの動きも意識しながら、僕らなりにあれこれ提案をさせてもらったりしました。