spiインタビュー『シュレック・ザ・ミュージカル』「子どもが笑って楽しむ一方で、大人はちょっと涙してしまうはず」(後編)
2022年8月15日(月)から、東京建物 Brillia HALLにて、『シュレック・ザ・ミュージカル』トライアウト公演が開幕します。
映画『シュレック』は、『マダガスカル』『カンフー・パンダ』など数多くのアニメ映画を手がけるドリームワークスが 2001 年に制作したアドベンチャーコメディ。2008 年にはブロードウェイにてミュージカル化され、大好評を博した本作が今回日本で初めて上演されます。そんな注目の話題作、出演者は1300 を超える応募の中からオーディションによって選ばれました。
主人公・シュレックは、抜群の演技力と圧倒的歌唱力で観客を魅了してきた spiさんが大抜擢。186cmの体躯と、舞台『信長の野暮』『テレビ演劇サクセス荘』で惜しみなく発揮されてきたコメディセンスで、今作のシュレックをどう演じるのか期待が膨らみます。
ヒロインとなるフィオナに福田えりさん、喋るロバ・ドンキーに吉田純也さん、ファークアード卿に泉見洋平さん、ジンジャーブレッドマン役に岡村さやかさん、ドラゴン役に須藤香菜さん、ピノキオ役に新里宏太さんなど、高い歌唱力と演技力を兼ね備えた豪華キャストが揃いました。
THEATRE GIRLでは、主演のspiさんにインタビューを敢行。インタビュー後編では、本作に対するイメージ、ミュージカル俳優としてこの作品に出ることへの思いなどについてお伺いしてきました。
また、オーディションにちなんで、喉から手が出るほど欲しいと思ったものについてもお伺いしているので、ぜひお楽しみに。
インタビュー前編はこちら
孤独でいいと思っていても、実は誰かと繋がりたい気持ちがあるのでは
――spiさんが演じるシュレックですが、今回ミュージカル版としてはどのように演じていきたいですか?
映画の日本語吹き替え版では、浜田(雅功)さんの関西弁でやっていますよね。でも今回、関西弁ではなく標準語でやります。僕が思うシュレックは、ブサイク、イケてない、臭い、卑屈な独身だけど、実は心は優しくて、どこかで友だちが欲しいと思っている。そんなところを標準語で伝えていけたらと思っています。あとは、音楽と歌詞が力を持っているので、誠実にお客さんに伝えるという作業が一番なのかなと思いますね。
――台本を読んで、『シュレック』に対するイメージが変わったところはありますか?
映画と比べると、背景を説明してくれているなという印象です。ある意味、CGですとビジュアルが先行するので、そういう面白さがありますが、ミュージカルになると、コンプレックスを音楽に合わせて気持ちを表すシーンがあったり、そういうところがもっと人間味のあるものになっている印象を受けました。なので、映画より舞台のほうがよりキャラクターに共感しやすくなっていると思います。
――観ている側も自身に投影できる部分があるのでしょうか?
そうですね。フィオナやドンキー、ファークアード卿にも共感できる部分がちりばめられているとすごく感じました。
シュレックは、超マイノリティ中のマイノリティで、自分のアイデンティティを確立して「一人で過ごすんだ、独身でいるんだ、どうせ社会は俺のことを認めてくれないんだから」となっていて、そういう人って実際にたくさんいるんじゃないのかなと思うんですよね。
「自分は孤独でいい、嫌われてもいい、分かってもらわなくて結構です」と言っていても、実は誰かと繋がりたい気持ちって本当はあると思うんです。きっと誰しもそう感じたことがあるだろうから、シュレックに関してはそこで共感を得られるのではないかと思います。
原作ものとオリジナル作品、作るスピードと作り方が違うのでは
――spiさんはオリジナル作品にも多数出演されていますが、原作のある作品に出演するときの面白さはどんなところだと思いますか?
オリジナル作品は、やっぱり0から1を作る感覚が強くて、演出家さんや脚本家さんが見たい絵があって、それを具現化していく作業になるので、そういったところで作り方が違うんだと思います。
原作ものはそこから得られるヒントがいっぱいあって、それをいただいた上で、オリジナルとしてやっているつもりではあります。だから作るスピードと、作り方が違いますね。
オリジナル作品は0からなので組み立てるのにちょっと時間がかかりますが、原作ものは早いです。ヒントがあって、もうすでにデッキがあるから、それをどうプレーするかだと思うので。
――今回、『シュレック・ザ・ミュージカル』のオーディションを受けたときは、原作に寄せたのでしょうか?
正直言うと、他に考えなければいけないことがいっぱいあった中で、曲を覚えて、それで動画を撮って送って……という感じだったので、あまり余裕がなかったんです。なので「今、僕が持っている力はこれです、こういう歌唱力です、こういう表現力です、いかがですか?」という感じでした。だから映画でのシュレックに寄せようとかは、あまり考えなかったかもしれないです。
『でかく明るく美しい世界』というシュレックの登場曲があって、それを二次オーディションで歌いました。かなりのロック調で、いわゆるミュージカルっぽい感じではなく、ポップスの雰囲気であったり、フェイクであったり、音を動かして自由に歌ってみて、みたいな要望がありましたね。
「目の前の仕事をコツコツやってきた」中で、『シュレック』に出会えてよかった
――ミュージカル俳優としてこの作品は、どういう分岐点になりそうでしょうか?
一つ一つ目の前の仕事をコツコツやってきたタイプなので、どうなんでしょうか。でも、やってよかったという作品には確実になっていると思います。フジテレビさんとお仕事できるのもありがたいことですし(笑)。キャリア的には、いわゆるタイトルロールなので、顔は見えないけれど、spiに任せてよかったと思ってもらえる作品になればいいなと思いますね。
――今まで目の前のお仕事を着実に積み重ねてきた感覚なのですね。
そうですね。仕事もオファー順にコツコツ受けてきた感じで、具体的な目標は立てずに「世界に羽ばたくぞ」という願いだけでやってきました。その中で、こうやって『シュレック』に出会えてよかったなと思っています。
『桃太郎』の退治される鬼側になってみたい
――ここからは、物語の内容にちなんだお話をお伺いしたいと思います。『シュレック』のストーリーには、おとぎ話のキャラクターが出てきますが、もしspiさんがおとぎ話の誰かになれるとしたら、誰になってみたいですか?
なんだろう……鬼太郎かな? 強くて、人気ですし。
――子どものときから、好きだったのですか?
いや、そういうわけではないのですが、日本のおじいちゃんたちが共感できるおとぎ話のキャラクターって何だろうと考えたときに、鬼太郎かっこいいからやってみたいなと思ったことがありました。
あとは昔話でいうと、『桃太郎』の退治される鬼もいいかもしれないです。
――桃太郎ではなく、鬼側なんですね。
憂いがあるじゃないですか。勝手に人間に殺されてさ、鬼は鬼で生活していたのに……みたいな。そういった鬼側の事情も分かるからこそ、やってみたいですね。
「喉から手が出るほど、思いやりあふれる平和な世界がほしい」
――舞台にちなんだお話をもう一つ。今回オーディションで役を獲得されましたが、今までに喉から手が出るほど欲しいと思ったものはありますか?
今ぱっと思い浮かぶのは、平和ですね。大人になってから「こんなに世の中って汚いんだ」って思ったことがあったんですよ。博愛主義の家族で、思いやりのある家庭で育ったから、余計にそのギャップが大きくて。
「ずるい人ってこんなにいっぱいいるんだ、それも道具の一つなんだ」と思ってしまったこともあるので、平和な世界を渇望しているかもしれません。だから、喉から手が出るほど、思いやりあふれる平和な世界が欲しいなと。
――大人になってから気づいたというのは、実際に何歳ごろだったのですか?
25歳〜27歳頃ですかね。たとえば、サンゴを傷つけたり、神社に危害を加えたり、信じられないようなことをする人っているじゃないですか。普通にハッピーに暮らせばいいのに、考えられないことをするんだな、と。
仕事でいえば、誰かを蹴落としたり。まあ、今はそんなこと流行っていないので、逆に蹴落とそうとしている側が「だめだ、こいつ」と言われる世の中になってきていると思いますが。
――ちなみに、現在のspiさんはどう考えられていますか?
自分が強くあれば、それに負けない気持ちがあればと思っています。もちろん強大な勢力だったら勝てないかもしれないですが、僕くらいの小さな世界で生きている分には自分が強くいられたら、ずる賢い人たちに幸せを奪われたとしても、その人たちはそれほど欲しがっていたんだなと納得できるようになっているのかなと思いますね。
――最後に、本作に対する意気込みをお願いします。
全員のキャラクターに対して、普遍的な共感があるんですよ。虐げられてきたもの、ハブられてきたもの……見た目至上主義のこの世の中に物申すといいますか。「そんな世の中でも、自分らしく生きるのが幸せなんじゃないの?」というテーマがありつつ、ご家族で来られる方が大半だと思うので、子どもたちはケラケラ笑って、大人の方たちには感動して帰っていただけるような、そんな楽しい作品になっていると思います。
取材・文:矢内あや
Photo:正村 僚麻
インタビュー前編はこちら
公演概要
『シュレック・ザ・ミュージカル』トライアウト公演
2022年8月15日(月)~28日(日)
東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
★15日(月)はプレビュー公演となります。
出演:spi 福田えり 吉田純也 岡村さやか 須藤香菜 新里宏太 鎌田誠樹 鈴木たけゆき 熊澤沙穂 岩﨑巧馬
大井新生 澤田真里愛 石田彩夏 大村真佑 小金花奈・矢山花(Wキャスト)/泉見洋平
料金:S席(大人)8,800円 / S席(こども)4,000円、A席6,000円(全席指定・税込)
主催・企画・製作:フジテレビジョン/アークスインターナショナル/サンライズプロモーション東京